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追放された無能王女、実は「自分と手を繋いだ相手」と一緒に【セーブ&ロード】する権能を持っていました。  作者: タルタロス


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第25話:黎明の戴冠式

 王都アステリアが遠い背後で燃えている。

 夜明けの風に乗って運ばれてくるのは、建国記念の祝砲ではなく、暴動と略奪の煙の匂いだった。


 私たちは夜通し空を翔け、朝日が昇るのと同時に『忘れられた城砦』へと帰還した。

 眼下に広がる我が家は、朝霧の中で厳かに鎮座している。かつては廃墟だった場所が、今や王宮よりも堅牢で、そして美しい秩序に満ちた場所に見えた。


「……お帰りなさいませ、主様!」


 城門をくぐると、エルフのセリアや獣人のヴォルフたちが整列して出迎えた。

 彼らの表情は、以前のような「恐怖による服従」ではない。

 王都を火の海に変え、五体満足で帰還した私たちを見る目は、畏敬と熱狂に彩られていた。


「ただいま。……留守中に変わりはなかった?」


「はい! ネズミ一匹通しておりません!」


 ヴォルフが胸を張る。その首輪のない首筋は、彼が誇り高い戦士に戻ったことを示していた。


「エリーゼ様、お疲れでしょう。すぐにお風呂と、温かいスープを用意させます」


 セリアが甲斐甲斐しく駆け寄ってくる。

 私は小さく頷き、ルミアを背中のバスケットから降ろした。彼女は帰りの飛行中、ずっと寝ていたため、寝癖で髪が爆発している。


「んぅ……。お姉様、もう着いたの……?」


「ええ。貴女の新しい部屋へ行きなさい。……今日はもう、誰も貴女を地下牢に入れたりしないわ」


「うん……。おやすみ……」


 ルミアは夢遊病者のようにふらふらと歩き出し、セリアに手を引かれて消えていった。

 最強の兵器が、ただの眠たい子供に戻る瞬間。このギャップこそが、彼女が壊れている証拠だ。


          ***


 執務室に戻ると、机の上の魔導通信機が、赤いランプを点滅させていた。

 回線を開くと、ゲパルトの興奮した声が飛び出してくる。


『――エリーゼ様! 見ましたよ、あの惨劇を! 貴族たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う様を!』


 彼は笑いが止まらないらしい。


『現在、王都は機能不全です。グスタフ王は意識不明の重体。カイル王子は自室に引きこもり、誰も面会させないとか。……衛兵は暴徒の鎮圧に追われ、市場の物価は一夜で3倍に跳ね上がりました』


「想定通りね。……それで、貴族たちの動きは?」


『はい。私の商会にも、「亡命したい」「資産を隠したい」という相談が殺到しております。……中には、「北の魔女様に許しを請いたい」と泣きついてくる者も』


 私は窓の外、広大な荒野を見下ろした。

 かつて私を追放した連中が、今度は私に命乞いをするために列をなそうとしている。

 実に滑稽で、胸がすくような展開だ。


「ゲパルト。……亡命希望者からは、全財産の8割を手数料として巻き上げなさい。命の値段としては安いものでしょう?」


『ヒヒッ、悪魔的ですねぇ。承知いたしました、骨の髄までしゃぶり尽くして差し上げます』


 通信を切ると、部屋に静寂が戻った。

 私は背もたれに深く体を預け、天井を見上げる。


 終わったのだ。

 1,000回のループの中で、常に私を殺し続けてきた「アステリア王国」という巨大な敵は、自らの腐敗によって自滅した。

 もう、断頭台の影に怯える必要はない。


「……エリーゼ様」


 不意に、足元から声がした。

 リリアナが、音もなく私の前に跪いている。

 彼女は私の靴を脱がせ、その冷たい指先で私の足を優しく包み込んだ。


「……どうしたの、リリアナ」


「夢のようです。……貴女が、誰にも脅かされず、こうして安らかに椅子に座っていらっしゃることが」


 彼女が顔を上げる。

 その瞳は潤み、狂気的なまでの崇拝と愛が渦巻いていた。


「貴女は勝ちました。運命に、世界に、そして神に。……今や貴女こそが、この大陸の真の支配者です」


 リリアナは私の足の甲に、恭しく口づけを落とした。

 それは忠誠の儀式であり、同時に所有の確認でもあった。


「支配者……ね。私はただ、静かに暮らしたかっただけなのだけれど」


「ふふ。それは無理です。貴女の輝きは、闇の中でこそ際立つ。……蛾が集まるように、世界中が貴女を放っておかないでしょう」


 リリアナは立ち上がり、私の背後に回ると、その細い腕を私の首に回した。

 背中から伝わる心音が、心地よいリズムを刻む。


「ですから、宣言してください、私の女王クイーン。……ここはもう、逃亡者の隠れ家ではありません。貴女が統べる、新しい国なのだと」


 私は窓ガラスに映る自分たちの姿を見た。

 銀髪の魔女と、それを守る銀の騎士。

 血と絶望で塗り固められた道を歩いてきた、共犯者たち。


「……そうね。アステリアは死んだわ」


 私は瞳を細め、燃える王都の方角に向かって、静かに告げた。


「これより、この地を独立国家『エリュシオン』と名乗る。……楽園を追放された私たちが作る、罪人たちのための楽園よ」


 朝日が差し込み、部屋を黄金色に染め上げる。

 王冠はない。聖歌隊もいない。

 けれど、たしかに今ここで、一つの時代が終わり、新しい時代が産声を上げた。


 1,001回目の心中は失敗した。

 その代わりに、私たちは世界を道連れにして、生き続けることを選んだのだ。


(さあ、始めましょうか。……本当の国作りを)

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