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隻腕の少女  作者: ponta
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第七章 特訓

 第七章 特訓


 それからさらに一週間が経ち、日曜日になった。

 武雄がいつもの休日のように惰眠をむさぼっていると、玄関のチャイムがなった。母の千代子が応対すると、モニターには武雄の友人を名乗る少女が映っていた。


「おはようございます。野口と申します。武雄くんと約束しているんですが、武雄君がこなくって」


「あらあら。お待ちくださいね」


 千代子が武雄を起こしに行き、そのことを告げた。


「武雄! かわいい御嬢さんが迎えにいらしたわよ!」


「え??」


 驚いた武雄は、すぐさま飛び起き、リビングへ向かった。


「武雄くん、おはよう」


 ソファには、すまし顔で沙代が座っている。白いカーデガンに、毛糸のミニスカート、黒いタイツを履き、髪は三つ編みに編んであった。そして、なぜかメガネをかけている。


「のっ、野口、なんでここに?!」


「ふふ。暇だろうから誘いに来てやったのだ」


「そらそうだけど……。なんでメガネなんてかけてんだ?」


「ん? メガネ女子というやつだ似合うか?」


「似合ってるけどさ」


「そうか。ならこっちはどうだ?」


 沙代はメガネをはずし、オークリーのサングラスをかけた。レンズの色は薄く、沙代の目が見えているが、角度によっては、きらきらと輝く。


「メガネもいいけど、そっちもいいな……。ってくるなら連絡してくれよ!」


「ふむ。どうもあの携帯というやつは苦手でな。お主のせいで片腕だし」


「嘘つけ! この前平気で使ってただろ!!」


 武雄がわめいていると、後ろから千代子がよってきて、武雄の頭を叩いた。


「あんたはもう、朝からごちゃごちゃと!! こんな綺麗な御嬢さんが迎えにきてるんだから、さっさと用意しな!」


「……はい」


 その勢いに押されるまま、武雄は沙代と外にでた。家の前には、黒いランドクルーザーが止まっている。沙代はその後部ドアを開くと、さっと乗り込んだ。

 武雄が状況をつかめず躊躇していると、沙代は顔を車から出し、こう言った。


「何をしている? さっさと乗らんか?」


「おっ、おぅ」


 武雄が乗り込むと、ランドクルーザーは発進した。武雄のどこに行くのか? の問いに、沙代は微笑むだけで、答えない。運転手にも聞いてみたが、沙代と同じく口を閉ざしたままだ。

 不安になる武雄をよそに、車は都市高速道路に乗り、九州道を北九州方面へ向かった。

 40分ほど、九州道を走った後、宮田インターで、車は一般道へ降りた。日本が世界に誇るトリタ自動車の九州工場がある場所である。


 そのまま、車は工場の敷地内に入り、一棟の倉庫の中に入ってから、停車した。

 沙代に続いて、降りた武雄は目を丸くした。出庫待ちの新車がずらりと並んでいる。


「ふえー。すごいな」


 武雄が驚いていると、沙代が聞いてきた。


「欲しいのか?」


「そりゃさ、欲しいよ」


「欲しければ、後で好きなものを持って帰ればよかろう」


「え? マジで? って免許ねえよ」


「来たのはこれをみせるためではない。こっちだ」


 そういって、沙代は倉庫の奥へ進む。扉を開け、奥へ進むとがらんとした20畳ほどのスペースがあった。中には、バイクが数台止めてあり、壁にはロッカーが並んでいる。


「さあ、好きなのを選べ!」


「へ? いいのか?!」


 武雄が喜びいさんで、バイクの一台に飛び乗ろうとすると、沙代はその動きを静止して、壁を指差した。

 沙代が指し示す方の壁には、2Mほどの鉄の板が数本立てかけてある。下の部分が細くなっており、握り手がついているように見える。その大きさから人が扱えるようには到底思えなかった。


「いや、こんなの選べって言われても……」


「いいから、持ってみろ!」


 沙代に急かされて、武雄はしぶしぶ床の方にある握り手を持ってみた。持ち上げようとするが、並大抵の重さではない。


「うくく……」


 なんとか床からは持ち上げることはできたが、両手で支えるのがやっとで、振ることなど、とてもできそうになかった。

 武雄はもとのように壁に立てかけると、一息ついた。


「ふーっ。これ重すぎるよ。こんなの誰が使うの?」


 武雄のその反応をみて、沙代は不思議そうな顔をした。


「うーん。以前のお主はそれぐらいの刀を軽々と振り回していたのだがな。似たようなものを作らせたが何か違ったのか……」


「いくら俺の力が強いと言っても、これは無理だって。めちゃくちゃ重い」


「そうか。いくつか作ったのだが無駄になったな」


 沙代はそういうと、奥に進んでいきロッカーを開けると、普通の日本刀を手に取った。


「これなら使えるだろう。今からはこれを肌身はなさず持て」


 沙代から日本刀を渡された武雄は、驚きながら質問した。


「さっきから何なんだよ。こういうの持ってないとだめなのか?」


「野口首相から連絡があってな。手強い相手が来るらしい」


 沙代は、そういうと部屋の奥の冷蔵庫を開け、中からコーラのペットボトルを2本取り出すと、一本を武雄に投げた。

 右の脇でペットボトルを挟み、器用に片手で蓋をあけてから、喉をならしながらおいしそうに飲む。


「本当に、コーラ好きなのな」


 武雄は、試しに刀を抜いてみた。70CM程の刀身は、するどい光を放っており、その殺傷能力は疑う余地がなかった。


「すげぇ……」


 武雄が漏らした言葉に、沙代はこういった。


「持つ者が持てば、それ相応の働きが期待できる業物だ。 しかし、お主の腕では持っても意味がなかろう。 お主は、技ではなく力押しする剣士だった。アレらが扱えるように、鍛えておけ」


 そう言って、沙代は先程武雄がもった巨大な刀を見た。


「別にあんなの無くったって。というか俺がいなくても、野口は十分強いじゃないか?」


「普段はそうだな」


「じゃあ、なんで?」


「月に1度、数日間、力が弱まるのだ」


「月に1度?」


 武雄が沙代の方を見ると、沙代はなぜか顔を赤らめて、目をそらす。


「なんで弱まるんだ?」


 沙代は顔を赤らめたまま、何やらいつもの毅然とした態度は影をひそめている。


「いっ、いろいろあるのだ! とっとにかく、あのデカブツも車につんでおけ」


「わかったよ」


 しぶしぶと武雄が同意すると、沙代は顔を崩した。


「まあ、そう嫌がるな。今日はお主が喜ぶものもちゃんと用意してある。

このバイク、どれでも好きなのを持って行っていい。ロッカーのものも好きに使うがいい」


「いいのか!!」


 武雄は喜びいさんで、バイクに飛び乗った。


 選んだのは、CBR900RR。フルカウルで包まれたそのシャーシには、無駄なものが一切なく、150馬力を誇る車体は、なんなく200KMオーバーへと加速する。


「うほー! かっこいい!! これ、雑誌で見て欲しかったんだよ!!

 まじでもらっていいのか?!」


「ああ。いまからお前のものだ。ロッカーもみてみろ」


 武雄が沙代に促されロッカーをあけると、プロテクターやナイフといった武器や防具の他に、身分証や財布といったものが入っていた。

 武雄はその免許をみて、おどろいた。なんと武雄の写真と氏名が入っている。


「なんで俺の免許が??」


「そういうものがあったほうがよかろうということでな。手配してもらった。実際はなくても我々を咎めるものはいないのだがな」


「ふえー。なんかすごいな。おお! こんな大金も入ってるぞ!!」


 武雄はロッカーにおいてある札束をみて、驚きの声を上げた。


「札だけでなくカードも用意してある。好きに使っていいそうだ」


「マジかよ?! なんで俺までこんな……」


 言葉の途中で、武雄はハッとした。この対価は命をかけて、沙代を守らなければならないということなのだ。


「巻き込まれたってわけか……」


「巻き込まれた? 嫌なのか?」


「嫌かって……。なんかこんなのいきなりでわけわかんねえよ」


「嫌ならば無理強いはせん。だが、お前は自分の力が何のためにあるのか、悩んでいたのではないか? 私の身体は秘密の宝庫だそうだ。私が異国の手に渡れば、日本はおしまいなのだそうな。自分が生まれた国のため、世話になった人々のため、己が力を活かすのが、武士の本懐ではないのか?」


「いや、武士じゃねえし……」


 武雄は、反論しようとして口を閉ざした。沙代はまっすぐな目で武雄を見ている。

 言葉ではない、なにかもっと大事なものをその視線は訴えているように思えた。


〝ドキン〝


 武雄の心臓が高鳴った。同時に下腹がむずがゆくなるような高揚感に襲われた。

 沙代の姿が、ダブって見える。片方は着物をきて、悲しそうな顔で武雄を見ている。

 そして、もう片方は、洋服をきた沙代だ。同時に自分の心の言葉を聞いた。


(これは使命。生きている意味)


 武雄は納得した。沙代の魂と自分の魂が絡み合いながら猛々しく燃えているのを感じた。自然と涙がこぼれ、ほほを伝う。


「そうか。そうなんだな。俺と沙代が出会ったのは運命なんだな。一度はお前を討った俺が、やり直す機会を与えられたんだな」


「お主、記憶が……」


 武雄は、沙代に歩み寄ると抱き寄せ、沙代の目をじっとみたまま、唇を重ねようとした。


「たっ、玉之助、いきなりこんな……」


「沙代。いまは、武雄だよ」


「あっ……」


 沙代がもらした声に武雄が反応する。


「ん? なんだい沙代?」


「硬いのを……」


「ん? どうした?」


〝ピシャン!!〝


 沙代は、武雄を押しのけると平手打ちをした。


「股間を押し付けるな! と言っておるのだ!! この馬鹿もんが!!」


「いてーっ。若いんだから仕方ねえよ!」


「まったく! もっとムードというものを考えろ! 性欲の権化かお主は!!」


 怒る沙代をなだめつつ、武雄は自分の運命を受け入れようと思った。


「まあ、しかし覚悟はできたようだな。さっそく今日から特訓だぞ」


 そういうと沙代は、別室から人を呼んだ。すぐに体格のいい3人の男性がやってきた。


「この者らは、私の護衛兼、監視だ。そして、あらゆることに精通している。今日からみっちりしごいてくれるぞ」


「え? マジかよ……」


「時間がない。私の力が弱まるのはおよそ1週間後だ。敵はそれに合わせて襲撃してくるだろう。それまでに、お主の力を高めてもらわねばならん。今日からここに泊まり込みで、みっちり訓練だ」


「今日から? まあでも、やるしかないか」


 二人のやり取りを黙ってみていた男の一人が、口を開いた。


「今日から指南役をする伊藤です。バイク、車の運転担当です」


「俺免許もってないんですよ。バイクはともかく、車はまったくダメなんですが、よろしくお願いします」


 武雄の返答に、伊藤はにこりと笑みを返す。続いて、となりの伊藤より頭一つ大きな男が名乗った。


「斉藤です。格闘技および銃火器の担当です。日本の国益を守る重要な任務だと認識しています。厳しくいきますから、そのつもりで!」


「はは……」


 さらに斉藤のとなりの痩せた男が名乗った。


「木村です。横のお二人と違って、公僕ではありません。剣術の道場を開いています。どうぞよろしく」


「剣道なんてやったことないんですが、よろしくお願いします」


 三人の自己紹介が終わると、沙代が口を開いた。


「では、あとはよろしく頼む。わたしはちょっと出かけてくるのでな。お主の家には連絡を入れておく。心配するな」


「え? 一緒にやるんじゃないのかよ?」


 武雄が不満を口にすると、沙代は横目で、武雄をみながら返答した。


「ここで、私も寝食を共にすると思ったか? これでも忙しいのだ。国家機密だからな」


 沙代はそれだけ告げると、SPを伴ってどこかへ出かけてしまった。


「さっ、武雄くん。さっそく訓練だ! 最初はバイクだよ」


「バイク!」


 武雄の目は途端に輝きだした。


 伊藤に連れられて、倉庫外のアスファルトに舗装された一角へと向かった。

 大型のバイクが2台止められている。赤のCBR900RRに、白のCBR900RRである。


「武雄君は、若いのに変わっているね。いまはアメリカンやビッグスクーターが流行なのに。それに結構前のバイクだよ」


「いや、これがいいんです。かっこいいでしょ?」


「ははは。まあ、私なんかはレーサーレプリカ全盛期の世代だから、好きだけどね」


 二人はバイクにまたがって、エンジンをかけた。


〝グオン、オン、オン〝


 武雄がアクセルをひねると、パワーにあふれたエンジン音をあげる。


「すげー」


 武雄が感嘆の声をあげると、伊藤がヘルメット内におさめられている無線に切り替えて話しかけてきた。


「いいかい武雄君。パワーがあるバイクだから、振り回されないように、しっかりとニーグリップをするんだ。時間がないし、君は頑丈だと聞いているから、いきなりだけど、身体で覚えて」


「はい!」


「では、いくよ!」


 伊藤は絶妙のクラッチミートで、ロケットダッシュを決める。対して、武雄のバイクはすさまじいエンジン音とスキール音をあげ、前に進まない。タイヤのグリップを上回る回転で、タイヤが空転しているためである。


「うわっ!」


「武雄くん、急にアクセルを戻しちゃだめだ!」


 伊藤の注意もむなしく、武雄はアクセルを戻す。グリップを取り戻したタイヤは、途端に地面をとらえ、バイクはウィリーの状態になり、驚いた武雄は飛び降りた。

 そのまま、10数メートル進んだCBR900RRは、地面に倒れた。


「げげ!」


 バイクに駆け寄る武雄に、伊藤が話しかける。


「武雄君、バイクの替えは何台でもあるから、気にしなくていいよ。

 とにかく、君は乗りこなせるようになりさえすればいい」


「はい……」


 武雄は元気なく返事をした。


 バイクの訓練の後は、休む間もなく斉藤との格闘技訓練が待っていた。トリタの敷地内にある武道場がその場所であった。柔道着に着替えた武雄に斉藤が語る。


「いいかい、武雄君。君の筋力は常人の数倍あるときいている。攻撃力は申し分ないから、 柔道の技を覚える時間は残念ながらないけど、私が投げるから受け身を覚えてほしい」


「はい。お願いします」


「では!」


 斉藤は、一本背負いに、大外狩り、巴投げと次々と武雄を投げ飛ばす。畳に何回も叩きつけられ、苦しみながらもなげられている内に、少しずつ受け身がとれるようになった。


「いいぞ! 武雄君! 最終的にはあそこでやるからね!」


 斉藤が指差し方向をみて、武雄は息を飲んだ。そこは、コンクリートの地面だったからである。


 斉藤にみっちりしごかれたあと、夕飯までの間は、木村との訓練がまっていた。木村は、武雄の前で木刀を振ると、武雄にも同じように振らせた。


〝バシ!〝


「いてっ!」


 木村の竹刀が、武雄の手首を打つ。


「違う! 力が入り過ぎだ。脱力が剣先のスピードを生むんだ。もう一度!」


「はい!」


 武雄が木刀を振ると、再び竹刀が手首を打つ。


〝バシ!〝


「違う! 腕力に頼るな! いいか! かまえでは、力を抜き、ふり終わりに力をこめるんだ。こうだ!」


〝ヒュン〝


 という風切音が、木刀から響く。


「わかるか? 振り始めから音はしてないだろう? 剣先がもっともはやくなる時を意識するんだ。脱力が速さをうむんだ!」


「難しい……」


 道場には武雄が竹刀で叩かれる音が数時間に渡り響いた。夕飯後、やっと休めると思った武雄に斉藤が声をかけてきた。


「さっ、武雄くん。寝るまでの間はまた訓練だよ!」


「えっ?」


「大丈夫。いまからはきつくはないから」


 そういうと斉藤は、道場に連れていく。伊藤、木村も道場へ既に到着していた。


「では、ここに座って」


 武雄が座ると、伊藤、木村が足をもった。


「いててて! ちょっと痛いですって!!」


「武雄君、君は体が硬すぎるよ。いまからの時間はストレッチだ!」


「そうそう。バイクの運転も体が硬いとだめだよ」


「剣術も同じだ」


 斉藤の言葉に伊藤と木村も同意する。


「いててて! これじゃストレッチじゃなくて、拷問だって!」


「文句いうな! 男だろうが!!」


「いててて! やめてくださいって!!」


 武雄の悲痛な叫びは、夜半まで続いた。


 1週間後。


 沙代が再びトリタの倉庫へ顔を出すと、武雄は訓練の真っ最中で、汗だくになりながら、沙代が作らせた大剣をかまえていた。


「お主! 振れるようになったのか?!」


 沙代が喜びの声を出すと、斉藤が声をかけた。


「沙代様。残念ながらあの剣を自由に振れるまでにはなっていません。彼の身体能力は素晴らしいものがありますが、人の域はでていません。あれが本当に振れるようになるんでしょうか?」


 沙代は、斉藤に返答した。


「武雄の前世では、あのぐらいの大剣を軽々と扱っていた。まだ力が眠っているのは確かなのだが、それを呼び覚ます方法がわからない」


 続けて、伊藤が発言した。


「武雄くんの運動神経は、素晴らしいです。金メダル候補と言われたのも、うなづけます。この短期間で、運転技術、格闘技術、銃火器の扱いなどマスターしてしまいました」


「そうか。剣術はどうなのか?」


 沙代の言葉を受けて、木村が口を開いた。


「残念ながら、剣道は素人そのものです。太刀筋はめちゃくちゃで、ただただ腕力に頼っただけのものです」


「そうか。昔からそうだった。ただただ真っ直ぐに突撃する猪。ふふ。昔を思い出す」


 沙代は、武雄のそばまでいき、話しかけた。


「どうだ、調子は?」


「へへ。どうにか振れるようにはなったぜ」


 武雄の手はパンパンに張り、足はぶるぶると震えている。


「間に合わなかったか。今日はお前の愛刀を携えてきたが、使えんな……」


 武雄は大剣を壁に立てかけ、汗を拭きながら沙代に問うた。


「愛刀? あれじゃないのか?」


 壁の大剣を指差す武雄に、沙代は首を横に振る。


「あれは、形だけ似せたものだ。重さは同じぐらいではあろうが。お前のかつての愛刀は、鬼を切ったことがあるという代物だ」


「鬼?」


「よくは知らんが、鬼を切ったという文献が残っているらしい。わたしの腕を切ったのも同じ刀だろうから、なにがしら普通ではない力が宿っているのは確かだ」


 沙代が合図を送ると、大きな長方形の木箱が運ばれてきた。沙代が無造作に蓋をあけると、中には刃渡り6尺という巨大な鉄の塊が入っていた。


「普通の人間が振れるものではない。しかし、今度の敵は人の枠外の者たちだ。必ずこれが必要になる」


 武雄は、その刀に触れた。何か懐かしい。そんな気がした。


「自由に振れずとも、担ぐのは問題ないだろう? 前に渡した刀と共に、いつも身に付けておれ」


「でもさ、こんなのもあるんだぜ?」


 そう言って、武雄はヒップホルスターにしまっていたベレッタM92Fを抜いた。


「これでやってしまえば、済むんじゃないか?」


「ふむ。見せてなかったな」


 そう言うと、沙代は武雄から銃を受け取り、自分のこめかみに銃口を向けた。


「おい! ちょっと!」


 武雄があわてて、声を出すと同時に銃声が響いた。


〝ガーン〝


 硝煙の臭いと共に、血が武雄の顔にかかった。


「沙代ーー!!」


 あわてて、沙代を抱きかかえようとする武雄を、こめかみから血を流す沙代が制止した。


「大丈夫だ。なんともない」


 そう言って、血がついたところを拭う。


「傷がない?!」


「どうやら、通常の武器では死ねん身体らしい。おそらくお主も似たようなものだろう。そして、いまから来る敵もな」


「ほんとかよ」


「まあ、銃が効かないような強敵はまれだ。普通はお主の言うように銃でカタがつく。

 いま腰にお主が下げている日本刀は、飯森山の神水を使い数年にわたって鍛えた業物だ。

 それなら妙な力をもった輩も斬れる。問題は絶対的な質量不足ということだ」


 そこまでいうと、沙代は武雄に身支度を命じて、血でよごれた服を着替えにいった。

 武雄が荷物をまとめていると、着替えた沙代がやったきた。頭には白いカチューシャをつけ、白いフリルの縁取りがされた黒いメイド服を着ていた。


「ちょっと、沙代なんだよそのかっこは?」


「ん? ゴスロリというやつだ。似合うか?」


「いや、似合うけどさ」


「ふふ。男はコスプレというのが好きなのだろう?

 お主の目の保養をしてやっているのだ」


「……」


「そのような露出の多い服は着ないぞ」


(くそっ。また心を読みやがった)


 武雄は歯噛みしつつ、沙代と共に車に乗り込んだ。


「なあ、今度はどこ行くんだ?」


「自衛隊の駐屯地だ。私の力が衰える数日、かくまってもらう」


「自衛隊?」


「驚かんのか?」


「いや、なんかもう慣れたよ。もらった車やバイクは?」


「別の車で運んでもらっている。心配するな。それに替えはいくらでもあるぞ」


「そうか」


 その後、車は30分程走り、芦屋の航空自衛隊の駐屯地へ入った。


「航空自衛隊? すげーっ。戦闘機がある!!」


 武雄は初めて見るジェット戦闘機に、興奮を隠さない。


「いざとなったら、アレを使って逃げることになるからな。まあ、自由に観て回るがよかろう。わたしは、ここの司令官に挨拶してくるからな」


 沙代はそう告げて、建物へと入って行った。

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