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18. こうまとまった


「それにしてもこっこたん、500年は帰って来ないんだね……」


 リュリュが机にもたれ掛け、しょんぼりと肩を落としていた。

 リュリュが落ち込むなんて珍しい光景に一番驚いていたのはアンドレイだった。


「ババアが落ち込んでる、だと……!?」

「ババア言うな糞ガキ! 長く生きていればそれなりに出会いと別れがあるってものなのよ!」

「わ、わりぃ!」


 やはり真面目に怒りを露わにするのを初めて見た私達は戸惑ってしまったが、そこはお姉さん肌のミランダが優しくリュリュに問いかけた。


「私達は黒虎様の事を詳しく知らないから何とも言えないのだけれど、リュリュは黒虎様と親しかったのかしら?」

「う〜ん、3回しか会ったことないから親しかったって言えるかは分かんないけど〜、わたしは好きだよ。こっこたんの魔素のある場所って居心地いいんだよね〜」

「激しく同意します」

「ジルも?」

「はい」


 即座に返事をしたジルに驚きつつも、リュリュは説明してくれた。


「聖獣の魔素ってそれぞれ違ってね、魔力の高い者たちは自然とそれぞれが暮らしやすいところに住んでるの〜。大まかに分けると、気性が荒い者はひりゅるんの所、変わり者はそーじゃくたんのところ、温厚な者はこっこたんのところ、のんびり屋ははくぶんのところって感じかなぁ〜」

「へえ、そんなに違うのね」

「うん。だから魔素の感じも全然違ってて、例えで言うと〜、もしわたしが研究してるところに聖獣達が居たとするとね、ひりゅるんは音楽とか鳴らして勝手に騒いでて、そーざくたんは途中で話し掛けたりどこか行ったりする感じ〜。はくぶんはそこら辺で陽に当たりながら昼寝でもしてたりして、こっこたんは室温を整えて邪魔にならない様にお茶菓子置いてくれて、うたた寝しちゃったらそっと肩に毛布を掛けてくれる感じだよ〜♪」


 何それ黒虎、超良いやつじゃないか!!

 そんなやつに振り回された私は何なんだ?

 リュリュやジルの心境を思えば、恨めばいいのかよく分からなくなってきた……。

 

「だからここはね、自然と過ごしやすい様な環境になるような、あったかい場所なんだ〜。だから霊獣が最も多いんだよ〜♪」

「そうなんだ……。自分の事じゃないけど、そういう風に言ってくれるのは嬉しいな」

「ふふ。だからね、こっこたんの力を消費しまくってるバカどもをぶっ殺してあげよっか? てきいたんだけど、見守るのが自分と初代国王との約束だから、邪魔しないでほしいって言われちゃってさ〜。最期の方は引きこもっちゃって話もしてくれないのに、グリオールの守りはしっかりしてるんだから、どんだけお人好しなんだよ! って思ったよ!」


 リュリュはほっぺを膨らませて足をぶらぶらさせて拗ねていた。

 確かにそれは義理堅いにも程があ

る。忠犬ハチ公並みの義理堅さだ。

 そんなリュリュを見て、フェルナンドはそっとフォローした。


「きっと黒虎様も、リュリュ様の事をご友人だと思っていてくれたと思いますよ。だからグリオールの周りはリュリュ様に任せていたのですよ」

「あ♡ フェルりん慰めてくれるの? ありがと〜♡」

「いえ、その……!」


 フェルナンドに抱きつくリュリュのご機嫌具合に、先程落ち込んでいたのは芝居だったのではないかと思ってしまった。


「まあ別に500年は帰ってこれないって言っても、そのうち連絡があると思うよ。そんな義理堅い子が、本当に全部キョーにゃんに丸投げするとは思えないしね☆」

「うーん、どうだろうね?」

「ジルるんだってこっこたんに会いたいでしょ? 会いたいからわざわざ人間レベルに弱体化してまで侍女になったんじゃないの?」

「え、そこまでして会いたかったの?」

「はい。ほかの聖獣の方々にはお会いした事があるんですが、黒虎様には一度もお会いした事がなかったのです。私がお会いしたいと思った頃には、黒虎様は完全は外との関係を断ち切っていました。だから今回黒虎様が召喚されるとの情報が入り、身分を隠してキョー様の御側に仕えさせて頂きました」


 ジルの暖かな笑顔を私は気まずかった。そこまで気に入った黒虎だったのに、そこに自分が来てしまったという事に罪悪感を感じた。


「なんか、私でごめんね?」

「そんな! キョー様に出会えた事は本当に幸運だったと思っています! 私は……」

「は〜い! うっとうしいのでジルるんは後でキョーにゃんにだけいっぱい愛の言葉を囁いてね〜☆」

「え?! そういう展開なの?!」

「はい」

「じゃあごめん。聴きたくない。会議続行!」

「キョー様……」


 明らかにしょんぼりとしたジルだが、もうそんなのに構っていられない。話が逸れ過ぎている。


 何とか本筋まで戻ってこれたのでエスペルガディア対策を考えた結果、やはり輝燐やリュリュ、その他霊獣がいることを強みに交渉する事になった。

 エスペルガディアの技術がグリオールよりすごかろうが、天災に勝てる訳ではない。その気になればリュリュだけでエスペルガディアを掌握する事は簡単に出来るらしい。

 他の霊獣に協力してもらえば、物理的にエスペルガディアを破壊する事が出来る程の力もあるらしい。

 言っておくが、これはグリオール王国の為ではなく、黒虎に対する恩返しらしい。

 もしかしたら黒虎は、こういう自体も想定していたんじゃないのかというくらいにみんなに好かれている。

 殊更私が黒虎ではないので肩身が狭いが、霊獣達は長寿なので黒虎が戻ってくるなら構わない人も多いだろうし、黒虎の影響下である大地をここまで回復させた私には感謝しているので気にしなくていいそうだ。


 だからお互いのためにも、今まで通り仲良く過ごしましょうという提案、基脅迫文を送る事にした。

 今回の事はエスペルガディアがグリオールを見下しているから起こる事だ。

 グリオールは国の規模としては小さいが、資源は豊富だし霊獣と言う名の生物兵器もいる。

 純粋な力だけでいったらこちらの方が俄然上だ。

 エスペルガディアにも聖獣はいるけど人間には非協力的だからね。

 だからこちらとしては対等な立場を守りたい。


 念のため、エスペルガディアから輸入してる物の中で替えが効くものは他国で探す事にする。

 技術面の提供でも、しばらくの間は無くても大丈夫そうだし、私の知っている限りの知識を使えばどうにかなりそうな物もある。


 とりあえず親書には、今は一括全額返済は出来ませんが、借金は少しずつでも必ず返しますし、今までと変わらない友好関係を続けたいことを丁寧に書いた。

 もし侵略をするのであれば、こちらは自衛します。ただ、実はこっちには輝燐がいて黒虎を溺愛しているので黒虎の魔素の影響する場所を攻撃すると怒ります。

 強力な霊獣もいるので負ける気がしないし、霊獣は人間が縛れるものでもないので一部の霊獣が勝手にそちらの国にお邪魔してしまうかもしれませんが自己責任でお願いしますということもちらっと書いておいた。

 親書を魔法でエスペルガディアに速達して、あとは返事を待つだけだ。

 さて、あちらさんはどう出るのやら……。




 * * *


 あれだけ恐れていたエスペルガディアの侵攻宣言だったが、親書を届けたらあっさり引き下がってくれた。

 そういう事でしたら今後も友好関係を続けましょう。こっちも別に戦争がしたい訳ではないし、無益な殺生よくないよねこれからもよろしくね! ……のような内容のお返事がきた。

 あまりの掌返しの速さに、こちらとしては拍子抜けだ。

 まあ、戦争が起きないならいいけどさ。

 無事一件落着。


 さて、そこで次なる問題が待ち構えておりました。

 私がジルのもの問題だ。

 今回の件を収めるために、バカ国王が勝手に私をジルのものと認めた。

 周りが良くても私はよくない!

 という訳で、ジルと2人で面談する事に。

 私が使わせてもらっている部屋のテーブルに向かい合って座る。ただ普通の事なのにジルは嬉しそうにしている。

 角を生やした男性のこういう姿は微笑ましいな。


「さてさて。えー、何の話し合いか分かる?」

「共に旅に出る事の計画を立てるということでしょうか?」

「それもあるけど、私にとってはもっと大事なこと」

「大事なこと、とは何でしょうか?」

「私がジルのものって言ってた話」

「ああ、それでしたか!」

「うん。はっきり言っておくけど、私はジルのものにはならないよ」

「はい、構いません」

「駄目ったら駄……え? いいの?」

「はい。あれはここから出るための方便であって、そんな恐れ多いことなんて望みません」


 くすくす上品に笑うジルを見て拍子抜けした。あれだけ積極的だったから、本当にそのつもりだと思ってたのに杞憂だったか。


「むしろ私をキョー様のものにして頂きたいです」

「なんでやねん!」


 やっぱり杞憂じゃなかった。

 可愛く頬を染められてもこっちも困るからね?

 さすがにその提案には乗れないからね?

 自分で言うのもなんだが、流されやすい私は冷静になってジルを諭した。


「私は人権を尊重するので誰かを自分のものにするつもりもないし、されるつもりもないの。分かった?」

「はい……」


 ジルが少し寂しそうな笑みを浮かべるのが私の罪悪感を煽る。

 けどこれは大事な事だからね。流されないよ。

 もし私が女子高生だったら話は別だった……事もないか。その頃から私は冷めてた。可愛げのない子だったな。

 とは言っても高2から前の彼氏と交際を始めたし、それなりに好きだったし楽しかったので枯れていた訳ではない。

 しかし、それなりに好きで長く付き合ってた彼氏が多忙によりフェードアウトで交際終了した事もあいまって、いきなりイケメンに交際を責められてもすんなり受け止められる訳ではない。

 本当にこういう時に現金だったら楽に生きられるんだろうな……。


「キョーさま? どうかなされましたか?」

「……ううん。何でもない」

「そうですか?」

「うん。じゃあ問題も特に無くなったし、旅の準備しようか」

「はい」


 旅の計画は主にジルに立ててもらった。私よりもジルのが断然この世界の事を詳しいからね。

 旅の準備をしっかりしたいので、一週間後にここを出立する事にした。

 私の容姿に関しては、エンプティだと目立つためジルに魔法でこの世界に来る前の色に戻してもらった。やっぱり見慣れた姿の方が落ち着く。

 ジルも本来の姿では目立ち過ぎるし、女性の姿でも旅の危険度が増すと思われるので、この世界では有り触れたブラウンの髪、グリーンの瞳、健康的な焼けた小麦色の肌にカラーチェンジし、外人のボディガードの様に強そうな体格に変わった。

 美しい顔は少しゴツくなり、涼しげな目元も相まって視線だけで人を殺せる様な仕上がりだ。

 これならゴロツキから襲われる事もないだろう。

 あとは旅の準備をするのみ。


「あ。あとそれから今後は敬語なしで私の事はキョーって呼んで。敬語と様付けだと堅苦しいし、周りに聞かれた場合、身分の高い人に思われる可能性があるからね。不安の目は摘んでおきたいの」

「キョー……様でなくて良いのですか?」

「うん。いいよ。敬語もね。私はもう黒虎じゃないし」

「……キョー」


 ジルの冷たく感じる程に整った顔をへらりと緩め、心地良い低音で名前を呼ばれ、思わず胸がきゅんとした。

 ……いや、これは誰にでもあるギャップ萌えというやつでしてね。決してその、男性としてのときめきでは……!


 幸せそうににこにこしているジルから目を逸らして何故か緊張している自分を落ち着ける。


「キョー、忘れないでいて欲しい事がある」

「ん? 何?」


 真面目な落ち着いた声色に、私の浮ついた気持ちも何とか落ち着いた。

 何故かジルは席を立ち、私のすぐ側まで来て跪くと両手を取った。

 な、何事!?


「私はキョーの意思を尊重するつもり。決して無理強い等はするつもりはない」

「う、うん?」

「だけど、私がキョーを好きな事は変わらない。覚えておいて」


 さっきの笑顔から急に情熱的に真摯に見つめられれば、誰だって体温が上がるものだ。

 自分でも分かるくらい顔が熱い。だけどこのまま流されるのはいけない。

 今まで女だから意識してなかったのに、男でイケメンだから一気に好きになってしまうのは不純に思えてしまい、素直に頷けない。

 やはり可愛くない性格だ。

 どうせ顔が赤いのは分かってるんだ。大きく深呼吸して自分を落ち着かせる。


「……覚えておく。だけど私がそれに対して必ずしも応えるわけじゃない事も覚えておいて」

「はい。キョー様の仰る事は忘れません!」

「……呼び方と敬語をやめるの忘れてるみたいだけど」

「は?! すみません!!」





 ・捕捉


こっこたん → 黒虎。世界の西を守護する聖獣。

艶めく闇色の毛に包まれた虎。

温厚で保守的。


能力:不滅。国が滅亡の危機に陥ると契約者の血筋を継ぐ王のみ召喚可能。穢素を浄化し、攻撃を防御・吸収・反射させる事が出来る。



ひりゅるん → 緋龍(ひりゅう)。世界の東を守護する聖獣。

緋色の美しい鱗を持つ龍。

気性が荒く好戦的。


能力:逆襲。他国から攻撃されると王のみが召喚可能。絶対的な破壊力を持って敵国が敗北宣言するまで戦う。



そーざくたん → 蒼雀(そうざく)。世界の南を守護する聖獣。

煌めく蒼色の羽根を纏った鳥。

好奇心旺盛で飽きっぽい。


能力:復活。国が滅びると強さ・知性・カリスマ性のある者のみ召喚可能。召喚者の武力、魅力、運を引き出す事が出来る。



はくぶん → 白武(はくぶ)。世界の北を守護する聖獣。

パールの輝きを持つ硬質な甲羅を持ったゾウガメ。


能力:平穏。平和になると召喚可能。国の土地や気候が豊かにする。

のんびりやで無関心。


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