―1― プロローグ
――――ひどい雨だった。
普段なら真っ赤な夕焼けで彩られる空は、薄暗い雲に覆わている。
街を大粒の水滴が叩き、霧がかかったように視界は悪い。
人々は夕方のせいか天気のせいか、数える程しかいない。
そんな街の中を傘もささず、走る1人の少年の姿があった。
名を紺野怜という。
高校指定のブレザーにツンツンとクセのついた黒髪が特徴の高校生である。
その彼に、
偶然か、
はたまた必然か、
一閃の雷撃の槍が落ちた。
湿った空の空気は切り裂かれ、プラズマに変わる。
その槍は光の尾を引きながら徐々に消えていく。
轟! という爆音と共に街路のタイルが剥がれる。
「――――――ッ!!」
彼の体は一瞬の浮遊感に包まれる。
そのまま意識はなくなり、ドサリとクレーター状に抉られた地面の上に倒れた。
「――――」
その直後。
「――んっ、……ここは…………?」
「…………」
突然どこからか声がした。
しかしこれは怜の声ではない。
怜の近くにはいつの間にか、1人の女性と1人の少女がいた。
女性はところどころ破れた深紅のポンチョと膝上スカートを纏い、きょろきょろとまわりを見渡している。その服装も所々幾何学的な文字が刻まれ、服装というより魔装や霊装、修道服のようである。
小学生ぐらいの少女は意識を未だ失っているままのようだ。
しかしこの2人には決定的に普通の人間とは異なる所があった。
この2人には影がなかった。
天気が曇りだからではない。少しも影が伸びてなかった。
雨は3人を強く叩きつける。
「――ここは……?」
「………………」
「………………」
風も一層強まり、タイルの欠片が飛んだ。
――すべてはここから始まった。
紺野怜の、輪廻の垣根を越えた物語――。