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第一話 優秀な者

「くそ……くそくそくそっ!!!!!」

男は帰宅するなり鞄からファイルを取り出し床へ投げつけた。


ファイルから飛び出した紙。

黒くなるまで印の書き込まれた紙には五線譜、音符…。

それは紛れもなく楽譜と呼ばれるものだった。

「どうして…俺は……。」

男は頭を抱え崩れ落ちるかのように膝を折った。


床に散乱する楽譜の中に白く厚い紙が一枚。

金の枠の中、達筆な筆文字で書かれた文字は『学内コンクール優秀賞』。


男……斎藤和真は良くも悪くも優秀であった。

昔からピアノの才能があった和真は数々のコンクールで入賞してきた。

それも年齢を重ねるごとに進化し続け高校生になる頃には入賞に留まらず最優秀賞を勝ち取るようになっていた。

そんな和真の将来に期待をした周りの勧めもあり高校三年生で音大へと進学することを決意した。

入学試験も難なくクリアし順風満帆な人生であるとまで和真は思っていた。

いや、実際にそう“だった”のだ。


学内で年に一度開かれるコンクール。

国内でも有名な大学なだけにこのコンクールは大変盛大なもので来賓席には音楽界の重鎮が並ぶ。

卒業と同時に受賞者はスカウト…そんなこともあり得ることである。

和真は大学へ通い始めてからというもの、三年間このコンクールで優秀賞を取り続けていた。

勿論受賞するのは学内でほんの一握り。

優秀賞を取るだけでも素晴らしいことであるのだが和真にはどうしても納得できない理由があった。

各楽器専攻ごとの入賞には三種類ある。

優良賞、優秀賞、そして最優秀賞。

最初二つに選ばれるのは若干名に対し、最優秀賞はたった一人。

三年間最優秀賞を取り続けている同じ年の同じピアノ専攻、朝倉沙雪。

和真はどうしても彼女の演奏に勝てなかった。


優しいタッチ、流れるような指、響く和音。

次々に紡ぎだされる温かいモノ。

いつも完璧な彼女。


和真は初めての学内コンクールの時に彼女の演奏を聴き、震えた。

先程他の人が…自分が演奏した音と彼女の音があまりにも違っていたからだ。

ただただ綺麗だと…そう思った。

同時に醜い感情まで浮かび上がった。

――――――――何故俺にはあの音が出せないのか。

それは同じ演奏者としての嫉妬でもあったし、今まで周りで最も優れていると思っていた自分への落胆でもあった。

あの日から和真は彼女を超える為に必死に練習をした。

同じ音を奏でようと…同じ景色を見ようと…。

…それでも。

「あいつに……追いつけない…。」


きつく結ばれた拳に一滴、ポタリと涙を落とした。






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