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12. こうなって欲しかった


 その後ブタ公爵は、表向きは自ら食事をする事も出来ず衰弱死と公表する事にして、裁判のあった日の次の日に死刑となった。


 断罪裁判で黒虎がブタ公爵に裁きを与えた事によりブタ公爵が死んだ事がきっかけで、クーデターは無くなり、国は順調に良くなっていった。


 加護のおかげで農作物は豊作、貴族が溜め込んでいたお金が民に回り、税を引き下げた事により商売がしやすくなった。役人もようやく国中に行き届いて地方の管理もしやすくなった。

 因みにその役人団体の名前は『黒の組織』だ。もう何も言うまい。

 予想以上に成長を見せたのが女性達で、特に娼婦の方々のアイドルグループだ。国外からやってきた商人達の噂が広がり、国外から彼女達のショーを観に来る人が増えてきたのだ。

 最初は路上ライブからスタートし、そこで限定グッズの販売やポイントカードを作り、金額によっては握手券が貰えるという例のアイドルグループの商法に則ってぼろ儲けをした。

 その収入で最初は小さかったライブハウスを徐々に大きく広げていき、今は外装を綺麗にしている。更に収入が上がれば国外での出張ライブも考えている。


 お姉様方のバーレスクはアイドルグループより少し客は少ないが、入場料が高いし、金持ちな客がチップとして置いていく金額が高いので結構儲かる。

 バーレスクは本当にオススメ! 金額に見合った、いやそれ以上の価値があるよ! ショーはこの世界の女性達には珍しい激しいダンスや妖艶で美しいパフォーマンスは、大人な女性貴族にも受けている。

 やはり頑張る女性は同性からの支持を受け、アイドルグループとバーレスクで使われている衣装のミニスカの制服やゴスロリ衣装、マーメイドドレスや大人っぽいタイトなドレスが社交界でも受けが良くなってきたのだ。

 リーズナブルで斬新なデザインが受け、国外からの注文も増えたので針子さん達は連日大忙し。


 今後は宝塚の様な女性歌劇団を作る予定だ。男装の令嬢に憧れる女性はきっと多いはず!

 念のため、幼い日に国王に惚れた一途な少女が男装をして国王の為に騎士として働く……という純愛物語を吟遊詩人に教えて各地を練り歩いてもらっている。

 そして小説をフェルナンドに執筆させて今後出版する予定だ。最初は嫌がっていたが、脳内乙女のフェルナンドは途中からかなり熱中し始めて、今では徹夜で書いている。偽名で書くのが功を奏したらしい。これからも頑張ってねフランソワーズ!


 ちなみに今はイケメンアイドルグループも準備中。男らしいグループと中性的な子達を集めて売りにする予定だ。

 この世界でどっちが受けるか分からないからまだ試験段階だけど、どっちも受けるといいなぁ。


 それから食事環境も大きく変えた。国では粗食を推奨し、健康食材を特産料理とした。

 単価が安くて健康的で、この国の食糧不足で栄養状態が悪かったのにここまで立派に働けているのは栄養分の高い物を食べているということを身を以て証明している。

 日持ちのする乾物をアイドルや美しいお姉様方に宣伝してもらったりしたのでこれも馬鹿受け。


 色々日本文化に染まっているけど、ちゃんと結果は出ている。

 もちろんこれは私が提案した事だけど、みんなも知恵を絞って工夫して頑張っている事が一番嬉しい。

 もちろん失敗する事とあるけど、それを乗り越える強さを持っているのだ。


 この大きな変化は黒の使徒も大きく噛んでいる。

 そんな彼等も、今ではすっかり国の重鎮で英雄視され、二つ名が付くまでとなった。


 大量の情報を纏めて管理してくれていたフェルナンドは『黒の管理者』と呼ばれ、平民出身の知識人という事もあって、平民からの憧れの的である。

 本人はその事を大変恐縮に思い照れながらも喜んでいた。今は真面目な部下が増えたので少しは楽に仕事が出来るようになり、今度は纏める側になっている。人柄が良いので慕われているようで何よりだ。


 リュリュは『黒の監視者』と呼ばれ、自他国共々恐れられている。

 彼女に掛かればどんな情報も筒抜けなのだ。彼女に見つかったスパイは情報を絞りとられ、それはもう可哀想な姿にさせられるという噂がある。

 そして彼女と一緒に雇い主の所に恐喝しに行くという正義の使者と言っていいのかよく分からない事になっているらしい。

 今は自分の魔道研究施設と新居作りに勤しんでいる。新居には勝手にフェルナンドの部屋を作っているらしいが本人には知らせていない様子。頑張れフェルナンド!


 アンドレイは『黒の守護者』と呼ばれ、警察の様な黒虎騎士団を立ち上げ、民間人の平和を守っている。

 国民には親しまれているのだが、本人は堅苦しいし厨二臭くて嫌がっている。

 彼も平民出身+騎士なので平民の人気があり、顔もそれなりに整っているのでモテモテらしいのだが、モテ過ぎて疲れているらしい。リア充爆発しろ。


 マクシミリアンは『黒の先導者』と呼ばれ、自分の領地を治めると共にグリオール王国公式の交易会社を経営している。

 カリスマ社長の様に尊敬の念を集めているので、お年頃のマクシミリアンには沢山の見合い話が出ているのだが、多忙を理由に全部断っている。

 本当はミランダ狙いだから断っているというのは、親しい人には知れている。仕事は出来ても恋愛に関してはヘタレなので、中々進んでいない模様。


 ミランダは『黒の女神』と呼ばれ、国のスーパースターとなっている。バーレスクでキャストとして働いているのだが、その美貌と美しい歌声とダンスが大変好評で、最高の歌姫だとファンの心を鷲掴みにしている。

 一晩で一億稼ぐと言われている程だ。実際パトロンの数はかなり多いが、もう売春はしていない。

 苦境を実力で乗り越えた女性として、自他国問わず女性の支持率が高い。センスも良いのでファッションリーダーとしても活躍し、彼女の着た服は瞬く間に売れていく。

 大手劇団からスカウトが来ているのだが、一生ここで働きたいと言ってお誘いは全部蹴っている。

 ちなみにマクシミリアンの好意には気付いているが、知らないふりをして楽しんでいる小悪魔ちゃんだ。

 マクシミリアン、完全に尻に敷かれるだろうな。


 ルシアーノは『黒の教祖』と呼ばれ、黒の教団代表として頑張っている。容姿も整っているので、女性信徒がみるみる増えて、お布施も多いようだ。

 黒の教団自体は忙しいだろうけど、本人は多分そんなに多忙ではないと思う。要領良く仕事をしてから遊んでいるらしい。

 黒の教団は恋愛は自由を基本としているので女遊びも未だに激しいらしい。彼が後ろから刺されないことを祈ってる。


 そして我が嫁ジルは、『黒の影』と呼ばれている。何故影かというと、常に私の側にいて支えているかららしい。そしてその気高い女神の様な美しさからファンクラブが出来ているが、本人が全く反応を示さないので個人の勝手な応援のみにとどまっている。……それってファンクラブか?

 まぁ、それはともかく。最初は私個人の要望で集まってもらったけど、今ではみんなはすっかり国の英雄で人気者。彼らの頑張りが国を救う事に繋がったのだ。頑張ってくれたみんなが民に認められて嬉しく思う。


 バカ国王は色々弱音を吐いていたが、仕事が増えるに従ってそれに対し真面目に取り組んでいる。

 もちろん失敗する事もあるが、責任を持って仕事に取り組む姿勢が徐々にみんなに認められ、受け入れられている。

 そしてそれが自信に変わり、バカ国王はどんどん成長していく。



 きっとこの国は私が居なくても大丈夫。そろそろ帰る事が出来るという予感が日に日に大きくなっていく。

 その事はとても嬉しい事だが、いかんせんその方法が未だに分からない。

 私の仕事の引き継ぎも終えたし、本腰を入れてその方法を探したが全然見つからない。

 この国の本は粗方読み終えてしまったし、神官に問いただしても知らないの一点張り。国外の聖獣関連の本も読んでいるが帰る方法は書いていない。

 最近のジルは秘書というより監視官の様に私から離れようとしない。まさに影だ。

 時々邪魔をしてくるけど、最近ではその誘いを結構断って本を読んでいる。



 【……見つかんないねぇ】


 魔素を操り本を閉じて両腕を付いて凝り固まった体を伸ばす。

 するとジルが即座にやってきて私の体のマッサージを始めた。


「きっとここに留まれという神の思し召しです。もう諦めましょう」


 【諦めませんよー】


「もう……。しかし今日は方法をお探しになるのはおやめください。もう夜です」


 【うん……。それにしても1日は早いねぇ】


「はい。キョー様と一緒にいると時間を忘れてしまいます」


 【ジルってさらりと口説くね……】


「本当の事ですので」


 ふふっと柔らかな微笑みは無邪気な少女の様で、いつもの冷徹な印象は全くない。窓から差し込む月明かりが優しくジルを照らし、まるで月の女神の様だ。


 本当に、何でこんな子が自分の側に居てくれるのか不思議だよな……。

 自分が黒虎という特別な存在だからジルの側にいてもおかしくないのだが、もし自分が人間の姿に戻れたとしたらきっと居た堪れない。

 十人並みの容姿や能力ではきっと釣り合いが取れない。

 それに今までこの世界でアジア系の顔立ちは見た事がないから、本当の姿に戻れた時のジルの反応が怖い。

 だからきっと……


「キョー様?」


 【え?】


「どうなされたのですか? 急にぼーっとされて……」


 【あ、うん。多分疲れたからぼーっとしちゃったんだと思う】


「やはり、早くお休みなった方が宜しい様ですね」


 【うん、そうだね……】


 気怠く返事をすると、キラキラしい笑顔で浴室へ連れて行かれ、極上のマッサージを受けてから寝心地のいいキングサイズのベッドに体を丸めて沈み込んだ。





 * * *


 うとうとと眠りに就いたが何故だか目が覚めてきてしまったので目を開くと、私は真っ白な世界にいた。

 ぐるりと周りを見渡しても一面の白。上を見ても白。下を見てもし……ろじゃなかった。

 パンプスを履いた人間の足が見える。


「これ……私の足だ!!!」


 思わず足踏みしたり、手を振り回したり、体を撫で回してみるが、肌は艶やかで真っ黒な毛で覆われておらず肌色だ。

 服もあの日着ていたスーツとパンプスのままだし、何一つ変わっていない。


「やった…やったーー!!!」


 子供の様にぴょんぴょんと飛びながらガッツポーズをした。

 ようやく人間の姿になれた!! これでもう虎の体とはおさらばだ!!

 周りが真っ白な不思議な空間だが、これを歩いていけば元の世界にたどり着けるのだろうか?

 とりあえず歩き始めようとした所で、頭の中に声が響いた。


 【久しいな】


「え?」


 周りをきょろきょろを見渡すが誰もいない。しかしこの感覚には覚えがある。


 【後ろだ】


 勢い良く後ろを向くと、あの忌々しい黒猫がちょこんとお行儀よく座っていた。


「こんっのバカ猫!! アンタ何してくれてんのよ!!!」


 一発蹴飛ばさなねればやってられないと、大人気もなく思いっきり走り出して蹴飛ばそうとしたが、バカ猫は軽々と躱してすばしっこく私から離れた。


「逃げるな!」


 【断る】


「あー、ムカつくー!!!」


 バカ猫は飄々とした態度で右手を舌でぺろぺろ撫でて頭を撫でる姿は可愛らしいが、それ以上に憎たらしい!!

 しかし追いつけない以上これ以上追いかけても無駄だ。

 私は出来るだけ怒りを抑えて、バカ猫に命令した。


「私を、早く、元の世界に、戻しなさい」


 【断る】


「はぁ!? 何ふざけたこと言ってんの?!」


 【巫山戯てなどおらぬ。全く持って真面目だ】


「余計に笑えないわ! 理由を教えなさいよ!!」


 怒りを抑えようにも抑えられない自体になってしまった。

 殴りに行かない様、拳を握りしめて留まりながらバカ猫を睨み付けた。


 【我は彼の世界が気に入った。生涯をそこで暮らすと決めた。その代わりに貴様は黒虎となり、此の世界で生きよ】


「……冗談も休み休み言いなさい。そんなの、断固拒否するわ」


 【拒否したとて我が望まぬ限り無理だ。諦めよ】


 感情の起伏のない落ち着いた声が、胸の中で暴れ回る怒りをなんとか押さえつけているようだった。


「あんたの我儘のせいでこうなったのよ? ねこが倒れてるから心配して見に行けば、いきなり全てを奪われてこんな世界に連れてこられて……。だけど国を復興させなけれは元の世界に戻れないから一生懸命頑張った。なのに今更それを諦めろって? そんなの無理に決まってるでしょ!! 私は聖獣の役目をしっかりと果たした。とっとと元の世界に帰せ!!!」


 感情のままに怒りをバカ猫にぶつけるが、バカ猫には全く届いておらず、細い尾をゆらゆらと揺らしていた。

 猫のため表情が分からないが、その瞳はどこか悲しそうにしていた。




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