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魔術書の呪い

いつも読んでくださりありがとうございます。

すこし核心にふれております。

「私と、そなたの言うアイリスは共に『呪術派』に属しておってな」

「呪術派?」

「ウィル様、『呪術派』というのは呪文の文言や詠唱を重視する派閥のことです。対抗、反転呪文や相手の攻撃を逆手にとることが得意な魔術師が多いのですよ」

「こういう時だけ役に立つな、ヨシュア」

 イリヤは続けた。

「使い魔よ、説明ご苦労。私とアイリスは旧くからの友人で、以前はともにある魔術を研究していた。しかし、その記録を取っていた本が『魔術書』の力を持ってしまった」

 イリヤは目の前の本を撫でながら懐かしむように言った。

「ある種、禁断にして究極の魔術だ。『幸運』というものは。美しい乙女の顔で人々の心を惑わしたかと思うと、赤竜のように恐ろしい顔を見せ、破滅させることもある。禍福は糾える縄のごとし、とはよく言ったもので『幸運』の正体が何かということは誰にも分からぬ。竜を召喚しても、強大なる力を持って攻撃しても当らねば意味は無い」

「アイリスは、貴女があらゆる魔術に精通していると言っていた。そんな貴女でも『幸運』が必要なのか?」

「いや」

 イリヤは首を振った。

「これは依頼された仕事だった。西の大陸のサルビリャ王国の王妃エカテリーナは若いころからの『不運』に悩まされておった。アイリスはサルビリャの前国王と懇意で、『不運』を打ち払う『幸運』の研究を任命された。私はアイリスに誘われてな」

 イリヤは一息つき紅茶をすすると、目を伏せた。

「実際、私はこの研究にあまり乗り気でなかったのだ。あれは人を盲目にする危険な魔術だ。しかしアイリスは違った。『幸運』の研究のためには『不運』を詳しく調べるべきだと考え、禁じられた魔術にのめり込んでいった」

「それで、『幸運』について進展はあったのですか?」

「アイリスは、『幸運』の鍵を幻術に見出したらしい。だが、研究が完遂する前にサルビリャを『不運』が襲った。そなたも知っておろうが、前国王の弟、クレーメンス卿が反乱を起こし王位を奪った。最も、表向きには前国王陛下は病死とされておるが」

「知らないな、俺はそもそも平民だ」

「平民?」

 ウィルはアイリスと出会った経緯を簡単に説明した。

「そうであったか。アイリスも罪な女だ。まあよい、話を続けよう。クレーメンス卿は我らの研究を危険視し、研究に傾倒していたアイリスは追われる身となり、私は呪術派の師長役を解かれて隠居することになった。この屋敷も追っ手をかわす為に細工をしておる。不自由な生活だ。アイリスは研究に乗り気でなかった私が彼女を告発したと思っておる。捕まれば死罪のアイリスに比べ、隠居という処遇は軽いからな」

 イリヤはため息をついた。

「師長役など他人にくれてやって構わぬが、『幸運』の研究に手を出したばかりに無二の友人を失った。不運なことだ」

「そんなこととは知らなかった。俺はてっきり貴女がアイリスさんの家の宝飾品か何かを盗んで逃げたのかと思っていました。大事なものを盗られた、と言っていましたから」

「大事なもの? はて、見当もつかぬが」

 イリヤは首をかしげたが、すぐに笑顔を見せた。艶やかな唇が弧を描く。

「これを拾ったそなたが『幸運』の持ち主か『不運』の持ち主か。私にも分からぬが、とりあえずそなたは何も悩みなど無さそうな顔をしておるな」

「貴女までそんなことを」

 ウィルは顔をしかめた。

「幻術使いをここによこしたのは、その『大事なもの』とやらを探させるためか。これはそなたに返そう。このように書き換えられてしまっては私にとってはもう無用だ。それにそなたは確かにこの本に呪われておるようだからな。身に着けておくがよい」

 イリヤは魔術書をウィルに渡した。

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