ガラス細工のダイヤモンド
ある朝、学校に行くと、教室中がざわめいていた。
どうしたのだろう……?。
1人の女の子(ちゃ子)が、クラスの人気者に。
独占状態、注目の的だった。
どうやら、ちゃ子がキラキラと光る物? をいっぱい持って来たらしい。
それを貰って、有頂天になっている友達もいた。
ちゃ子が自ら、
「これ、ダイヤモンドだよ!」と言ったのか?
あるいは、それを見た誰かが、
「ダイヤモンドみたいだね?」と言ったのか、定かではないが、
教室では、
『ダイヤモンド』という言葉が定着してしまった。
純真無垢な小学生には、無理もない話なのかもしれない。
恐らく、ちゃ子が、「ダイヤモンド」などと自慢していたとは、思えないが、
噂は勝手に広まった。
何の罪の意識も無いままに、否定する時間さえも無かったのだと思う。
全ての始まりは、そこからであった。
ちゃ子の家は、平凡な、町のガラス職人屋さんである。
残った廃ガラスを正四面体?、キューブ状?、に作成してもらったのか……。
あるいは、「お子さんに」と他の同業者さんから貰った物なのか……。
それは、解らないが、
サイコロよりちょっと小さめな、アクセサリー的な物だった。
もしそれが、本物の「ダイヤモンド」であれば、想像もつかないほどの価値であろう。
クラスの人気者になる事は、小学校に入学、まして上級生にでもなれば、誰でも望むものである。
しかし、そんな絵空事は、すぐに解ってしまった。
貰った誰かが、家に持ち帰り親にでも話せば、
「そんなのダイヤモンドなんかじゃないさ、ただの廃ガラスだよ」
と一蹴されるに決まっている。
そう、数日後には、もうちゃ子には、
『クシャクシャ』というあだ名が付いていた。
*
「話しても、感染るぞ!」、
「近寄ると、感染るぞ!」、
「この汚い嘘つき、クシャクシャ女!」と、罵声を浴びせられるようになってしまった。
そして、それからは、一人で校庭の隅を気付かれないように、登下校をする日々が続いた。
先生が気付いたのか?、親からの情報なのか? は、定かではないが、ある日の学級会。
(当時の学級会とは、担任の先生はあくまでアドバイザーであり、輪番制で議長には、学級委員、生活委員などが務める。
そして、その時々の問題をクラスの生徒達が、提議し解決していく事を目的とした時間だった)
通常は、アドバイザーである先生が、その日だけは違がった。
そう、『いじめ』についての話が始まった。もちろん、ちゃ子の話である。
先生の話が終盤にかかると、
ちゃ子は、涙をうかべ、
「嘘をつきました。ごめんなさい、ごめんなさい、……」と何度も、何度も。
クラスのあちらこちらで、
「こんなに謝ってるんだから……」、
「嘘つきは嘘つきだ!」 等、
ひそひそ話が、聞こえていたが、クラス中に充満していた、
『クシャクシャ』を払拭するには至らなかった。
重い空気が流れていた。
*
それから数日後、相変わらず校庭の隅を気付かれないように帰るちゃ子と、偶然にも校門近くであった。
他にもフー子、キミも、気づかれないように?、ちゃ子と一緒にいた。
フー子が、
「謝ったし、もう大丈夫だよ、元気出してよ!」
キミも、
「そうだよ、もう大丈夫だよ!」って言っていた。
ただ、ちゃ子は、
「ありがとう、でも……、
私と話しちゃだめだよ。今度は、みんなが私みたいになちゃうよ」と目に涙を浮かべ、
「ごめんね……」と、足早にその場から去っていった。