22 旅立ち
朝食はが
いよいよ、ヴェルデ家のみんなが旅に出る日がやってきました。一昨日の夜に遅くまで起きていた子どもたちは、昨夜はみな早くにベッドに入りました。そのおかげで今朝は元気いっぱいに早起きをし、すでに旅の身支度を整えて出発の時間を待っていました。
父さんとプラート兄さんは、今朝は早くから起きて馬車の準備と点検をしていました。二人は箱型の馬車のキャビンに二頭の馬をつなぎ、車輪やブレーキなどの馬車の各所をしっかりと確認していました。
母さんとシエナ姉さんはさらに早起きをして、朝食用に山盛りのサンドイッチとおやつを作ってくれていました。保温できるポットには紅茶とコーヒーがたっぷりと詰められ、ドライフルーツ入りのどっしりとしたパウンドケーキと紅茶の葉を混ぜたスコーンを入れたバスケットも用意されていました。
朝食のサンドイッチとポット、おやつの入ったバスケットをみんなで手分けして馬車へ運び、キャビンの中央のテーブルに載せました。子どもたちはみな、早く出発したくてうずうずしています。父さんは、集まった家族全員の顔を見回しました。
「さあ、馬車の準備は完璧だ。みんな忘れ物はないかな?水晶は身に着けているね?」
子どもたちはみな、胸元に下げている袋を出して確認し、父さんにも掲げて見せました。プラート兄さんは、厚みのある歴史の本を自分の座席に置いてありました。サレント兄さんは、大きなスケッチブックと筆記用具を入れたバッグを大切そうに抱えて肯きました。
シエナ姉さんは保冷庫にたくさんの食材を詰め込み、調理道具と人数分の食器も用意しました。また、旅先で新しい料理やハーブや食材に出会うのが楽しみなのでした。シプロ兄さんは馬車の座席の下に自分の荷物をすべて仕舞いこんでおり、とても身軽で手には何も持っていませんでした。
ソリアナは、何かあったらすぐに書き止めようと、日記と筆記用具を小さなポシェットに入れて身に着けていました。メーラ姉さんは、おやつ用にと昨日たくさん焼いた、自分の好きなナッツ入りのクッキーが入った大きな袋を嬉しそうに手にしていました。その隣のレゼダ姉さんは、いつものようにシンプルな装いで、何やら外を眺めていました。
ヴェルデ家の心地よい家は、すべての窓の鎧戸が閉められ、ドアには意識の力で鍵が掛けられていました。父さんは魔女の家の方へ歩いて行き、しばらく留守にするよ、と声を掛けました。魔女の家は、すっくと立っていた大きなニワトリの足を折り畳み、目覚める前のように座り込んで動きを止めました。
すると、外を見ていたレゼダ姉さんが、父さんと母さんに話しかけました。
「父さん、母さん、今日は午後から雨が降るような感じがするの。防水のマントを手元に用意しておいた方がいいかも知れないわ」
「わかったわ。ありがとう、レゼダ」
空は青く晴れていて雲はなく、風も穏やかです。しかし、レゼダ姉さんのお天気の読みが外れたことはありません。母さんは、御者席に二人分の防水のマントを用意しました。
レゼダ姉さんの話を聞いていた子どもたちもみな、防水のマントを座席の下の荷物の一番上の取り出しやすいところに移しました。これで全員、旅の準備が整いました。
「さあ、みんな馬車に乗って!ヴェルデ家の初めての旅に出発しよう!まずは一時間ほど南へ向かって、森を出る。それから森に沿って西への端へ、海が見えるところまで行ってみよう」
子どもたちは扉を開けて、真新しい馬車のキャビンに乗り込みました。父さんと母さんは御者席に座り、馬たちに合図を送ると意識の力で車輪を動かしました。ヴェルデ家のみんなを載せた箱馬車は、ゆっくりと納屋を出て森の中へと進み始めました。
迷いの森の道に迷う設定が反応しないので、馬車がマージナルへの方向へと向かっていることは間違いありません。父さんと母さんは、薄暗い森の中を注意深く馬車を進めました。
箱馬車のキャビンの中はゆったりとしていて座席も広く、子どもたちは男の子と女の子に分かれて向かい合って座っていました。兄さんたちは身体が大きいので四人掛けですが、女の子たちの方は扉の前の可動式の席を加えて五人掛けになっていました。
今は父さんと母さんが御者席に座っているので、さらにキャビンの中は広々としているように感じられました。子どもたちは、馬車の窓から見える見慣れているはずの森を、いつもとは違うワクワクとした気持ちで眺めていました。
森の樹々は太く大きくて、木の根の間隔も馬車が通れるくらいの広さがありました。大きな樹々が生い茂っている森の中は昼でも薄暗いため、父さんは、馬車の前に下げたカンテラと室内灯を意識の力で灯していました。
「兄さんたちの席は広くなっていてよかったわね!」
ソリアナは、身体が大きい兄さんたちが座席にゆったりと座ることができているのを見て、安心して言いました。馬車の中で過ごす時間は決して短くはありませんから、心地よく過ごせるに越したことはないでしょう。
「こっち側の席は幅がゆったりしているから、本当にありがたいよ。そっち側に座ったら、僕たちにはちょっと狭いと感じるだろうね」
プラート兄さんが笑いながら答えました。サレント兄さんの大きなスケッチブックの入ったバッグも余裕を持って空席に置かれていて、キャビンの中はとても快適でした。
「ねえ、みんなお腹空かない?」
メーラ姉さんはそう言って、おやつにと持ってきたナッツ入りのクッキーをひとつ食べました。旅に出るのが嬉しくて、最初のうちは空腹を感じなかった子どもたちでしたが、そう言われるとなんだかお腹が空いてきました。
「あと少しで森を抜けて明るいところに出るよ。みんな、そろそろお腹が空いただろう。サンドイッチを食べようか」
父さんは御者席から振り返って、キャビンの前にある御者席との間の窓を開けて子どもたちに話しかけました。
「賛成!父さん、母さん、コーヒーと紅茶はどっちがいい?」
「私はコーヒーを頼む」
「私は紅茶をお願いできるかしら」
シエナ姉さんは、御者席の窓から父さんと母さんにサンドイッチの包みを手渡しました。そして、ポットからコーヒーと紅茶をカップに注いで、小さなトレーに載せて母さんに手渡しました。子どもたちがそれぞれサンドイッチの包みを手にすると、父さんが食事の前の挨拶をしました。
「母さん、シエナ、おいしいサンドイッチを作ってくれてありがとう。いただきます」
子どもたちは、自分が思っていたよりもお腹が空いていたようでした。サンドイッチの包みを開け、みな勢いよく食べ始めました。新鮮な野菜、チーズ、カリカリのベーコン、ゆで卵と、たくさんの具が挟まれたサンドイッチは、とてもおいしくて食べ応えがありました。
シエナ姉さんは保冷庫からミルクの入った瓶を取り出し、飲みたい人がいるかを尋ねました。子どもたち全員の手が上がったので、カップにミルクを注いで配りました。ソリアナには、馬車で飲む冷たいミルクが、いつもよりもとてもおいしく感じました。




