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4. 今のところこういう感じ


 こんな生活を一ヶ月程過ごすと、少しバカ国王に成長が見られた。バランスの取れた食事とウォーキングを続けた事により、体は肉まんからあんまんレベルになった。


 だが未だに嫌いなものは食べるのを渋るし、私が見ていない間に余分なお菓子を食べ

ようとする。運動に関しても渋るので、唸りながら後ろから追いかけて無理矢理歩かせている


 それから勉強をした事により、ようやく国の大変さに気が付いたらしい。

 というか、自分の生活の危機だね。貧乏になりたくないと宣っている。

 ただ知識が足りないため、まだ何も出来るような段階ではないので引き続きに勉強している。


 私もこの国や世界情勢を理解してきたので、より難解な議題の会議にも出席するようになった。

 今までは災害関係の措置や日本の税金対策等の知識を教えるだけだったけど、今は国の財源の切り詰めや外交レベルの話し合いにも参加している。

 こういう政治の話し合いをしていると、今まで自分がどれだけ無知だったのかと言うことを痛感した。


 この国より十分しっかりとした政治環境故に、詳しい事を知らなくても安定した暮らしが出来ていた。そりゃ、現代だって色々問題はあるけど、命の瀬戸際まで追い込まれている訳ではない。

 もっとちゃんと新聞とかニュースを見ておけば、もう少し役に立ったかもしれないけど後悔先立たず。

 帰ったらちゃんと自分の国の事くらいはちゃんと勉強しよう。



 さて、バカ国王の教育は第二段階に突入。

 運動はウォーキングからジョギングにレベルアップし、縄跳びやフラフープなどの簡単な運動も付け加えた。

 運動不足なバカ国王には小学一年生レベルの体育がちょうどいいだろう。


 この時に重要なのが、いかにやる気を出させるかだ。単調な作業じゃ、このバカ国王はすぐに飽きてしまう。

 なので、騎士団から女受けの良いイケメンと、バカ国王の理想のタイプの美女を連れてきてもらった。

 虎の私に運動音痴に運動のやり方をきちんと説明出来る自信はないので、運動神経のいいイケメンに口頭で教えた事のやり方やコツをバカ国王に伝授してもらう。

 イケメンなのは、バカ国王の理想の外見の男に対抗心を芽生えさせるためだ。

 美女にはひたすら応援してもらった。男とは女の前では見栄を張りたがるらしいのだが、やっぱり単純なバカ国王もその一人だった。

 モテたがるバカ国王にはぴったりの人材だと思う。

 我ながら良い人選だ。

 まあ、イケメンと美女が付き合ってるのは秘密にしておこう。



 勉強に関してはこの国の基本的な事は学ばせたので、今まで座学だけだったけど、体験に勝るものはないということで、バカ国王に変装をさせて市井に行かせた。

 私は目立つので部屋でお留守番。ジルとのんびりお喋りしながら楽しく過ごしていた。


 私と雑談してくれるのってジルくらいなんだよね。

 他の人は要望だけを私に告げるか体調はどうだとか当たり障りのない事を聞いてくる程度だ。私と話すのは畏れ多いと言ってそそくさと去ってしまう。

 だけどジルは、嬉々として私個人の話を聞いてくる。

 だから珍獣好きのジルに、自分が元の世界では人間だと言うことをカミングアウトをするのは結構躊躇したのだが、意外にもあっさりと受け入れられた。

 むしろ落ち込むどころか、目を爛々と輝かせてどんな人だとかどんな暮らしをしていただとか色々聞いてきた。

 どうやら嫌われてはないようで安心した。カミングアウトしたことで、よりジルと仲良くなったと思う。

 そんな訳で名前を教えてみたのだが……。



「クローダ・キオーコー?様でよろしいですか?」


 【黒田・恭子、だよ】


「クロッダ・キオーコー?」


 【言いにくいか……。恭子はどう?】


「キィオーコー」


 【…恭は?】


「キョー」


 【よし! じゃあキョーって呼んで?】


「きちんとお名前を呼ぶ事が出来ず、申し訳ございません……」


 【気にしなくていいよ、言えないなら仕方ないし。キョーって呼んでくれるだけでも嬉しいよ】


 この世界で私を黒田恭子と認識してくれる人はいない。黒虎は黒虎。国を救う存在なのだ。だから、私の事を黒田恭子として認めてくれる事が嬉しい。


 【本当に、ありがとう】


「キョー様……」


 私の心からのお礼に、ジルは何故か感動したようで私に抱きついてきた。


「可愛いらしいです!」


 【そ、そう?】


「はい! もうお嫁さんにしたいくらいです!」


 【そうだねー、私が男だったらジルをお嫁さんにしてるよ】


「私も男ならばキョー様をお嫁さんにします」


 【もらってくれるの? ありがとー!】


「ええ、絶対です。相思相愛ですね!」


 【なんか照れるなぁ〜】


「ふふふ!」


 お互いに笑い合い、部屋の中は暖かい雰囲気で包まれてた。

 バカ国王の教育よりも、似非クールビューティーのメイドとイチャコラしてる方が幸せだよ!

 私、レズじゃないけど可愛い女の子は大好きだよ! 可愛いは正義なのだ! しかもジルはスレてないからね!

 デフォは無表情だけど、私といると笑顔を出血大サービスをしてくれるのだ。うーらーやーまーしーかーろー!!!

 羨ましかったら異世界来い!


 脳内暴走していると、不快な大声と慌ただしい足音が聞こえてきた。帰ってきたな。

 せっかくの幸せタイムが……と溜息を吐くと、両開きのドアを勢いよく開いてバカ国王が怒鳴り込んできた。


「黒虎ぉ!!! これは一体どういうことだ!!!」


 【まず部屋に入るときはノックしなさい】


 私の冷静な注意を全く聞かず、バカ国王は息を巻いて私に怒鳴り込んできた。


「市井を見物してやっていたら、5度も襲われたぞ!!」


 【5回も?】


「そうじゃ!」


 【護衛係、詳しい話を聞かせて】


「余に聞け!!」


 怒鳴り散らすバカ国王から目を逸らして後ろにいた護衛係に声を掛けたら怒られた。こういう時に感情的に物言う人にはあんまり聞きたくない。


 バカ国王を適当に宥めつつ、護衛係から話を聞くと、1回目は城を出てしばらくしてから、2回目は街に着いた直後、3・4回目は買い物をしている最中、そして最後に街を出て少ししたら襲われたそうだ。

 単独犯、複数犯といたが、その中の数名は捕らえたので今は事情聴取中らしい。

 襲われたときはどんな状況だったのか詳しく聞くと、これまた頭が痛くなった。


 【そりゃこのご時世、場違いな金貨を払いながら、失礼な文句ばっかり言う肥え太った豚がいたら、荒んだ貧民は飛び付くでしょ】


「余は豚ではない!! なんなのじゃあの者たちは! つい余が国王だと証明して粛清してしまおうかと思ってぞ!」


 【それ、殺して下さい宣言だから絶対言ったら駄目よ】


「何故バラしてはいかんのだ?! 余は偉いのだぞ!」


【国を傾けた元凶がいたら殺したくなるでしょうが。特に知識が無い人なら、王を殺せばそれで問題解決するとか、自分が王になれると思うでしょうね】


「そ、そんな…」


 青い顔でふらついて椅子に座ったあたり、どうやらかなりショックを受けているらしい。というか、こんなに治安の悪い中で襲われるという考えがない時点でおかしい。

 平和ボケしていると言われる日本人の私でもすぐに思いついたくらいなのに。

 少しは分かってもらえると思ってたけど、ここら辺もまた教えて行かなきゃいけないとなると、骨が折れるな…。

 いま、民の暮らしがどんなものか知って欲しかったから護衛をつけて街へ行かせたけど、5回の襲撃は少し多過ぎるし、6人のベテラン騎士のうち2人も怪我している。警備の方の強化しなくちゃいけないな。

 こんな事もあったし、しばらくはまた座学に戻ってもらおう。


 意気消沈しているバカ国王を慰める訳でもなく、今後の教育方針を練りつつ欠伸をした。


 この時私は、この襲撃の重大さをあまり考えていなかった。



 * * *


 今回の事の教訓も含め、バカ国王の運動には護身術も含まれる事になった。


 他人に戦わせるのはいいが、自分が戦う事が嫌なバカ国王は、部屋のドアを内側から鍵と魔法を掛けて籠城していた。


 【いつまでも駄々こねてないで早く出て来なさーい。訓練に遅刻するわよー】


「余は戦いたくから訓練などしない! 早くどっかいけ! 余は気分が悪い!寝る!!」


 バカ国王は勝手にキレててひきこもりとかしていた。断固として出ようとしない強い態度にすっかり呆れてしまった。

 この強い意志を国の改革に向けてほしいものだ。

 部屋の中には食料はないのでそのうち国王は部屋から出てくるだろう。だが、兵糧攻めもいいが今は何より時間が足りない。

 クラウスの許可をもらってドアを壊させてもらった。

 どうやったかって?軽く猫パンチしたら簡単に壊れた。

 周りが呆気にとられているなか、部屋の中でガクブルで縮こまっているバカ国王を口に咥えると、国王の訓練を付けてくれる騎士団団長の下まで連れて行った。


 きちんと力加減して咥えているのに、噛み殺されるだとかギャーギャーうるさいので、軽く顎に力を入れると大人しくなった。

 それでも運ばれている間、バカ国王が弱々しい悲鳴を上げながら助けを求めている様は中々シュールだった。


 目的地まで着くと、騎士団長は目を丸くしていたが、近付くと気を取り直した騎士団長は敬礼をした。なかなか順応性は高いようだ。


 涎まみれになりながら鼻水を垂らして泣くバカ国王を地面に落とすと、バカ国王はそのままシクシクと泣いていた。面倒臭い。


【いつまで泣いてるのよ。早く立って剣術を教えてくれる先生をやってくださる騎士団長のキール・マクレガンよ。挨拶しなさい】


「うぅ……嫌じゃ……」


【あのね、キールだって忙しい時間をわざわざアンタのために割いて来てくれたのよ。感謝しなさい】


「余は戦いたくなどない!」


 いきなりガバリと起き上がって癇癪を起こした。全く子供な反応だ。


「そんなもの騎士に任せれば良いのじゃ!!」


【もし騎士がいない時に襲われるかもしれないでしょ? その時に一方的に殺されるのと生きて逃げるのとどっちがいいの?】


「生きるに決まっているだろう!」


【だったら襲われた時に生きておくためにも戦わなきゃ駄目じゃない】


「戦うのは怖いだろう! 痛いのも嫌じゃ!!」


【戦いたくないなら、その状況を作りなさい。今はアンタが好き勝手やってきたからこんな危ない状況になってるのよ。自業自得でしょ。それと、泣いて我儘を言ってるだけで何とか出来るなんて子どもの考えはやめなさい】


「うわーん!!」


 本格的に子供泣きをするバカ国王に、部屋の空気が何とも言えないものになってきた。

 時々、豚の鳴き声が入るのがまた何とも空気をぶち壊す。ナイスミドルな騎士団長とか、変な汗をかきながら固まってるし。

 はあ、と大きく溜息を吐いた。あんまりこのやり方は好きじゃないが、仕方ない。


【ねえサイク、知ってる?】


「わーん!!」


【騎士ってすごくモテるのよ】


「!」


 ここでぴったり泣き止むのがまたムカつくわ。まだ鼻を鳴らしているが、話はしっかり聞こうとしているのが伺える。


【騎士って強くて民を守ってくれるからカッコイイよね。紳士だし。だから女の子に人気ナンバーワンの職業なの。ここにいる騎士団長のキールなんて若いころからモテモテで、歳を重ねた今でもモテるのよ。ね?】


 キールは無理やりな振りに目を丸くしていたが、強ち嘘じゃなさそうだ。無骨な渋いおじさんって感じでいい感じで熟してきている。若かりし頃はさぞかしモテただろう。じゅるり。

 キールは有無を言わさぬ私の訪ね方と態度で悟ったらしい。


「と、とても、モテます…」


 自分で言ってて顔赤くしないでよ!嘘でも恥ずかしいんだね!かわいいな!

 ニヨニヨするのを抑えてバカ国王に視線を戻す。


【往々にして、女の子は強い男の人に惹かれるものよ】


「………」


【そんな国王になったらモテモテ過ぎて困るくらいにモテるよ】


「余は…戦う! キール! 早く教えよ!」


 急に顔つきがキリッとして立ち上がった。


【んじゃ、よろしく】


「は、は! 了解いたしました!!」


 キールのしっかりとした返事を聞くと、私は邪魔にならない木陰に移動して、本を読みながら見学した。

 キール、バカ国王をフルボッコにしてやれ。







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