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6. こういう事もやります

 軽く下ネタ入ります。




 私がジルに呆気に取られている中、自分を主張するように咳き込む音が聞こえた。

 それは最初から部屋に居た筈なのに、空気と化していてすっかり忘れていたクラウスだった。

 そんなクラウスは、気まずそうにしながらもバカ国王と私に伺いを立てた。


「僭越ながら、私もお言葉を失礼しても宜しいでしょうか?」

「うむ」


 【どうぞ】


「有難うございます。実は、先程の陛下のお言葉に疑問を覚えました」

「何をだ?」

「運動や睡眠は別として、甘味や美術品を用意したりするのは困難な事です。それに黒虎様のために御用意させて頂いたクリスタルや聖水も、その値段も陛下には知り得ぬこと。何より、『黒の使徒』の存在は秘密裏にされ公には一切存在を明かされてされていません。国王陛下は一体どこでその様な情報を手に入れたのでしょうか?」


 確かに……バカ国王がそんな情報知り得ているとは考えにくい。と言うことは、城の中にバカ国王を甘やかすというか、唆すような存在がいるしかないのだ。

 些細な事だが、これは今後国を建て直すのに厄介な問題になるだろう。

 あー……何で次から次へと問題が発生するかなぁ……。

 ついつい溜め息を吐きそうになったが、これ以上不幸になりたくないので、漏れそうになる溜め息を飲み込んだ。

 


 * * *


「はぁ〜い、黒の使徒のみなさまお集まりですかぁ〜?きんきゅー会議はじめますよ〜?」


 オフホワイトの壁に可憐な花がこれでもかというほど描かれている、ロココ調の部屋にある可愛らしいピンクのドアから、間延びした萌え声が聞こえた。

 入ってきたのはベビーピンク髪をツインテールにしている小柄な美少女、リュリュだ。彼女は目が大きく、くりくりしていてまるでお人形のよう。服もフランス人形の様な甘ロリ系の服を着ているのでかわいい。

 こう見えて彼女は国随一の魔導師で、黒の使徒の一人。

 主に魔法による大規模な情報収集をしてもらっている。

 性格は楽天的なムードメーカーだが、他人の迷惑を顧みなかったり、面白い事にしか興味がないという何とも子供っぽいところがある。良い子なんだけどね。

 一見彼女は中学生くらいの可憐な少女だが…


「ばばぁ無理すんなって」


 そう、年齢不詳なのだ。魔力が多いと老化が遅いらしく、私達は彼女が何歳なのか知らない。


 不機嫌そうにリュリュに自重を促した青年は、新米騎士のアンドレイ。赤髪でツーブロックの髪型をしており、目付きが悪くガラの悪い顔をしている。

 黒の使徒としては騎士団団長であるキールと連携を取ってもらったり、問題の起きた場合真っ先に駆けつけてもらって調べてもらっている。

 実力はあるのに、庶民だしこのつっけんどんな性格のせいで貴族出身の無能な騎士たちに嫌われている。

 彼と出会ったのは、ちょうどその嫌がらせを受けている時だった。

 すぐにキレると思ったけど、殴られても忍耐強く我慢してたから一声掛けた。その後にキールに話して彼を仲間に引き入れた。

 最初は訳が分かってないようだったが、彼等に制裁を与えたいらしく、黒の使徒の一員として頑張ってくれている。

 私から見たらツンデレの思春期の青年でしかない。盗んだバイクで走り出したいお年頃の男の子だ。根は優しい良い子だよ。動物好きだし。


 そんなアンドレイに事実を告げられ、リュリュはキラキラとした完璧な笑顔を返した。

 

「はぁ〜い!童貞くんは黙ってね☆」

「ばっ!!違ぇよ! 俺はちゃんと卒業してるっつーの!!」

「ぇえ〜? いついつ〜??」

「あ、あの!お二人ともあまりこの場でその様なお話は…その…!!」


 二人の下世話な諍いを止めようと頑張っているのは、茶髪のショートヘアに、昭和の丸メガネをしている純朴な青年のフェルナンドだ。

 彼には主に資料のまとめや調べ物など事務処理をしてもらっている。真面目で優しいので、元の職場では仕事はいっつも余分に回され、社畜と化していた。

 黒の使徒に勧誘したら、かなり驚きビビっていたけど、涙を流して喜んでくれたよ。今の仕事の量も半端ないのに、ここまで喜んでやってくれるなんて、ちょっとMっ気があるんじゃ……いやいや、健気な良い子だよ! うん!

 今も良かれと思って注意をしたのに、案の定絡まれている。


「うっせぇ童貞!」

「フェルりんはいいの!かぁいいから♡」

「ぼ、ぼぼ僕はかわいくなんか…!!」

「かぁいいよ〜!ウブだし〜、スレてないし〜、25なのに〜、精神的にも肉体的にも穢れて……」

「リュリュ! いい加減にしろ! ここは遊びの場ではないのだ! 年相応に大人しくしろ!」


 苛立ちを露わにしながら注意をするのはマクシミリアン。深緑のおしゃれボブで顔も彫りが深くカッコいい。

 中堅の伯爵の息子で、現在領地経営の勉強がてらに王都に滞在中……という事になっている。

 彼は私の演説を聞いて感銘を受け、彼の中で燻っていた正義感に火を着けたらしく、彼の家の領地に魔素の浄化をしに行った時に、私から溢れ出る神聖な空気とカリスマ性(笑)に惚れ込んだと猛烈アタックを受けて黒の使徒になった。

 本当はする気はなかったんだけど、彼の正義感は本物だと思う。

 商才もあり、計算も早いので主に会計や会議のまとめや戦略を立ててもらっている。

 真面目過ぎるので、すぐイライラしてしまうのがたまにキズだが、面倒見はいいので文句を言いながらもやってくれる良い人です。


「もぉ〜! レディーに向かって歳の話はしちゃだめよ! けどマッくんが言うなら聞いてあげる☆ イケメンだし♡」

「もうそろそろおっさんだけどな」

「アンたんは分かってないなぁ〜。これくらい成熟されてからがいいのにー!」

「そ、そうですよ!マクシミリアン様は素敵な方です!」

「あ、けどわたしはフェルりんの方が好きよ?」

「えええ!!いや!ぼくじゃなくてマクシミリ……」


【えー、そろそろいいかしら?】


「いいよー!キョーにゃん!」

「リュリュ様、キョー様にその様な呼び名は…」


 【ジル、私は気にしてないからいいよ】


「さっすがキョーにゃん、やっさしー♡」

「…………」


 私の返事に不服そうなジルは、返事はしないながらも引き下がってくれた。

 よしよしと美尻尾で頭を撫でれば、ジルは照れながらも許してくれた。ただ美尻尾は握られた。可愛いから許す。


「ジルるんは固いんだから〜」

「リュリュ様が緩すぎるのです」

「同意する」

「完璧ふざけてるよな」

「ひっどーい!ぷんぷん!」


 わざとらしいくらいに頬を膨らましてリュリュは怒った。あざと可愛い。


「これで国随一の魔導師でなきゃ許されないよな」

「ああ」

「そ、そんなことは…!!」

「フェルりんかばってくれるのー?ありがとー♡」

「あ、あああのべつに僕は…!!」


 リュリュはフェルナンドに抱きつき頬擦りするので、純情なフェルナンドは顔を真っ赤にして大慌てだ。

 リュリュはいちいちフェルナンドにくっ付いて遊ぶ。眼鏡外したらなかなか可愛い顔してるし、こういう性格だから弄りたくなるのは分かるよ?

 だがリュリュよ、純情な青年を踏みにじるようなことはしないでね。


 【リュリュたん、フェルナンドをからかうのは面白いだろうけどやめようねー?】


「はーい☆」


 幼児をあやすようにやさーしく注意すると、リュリュはわざとらしく肩を竦めてフェルナンドから離れた。



「キョー様、本当にこれを黒の使徒に入れて良かったのですか? キョー様にふざけたな呼び方まで強要させるなど無礼千万です」


 マクシミリアンは苦虫を噛み潰したような顔で私に尋ねてきた。

 実は、私がリュリュの事をリュリュたんと呼んでいるのは、彼女が仲間になるための条件だった。


 クラウスに勧められて実際に会って勧誘したら、『何か面白い事があるならいいよ♪』と言われたので、それはこれから貴女が作るのよって言ったら、『いいねそれ! 面白そう! じゃあ仲間になるけど、その代わりリュリュたんって呼んで♡』……と言われて、私は彼女をリュリュたんと呼ぶようになった。


 【呼び方一つでやる気になってくれるなら可愛いものじゃない?】


「しかし……」


 【彼女の魔導能力は折り紙付きだし、何より広範囲の索敵で諜報も出来るから情報を得るのに助かるわ。それにこの自由奔放な性格と能力の高さ故に貴族の言うことを殆ど聞かなくていいのはすごく有難い】


「性格に難あり過ぎではないでしょうか?」


 【だけど馬鹿じゃないわ】


「そうよ。女はどんなに可愛く見えても強かなのよ。そうでなければ残り物になってしまうもの」


 艶やかな女性の声が、静かに部屋の中に入ってきて。


「あ!ミーたん!おひさ〜☆」

「おひさ。とは言っても一週間ぶりだけれど」


 うふふ、と色気たっぷりに笑う美女はミランダ。艶めく赤銅色のウェーブのかかった髪に、綺麗色白の美人さん。色気過多で、すぐに人をメロメロに出来てしまう。

 

 彼女は娼館の女将さん。お貴族様が零した情報を娼婦の方や、色んな所にいる愛の僕さんから集めたりしてもらっている。


 【ミランダ、お疲れ様。夜の方が忙しいのにごめんね?】


「ふふ、そんなこと気にしなくていいんですよ。キョー様のおかげで店の者も楽しく過ごさせて頂いているんですもの」


 【本当なら、体を使って情報を集めるって事はしてほしくないんだけどね……】


「ふふ、キョー様はお優しいですわね。だけど気になさらないで下さい。私達娼婦に救いの手を差し伸べて下さったのです。貴女のお力になれるのなら、喜んでこの身体を捧げます。何なりとお申し付け下さい」


 暖かくも妖艶な微笑みに、ついつい見惚れてしまう。

 彼女の美しさは生まれつきのものはもちろんだが、きっとこの芯の強さもあるのだろう。この強さは元は今までの過酷な人生が培ってきたものなのだろう。


 この国は男尊女卑の文化がある。貧しかったり没落した貴族の女子は、ほとんどが娼婦になる程なのだ。悲しい事に、ミランダもその内の1人。

 売春婦の扱いは酷かった。衛生面が整っていないのと病気への知識が足りないので、性病のリスクが高いにも関わらず、端金しか貰えない。それなのに、職業のせいで罵られたり軽蔑されるような目に合うのだ。

 生きるために必死で働いているのにね……。

 文化をすぐに廃止するなんて事は出来ないから、せめてその命が助かるリスクを上げたかった。それに同じ女として……いや、人として身体を売るような行為はしてほしくない。

 だから売春婦の営業時間規制して、余った時間に勉強やその仕事に替わる仕事をさせる事にした。

 それから若い女の子にはアイドルグループを、大人の女性にはバーレスクを経営する事を提案した。

 それなら売春しなくてもショーとして一般に受け入れてもらえるだろう。

 不景気で暇を持て余す人もいるので、そんな人には手芸などを進めてみた。それで可愛いものが出来たら販売……みたいな形で商売をしている。

 こうやって頑張って働くことによって徐々に女性が認められていくと思う。

 国として補助金を出しているが、当然今のところ給料は安い。だけど、女性達もオシャレが出来て歌とダンスで稼げるとなれば飛び付いてくれたし、ファンも出来てきて順調に進んでいる。

 だけど、売春がなくなる事はないのだろう。


 自分のやってる事は偽善でしかないけど、その偽善を彼女達なりに発展させて、明るい未来を築いてほしい。


 【……その気持ちは嬉しいけど、情報が流れてるってバレたら一番殺されやすいのが貴女達だから。無理はしないで。それが私の願いだよ】


「ええ、承知しました」


 先程の妖艶な笑顔も良いが、今の少女の様な朗らかな笑顔も素敵だ。こんな笑顔がずっと続けばいいのに。

 そんな素敵スマイルのおかげでマクシミリアンはミランダに釘付けだ。絶対惚れたな。愛の僕がまた一人増えたな……。

 ついついニヤリとしそうになると、またジルに美尻尾を握られた。いや、だから悪気はないのよ!


「おー、ジルちゃん怖い顔してんなー?」


 何処か気の抜けているが面白がってる男の声が聞こえた。


「もぉー! ルッシー遅いよぉ!」

「悪りぃ悪りぃ、寂しがりな奥様が離してくれなくてさぁ」

「また人妻に手をだしたのか!」

「あっはっは! 良い男は辛いよ」


 【あら?レディーを待たせるのが良い男のする事なのかしら?】


「これは失礼しました。麗しき我が愛しの女神・キョー様」


 仰々しく紳士の礼をとると、ルシアーノは器用にウインクを飛ばした。

 彼はルシアーノ。褐色の肌に焦げ茶のウルフカットのよく似合うホストみたいな兄ちゃん。職業:聖職者。聖職者です。もう一度言います、ホストじゃなくて聖職者です。

 一見ちゃらんぽらんだが、職場では真面目にやっているらしい。だけど色んな所で遊んで情報を掻き集めてきてくれるし、情報操作が上手いのでとても役立つ。ただすぐに調子に乗るのと女にだらしないのが玉に傷。

 だけどリュリュ同様、馬鹿じゃない。寧ろ一番頭が切れるかも。能ある鷹は爪を隠すってやつだ。

 それに何を隠そう、ジルの紹介で使徒になったのだ。間違いなく安全安心。ぱっと見、ちゃらんぽらんだけど。


 それにしてと外人イケメンがやると様になるなー。

 ぼんやりそんな事を考えていたのだが、ジルは私をルシアーノから隠すように私の前に立った。


「キョー様は貴方の物ではありません」

「今日もジルちゃんは可愛いねー。キョー様を取られまい独占欲剥き出しの所とか。俺にもそうしてくれない?」

「貴方にはそのが価値が塵ほどにもありませんので無理です」

「冷たい所もまたいいよねー」

「その浮かれた頭を机の角にぶつけて死んで下さい」

「世界のレディーが悲しむからちょっと出来ないなあ」


 【はいはい。もう毎度のやり取りはいいから。ジルも社交辞令なんだから気にしないの。ルシアーノ、ジルにちょっかい出すなら私を倒してからにしてね】


「キョー様……!」


 ジルが感動で目を潤ませながら、ほんのり笑顔で私に抱き付いてきた。きゃわわ!

 ルシアーノは苦笑しか出来なかったらしい。

 しかしそこでリュリュたんが不満そうに席を立ってきた。


「ジルるんずるいー! 私もやるー!」

「駄目です。キョー様に触れていいのはお世話係の私だけです」


 ジルは駆け寄ってきたリュリュたんをびっくりする程の素早さでディフェンスに移った。

 何だこの茶番は。


 【あー、リュリュたんも後で触っていいから、会議を始めるわよ】


「そんなキョー様……!」

「わーい!やったー!! それじゃあ全員集まったことですし、『黒の集い』はじめま〜す!」


 秘密の会議のはずなのに、全くそれを感じさせない明るく可愛い萌え声で、会議が始まりを告げた。




 

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