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運命の赤い風船

作者: 若宮沙織

運命。

不良が、サラリーマンの財布を奪ったのを目撃する。

私は、咄嗟に注意した。

実は、その不良は私の遠い親戚だった。

これは、運命。

街ですれ違い様に、「この人カッコイイな」と思った男性。

実は、その男性は未来の私の婚約者だった。

これも、運命。

たまたま路上に落ちていた時計を拾った。

実は、この時計は、私の大ファンの芸能人の私物だった。

これこそ、運命。

すごく身近だと思っていた人が、物が、行動が、全て遠い未来の運命だったりする。

私の場合はある日、ごく身近に持ち歩いていた物から運命が始まった。



おじいちゃんが、ある日風船をくれた。

それは何の柄もない、ただの赤い風船。

その1週間後、おじいちゃんは亡くなった。

私は、その風船をおじいちゃんだと思って大切にした。

毎日のように、出かける時まで持ち歩いた。

ある日、ふと、手から風船の紐が擦り抜けていった。

慌てて掴もうとしたけれど、遅かった。

真っ赤な風船は青い空によく映えている。

青空を泳いでいく風船。

私は、その光景を涙ながらに見守っていた。



最初は、あの風船の事が気になって仕方なくて、眠れない夜もあった。

でも、数ヶ月もすると、気持ちも落ち着いてきて、すっかり風船の事など忘れていた。



ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。

私は玄関のドアを開ける。

「はい。どちら様でしょうか?」

「清谷鈴香様はいらっしゃいますでしょうか?」

「え、はい。私、ですけど」

私の目の前にいるのは、黒いスーツを着た、30代くらいのおじさんだった。

でも、何となく清潔感があって、おっさんというより「大人」に見える。

「あぁ。あなたが鈴香様でいらっしゃいますか」

おじさんは、感心したように頷く。

「はい。ちょっといきなりで申し訳ありませんがね、赤い風船はご存知で?」

「……あぁ。はい」

私は、思い返したように言う。

「その風船のお陰でですね。一人の患者さんを救えるのですよ」

おじさんは、何やら熱心に言う。

「え?ちょっと意味が……」

とりあえず、と言って、私はそのおじさんを家の中に案内した。

幸い、母も父も仕事中で、家には誰もいなかった。

おじさんが座敷に座ると、早速、話に戻った。

「実はですね。沖縄県に住む13歳の少年。まぁ、一人の男の子が、ある病気にかかっていまして、何度も手術や治療をしてきたんですが、彼はあと何日生きられるかと言ったところです」

「はぁ」

私は、「一体何を言い出すんだ」と言わんばかりの表情で頷く。

「その彼が、ある日ベットに横になって窓の外を眺めている時、赤い風船が弱弱しく落ちてきて、木に引っ掛かったのを見たそうです」

「お、沖縄県まで飛んで行ったんだ!」

途端、表情を一変させ、おじさんの話に意識して耳を傾けた。

「そして、彼が親に「あの風船を取ってきて!」と頼んだんですよ。そして、あることに気づき風船の紐に付着されている菌を検査したんです」

それから、おじさんはにんまりと微笑んだ。

「あったんですよ!!その菌の中に、その子を救えると思える人の形跡が!!」

おじさんは、私の手を取り、大きく縦に振った。

「お願いします!!あなたの力が必要なんです!あなたしかいないんです!!彼を救える人が」

「私……が?」

「えぇ、お願いです。だから、一緒に来てくれませんか?沖縄に」

「……はい」

訳が分からない、信じようもない話に、私はすぐに答えたなんて……。

私は言われるがままにおじさんと飛行機に乗り、沖縄へ急いで向かった。



4時間後、ようやく沖縄に辿り着いた。

向かった先は、小さくて古い総合病院。

私は、ただ黙っておじさんの後を着いて行く。

階段を上り、405号室と書かれた部屋に入る。

目に入ったのは、貧弱に痩せ細った男の子の姿。

彼は、私を見るなり、ぱぁっと笑顔を振りまいた。

「あなたが鈴香さん?」

「あ、うん」

ゆっくりと彼に近づいていく。

よく見ると、純粋で、素直な感じの顔をしている。幼い感じもする。

「俺を……助けてくれるの?」

「うん。私にできることなら何でもする」

思えば、こんな可愛らしい男の子を救えるのも、こちらにしてみれば役に立てて嬉しいものだ。

「ありがとう!!本当にありがとう!」

彼は何度も強く、私の手を握ってきた。



夏休みということもあって、母に電話をかけ、事情を話した。

母は、最初は驚いたようで落ち着かない声だったが、次第に理解し、「無事に帰ってくるのよ。」と最後に告げた。

今日から、1週間、この病院でお世話になる。

(いや、言い換えると、病院側が私にお世話になるんだと思うけど)

私は、少年の名前を聞いた。

彼は「刹那」と答えた。

「せつな!珍しい名前だね!いい名前」

「鈴香。小学校の頃に転校してきた子で、おんなじ名前の子がいたよ」

刹那は俯いて、寂しそうだった。

「普通の人なら今頃、中学校で友達とふざけあって、部活で汗かいてるはずなのになぁ」

「だっ、大丈夫だって!私が直してあげるから!」

本当は、少し不安があった。こんな私が、本当に彼の病気を治すことなんてできるのかなって。

でも、強気にならなきゃ!私しか彼を救える人がいないのだとしたら。

「うん!ありがとう」

刹那は、無邪気な笑顔を見せた。

何て可愛らしいんだろう。

守ってあげたくなるよ。

この子を必ず助けたいな。



翌日、早速私の体が役に立つ時が来た。

おじさんはこう言った。

「血液を多めに取るんだ。毎日に何リットルか。だから、少しふらっとすることがあるかもしれないし、貧血になるかもしれない。それでもいいかい?」

「はい。覚悟してます。私は……あの男の子を、刹那を助けたいんです!」

「よし。分った」

おじさんの言うとおりに、私はベッドの上に寝かされて、注射を刺され、5分間、血液を採られた。

そして、それが毎日、たった5分の間だけ続いた。



刹那は自分の家族が大好きならしく、よく家族の話をしてくれた。

私は、そんな刹那が羨ましかった。

家族を、そこまで大切だと感じたことがなかったから。

刹那は、入院中もできる限りで勉強をしていた。

私も、頭がいいわけではないけれど、赤点はとったことがない。

つまり平均的?なので、少しずつ、刹那に勉強を教えた。

「鈴香さん。ちゃんとご飯食べてる??」

「え、うん」

私が真っ直ぐに彼を見なかったのを不審に思ったのか、

「ダメだよ!ちゃんと食べなきゃ!血液採取してるんだから。栄養採らなきゃ倒れちゃうよ?」

「分ってるよ!」

「俺は、ちゃんと毎日全部ご飯食べてるからね!」

「うん。偉いね」

私は、自然と刹那の頭を撫でていた。

「私も……刹那みたいに、毎日を一生懸命生きたいな……。」



そして、等々、明日は地元に帰る日となった。

私はその夜、沖縄の美しいさざ波の音を聴きながら、静かに浜辺でゆったりしていた。



翌朝、6時早朝から帰り自宅を始めた。

血液採取もこれで最後、今日の12時頃に行い、昼過ぎにはここを出て、夕方には家に着く。

私は、そっと刹那のいる病室に入った。

まだ寝てるかな?

寝てる。

やっぱり可愛いなぁ。

できれば、ずーっとずーっと見ていたかった。

あなたの寝顔を。



ついに、血液採取も終わり、病院を後にする日がやってきた。

私は刹那に、手作りのお守りをあげた。

「……」

刹那は、黙って俯いていた。

私は刹那の頭を軽く叩くと、「元気でね!」と言い残して、彼に背を向けた。

すると刹那は、小走りで走ってきて、私の背に抱きついた。

「ありがとう!ありがとう!本当にありがとう!」

「ははっ大げさだよ」

「だって鈴香さんは、俺の命を救ってくれた恩人なんだから!」

「てか、鈴香でいいよ。鈴香さんとか、何か堅苦しい感じするじゃん?」

「でも、俺。年下……。」

「いいの。いいの。学校のお友達だと思って」

「鈴香……。俺らが出会えたのって、運命だよね?」

「運命……。そうだね」

「おーい!そろそろ出発しないと間に合いませんよ!」

後方から、おじさんの呼ぶ声がした。

「はーい。今行きまーす!」

私は大きな声で言い、今度は小声で、刹那に向けて言った。

「じゃあ、またね。またどこかで」

「うん。またどこかで……。」

私達は、お互いの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた……。



飛行機の中、私は涙が止まらなかった。

本当は、もっと伝えたいことがたくさんあったのに……。

限られた時間の中で、1週間はあまりにも短すぎた。



それから、さらに1週間後のこと。

ある1本の電話がかかってきた。

「もしもし?」

「もしもし?あぁ、鈴香さんですね」

「……!あぁ。あの時の!」

電話の相手は、刹那に会わせてくれたおじさんだった。

「えぇ、この間はお世話になりました。晴れ晴れ、退院しましたよ。刹那君」

それを聴いた途端、嬉しくて仕方がなくて、思わず笑みがこぼれる。

「本当ですか!?嬉しいです」

「それでですね、赤い風船が一人の男の子を救った!っていう題材で、ある、ドキュメンタリー番組に2人のことを紹介してほしいってTV局から依頼がありまして」

「結構です」

私はきっぱりと断った。

テレビに出るって、かなりすごいことだし、一生のうちで出れるかどうかなんて本当貴重なものだけど、そこまで、私のしたことは大それたことじゃない。

ただ、あの時、風船を手放した運命。ただそれだけ。

私はクラスの中でも、そこまで目立つ存在じゃないし、何と言ってもごく普通の、何処にでもいるような高校生。

だから、もちろんのこと、テレビに出たら、そりゃ目立つし、人気者になるだろう。

でも、私は自分のした優しさを、人に誇らしく言うのは好きではない。

それに、あの出来事は夢のように優しく、何処かに平穏に仕舞い込んでおきたい。

「何を言ってるんですか??テレビに出られるんですよ??もちろん、報酬だって貰えます」

「断っておいて下さい」

ガチャンッ

そう言って、私は受話器を置いた。

私はいつでも、平穏で、静かに流れる時の中を生きたい。

決して人に騒がれたりせず、些細なことに、一つ一つ幸せを感じて生きたい。



刹那。あなたが「私のお陰で」と思うならば、私は「あなたのお陰で」と言いたい。

あなたのお陰で、生きる大切さを見つけることができた。

家族を大切に思うこと。

毎日一生懸命になること。

遠い遠い空の下、あなたに巡り合えたことに感謝する。

刹那が退院して、また、学校に頑張って行くから、私も頑張る。

運命。すごく身近だと思っていた人が、物が、行動が、全て遠い未来の運命だったりする。

運命の赤い風船。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました✿


「運命の赤い風船」は、私の小説作りにおいて、初めての作品になります。

この作品を作ったのは、まだ中学生の頃で、文章構成も何も考えず、ただひたすらに、思うままを書いていました。


それから3年後の自分が読み返し、特別、目に付く所だけを編集しました。

この作品が「その時の自分」を等身大に残せるよう、大半は変えていません。



小説は、その時々の自分を映す、鏡のようなものだと、私は思います。

これからも、自分の「鏡」をたくさん残していきたいです。

3年経っても、まだまだ力不足ではありますが、これからも自分なりに勉強していきたいと思いますので、温かく見守ってくだされば嬉しいです。


沙織。

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