酒場にて
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明くる朝、ウィルとリリーは宿屋を発ち都へと向かった。
「人が多い方が情報も集まるだろうからな。そうだ、リリー。お前はなるべく平凡な格好をしとけ。その美女の姿じゃ目立って仕方ない」
「あら、お気に召しませんでしたか? では、もしかしてこちらの方をお好み?」
リリーは金髪の美少年の姿になり、ウィルに微笑みかけた。挑発的な表情がどこかハンメルに似ていて、ウィルは顔をしかめた。
「あいにく俺にはそういう趣味はない。それはそれで役に立つときもあるだろうが、今は地味な格好だ。大会のときの魔術師はどうだ?」
「チッ、ノリが悪いですね」
リリーはそういうと魔術師の姿になった。
「何か言ったか?」
「いいえ。ヘンリーとお呼びください」
「それでいいだろう」
しばらく歩くと飯時になり、二人は近くの小料理屋に入って腹を満たすことにした。席につき注文した料理を食べ終えた頃だった。奥に座っていた男たちが何やら大きな声で揉め始めた。赤ら顔の男が、痩せた男に掴みかかって叫んだ。
「てめえ、ふざけるなよ、殺してやる。賭け金をちょろまかしやがって」
「そんな事してねえよ、お前の勘違いだろう」
ヘンリーはウィルに耳打ちした。
「ウィル様、何だか揉めてますよ、面白いことになりそうですね」
「何言ってる。厄介ごとに巻き込まれる前に行くぞ」
そしてヘンリーの襟首をつまみ上げて店を出ようとした。しかし赤ら顔の男は相当頭に血が上っているらしく刃物を持ち出した。料理屋の主人が飛び出してきて場を収めようとしたが、時すでに遅く、もう店の表に人が集まりはじめている。店から出るのも一苦労だ。
「仕方ないな」
そしてウィルは何事かつぶやき、赤ら顔の男に声をかけた。
「なあ、お前は賭けに勝ったけれどその金でこの男に飯を奢ってやったんだろ、だから金が足りないんだ」
そして痩せた男の方を見た。
「奢ってもらった礼を言え」
すると二人ははっとしたような表情になった。
「すまねえな、俺は何で庖丁なんか持ち出してたんだ」
「いやいや、こちらこそ飯奢ってくれるなんてわりいな」
ウィルはヘンリーの方へ戻った。
「相変わらずの腕前ですね、今度はどんなペテンを働いたんです?」
「金をとられたと思うから腹が立つんだ。金を人にやったと思えば気も鎮まるだろう。簡単な幻術さ」
そして二人は今度こそ料理屋を出ようとした。しかし、置いておいたはずのウィルの荷物が消えている。
「ヘンリー、ここに有った俺の鞄は?」
「え?」
ヘンリーはきょろきょろと回りを見回した。
「……あれ?」
ウィルはため息をついた。
「おい、ちゃんと見ておいてくれないと困る、まあ金貨は腰に下げた巾着の中だし、水晶玉はお前が持ってる。大した金目のものは入ってないが」
言いかけてウィルははっとした。
「いや、まずいな。アヴリルに押し付けられた本があの鞄に入っている。あの本がないと災いが降りかかるとさんざん言われたというのに。ヘンリー、誰か俺の鞄の近くを彷徨いていた奴はいるか?」
「ああ、そういえば、紫色の服の女が」
ウィルは通りに出ると辺りを見渡した。視界の端に紫色の服がちらりと映り、叫んだ。
「追うぞ、ヘンリー」