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5. こうきたか……


 それから3ヶ月も経てば、バカ国王もまともな生活が板についてきた。

 朝の目覚めも良くなり食事も文句を言わなくなり、食事の量を男性の平均量まで下げる事に成功した。

 体型も、あんまんからアメリカンドッグくらいになり、ようやく丸型からに抜け出せた。


 剣術も、ほぼ素振りばかりだったが、簡単な打ち合いが出来るようになった。

 いやはや、打ち合いも最初の方は大変だったよ。

 ちょっと当たるだけで泣きかけたり喚くから、キールが困って常に私に視線を送ってきていた。

 その度に 後ろで唸り声を上げる身にもなってほしいよ。

 まあ、肉食動物に噛み殺されるよりも、木刀で多少青アザを作る方がいいと判断したバカ国王は、文句を言いながらも多少キールの言うことを聞くようになったから良しとしよう。

 

 勉強も基礎を詰め込んだので、少しだが会議の傍聴から始まり、徐々に意見をするようになったのでようやく国王の第一歩といったところだ。

 少しずつだが、私がいなくても滞りない時はバカ国王とは別行動をする事が増えていった。


 そして私は個人でこの国の問題に着手する事にした。

 この国はバカ国王はもちろん、色んな貴族が腐りきっているので暴利を貪り、隙あらば沼に引きずり落とすという弱肉強食な国なのだ。

 今まで普段一緒に仕事をしていたのは主に身分の高い有力貴族だ。お偉いさん方は汚職を隠そうとするので、出来れば彼らのいない所でこの仕事は進めたい。

 もちろん私1人では無理なので、まずは仲間集め!

 信頼出来る仲間が欲しいので、有力貴族の影響が及ばないような人達を集めた。やってもらう仕事は主に資料集めとか計算などの事なので、身分問わずの実務経験豊富な人材を募集。

 忙しさで10歳くらい老けたクラウスに何人かピックアップしてもらってから実際に会ってみたりとか、突撃職場訪問をして使えそうな人を仲間に入れた。

 仲間に入れたのは、天才から職場の窓際族まで様々な職種の人達だ。

 そんなこんなで、私とジルを含め全員で8人の少数精鋭の特殊部隊が完成。ノリでチーム名を公安9課とでも付けようかと思ったが、意味が分からないだろうからやめた。

 名前は適当でいいよーとみんなに任せておいたら、次の日から『黒の使徒』という何とも中二心をくすぐる名前になっていた。

 しかも一週間後にはみんなでお揃いのリングを着けていた。いいなぁって言ったら、私の分のリングも作ってくれたので、ジルに頼んでリングにチェーンを通して首からぶら下げてもらった。へへ!


 こんな感じでチームを結成すると、早速みんなには働いてもらった。

 この国は税金の無駄遣いがかーなーり酷かった。バカ国王の無駄遣はもちろん、王宮での貴族や官僚への給料などが馬鹿高い。庶民からしたら真面目に働くのがアホらしくなるくらいの金額が使われている。

 な、の、で! 過去の通帳を全部見直し、公務員の給料の減給し、価値があるのかよく分からない芸術作品はオークションに掛け、多少壁に傷が出来た位の改築工事の取り止め、食費の縮小して出来たお金を復興のための資金や公共の雇用支援に当てた。


 無駄に多い使用人や騎士などには地方に行ってもらって復興の支援に出向いてもらった。

 王都から派遣されたとあれば、少しは地方の人も国王は変わろうとしているのが伝わるだろう。

 それと同時に、私も一緒に視察へ行った。

 やはり黒虎は国の救済のシンボルなので、私を実際に見させて士気を上げさせる。

 そして民の負のエネルギーにより汚れた魔素を浄化するらしい。

 どうやら黒虎は神聖な生き物なので聖なる魔素の塊らしい。古文書によれば、黒虎が汚れた魔素を喰らえば浄化された魔素が生まれる……らしい。

 それから神殿にあるクリスタルをペロリと舐めれば、黒虎の力が祝福としてクリスタルに宿り、その土地は加護を受けるらしい。

 簡単に言えば、超高性能抗菌機能付きマイナスイオン発生型空気清浄機である。

 一家に一台欲しいですね、はい。

 まあ、それは無理なので一々私が赴いているんだけど。

 ぶっちゃけ、空気清浄するのは結構疲れるんだよね。

 軽い二日酔いのみたいな感じで胃がムカムカするし、身体が重くなる。

 食事も睡眠も取らずに各地を飛び回って肉体労働をするとか社畜もいいところだ。

 異世界トリップするならもっと優遇してほしかったな!

 イケメンに囲まれてお姫様みたいは生活がしたかったよ!

 世界を巡る巫女の旅だってイケメンや美女に囲まれているのに、私はバカ国王の教育をしつつ国の問題のアドバイス等をしながらも、視察と慰問と言う名の短期出張を繰り返している。


 こんな事なら聖獣ライフなんか送りたくない。

 だけど涙を流しながら拝み倒されると断りきれないし、笑顔で感謝されるのは悪くない。

 そんな感じで、きっとお人好しな自分が嫌いじゃない私は、今まで以上に忙しい時を過ごしてます。


 

 し、か、し!

 そんなにスムーズに行くほど人生は楽じゃない。黒虎だけど人生と言わせてもらう。

 バカ国王とはほとんど顔を合わせない生活を半年程過ごした頃、人が馬車馬の如く働いているのに対して、バカ国王や城の家臣たちが怠けてきたのだ。

 多少国民の生活が向上したからといって、まだまだ苦しい状況にある。

 だが、どこぞの貴族はバカ国王を取り込んで今後有利に生活しようとバカ国王を甘やかしたので、バカ国王はまたワガママ癖が再発していたのだった。



 * * *


 ……というわけで、いつもより早めに帰城してバカ国王の部屋を訪れた。

 夜8時半なのでバカ国王は寝る準備を始めていたが、それを中断させて部屋にお邪魔させてもらう。

 侍女は下がらせ、部屋には不機嫌なバカ国王と、疲れた表情のクラウスと、無表情のジルと私の4人で話し合う事にした。

 1人だけ椅子に座るバカ国王は寝るのを邪魔されたせいかふて腐れた態度をしていた。


「なんじゃ。夜に余の元に来るとは珍しい。一人で寝れぬのか?」


 【ちょっとそこに跪きなさい】


「な! 会っていきなりなんなのだ! 余に床に座らせるなぞ無礼な!」


 【私の国では反省するときにするのは正座と決まってるのよ】


「反省だと? ここは余の国じゃ!」


 【いいから、大人しく、言うことを、聞きなさい】


「ひっ!!!」


 私はあえて強調するように言葉を区切り喉を唸らせ、ジルに一日中巻きついていたいと言わしめた美尻尾で床をパシン!と叩けば、怯えたバカ国王は椅子から転げ落ちすぐ様正座をした。

 初対面時より痩せたので、ここら辺の動きは俊敏になっていた。


 さて……と。

 私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから尋問を始めた。


 【まず、私はあなたに対して怒ってます。その理由は何だと思う?】


「そ、その様な事は知らぬ!」


 【考えなさい】


「ひっ!!」


 再び美尻尾を打ち付ければ、バカ国王は汗をダラダラ流して必死に考えていた。

 あー、だとか、うー、とか唸ってはいるが、恐らく必死過ぎて何が悪いのか思い付かないようだ。

 はぁ……とため息を吐けば、バカ国王はびくりと震えた。


 【本当に思い付かないの?】


「と、特には……」


 【本っ当に思い付かないの?】


 喉を唸らせながらバカ国王の頭に顔を寄せれば、バカ国王はガクブルで目を逸らした。

 あ、こいつ心当たりあるな。

 私は気付いたことを悟られないよう、顔には出さなかった。


 【そう、残念だわ……。それより、最近会ってなかったけど調子はどう?】


「ふ、ふん! 貴様に心配されるような事など無い!」


 拗ねたようにバカ国王はプイッと顔を背けた。24歳豚(♂)がやっても可愛くない。


 【ごはんちゃんと食べてる?】


「きちんと残さず食べておるぞ」


 【へー、余分に食べたりしてない?】


「し、しておらぬ!」


 【運動や剣術はどう?キツくない?】


「余裕をもってやっておるわ」


 【そっかー。サボったりしてない?】


「し、しておらぬぞ!」


【最近はちゃんと眠れてる?】


「無論じゃ」


 【よかったー。寝過ぎたりとかしてない?】


「そ、そんなの当然じゃ!」


 【他に無駄遣いとかしてない?】


「しておらぬぞ! 失敬な奴だな!」


 【ごめんごめん。この悪趣味な花瓶、いつの間にか新調してみたいだから気になって】


 バカ国王はぷんぷん怒っていたが、小さくびくりと震え、顔を少し青くしていた。

 怒りたいのはこっちの方だ。こいつは嘘を吐いている。

 自然と小さな地震が起き、部屋が揺れ、棚や飾り物がカタカタと音を立て始めた。


 【……サイク、私は嘘が大嫌いなの。今なら怒らないから行ってごらんなさい】


「ほ、本当に怒らぬか?」


 【ええ、約束するわ】


 バカ国王を真っ直ぐ見つめながら答えると、バカ国王は緊張した面持ちでごくりと喉を鳴らし、ようやく白状した。



「実はの、最近頑張っているから、1日のご褒美のケーキを食べるようにしたのだ。それに剣術も上手くなったし運動をするのも時間の無駄だから少し省いた。そのかわり睡眠時間を増やして健康を維持しておるぞ。その花瓶は気に入りの商人に勧められ、気に入ったから購入したのじゃ。どうやら30年前の巨匠の一点物らしい。いい壺であろう?」


 【この脳内お花畑満開野郎が!!】


「ぎゃー!!! 喰われる! 喰われる!!」


 つい暴言を吐きながら歯をむき出しにしてバカ国王に吠えれば、バカ国王は泣きながら後ろに転がり、少し離れた所にあるベッドの後ろへ逃げた。


「お、おおお怒らぬと言ったではないか!!」


 【怒ってないわ。叱るのよ。ほら、戻りなさい】


「叱られるのも嫌じゃ!」


 先程バカ国王が正座していた場所を右腕で床を叩けば、ガクブルバカ国王の首はものすごいスピードで横に振られた。

 無言でバカ国王を睨んでいると、バカ国王は震えながら目を逸らした。


 【…………】


「…………」


 重い沈黙の中、私が美尻尾を叩く力を強くし、再び部屋の揺れが酷くなり悪趣味な壺が床に落ちそうになると、バカ国王は落ちる前にそれをキャッチして、それを抱えながら半泣きで私の前に再び正座した。

 泣くくらいならやるなっつーの!


【何で私が怒ってるのか分かる?】


「……嘘を吐いたから」


 【それもある。その前に、言いつけを守ってなかった事よ。あなたは私がいないのをいい事に、私の言いつけを守らずにだらけ始めてる。私が何のために頑張ってると思ってるの? あんたが駄目にした国を建て直す為にやってるのよ。貴方だって勉強をして少しは国の状況が分かってきたから頑張ってたんじゃないの? 今まで頑張ってやってきたんだから、それくらいちゃんとやりなさいよ】


 しかも夜にケーキを食べて運動時間を睡眠に当てるなんてデブ街道まっしぐらだよ! おかげであんまんに戻ってるし!!

 怒らないといった手前、あまり激しく感情的にはなっていないが、ツラツラと恨言のように言われるのもなかなか辛いものだ。

 痛いほどの沈黙の中バカ国王の返事を待っていると、バカ国王の震える小声がぽつりと溢れた



「だって……褒めてくれぬではないか……」


 【は?何が?】


「余が頑張った所で、お主は褒めてくれないではないか!!!」


 【…………はぁ?】


 訳が分からない。何故ここで褒める褒めないの話題が出てくるのか。頭を傾げるが、バカ国王は熱を上げて逆ギレをしてきた。


「余は頑張っておるぞ! 運動だって庭を5周するのなんか簡単に出来るし、転ばなくなった! それに勉強だってちゃんとして会議にも参加して意見もいうようになった! なのにお主は余を褒めぬではないか!!」


 【あー……ちょっと待って。サイクは、私に褒められないからサボってるわけ?】


「ち、違う!余は貴様を見返したいだけだ!!」


 【じゃあ私がいなくても頑張ればいいじゃない。戻ってきたときにダイエットしてスリムになって会議でまともな意見を言えるようになってる方がよっぽどすごいと思うけど】


「だが……余は褒められたいのだ!」


 顔を真っ赤にして主張するが、呆れるしかない。

 褒められないからサボりましたって……ガ キ か!!

 お前いくつだよ24歳だろゴルァ!!24歳って言ったら大体は入社2年目でそろそろ仕事も1人で出来るようにならなきゃ孤立してくる頃だぞ!!

 褒められないからやらないとか、そんなの通じるのは幼稚園児まで!! そんな基本的な事も出来んのかアホンダラ!!

 社会人になったら褒められなくても努力するのは当たり前なんだよ! 出来ないままにしたクビ切られるんだよ!!

 そんな事も分からんのかっ……て、分かんないのよねぇ。

 甘やかされて育ったから頑張り方を知らないといえばいいのだろうか……。

 だから少しずつ努力出来るように環境を整えたつもりだったけど、まだまだそれが足りなかったようで……。

 脳内暴走をしてからの怒り鎮火させる。これをどう噛み砕いてオブラートに包みこもうか…。


 【……サイク。私はあなたを認めてないから褒めないんじゃない。認めてるから褒めないの】


「は? なんじゃそれは?」


 【最初は私がサイクの事を見張りながらやってたけど、あなたは段々1人でも出来るようになってきた。だから側にいなくても大丈夫だと思ったの。それって出来るって信じてしていなきゃ出来ない事なのよ?】


「…………」


 【出来る人はね、出来て当然だから褒められないのよ。だから私もあなたの事を褒めなかったんだけど……どうやら、私の見当違いだったようね】


「そ、そのようなことはない! 余は出来るぞ!!」


【本当?】


「当然であろう!」


 【それじゃあ、今のだらけた生活を以前の様に戻して来月までに先月の体重に戻してね。その後にまた今後のあなたの運動、勉強、仕事の割り振りを決めるからよろしく】


「む、分かった……」


 【よし。いいこいいこ】


 子供な反応をするバカ国王の頭を美尻尾で撫でてやれば、バカ国王は顔を真っ赤にして怒った。


「子ども扱いするな!!!」


 【はいはい】


 褒められないからからサボるようなやつを大人扱いする方が難しいっつーの。

 適当な返事を打つが、バカ国王は照れ隠しかまた怒鳴ってきた。


「大体貴様こそどうなんだ! 余から離れてこそこそ動き回り、個人の部隊を作り秘密裏に行動しているではないか!使用人や騎士を連れて城を開けてばかりで、地方で遊びに行ってる訳ではないだろうな?! 貴様の部屋にあるクリスタルや聖水も超高級品で、聖水1リットルで一般平均4人家族が半年は余裕で暮らせるものなのだ!それも国税で賄っているのだから貴様も国を苦しめている一頭なのだぞ!」

「僭越ながら、お話の最中お言葉を失礼致します」


 【へ?】


 バカ国王の発言にいち早く反応したのはジルだった。

 今のジルは似非の抜けた真のクールビューティー。クールどころかコールドだよ!! 雪の女王!! 空気が寒くて痛い!

 そんなジルは、デフォの無表情で淡々とバカ国王に説いた。


「黒虎様は、腐敗したこの国を正そうど努力しておられます。黒虎様が作られた部隊は、腐った権力者の力が影響されないようにと、黒虎様自らが選出し、編成されたものです。国王陛下を置いて城外へ出られるのも、災害と貧困により暮らすことが困難となった町や村の復興支援を目的とした崇高なるものです。また、黒虎様と共に支援に向かうのは城で過剰に雇われていた使用人や、仕事を持て余した騎士たちを連れて行き、黒虎様直々に復興への指示をしております。そこで淀んだ魔素を取り払い、加護を与えるというお身体に負担の掛かる大変なお仕事をなされております。忙殺される日々の中、その合間を縫って黒虎様は、睡眠時間をも削り国の為に勉強もなされているのです。それでも国王陛下は、黒虎様の事を税金泥棒と罵ることが出来るのでしょうか?」

「いや、余は別に……」

「黒虎様は聖獣としての役目を果たそうと大変素晴らしい働きをなさってます。尊敬するに相応しいお方です。今後、国王陛下には黒虎様を侮辱するような言動や態度はお慎みくださいますよう、何卒お願い申し上げます」

「へ?! う、うむ……」


 ジルは恐ろしく長い台詞を淀みなく言い終えると、恭しく礼をした。それはまるで一国の女王のようだった。気品と威厳に溢れていて、お願いの言葉もまるで命令の様に拒否できないような強さが滲み出ていた。

 び、美人さんだと何をしても様になるというか、それ以上のものがある気がする……。

 

  ◯補足◯

・公安9課…攻殻機動隊に出てくる内閣総理大臣直轄の防諜機関であり秘密組織。主人公が所属している。



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