表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された無能王女、実は「自分と手を繋いだ相手」と一緒に【セーブ&ロード】する権能を持っていました。  作者: タルタロス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/45

第23話:仮面舞踏会の夜

 夜のとばりが下りた王都アステリアは、異様な熱と静寂に包まれていた。

 スラム街の方角からは、衛兵と暴徒が衝突する怒号と、何かが焼けるきな臭い煙が漂ってくる。だが、貴族街に通じる大通りだけは、魔法の灯りで煌々と照らされ、豪奢な馬車が列をなしていた。


「……滑稽ね。足元で火がついているのに、天井でダンスを踊るつもりかしら」


 私は、貴族街を見下ろす時計塔のはりの上に腰掛け、眼下のパレードを見下ろしていた。

 黒いドレスに、顔半分を覆う漆黒の仮面。それは喪服であり、死刑執行人の衣装でもある。


「本当に。……あの馬車の中にいる豚たち、今すぐ串刺しにしてやりたいです」


 隣でリリアナが、嫌悪感を隠そうともせずに吐き捨てる。

 彼女もまた、夜会用のドレス――ただし、動きやすさを重視したスリットの深いミッドナイトブルーの衣装を纏っている。太腿には愛剣アイリスに加え、投擲用のナイフが数本仕込まれていた。


「お姉様、あの建物、キラキラしてる。……壊していい?」


 反対側では、ルミアが王城を指差し、無邪気に首を傾げていた。

 彼女は純白のドレスに、白い仮面。見た目は深窓の令嬢だが、その指先には既に破壊の魔力が集束しかけている。


「まだよ、ルミア。……今夜の主役は、あくまで父上たちだもの。私たちは最前列の『観客』に徹しましょう」


 私はルミアの手を握り、魔力を霧散させた。


 今夜、王城で開催されているのは「星降る夜の仮面舞踏会」。

 表向きは建国記念の祝賀だが、実態は、私のプロパガンダによって動揺する貴族たちを懐柔し、「王家の権威は健在である」とアピールするための茶番劇だ。


「行きましょう。……招待状はないけれど、裏口なら知っているわ」


 私たちは時計塔から闇夜へと身を投げた。

 風魔術による滑空。音もなく王城の庭園に着地する。


 そこは、厳重な警備が敷かれているはずの場所だ。

 だが、私の脳内には、第520回目のループで潜入した際に把握した、衛兵の巡回ルートと魔導センサーの死角が完璧に描かれている。


「3秒後に右の茂みへ。……次は左の石像の影」


 私の指示に従い、リリアナとルミアが影のように移動する。

 数分後、私たちは誰にも気づかれることなく、大広間のテラスへと通じる通用口の前に立っていた。


 扉の向こうから、優雅なワルツの旋律と、貴族たちの空虚な笑い声が漏れてくる。


「……腐った香水の匂いがします」


 リリアナが鼻を覆う。


「我慢して。……さあ、パーティーの始まりよ」


 私は重い扉を押し開けた。


          ***


 大広間は、シャンデリアの光と宝石の輝きで埋め尽くされていた。

 仮面をつけた数百人の貴族たちが、グラスを片手に談笑している。話題の中心は、もちろん「北の魔女」と「聖女の失踪」についてだ。


「聞いたかね? 聖女様は王家に殺されたという噂を」

「まさか。下賤な民の妄想だろう。……だが、陛下のご機嫌が悪いのは事実だ」

「カイル殿下も、最近は姿を見せないとか……」


 不安を隠すように声を張り上げる彼らの間を、私たちは悠然と歩く。

 異質な三人組。

 だが、奇妙なほどに周囲は私たちを「見て見ぬふり」をした。

 私の『認識阻害の魔道具』の効果もあるが、それ以上に、私たちの放つ空気が、あまりにも貴族社会のそれとは乖離かいりしていたからだ。触れてはいけない猛獣が紛れ込んだような、本能的な忌避感。


「……あそこにいるわ」


 私はホール最奥の玉座を見据えた。

 そこには、黄金の仮面をつけた肥満体の男――国王グスタフと、その横で青白い顔をしてワインを煽るカイル兄上が座っていた。


「父上、楽しそうね。……自分の椅子に爆弾が仕掛けられているとも知らずに」


 私は近くを通りかかった給仕から、ワイングラスを3つ掠め取った。


「乾杯しましょう。……アステリア王国の、最後の夜に」


 チン、と軽い音が響く。

 その時、カイル兄上がふらりと立ち上がり、大声を張り上げた。


「静粛に! ……静粛に願おう!」


 音楽が止まり、視線が玉座に集まる。

 カイル兄上は、焦点の合わない目で広間を見渡した。


ちまたでは、我が王家を中傷するビラが撒かれているようだが! ……あんなものは全て、追放された愚妹エリーゼの妄言である! 聖女ルミアは病気療養中であり、決して行方不明などではない!」


 必死の弁明。

 だが、その声の震えが、逆に真実味を帯びさせていることに気づいていない。


「……ふふっ」


 静まり返った広間で、ルミアが声を漏らして笑った。

 それは鈴の音のように可憐で、そして背筋が凍るほど無慈悲な響きだった。


「だーれだ?」


 ルミアが仮面を外し、その素顔を晒した。

 サファイアから堕ちた、深淵の瞳。


「な……ッ!?」


 カイル兄上の目が、限界まで見開かれる。

 貴族たちがどよめき、悲鳴に近い声を上げた。

 死んだはずの、あるいは幽閉されているはずの聖女が、今ここに立っているのだから。


「ル、ルミア……!? 貴様、なぜここに……!」


「迎えに来たの、お兄様」


 ルミアは無邪気に手を振った。

 その背後で、リリアナが抜剣し、私が扇子を開いて口元の笑みを隠す。


「ごきげんよう、父上、兄上。……招待状が届いていなかったようですけれど、勝手にお邪魔してもよろしくて?」


 私が仮面を外すと、広間の空気が完全に停止した。

 悪役令嬢ヴィランの帰還。

 きらびやかな舞踏会は一瞬にして、処刑台への階段へと変わった。


「衛兵ッ! 衛兵は何をしている! こいつらを捕らえろォッ!」


 グスタフ王の絶叫が響く。

 だが、遅い。

 既にリリアナの殺気とルミアの魔力が、この空間の主導権を完全に掌握していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ