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17. 今さらこういう暴露大会はやめてください!


 まず緊急で黒の使徒を招集した。彼らはもうすっかりこの国の重鎮だし、彼らがいなければこの国は回らない。

 私が人間に戻ってから、みんなとは一度も会っていない。

 私が外に出られなかったからだ。

 今まで一緒に頑張ってきた仲間に何も言わずに姿を消した事、自分が人間に戻った事を伝えないのはやっぱり心苦しかったから、いまみんなと会うのは少し怖かった。

 時間指定をしてみんなが部屋に集まってから、私は最後に部屋に入った。

 ジルが扉を開け、その後に続いて部屋に入った。

 相変わらずみんな自由に過ごしている事に安心したが、私の事を見るとみんな目を丸くした。

 ここには黒の使徒以外のメンバーが足を踏み入れる事はしない。それに全身紺色で覆った深かぶりのフードを身に付けた不審人物が来たら誰だって驚いても仕方がない。

 リュリュとルシアーノ以外のメンバーは明らかに警戒していた。私の後ろにいるジルが扉を閉じると、ジルが私に近付いてゆっくりとフードを外した。


「……エンプティ〜?」

「みたいだな」

「何故エンプティなどがここに……」

「こ、この方は一体?」

「この方はクローダ・キィオーコー様です。私達と共にグリオールの為に尽力して下さった救世主、聖獣の黒虎様の本来の姿です」

「こ、これがキョー様?!」

「あれま! 力使い過ぎちゃったのかな?」

「黒虎の力が大地に還元され、彼女には殆ど魔素がなくなってしまわれたのです」

「何ともお労しい御姿になられてしまわれて……!!」

「まさか、エンプティにまでなられてしまうなんて……」

「こんな事ってありえるのか!?」


 それぞれ反応は違えど、やはり哀れみの方が強かった。特にマクシミリアンは涙ぐんでまで悲しんでいる。

 潔癖な人だから仕方ないと思うが、ここまで同情されると居た堪れない。


「えーと、改めまして黒田恭子です。前まで黒虎として働いてました。みんなと一緒に働く時に話したけど、中身は異世界から来た人間です。エンプティになったと言っても大して問題はないから気にしないで」

「しかし……」

「言葉は通じなかったけどジルが何とかしてくれたし、大丈夫だよ」

「あ〜、だからキョーにゃんからジルるんの魔素がぷんぷんするのか〜」

「う、うん。まあ……」

「ふぅ〜ん♡」


 リュリュは楽しそうにしながらスキップをして私の側に来て抱きついた。


「ど、どしたの?」

「魔素の解析だよ〜」


 いきなり美少女に抱き着かれて戸惑ってしまったが、ジルが目を釣り上げた事で少し落ち着いた。


「リュリュ様、キョー様から離れて下さい」

「きょーにゃん、だめぇ?」

「だ、だめじゃないよ!」

「わーい♡」


 可愛いものに弱い私は、リュリュのうるうるしたあざとい上目使いにあっさりやられた。

 だって普通だったらこんな可愛い子に抱き着かれるなんて絶対ないし! 女の私でさえ幸せになれるようなふんわりとした甘い匂いに気持ちが落ち着く。

 後ろからの視線がすっごい痛いけど、リュリュがいる限り命は保証されているから大丈夫!


「う〜ん……確かにきょーにゃん自身の魔素はほとんどないねぇ。黒虎たんの魔素は残りカスくらいしかないから、ジルるんが魔素くれなかったら死んでたかもね☆」

「ジル! ありがとね!!」


 やはり命の危機だったか!! つい抱きついているリュリュを強く抱き締めてしまったためか、ジルはにっこり笑いながらリュリュを引き剥がして私の腰を引き寄せた。

 なんかヤバい予感がする!!


「もう! ジルるんのいじわる!!」

「あはは! ジルちゃんもう我慢しないんだな」

「ええ、キョー様は私のものですから」

「え? なになに? もしかしてお二人ともお付き合いでも始めちゃった〜?」

「え、ジルさんとキョー様ってそっちの気あったんすか?」

「いいじゃない性別なんて。それに束縛する冷徹な美女とエンプティの少女って倒錯的で一部にはとても受けそうだけど?」

「そ、そういう問題ではなかろう!!」

「僕はもう何が何やら分かりません……」

「えーい黙らっしゃい!!」


 周りが好き勝手言って騒ぎ始めたのでついつい机を両手で叩いた。

 周りがぽかんとしていたのにリュリュとルシアーノの悪ノリのせいでみんなはいつも通りの反応に戻ってきた。

 いつも通りに戻ってきてくれるのは嬉しいんだが、この悪ノリで戻ってくるのがちょっと複雑だ。

 大きく息を吸って気持ちを落ち着けると、ジルの手を腰から剥がして睨みつけた。


「ジル、私はそういう悪ノリは好きじゃない」

「本気なのですが……」

「とにかく今はそんな事言ってる場合じゃないの。場を弁えない行為はやめて」

「すみません……」


 ジルは少ししょんぼりしながらも私の言う事を理解してくれて、いつも通りの距離を置いた。

 可哀想かもしれないけど、厳しく接するのもまた大事な事だ。


「きょーにゃん、こっわーい!」

「リュリュたんも茶化さないで大人しく聞いて。これから話す事は国の存亡に関わる事なのだから」

「はぁ〜い☆」


 リュリュはふざけた感じに返事をしたが、私の真面目な態度でようやく理解してくれたようだ。みんな大人しく私の話を聞いてくれた。




 * * *


「まさかジル殿が輝燐だったとは……」

「自分の人生で伝説の聖獣や霊獣と出会うなんて、考えた事もなかったわ」

「僕もです……」

「俺も」


 本来の姿であるジルを見て、ほとんどのメンバーが目を丸くしていた。

 そりゃ驚くよね。こんな超絶美形人外見たら。私もCGなんじゃないかと疑っちゃったよ。

 結局異世界ファンタジーだから(笑)で済ませるしかないんだけど。

 いつものメイド服ではなく神官服を着ているジルは、いつも以上に神々しい。


「リュリュ様とルシアーノは私が輝燐という事を知っていましたよ」

「え!? そうなの?!」

「そだよ〜♪」

「いつから?!」

「初めて会った時からです」

「マジで!?」

「ちなみにルシアーノは私の使い魔です」

「えぇっ!? 使い魔ぁ!?」

「あれ? そこまで暴露します?」

「今後キョー様がこの地を守れない以上、彼等にも知っていて頂いた方が何かと楽でしょう」

「ジル様がそう仰るならいいんですが」


 わざとらしく肩を竦めるルシアーノを全員が興味深く見つめている。

 え? これってこんな反応でいいの?


「人間にしか見えんが……」

「ちなみに何の悪魔っすか?」

「インキュバスだよ」

「インキュバスとか……さすがルシアーノさんっすね。めっちゃぽいっす」

「むしろこんなにフェロモン撒き散らしてたらインキュバス以外考えられないよね〜♡」

「ど、通りでルシアーノさんは女性にモテるんですね!」

「フェルナンド君も女性の扱い方が知りたかったらいつでも教えてあげるよ」

「えぇっ!!? そそそんな僕はそんなつもりで言ったわけでは……!!」

「何だったら知り合いのサキュバスでも呼んで新しい世界を開かせてあげ……」

「フェルりんを誘惑しちゃだぁ〜め! フェルりんはわたしのなんだから!」


 魔(?)の手を差し出すルシアーノに対して顔を真っ赤に染めるフェルナンドを守るように、両手を広げてリュリュがフェルナンドの膝の上に乗っかった。

 お気に入りのおもちゃを取られまいとする様なその様はとても可愛らしいのだが、ルシアーノは挑発的に微笑んだ。


「それはごめんね? フェルナンド君、霊獣の束縛はキツイと思うけど頑張ってね。あ、まだ半霊獣だったか」

「え? は、半霊獣?」

「あ〜! 何でいま言うの〜! ルッシーのいじわる〜!!」

「あはは、ごめんね? リュリュちゃんがとっても可愛いから、ついつい俺に構ってほしくて意地悪しちゃった」

「もぉ〜仕方ないなぁ〜。イケメンだから許す♡ 」

「ありがとう」

「うん!」


 美少女とイケメンが爽やかに話しているが、周りはまた混乱に巻き込まれ始めていた。


「えーと、リュリュたん。半霊獣ってどういう事?」

「んとね、魔力が強過ぎると長生きできるでしょ〜? だから私は長生きしてたんだけど、歳を多くとっても力が衰えないと身体が変化してきて、長生きするのにより適した身体になるの。それが霊獣化。肉体と強大な魔力を持った者の名誉ある変化なので〜す♪」


 まるでテストで100点を取ったようにえっへん! と胸を張るリュリュはとても可愛かった。

 霊獣って事はリュリュも獣人化するのかな?

 ……リアル獣人少女か。それはちょっと見たいな!


「ちなみにリュリュってどんな霊獣なの?」

究尾(きゅうび)だよ〜☆」

「見せてもらってもいい?」

「うん!」


 えい! と掛け声を掛けてフェフナンドの膝から降りると、リュリュから光が溢れ、頭には髪色と同じベビーピンクの大きな耳が2つ生え、リュリュの背後には同じ毛色のふわふわの4本の尻尾が揺らいでいた。

 美少女のピンクの甘ロリキツネ娘だぁああ!!か、かかか可愛いいぃ!!!

 

「えっへへ〜! どうどう? かわいいでしょ?」

「可愛い可愛いめっちゃ可愛い!! 」


 私1人だけやたら興奮してリュリュを褒めた。今さらだが、私は可愛いものには目がない。無論動物もだ。

 特に疲れてる時とか猫動画観て癒される事もある。

 ただの狙いきってる二次元の獣耳キャラには興味なかったんだけど、実際に獣耳と尻尾にこんな破壊力があるとは思わなかった。


「リュリュたん、ぜ、ぜひその耳と尻尾を触らせていただけないかな?!」

「いいよ〜♡」


 リュリュは即答するとぴょん! と私の胸に飛び込んできた。きゃわわ!!

 実際に耳の滑らかな触り心地とかふわふわだけど艶やかな尻尾とか最高!

 尻尾に顔を埋めてしまいたいが、さすがにそれは変態じみてるかと思い自重する。


「きょーにゃん、どう?」

「超気持ちいい!!」


 揉みくちゃにしながらぎゅーぎゅーに抱きしめて顔で耳を堪能し、手で尻尾を堪能させてもらう。


「気に入った?」

「うん!」

「まだ半霊獣だから尻尾が4本だけど、霊獣化したらしっぽ9本になるんだよ〜」

「おお! いいね!!」

「でしょ? わたしかわいい?」

「うん!」

「ジルるんより?」

「うん!」

「やったー♡」


 ジルは可愛いって言うより綺麗だからね! あー、この気持ち良さクセになるぅ〜!

 すりすりしていると、ルシアーノの笑い声が聞こえた。その声につられてルシアーノを見ると、彼とミランダは楽しそうにしているが、男性陣の顔が青ざめていた。

 疑問に思いふと冷静になると、背後からの冷気と地鳴りが聞こえた。

 はっ! と後ろを恐る恐る見ると、無表情のジルが氷の微笑みをくれた。


「キョー様」

「は、はい!」

「場を弁えない行為はお嫌いなのでは?」

「す、すみませんでした!!」


 これ以上怒らせたら何されるか分からないので急いでリュリュを離して席に戻ってもらった。

 その途中でリュリュとルシアーノがハイタッチをして楽しそうにしていた。くっ! 遊ばれた!!

 リュリュは尻尾と耳をしまうとフェルナンドの膝の上に戻った。


「本当は霊獣になってから発表して驚かせたかったのに〜……ルッシーがバラしちゃうんだもん!」

「だからごめんって。リュリュがあんまりにも可愛いから俺にも構ってほしくてさ。拗ねた顔も可愛いけど、今はリュリュの笑顔の方が見たいな」

「ほんとずるいんだから!」


 ぷんぷん! と効果音の付くような怒り方をするリュリュと口説くようにヘラヘラしているルシアーノは重大な事を暴露したにも関わらず、楽しみにいていたショートケーキのイチゴを食べてしまったような口論になってる。

 真面目な話をしているはずなのに、なかなか真面目にならない。


「ふふ、二人とも仲が良いですわね。キョー様もそう思いませんか?」

「こんな中、全く通常運行なミランダもなかなかの大物だよね」

「あら? これでもそれなりに驚いているのですが、キョー様も含め中身は変わっていないんですもの。みんな、大切な仲間ですわ」

「ミランダ……」

「そうよね? マクシミリアン」

「あ、ああ」


 ミランダの問いかけに即答出来なかったマクシミリアンは複雑そうな顔をしていた。


「例えエンプティや悪魔だったとしても、不吉な存在だとか不可確定な噂のみを鵜呑みにしてはいけないわ。ルシアーノだって悪魔だけど、私達に悪い事なんてしてないじゃない」

「う、うむ……」


 ミランダに諭されるも、マクシミリアンは未だに晴れなかった。

 マクシミリアンは初めて私にあった時に聖なるものに感銘を受けるような潔癖な性格をしている。

 だから宗教改革が進んだ今でも、長く受け入れていた習慣や風習を簡単に変える事は出来ないのだろう。

 それは敬虔な信者なら当然だし、私もその事をちゃんと理解しているからそんなに傷付いてもいない。


「これも良い機会だし、今後は聖書や口伝などの根拠のないものを裏付ける研究機関も立ち上げようか。エンプティとかいま迫害されている者が、実はとても役に立つ存在かもしれない。自分達の行いが霊獣達の暮らしを害しているかもしれない。その問題が解決されれば、国としても利益が増えるわ」

「そう、ですね……」

「リュリュたん、この事が落ち着いたら私を被験者にしていいからエンプティの事を研究してもらってもいいかな?」

「もちろんOK〜☆」

「ありがとう」


 まだまだこの国には問題が残ってる。

 それを今後どうやって片付けていくかそれは彼らに掛かっている。

 ただ、私が改革を進めるだけ進めてそのまま全部無責任に任せてもいいものかと少し不安にもなった。




 

 

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