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隻腕の少女  作者: ponta
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第九章 激闘

 第九章 激闘


 次の日の朝、沙代は下腹部に違和感を覚えて目が覚めた。トイレに行き、出血しているのを確認する。


(やはり来たか。これで1週間ほどは力が弱まる)


 現代に蘇ってからというもの、沙代は生理になると途端に能力が低くなるようになっていた。炎は小さくしか作れず、運動能力は鍛えている常人程度になった。テレパシーの類も弱く、敵の位置などを察知することもできない。

 前回は1週間、地下の核シェルターに逃げ込むことでやり過ごせたが、報告によると今回の敵は、異能集団だという。閉じられた場所での交戦は、危険に思えた。

 SPに足止めしてもらっている内に、逃走する。沙代は、そういったシナリオを描いていた。

 シャワーを浴びてから、食堂に向かうと、武雄が先にきて待っていた。沙代を見つけると、武雄は手を挙げて、挨拶した。


「おはよう!」


 どうしたことか、武雄は上機嫌である。沙代はそんな武雄にイラついた。


「朝から、デカい声を出すな」


 不機嫌そうな沙代の言葉を受け、武雄がこう言った。


「なんだよ? 機嫌悪いな」


 血色のよい明るい声で言われると、沙代はますますいらいらしてくる。


「なんでもいいから、もう話しかけるな」


 沙代はそういって、牛乳の小さなパックだけをテーブルにおいて座った。


「それだけ? そんなんじゃ体力つかないぜ」


 そういいながら、武雄は山盛りにつがれたカレーをパクつく。


(くっ、朝からこってりしたものを食べおって)


 沙代は、全身を覆うけだるさに耐えながら、男は得だなと一人納得した。


「武雄、ところでバイクや車の運転は大丈夫だろうな?」


 カレーをすくったスプーンを口に運びながら、武雄が答える。


「ん? ああ、大丈夫だよ。昨日も俺が運転したろ?」


 沙代はカレーの臭いに、うんざりしながらもこう言った。


「私が言っているのは、普通の運転ではない。敵の追撃を躱すような運転技

術があるのかということだ。わたしはいま戦えん。敵がきたら逃げるからな」


 沙代がその言葉を発した時、同時に二人は敵がきたことを感じ取った。ざわざわとした感覚が、わが身に危険が迫っていることを知らせる。

 能力が落ちている沙代であっても、敵が来たと感じとらせるほどの殺気の強さである。

 敵はまったく気配を消そうとはしていない。その大胆さに、沙代は敵の強大さを感じた。


「武雄! いますぐ出るぞ!」


 沙代が車庫の方へ駆け出すのに合わせ、武雄も刀を取って駈け出す。車庫は、宿舎をでてすぐそばで、門からは、数百メートル離れている。うまく行けば、敵がくる前にバイクか車で逃げることができる。

 2階の食堂から廊下を10M程かけ、階段を駆け下りるときになって、武雄が沙代を抱えて、走り出した。沙代が驚きの声を上げる。


「たっ、武雄! 何をする!」


 沙代を小脇に抱えて、走りながら武雄が言う。


「俺が抱えて走ったほうが早い。沙代が言っていたのは、こういうことだったんだな」


 武雄は、沙代の重さなどあるで感じないかのように、風のように車庫まで駆け抜けた。

 途中、門番達の交戦している銃声が聞こえた。

 車庫にいき、二人がバイクにまたがってエンジンをかけていると、門の方から、二人を見つけた男がものすごい速さで迫ってくる。4人組の一人、ジェイクである。

 武雄がCBR900RRを急発進させたときには、すでに後方20Mに迫っていた。

 150PSを絞り出すエンジンは、そのパワーを太い後輪へ伝え、あっと言う間に加速していく。一速、二速とギアチェンジをするたびに、ジェイクとの距離を広げていく。その様子をみていたサムが叫んだ。


「リンダ、ジェイクを援護しろ!」


 その声に、リンダが応える。


「わかってるよ!」


 エンジン音に紛れたその声に、沙代はハッとして上空をみた。声が後方の上空から聞こえたからである。見ると、手が大鷲の羽のようになった女が空を滑空している。

 その速度は、CBR900RRを凌駕しており、あっというまに追いつかれた。横にならぶその怪鳥をみて、武雄が驚きの声を上げる。


「なんだこの化け物は?!」


 沙代がタンデムシートから叫ぶ。


「武雄、なんとか引き離せ! こいつの相手をしていては、後のやつらに追い付かれる」


 リンダは、CBR900RRを追い抜くと、急旋回して、バイクの前に翼を広げた。

 手と足は鷹のようになっているが、身体は人間のままである。リンダの豊満な胸を見せつけられ、武雄はひどく動揺しつつ、フルブレーキングを行い、ブレーキレバーを離してから、バイクの車体を右に倒し、飛行場を滑走する。


「かわいい坊やじゃないか? 逃げることはないよ?」


 リンダはそういうと、上空に再びあがり、今度は足の爪で沙代を捕らえようと、襲いかかってくる。武雄は左手で、ベレッタM92Fを抜くとリンダに至近距離から銃弾を浴びせた。


「ぐわっ」


 という声を出しながら、リンダは上空に逃れる。


「よし、武雄加速だ!」


 沙代がそう声を出した時には、ジェイクが真後ろに迫っていた。


「リンダよくやった! あとはまかせろ!」


 ジェイクはそういうと、時速100KMで疾走するバイクのタンデムシートを力任せに殴った。


〝バシーン!!!〝


 すさまじい衝撃にバイクは横転し、沙代と武雄は投げ出された。頭から地面に落ちようとする沙代を、武雄が空中で引き寄せ足から着地する。

 10数メートルを踏ん張り、靴底の焦げた臭いを残しながら、その場に立った武雄をみて、ジェイクが感嘆の声をもらす。


「やるじゃないか! こいつは楽しめそうだ!」


 沙代を立たせ、武雄が言った。


「沙代! 離れてろ!」


 武雄は沙代をその場に残し、ジェイクへと駈け出す。ジェイクもそれをみて、駈け出した。二人の間にあった20M程の距離は、途端になくなり、二人は激突する。


〝バシーン!〝


 肉と肉がぶつかる音がするが、二人とも一歩も引かない。


「ヒャッハー! リンダ見ろよ! 全身サイボーグの俺とタメ張ってやがる!」


 その言葉を受けて、武雄に撃たれたリンダが、降りてきた。顔から血を流しているが、すでに傷口はふさがっている。リンダは、羽で血を拭き取りながら、こう言った。


「こいつが報告書にあったボウヤだろう? さっきの動きといい、殺すにはおしいね」


 その時、後方から沙代が言った。


「まて、好きにはさせんぞ!」


 武雄の持っていた刀を持って、沙代が二人に駆け寄る。それをみて、リンダは再び上空へ飛び上がり、沙代に襲いかかった。横なぎで払った沙代の攻撃を寸でのところでかわし、沙代の両肩に足の爪をくいこませ、地面に押し付けた。


「ぐううっ」


 うめく沙代に、リンダが問いかける。


「なんだい、なんだい。生理の時は本当に弱いんだね。こりゃ楽勝だよ」


 沙代は何とか動こうとするが、リンダの爪は深く食い込み動きが取れない。

 後方では、自衛隊員たちが応戦しているが、サムと猿翁の異能者二人に、虐殺されている様子が見える。


「くっ、無念じゃ……」


 沙代が観念しようとしたとき、武雄が雄たけびをあげた。


「おおおおおおぉぉ!!!!!」


 武雄と組み合っていたジェイクが驚きの声を上げる。


「なっ、なんだこのガキ、急に出力があがった?!」


〝ドキン! ドキン! ドキン!〝


 武雄の心拍数は、常人のそれをはるか超え、血流で顔は真っ赤になっている。武雄の体から、湯気があがり、武雄はすさまじい音量で叫んだ。


「俺の女に手を出すんじゃねえ!!」


 間近で、叫ばれたジェイクは、苦々しい顔でこういった。


「くっ、このガキ急に大声を……。うがぁあ!」


 武雄は組み合っていたジェイクの右手を握りつぶすと、そのまま引き抜いた。ジェイクは、残った左腕で、武雄にフックを打ち込む。だが、武雄は顔色一つ変えずに、ジェイクにボディブローを放った。


〝バキン!〝


 武雄にボディカバーを打ちぬかれ、ジェイクは信じられないといった顔でこう言った。


「俺のパワーを上回るとは、お前本当に人間か……」


 ジェイクが残った左手で攻撃しようとするのを武雄はつかみ、左手を引き抜くと、ジェイクの頭を吹き飛ばした。


「まずい!」


 危険を感じ取ったリンダが、沙代を掴んだまま上空にあがろうとしたとき、引き抜かれたジェイクの左手がとんできて、腹にあたった。


「くっ」


 地面に落ちたリンダに、武雄が掴みかかる。リンダは、すんでのところで武雄をかわすと、上空にまいあがって罵った。


「おのれ! そこで待っていろ!」


 リンダはそういうと、サムと猿翁のもとへ飛び去った。


「沙代、大丈夫か?」


 武雄が駆け寄ると、沙代は肩から血を流しながらも微笑んだ。


「血が止まらない。いつもならすぐにふさがるのに……」


 沙代は武雄に無理に笑顔を作る。


「武雄、さっきの鳥女が言った通りだ。いまの私は常人といくらもかわらない」


 武雄は自分の着ているシャツを破り、沙代の傷口に当てた。傷口は深く、病院に連れていく必要があると思えた。

 CBR900RRは、シャーシがひん曲がっており、これ以上走れそうにはなかった。


(くそっ。車がいる。車庫の方にはあいつらがいる)


 リンダがいる以上、沙代から離れればまた襲われることになる。走って逃げることを武雄は選んだ。

 沙代を背にからい、武雄はかけた。いままでとは比べ物にならないような速度で、武雄は走った。時速はおよそ90KM。常人とはけた違いのスピードで、武雄はあっというまに航空自衛隊の敷地から出た。


 後を振り返ると、追っ手は見えなかったが、武雄は走るスピードを落としつつ、さらに用心のため30分あまり走り、敵が追ってきていないのを確認してから、隠れるようにラブホテルへと入った。部屋に入り、ベッドに沙代を下すと沙代がうめいた。


「うぐ……」


 沙代の苦しむ様子に、武雄は心配そうに声をかける。


「痛むか? くそ、どうすれば……」


 沙代は、そんな武雄に微笑んだ。


「私は、大丈夫だ。そのうち助けがくるだろう。

 だが、少し血を流しすぎたようだ。ちょっと横にならせてくれ」


 そういって、沙代は横になるとすぐに〝すー、すー〝と寝息を立てだした。

 大丈夫だということがわかると、武雄はほっと肩をなでおろした。

同時に、部屋に入ってから先程まで続いていた鼓動が普通の状態に戻っていることに気付いた。


(さっきのあれは、本当に俺の力か?)


 普段から力が強いことを自覚はしていたが、敵を引き裂いた力は、人の枠を超えていた。


〝沙代に手を出すな〝その強い思いが、あの力を引き出したのだ。


(なんとしても、沙代を守り抜く!)


 沙代の寝顔を見ながら、必ず沙代を守ると心に誓う武雄だった。


 一方、サム、猿翁、リンダの3人は、ジェイクが倒されたことで、自衛隊基地から、引き上げていた。追跡してくる自衛隊をものともせず、散々蹴散らしたあと、3人は、滞在先のホテルへ戻り、現地諜報員からの情報を待った。

 部屋の冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを一口飲んでから、猿翁がこう言った。


「ジェイクがやられるとはな。予想外じゃぞい」


 猿翁は、そういって禿げ上がった頭をなでる。


「最初はなんてことなかったんだ。女に手を出した瞬間に、いきなり強くなったんだよ」


 革製の体の線がはっきりと見える妖艶な衣装を身にまとったリンダがそういった。

 二人の言葉を受けて、サムが口を開いた。


「サイボーグであるジェイクの出力は800馬力。そのジェイクを軽く退けるとは、私も予想外だった。映像を見てみるとしよう」


 サムは、ジェイクの頭にプロジェクターを繋げ、映像を再生した。壁には、ジェイクと組み合っている武雄の姿が映し出される。雄たけびと共に、武雄の顔は真っ赤になり、そこで映像は途切れた。サムは、頭をひねりながら言った。


「どうやら、感情の起伏で攻撃力が飛躍的にあがるらしいな。

 ジェイクのやられ具合からすると、力押しは難しい」


「ひょほほほ。他にいくらでもやりようはあろうて」


 猿翁は、愉快そうに笑う。


「猿翁、楽しそうだな」


 サムはそう言いながら、口角をあげた。


「サム、あんたもね」


 リンダの言葉に、サムはこう告げた。


「まもなく、逃走先の情報がもたらされるだろう。ジェイクの脳は、やられていないが、スペアボディが届くには時間がかかる。ターゲットを仕留めるには、あと5日程の猶予しかない。今度は、3人でしとめにいくぞ。ジェイクの制作費用3000万ドルが無駄になったと、上から怒られてはかなわんからな」


「ひょほほほ。楽しみじゃな」


「ふふふ。3人でやるのは久しぶりね」


 3人は声をあげて笑う。その時、サムの携帯電話が鳴った。サムは地図を片手に、現地諜報員の報告を聞く。


「そうか。ここからそれほど離れてはいないな。わかった。すぐに向かう」


 電話を切ると、サムは猿翁とリンダに告げた。


「見つかったぞ。ここから10KM程離れたホテルに隠れているらしい。先ほどの我々の攻撃がきいたのか、日本側の支援はまだ受けれていないようだ」


「ひょほほ。この機を逃す手はないの」


「ホテル? ガキどもが色気付いてるね~」


 3人は、1階に停めてある車へと向かった。

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