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追放された無能王女、実は「自分と手を繋いだ相手」と一緒に【セーブ&ロード】する権能を持っていました。  作者: タルタロス


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第13話:箱庭の管理人

 ゾロゾロと続くエルフの列が、崩れかけた城門をくぐっていく。

 彼らの顔には疲労の色が濃いが、瞳には異様な光が宿っていた。それは絶望の淵から引き上げられた者が抱く、救世主への盲目的な崇拝だ。


 城内に入った彼らは、一様に息を呑んだ。

 荒野の真ん中にありながら、結界内部は春のように暖かく、天井の魔導ランプが昼間のような明かりを落としている。かつて「死の廃墟」と呼ばれた場所が、たった一夜にして「楽園」に変わっているのだから無理もない。


「……素晴らしい……。これほどの高度な魔導制御、人間の魔術師に可能なのか……?」


 先頭を歩く長老が、震える手で壁のルーン文字に触れようとする。


「触らないで。設定が狂うわ」


 私が冷たく声をかけると、長老は火傷をしたように手を引っ込めた。


「さて、感傷に浸っている時間はないわ。……これから貴方たちには、死ぬ気で働いてもらう」


 私は玉座の間で足を止め、並ばせたエルフたちを見下ろした。

 彼らは総勢42名。少ないが、全員が魔力持ちのエリートだ。使い潰すには惜しい。


「まず、そこの赤毛の貴女。……名前は『セリア』だったわね」


 指名された若いエルフの女性が、ビクリと肩を震わせた。


「な、なぜ私の名を……?」


「知っているわ。貴女は弓よりも、石材加工の魔法が得意でしょう? 600回目のループ……いえ、以前見た夢の中で、貴女はたった一人で崩落した洞窟を直してみせた」


 私は彼女の才能を言い当てる。

 当時のループでは、彼女はその才能を開花させる前に魔物に食われたが、その死に際に放った魔法は見事だった。


「貴女は城壁の修復を担当しなさい。西側の壁、あそこには脆い箇所がある。……設計図は私の頭の中にあるから、指示通りに魔力を流せばいい」


「は、はい! ……仰せのままに!」


 セリアは困惑しながらも、自分の隠れた才能を見抜かれた喜びに頬を紅潮させ、深く頭を下げた。


「次に、そこの大柄な男。貴方は地下水脈の管理。……この城の地下30メートルに、岩盤で塞がれた湧き水がある。それを掘り当てなさい」


「……地下水、ですか? しかし、ここは荒野の岩山で……」


「あるわよ。私がそこで溺れ死んだことがあるもの」


 私が無表情で告げると、男はゾッとしたように口を噤んだ。

 嘘か真実か判断がつかない恐怖。それが私への求心力を高める。


 私は次々と指示を飛ばしていく。

 農業に適した土壌改良のスペシャリスト、結界の維持に向いた魔力波長を持つ者、衣類の修繕が得意な者。

 1,000回のループで得た「人間観察データ」に基づき、彼らを最も効率的な歯車として配置していく。


 適材適所などという生温かいものではない。

 これは、彼らの能力を限界まで搾り取るための最適化チューニングだ。


「……すごいです、エリーゼ様」


 私の背後で、リリアナがうっとりとした吐息を漏らした。


「会ったばかりの亜人どもの能力を、すべて把握されているなんて……。やはり貴女は、全知全能の神そのものです」


「神じゃないわ。ただの『攻略本』持ちのプレイヤーよ」


 私は皮肉っぽく笑い、最後のエルフに指示を出し終えた。

 彼らはそれぞれの持ち場へと散っていく。生きる希望を与えられた彼らの背中は、数時間前とは別人のように力強い。


 広間に静寂が戻ると、リリアナが不満げに口を尖らせた。


「……ですが、少ししゃくです。あの薄汚い者どもが、貴女の城を我が物顔で歩き回るなんて」


 彼女は、エルフたちが触れた床や柱を、視線だけで削り取ろうとしている。


「我慢なさい、リリアナ。彼らが働けば、それだけ貴女が剣を振るうことに専念できる。……それに、一番大切な場所は、彼らには触れさせないわ」


「一番、大切な場所?」


「ええ。……私たちの寝室よ」


 私は城の最上階、塔の部屋を指差した。


「あそこは結界の制御権限を最強にしてある。私と貴女以外は、扉に触れた瞬間に黒焦げになるように設定したわ」


 リリアナの表情が、パァッと花が咲いたように明るくなる。


「ああ……! 隔離された聖域……! 素晴らしいです、エリーゼ様! そうです、あそこだけは……あそこだけは、私と貴女だけの空気が許される場所……!」


「そうよ。だから、あそこでは貴女も『騎士』の仮面を外していい。……甘えたがりの、ただの女の子に戻っていいのよ」


 私が囁くと、リリアナは感極まったように私の背中に抱きついた。

 鋼鉄の鎧越しに、彼女の激しい鼓動が伝わってくる。


「戻ります……戻りますから……。どうか、夜だけは……私を『道具』ではなく、貴女の『一部』として扱ってください……」


「ええ、約束するわ」


 私は彼女の手を握り、窓の外を見下ろした。

 中庭では、エルフたちが必死に瓦礫を撤去し始めている。城壁が修復され、水が引き込まれ、やがて畑ができるだろう。

 ここは急速に「国」としての形を整えつつある。


 だが、この城の本当の役割は、国民を守るための揺り籠ではない。

 世界に喧嘩を売るための、巨大な前線基地だ。


(急ぎなさい、働き蟻たち。……父上が送り込んでくる『最初の刺客』が到着するまで、あと7日しかないのだから)


 私は脳内のカレンダーをめくる。

 第33回目のループ。追放から10日後、この城砦は王宮魔導師団の遠距離爆撃によって地図から消滅した。

 その未来を書き換えるための準備は、まだ始まったばかりだ。

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