最終章 手を取り合って
最終章 手を取り合って
翌日のこと。久しぶりに登校した武雄に、吉村が話しかけてきた。
「坂田! どうしたんだよ。ずっと学校休みやがって!」
吉村の言葉に武雄はにやける。
「何だお前? なんでニヤケてるんだよ?」
「いや、なんか懐かしくってさ」
武雄の言葉に、吉村は首をかしげる。
「はあ? 休んだって言っても、前にあってから10日と経ってないぞ?」
「うん。まあそうだな」
「変なこというなあ。お前」
武雄は席について、窓から外を見た。校庭では朝練をしている部活の生徒達が見える。教室の中は、いつものようにクラスメートたちが雑談をしている。
「あー、なんかいいなあ!」
武雄が伸びをしていると、沙代がSPを伴って教室に入ってきた。かばんを置いたSPはそのまま教室をでていく。
「おはよう。武雄。昨日は眠れたか?」
「おはよう。うん、久しぶりにゆっくり眠れたよ。でも、母さんにこっぴどく怒られちゃったよ。どこ行ってたんだ! ってさ」
武雄の言葉に、沙代は怪訝な顔をした。
「はて? お主の母上には、強化合宿と伝えていたのだがな」
「うん。なんか、嘘ってわかってたみたい。危ないことはするなって怒られたよ」
「そうか。お主の母上には、いずれ事情を説明しなければならないだろうな」
その時、チャイムが鳴り、教室へ担任が入ってきた。
「おっ、野口さんに、坂田も今日は登校しているな。ご苦労さん」
担任の言葉を聞いて、武雄は目をぱちくりする。沙代に耳打ちした。
「ご苦労さんって何? 学校にはなんていってたわけ?」
武雄の言葉に、沙代は平然と答えた。
「中国へ植樹をしにいくということにしておいた。国の発行した正式文書も提出している」
「手回しいいなあ。俺の家にもそういってくれたらよかったのに」
沙代は、武雄をみて人指し指を立て、左右に振ってこういった。
「お主の母上は、そんなことをしても嘘と見抜くさ。何しろ女は勘がするどいからな」
HRが終わり、中間テストが開始された。武雄はテスト中、頭をかかえ、対して沙代は余裕しゃくしゃくといった風であった。
休み時間になり、武雄がため息をついていると沙代が話しかけてきた。
「武雄、手ごたえはどうだ?」
沙代の言葉に、武雄は下をむいてこたえた。
「いいわけないだろう? まったくわかんなかったよ」
「ふふふ。まったくお主は少しは頭も鍛えないと将来ロクな大人になれないぞ。今日は寄り道などせず真っ直ぐに家に帰り、勉強しろ」
「ふわーい。あーあ、なんかこれだったら襲ってくる奴らと戦ってる方が楽だよ」
放課後になった。
迎えの車を帰し、沙代はひとり大堀公園の辺を歩く。
キラキラと煌く水面を見ながら、沙代は物思いにふけっていた。
すると、不意に携帯が鳴った。
「はい」
〝沙代? もうやっとつかまった! 携帯の電源ずっと切ってたでしょ? ずっと心配してたんだから!〝
「好美か。すまんな心配かけて」
〝今どこなの?〝
「大堀公園だよ」
〝坂田くんは一緒?〝
「いや、あやつには勉強のため先に帰らせた。もっともやるとは思えないが」
〝じゃ、いまから行くから待ってて!〝
「え? 好美」
一方的に、電話を切られた沙代は仕方なしに、公園のベンチに座った。しばらくすると好美が自転車を飛ばして現れた。好美は遊歩道に急いで自転車を止めると、沙代に抱きついてきた。
「もう! やっと会えた! 本当に心配したんだから!」
「そんなに日は空いてないだろう? ふふふ。こんなに息を切らせて」
沙代が頭を撫でていると、好美は顔をあげた。
「敵に襲われてたんでしょ?」
「そうだ。周りに迷惑はかけれないからな。芦屋の自衛隊基地にかくまってもらっていた」
好美は心配そうな顔をしていう。
「ニュースでやってた。大きな爆発事故があって何人もの人が亡くなったって……」
「ああ。私を守るために死んでいったものたちだ」
「沙代は、本当に私たちとは違う世界で生きてるんだね」
「そうだな。いつ終わるともしらない修羅の道を私は歩んでいる。こんな私と友達になってくれてありがとう。好美と友達になれたことは一生忘れないよ」
「……沙代、どこかに行く気でしょう?
「好美には、嘘はつけんか。実はそう思っている。私を襲ってくる敵はまたやってくるだろう。周囲の人たちに迷惑をかけないようにしたいんだ」
沙代はそう言って、悲しそうな目をして湖面を見る。好美は沙代の手を握る。
「まさか、坂田くんにも行先を知らせずに行く気じゃないでしょうね?」
「そのつもりだよ」
「どうして? 坂田くんのこと好きなんでしょ? 何百年も経ってやっと会えるようになったんでしょ?」
「ああ、好きだよ。いつもいつも武雄のことばかり考えてしまう」
好美は沙代の顔を食い入るように見る。
「だったら、だったらどうして?! 一緒にいればいいじゃない! ここに居られないっていうなら、一緒にいけばいいじゃない!」
「だめなんだよ。好美。この前の戦いでは武雄は危うく命を落としそうになった。私なんかのために武雄を危ない目に合わせたくないんだ」
沙代はそう言って、目を瞑り顔を上にあげる。目尻から一筋の涙がつうっと流れる。
〝パシン!〝
渇いた音と、突然感じた頬の痛みに沙代が驚いて目をあけると、そこには涙をボロボロと流す好美の顔があった。
「なに言ってんの! 沙代はなに言ってんのよ!!」
「よ、好美……」
「坂田くんはね、生まれ変わってあなたに会いにきたんだよ! 沙代がこの時代に目を覚ましたのは偶然なんかじゃないんだよ! 二人が幸せになるためにそうなったんだよ!
それにね、坂田くんがあんなに力が強くなって生まれてきたのは、きっとあなたの右手の代わりをしたかったから、あなたを助けるために坂田くんは、あんな力を持ってるのよ! 思い込みかもしれないけど、私はそう思う。絶対にそうなんだもん!!」
そう言うと、好美はしゃくりあげ出した。沙代は、好美の頭を優しく撫でる。
「好美、ありがとう。私も自分の気持ちに正直になってみる」
「ヒックヒック、本当に?」
「ああ。武雄が受け入れてくれるかはわからないが、自分の気持ちをぶつけてみることにしよう」
「じゃあ、カップルになったら、またダブルデートしてね」
「ああ。約束しよう」
二人は陽が暮れるまで、語り合った。
次の日の朝。
登校してきた武雄に、沙代が声をかけた。
「おはよう。武雄、昨日は勉強をちゃんとしたか?」
「一応、やったんだけどさあ。全然頭に入らないよ。教科書みてたら頭痛くなっちゃってさ」
「そうか。では、勉強がはかどるようにしてやろう。武雄、約束は覚えているか?
お主が一教科でも私より点がよかったら、私はお主のものになってやってもよい」
「へ?」
沙代の言葉の意味が理解できず、武雄は動作を止めた。それを見て、沙代がこう続けた。
「聞こえなかったのか? お主が私よりテストの点が上だったら、お主のものになるといったのだ」
沙代の言葉を頭の中で反芻し、武雄は顔を真っ赤にして、鼻血を流した。
「馬鹿! そんなに興奮するやつがあるか! お主のものになると言っても先の話だぞ」
武雄は鼻血をだしながら、顔をあげ沙代をみる。視線に沙代の胸が入りますます鼻血を流した。それを見つけた吉村が、驚きの声をだす。
「うへっ。坂田が鼻血だしてるよ!」
クラスメートたちが、武雄に注目する。武雄は鼻血を流しながら、席から立ってこういった。
「みんな、聞いてくれ! 最終日に行われる日本史! このテストで俺が沙代に勝てるように協力してくれ! 頼む! 一生のお願いだ!」
クラスメート達は、鼻血を出しながら頭を下げる武雄を呆気にとられてみていたが、やがて吉村が口を開いた。
「よくわからんが、鼻血まで出してああいってんだ。みんな坂田に協力してやろうぜ!」
最終日の日本史まで、土日を挟んで4日間の猶予があった。クラスメートの中から、一番の秀才である白滝を、吉村が指名し、白滝が武雄の勉強を放課後みることになった。テスト初日の放課後、皆が帰宅し、がらんとした教室で、吉村も付き合い、勉強を開始することになった。
メガネをかけた才女白滝が、こういった。
「野口さんと勝負をするんでしょ? 彼女頭がよさそうだけど、成績はどのぐらいなの?」
白滝の言葉に、武雄が返答する。
「うーん。成績がどうなのかっていうのは、知らないよ。一緒にいても勉強してるのなんて見たことないしさ」
「今度の範囲は、鎌倉、室町時代だけど、彼女その辺りはどうなの?」
白滝の言葉に、武雄はハッとした。沙代が前にいた時代は、まさに鎌倉時代なのだ。
「しまった……。沙代は鎌倉時代に詳しいよ……。あー、俺の馬鹿。なんで日本史なんていったんだ……」
武雄の反応をみて、吉村がいう。
「何弱気になってんだ? やる前からそんなことじゃ勝負にならないぜ!」
「おっ、おう、そうだった。とにかくポイントを教えてくれないか?」
武雄の言葉に、白滝は天井を見上げながら言った。
「うーん。坂田くん、正直成績わるいよね? なんでまたこんなことになったの?」
「約束なんだ。俺が沙代を負かさないといけないんだ。そうしないと沙代を嫁にできないんだよ」
〝ブッ!〝
「え?!」
武雄の言葉に吉村は吹き出し、白滝は驚きの声をあげる。
「お前らいつの間にそんな仲になったんだよ?」
「いや、小さい時の約束なんだよ」
武雄の弁明を納得できない二人は、しばらく沈黙していたが白滝が口を開いた。
「よくわからないけど、坂田君は野口さんを好きなのね? だから、勉強も頑張りたいんでしょ?」
「うん。そうなんだよ。俺、身体を動かすのは得意だけど、勉強はだめだからさ」
武雄の言葉に、白滝は両手をパチンと合わせると、目を輝かせてこういった。
「愛する人のため、努力する! 素敵じゃないの! そして、海の見えるホテルで初めての夜を迎えるのよ! きゃー、もう! 素敵!」
白滝は、顔を両手で覆いながら、一人興奮している。その様子をみて、吉村が武雄にいった。
「なんか、白滝の印象変わったな……。こんな奴だったのか」
「ははは。でも、なんか頼りになるかも」
それから、白滝は猛特訓を武雄に課した。教科書の一字一句を覚えるために、ノートに書きうつさせ、自分が通っている塾のプリントをコピーして渡した。武雄の家にまで押しかけ、夜遅くまで勉強を見た。
そして、いよいよテスト最終日となった。目の下にくまを作りながらも、日本史の教科書を読んでいる武雄に沙代が話しかけた。
「ふふ。お主なりに努力したようだな」
「沙代、俺の本気をみせてやるぜ!」
いよいよ日本史のテストの時間となった。テスト問題が配られ、武雄は裏返したテスト用紙を見ながら、深呼吸する。
(大丈夫だ。俺はやれる! いままでこんなに勉強したことなかった!)
「はじめ!」
教師の掛け声と共に、テストは開始された。
(わかる! わかるぞ! 信じられねえ!)
武雄はすらすらと答案用紙に書き込んでいく。いつもなら鉛筆を転がし、回答を選ぶというのに、今回は自分で解答を選んでいく。武雄は今までにない手ごたえを感じ、沙代の方を盗み見た。沙代はあごに手を当て、思案しているようである。
(これは勝てる! 間違いないぞ!)
希望に胸を膨らませて、武雄はテストを終えた。
休み時間になり、吉村と白滝が席にやってきた。
「どうだった?」
「どうだったの?」
武雄は二人に、親指を立てて右手を突きだした。
「おー! 」
「きゃー! もうたまんない!」
白滝は興奮して、吉村の背中をばしばしと叩く。その様子を横でみていた沙代がこういった。
「武雄、よい友人達をもったな。この二人は本当にお主の力になろうと努力してくれているぞ。大事にしろよ」
「ふふ。沙代! その余裕も、あと少しで終わりだ! 明日の日本史の授業では、その余裕もなくなるぜ!」
武雄の言葉に、沙代は髪を耳にかけながら、こう言った。
「お主は、いつになく強気だな。わたしを見くびっているのではないか? まあ、明日になって、ほえ面をかかんことだ」
放課後となり、沙代と武雄はファストフード店に立ち寄った。沙代がシェイクに舌鼓をうっていると、さっきまで起きていた武雄が大口を開けて、寝ていた。
「ふふふ。連日徹夜するほど頑張ったのか。さてさて、武雄の努力に見合うだけの結果がでていればいいが」
沙代がシェイクを飲み終わる頃に、武雄は目を覚ました。
「あれ? もしかして俺、寝ちゃってた?」
武雄の言葉に、沙代は横を向いて答える。
「食事中に、寝てしまうような男に、果たして彼女ができるものなのかな?」
沙代の言葉に、武雄は焦りながら答える。
「ごっ、ごめん! ちょっと寝不足でさ……」
「まあよい。今日はこれぐらいで帰るとしよう。戦いの疲れも残っているだろうしな」
「まあ、もう体はなんてもないんだけどね。どっちかというと慣れない勉強で疲れちゃったよ」
武雄の方をみて、沙代はこういった。
「そんなことではいかんぞ。勉学に励み、頭の方も鍛えておけ。心身ともに鍛えておかんとロクな大人になれはしないぞ。お主の力は人々のために活かすべきだ。心身ともに鍛えることで、お主の力を活かすべき時と場所が判別できるようになる」
「わかったよ」
沙代と武雄は帰宅の途についた。
次の日。いよいよ日本史の授業となった。出席番号順に、答案が返却されていく。
「井上、62点」
「次、尾形40点。赤点ぎりぎりだぞ。次がんばれよ」
武雄の胸は、高鳴り緊張感でいっぱいになる。次々に生徒の名前が読み上げられ、いよいよ武雄の番になった。ところが、〝坂田〝と呼ばれない。
「下方。80点がんばったな」
吉村が武雄の方をみて、驚きの表情をする。白滝も武雄の方を不安気にみる。武雄は二人に首を横に振り、理解できないといったジェスチャーをする。
順番はそのまま進み、沙代の番となった。
「野口、92点!」
転校してきて、突如として高得点をとる沙代に、教室にどよめきが起こった。
「すげえ……」
「やるう」
沙代は答案を受け取ると、席に戻ってきて武雄をみた。
「おや、坂田くんは答案が返されていないようだが?」
沙代の言葉に、武雄はうろたえる。
「そんなわけないって。提出したの沙代も見ただろ?」
武雄がおろおろとしていると、教師がこういった。
「はい。最後に答案用紙に名前を書かなかった坂田! 取りにこい!」
「え? 名前を書いてなかったのか?」
武雄が前にいくと、教師は答案用紙を返してくれた。
「坂田、よくがんばったな。95点だ!」
武雄は、雄たけびを上げた
「うおおおおおお!」
教師が耳を押さえながら、武雄の頭を叩く。
「喜びすぎだ! それに名前を書いてなかったら、本来0点だぞ。席にもどれ!」
武雄はにやにやして、席にもどり沙代の方をみた。対して沙代は、前を見たままである。
武雄はもじもじしながら、こう言った。
「沙代、俺勝っちゃったな。約束忘れてないよな?」
武雄の言葉に、沙代はゆっくりと武雄の方を見て、こう言った。
「武雄、私は自分の言ったことは忘れない。そして、他人が言ったこともな。いまさっきの教師の台詞をお主は忘れたのか?」
沙代の言葉の意味がわからず、武雄はきょとんとする。
「へ?」
「お主、名前を書き忘れていたのだろう? だったら、この勝負は私の勝ちだ」
「そっ、そんな……。だって、ほら95点だよ! 生まれてはじめてこんな点とったんだよ!」
必死に訴える武雄を沙代は、横目で見る。
「女々しいな。男ならしゃんとしろ」
「うぐっ……」
それ以上、言葉が継げず、がっくりとうな垂れる武雄に、沙代は続けた。
「まったく、お主と来たら。そんなことでは、これからもやってくるであろう敵から身を守ることはできんぞ」
「初めて必死に勉強したのに……」
嘆く武雄に沙代は、続けた。
「武雄、そんなに残念か?」
「うん……」
「そうか。お主は、本当にそそっかしい。自分がしたことも忘れるとは」
そういうと、沙代は椅子から立上がり、武雄の席の横に立った。
「沙代? 授業始まるよ?」
「いいから、お主も立て」
沙代に言われるがまま、武雄が立ち上がる。二人の様子をみて、教師が注意する。
「おい、どうしたんだ二人とも。いまは授業中だぞ」
教師の言葉に、クラス全員が後ろに立っている二人を見る。
「沙代、みんな見てるよ。どうしたんだ?」
武雄が戸惑っていると、沙代はやさしく微笑む。
「武雄、お主は私の突拍子もない言葉を信じてくれた。誰一人として信じられるものがいなかった私にとって、それがどれだけ心強かったかわかるか? 自らの命を投げ出して、私を守ってくれた。そして、こんな私を真っ直ぐに愛してくれている」
沙代は武雄の鼻先まで近づいた。まっすぐに武雄をみつめている。
「武雄、私はお主が好きだ。世界中の誰よりも。いつまでも一緒にいたい」
沙代はそういうと、武雄の背中に手を回し、背伸びしてキスをした。皆に見られていることも相まって、武雄の顔は真っ赤になる。様子をみていたクラスメート達からも、歓声があがる。
「うおー! キスしてるよ!」
「きゃー!」
沙代が口を放すと、武雄は力強く言う。
「沙代! 俺もお前が好きだ。どんなことがあってもお前と離れない。ずっと一緒だ!」
今度は、武雄から沙代にキスをした。キスをして、10秒程が経ち、最初は歓声を送っていたクラスメート達から、長過ぎないか? との声が上がった時、顔を真っ赤にした沙代が、武雄を押しのけ、平手打ちをした。
〝パシン!〝
乾いた音が、教室に響き渡る。
「舌など入れおって! お主という男は本当にもう!」
「いってえ。若いんだから仕方ないよ」
武雄の言葉を受け、教室では笑いが沸き起こった。
「あははは」
「うふふふふ」
笑いが一段落したころ、教壇に立っていた教師が、咳払いした。
「ごほん。あー、そろそろ授業を再開したいんだが、いいかな?」
教師の一言で、授業は開始された。
放課後、大堀公園を歩きながら、沙代がこういった。
「なあ、武雄。いろんなところを見て回ってみないか? 世界中のいろんな国を!」
「そうだなあ。手始めに中国なんてどう?」
武雄の言葉に、沙代が首をかしげる。
「もちろんかまわんが、即答してくるところを見ると、前から行きたかったのか?」
「うんにゃ。昨日テレビであってたからさ」
武雄の言葉に、沙代は微笑む。
「ふふふ。お主らしい理由だな」
「そうそう、それにチャイナドレスとか沙代に似合いそうだし」
「また、お主は不埒なことを考えているな?」
沙代の言葉に、武雄は眉を細める。
「もう、また人の頭の中をみる。ずるいよそれ」
「何をいっておるか。頭など覗かずとも、鼻の下の伸びたその顔で考えていることなどまるわかりだぞ。まあ、いい。お主となら楽しい旅になりそうだ」
「そうだな。俺も沙代と一緒ならどこに行っても楽しめるよ。そういやパスポートは持ってるの? 作るのに2週間ぐらいかかるぜ?」
武雄の言葉に、沙代はにやりと笑う。
「武雄、忘れておるのか? 私は〝国家機密〝なのだぞ? パスポートなぞ電話一本ですぐだ」
「ふえー。そうだったな。しかし、ほんとすごいなあ」
「何をいっておるか? 今やお主も〝国家機密〝だぞ」
沙代の言葉に、武雄は首をかしげる。
「へ? 俺が?」
沙代は武雄の手を取って、こういった。
「私の恋人だろう? 違うか?」
武雄は沙代の手を握り、力強く言う。
「沙代、その通りだ」
二人は手を取り合い、見つめ合った。