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追放された無能王女、実は「自分と手を繋いだ相手」と一緒に【セーブ&ロード】する権能を持っていました。  作者: タルタロス


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第22話:紙片の爆撃

 夜明け前。

 王都アステリアの正門に、一台の荷馬車が到着した。

 御者台に座るのは、王家御用達の商人ゲパルト。彼は検問の衛兵に対し、いつもの卑屈な愛想笑いを浮かべながら、通行証と一袋の銀貨を握らせた。


「やあやあ、ご苦労様です。……今回は北方の珍しい果実を仕入れましてね。鮮度が命なもので」


「へえ、景気がいいなゲパルトさん。……よし、通れ」


 衛兵は荷台の布をめくりもせず、銀貨の重みだけで道を空けた。

 彼らは知らない。

 その荷台に積まれているのが、果実などではなく、この王国を火の海にするよりも恐ろしい「毒」であることを。


          ***


 数時間後。

 王都の空が白み始め、人々が活動を開始する時刻。

 中央広場、市場、そして貴族街の路地裏に至るまで、風に乗って無数の「白い鳥」が舞い降りた。


 それは鳥ではない。

 風属性の魔石によって上空で散布された、数千枚の**紙片**だった。


「なんだ、これ? 空から紙が……」


 パン屋の主人が、足元に落ちた一枚を拾い上げる。

 そこには、達筆な文字で、衝撃的な見出しが躍っていた。


 ――『聖女ルミアは誘拐されたのではない。王家の虐待から逃げ出したのだ』


「な、なんだって……!?」


 主人の声が裏返る。

 周囲の人々も、次々と紙片を拾い読みし、ざわめきが波紋のように広がっていく。


 紙面には、さらに詳細な「真実」が綴られていた。

 

 王家がルミアを兵器として扱い、地下牢に幽閉していたこと。

 彼女の母親が、口封じのために教会によって殺害されたこと。

 そして、荒野の城砦こそが、傷ついた聖女を保護する唯一の聖域であること。


 もちろん、全てが真実ではない。

 私が7割の事実に、3割の「大衆が好みそうな悲劇」を混ぜて編集した、極上の創作実話ノンフィクションだ。


「おい、これを見ろ! 『王家は聖女様の涙を金に変えている』だと!?」

「許せない……! 俺たちのルミア様になんてことを!」


 民衆の反応は劇的だった。

 彼らにとって、遠い存在の王族よりも、病を癒やしてくれる聖女の方が遥かに身近で、守るべきアイドルだからだ。

 そのアイドルが権力者に泣かされているとなれば、同情は一瞬で殺意に変わる。


          ***


「……ふふ。聞こえるわ、リリアナ。王都が軋む音が」


 私は城砦のテラスで、遠く南の空を見つめていた。

 肉眼では見えないが、ゲパルトが持ち込んだ通信用の魔導具からは、王都の混乱ぶりがリアルタイムで聞こえてくる。


「素晴らしい策です、エリーゼ様。……剣を振るうよりも深く、敵の心臓をえぐりましたね」


 リリアナが心底感服した様子で、私のカップに新しい紅茶を注ぐ。


「人はね、正義の話よりも『スキャンダル』が大好きなの。……特に、高貴な人間が泥にまみれる話は、最高の娯楽でしょう?」


 私はクッキーをかじった。

 今回の作戦費用は、紙代とインク代、そしてゲパルトへの口止め料のみ。

 たったそれだけで、カイル兄上が巨費を投じて築き上げた「正統なる王家」のブランドは地に落ちた。


「ですがお姉様……。私、あんなこと書いた覚えないよ? 『王様に足を舐めろと言われた』なんて……」


 足元の絨毯で、ルミアが不満そうに頬を膨らませている。

 彼女の手には、私が書いた原稿の写しが握られていた。


「あら。でも、それに近い屈辱は受けたでしょう? ……大衆は具体的なディテールがないと怒ってくれないの。少しの脚色は演出のうちよ」


「むぅ……。お姉様が言うなら、いいけど……」


 ルミアは納得していないようだが、私の膝に頭を乗せるとすぐに機嫌を直した。

 チョロい聖女だ。


 そこへ、通信機からゲパルトの焦った声が飛び込んできた。


『え、エリーゼ様! 大変です! ……王宮騎士団が動き出しました! 市内のビラを回収し、読んでいる市民を片っ端から拘束しています!』


「……予想通りね。父上は焦るとすぐに暴力を振るう」


 私は冷笑する。

 それは悪手だ。

 噂を力で揉み消そうとすればするほど、民衆は「やはり本当だったんだ」と確信する。北風と太陽の童話も知らないらしい。


「ゲパルト、貴方はすぐに身を隠しなさい。……第二段階フェーズ・ツーの準備はできているわね?」


『は、はい! 手はず通り、スラム街の裏組織には金をばら撒いてあります。……夜になれば、暴動が起きるでしょう』


「結構よ。……さあ、燃えなさいアステリア。その炎が、私たちの凱旋パレードの灯りになるわ」


 私は通信を切った。

 かつて私を「魔女」と呼んで石を投げた民衆が、今度は王城に向かって石を投げ始めている。

 その光景を想像するだけで、どんな高級ワインよりも酔いが回る気分だった。


「リリアナ、ルミア。……出かける支度をしなさい」


 私は立ち上がり、二人の狂犬を見下ろした。


「王都が混乱している今が好機よ。……私たちが直接乗り込んで、あちらの『喉元』を食い千切りに行くわ」


「! ……王都へ、ですか? ついに……」


 リリアナの瞳に、暗い歓喜の炎が灯る。

 ルミアもまた、復讐という言葉に反応し、濁った瞳を輝かせた。


「ええ。……ただの紙切れじゃ終わらせない。本物の『魔女と聖女』が並び立った時、父上がどんな顔をするか……特等席で見に行きましょう」


 1,001回目の物語。

 舞台は再び、始まりの場所――王都へと戻る。

 ただし今度は、断頭台に立つためではない。

 処刑人が誰なのかを、世界に教えるために。

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