20 旅の準備完了
次の朝起きてみると、雨も風もすっかり止んでいました。空の所どころには雲がかかっていましたが、その隙間から温かい日の光が差し込み、美しい青空も顔をのぞかせていました。森の木々の葉に残った水滴が、朝日を受けてきらきらと輝いていました。
ソリアナと姉さんたちは、いつものように朝の支度をして、元気いっぱいにキッチンへと降りていきました。父さんと兄さんたちもすぐに降りてきました。ソリアナには、みんなが何となくいつもよりも元気が溢れているように見えました。
「おはよう。今朝はいつもより早く起きてしまったわ。寝る前に、もう一度ひとつの意識の周波数の光を呼び出したからかしら。みんなもすっきりした顔をしているわね」
母さんは、朝食を作りながらみんなに声を掛けました。早起きをした母さんが用意をしてくれたおかげで、朝食の準備はほとんど終わっていました。
「昨日の夜、私もひとつの意識の光を呼び出して瞑想したまま眠ってしまったんだよ。あの光は愛の状態に導くと言っていたからなあ。癒しが起こったのだろうな。昨日のことはしっかりと記録しておこう」
父さんは、筆記用具とメモ用紙の束を持って、何やら考えながらテーブルの方へ歩いて行きました。そして自分の席に着くと、黙々とペンを走らせ始めました。
そんな父さんを笑って見送りながら、母さんは素早く手を動かして朝食の準備を終えました。女の子たちも手伝って、焼き立てのパンの籠、ハムとチーズの皿、ジャムとバターとはちみつの瓶、新鮮な野菜のサラダが山盛りになったボウル、ミルクのピッチャーなど、おいしそうな食事がテーブルいっぱいに並びました。
「母さん、今日も朝食を作ってくれてありがとう。いただきます」
「いただきます!」
父さんの食前の言葉で、今日もにぎやかにヴェルデ家の朝食の時間が始まりました。みんな、いつもよりもお腹が空いていたようで、あっという間にすべての器が空っぽになりました。
食事が終わると、シエナ姉さんがすっきりとしたハーブのお茶を入れてくれました。今日のデザートは、今朝摘み取ったベリーのクリーム掛けでした。
ベリーが大好きなソリアナは、大切そうに少しずつ味わって食べていました。それをにこにこと見ていたメーラ姉さんは、ソリアナにベリーとクリームのお代わりを持ってきてくれたのでした。
父さんは、朝食の後、馬車のキャビンに保冷庫を作る予定を立てていました。旅の準備も、残すところ保冷庫を作成することのみになりました。みんながお茶を飲み終わったのを見て、父さんが立ち上がりました。
「今日は、馬車のキャビンの保冷庫を作ってしまおう。大きさと位置はキャビンの後ろのこの辺を考えているんだが。保冷庫について、他に何か希望があるかな?」
父さんは、馬車のキャビンの荷物置き場の図面を見せながら、みんなを見まわして言いました。シエナ姉さんは、何か言いたそうな表情で母さんの方をちらっと見ました。母さんには特に希望はないようなのを見て、シエナ姉さんが言いました。
「できるなら、凍らないくらいの温度のところと、氷ができるくらいに冷えるところが欲しいの。父さん、そういう風に保冷庫の部屋を分けることはできるかしら?」
シエナ姉さんも、旅を楽しみにしていました。そして、保存食を用意したり野営の際の食事のレシピを検討したりと、マージナルの旅で食べることに困らないようにいろいろなアイデアを考えていました。保冷庫に冷凍室ができれば、持っていける食材が増えるので旅の間の食事のメニューの幅が広がります。
父さんは図面をサレント兄さんに渡すと、二人で話し合いを始めました。そして、、保冷庫の部屋をふたつに分けて、それぞれの温度の設定を変えることは可能だと結論を出しました。サレント兄さんは、部屋をふたつに分けて保冷庫の図面を描き直しました。
「よかった!父さん、サレント兄さん、ありがとう。これで旅に持っていける食材が増えるわ」
シエナ姉さんは、書き直された保冷庫の図面を嬉しそうに眺めていました。母さんは、そんなシエナ姉さんを見て、微笑んで言いました。
「シエナ、旅の間の食事と健康のことを考えてくれてありがとう。あなたはとても頼もしくなったわね」
シエナ姉さんは、母さんにほめられて少し赤くなり、ますます嬉しそうでした。ソリアナは、保冷庫にどんな食材を入れて旅に持っていこうかと考えていました。みんな、旅のことを考えると、とてもわくわくした気持ちになりました。
保冷庫の図面が完成したので、全員で馬車のキャビンが置いてある納屋へと移動しました。そして、父さんが板と蝶番、密閉と防水のための素材を用意して、みんなで意識の力で保冷庫の本体を作りました。
次に、シエナ姉さんの希望したとおりに、ふたつに分けた保冷庫の部屋の温度を設定しました。保冷庫の内側には、密閉、防水、防臭、湿度を一定に保つ設定をしました。外側には、冷気が漏れないよう断熱の設定を加え、保冷庫が完成しました。保冷庫は、キャビンの後方の荷物置き場にぴったり設置されました。
箱形の馬車のキャビンは、すっかり準備が整いました。窓とドアのガラスの部分には、日の光を遮る素材の緑色のカーテンが取り付けられ、断熱の設定がされていました。イスの座面には心地よいクッションが置かれました。座席の下の収納スペースもしっかりと作られており、あとはそれぞれの荷物を入れるだけになっていました。
キャビンの後方の荷物置き場に、父さんが準備した家族全員分のテントと寝袋と毛布が積み込まれました。さらに、野営のための調理器具と食器も載せられました。母さんとシエナ姉さんが食材を選んで保冷庫に詰め込み、みんなで座席の下に個人の荷物を収納し、旅の準備が整いました。
「さあ、これでいつでも旅に出られるぞ。明日みんなで旅のルートを考えて、明後日出発しよう。私と母さんも、森の近くの小さな村には訪れたことがあるが大都市には行ってみたことがないんだ」
そう言って父さんは、満足そうに馬車のキャビンを見上げました。馬車の外観には、実際よりも小さく見え、一般的な馬車の大きさに感じる設定、誰かがこの馬車を見ても気に留まらなくなる設定などが加えられていました。
「私はすべての村や街や都市を見てみたいと思っているの。マージナルの人々がどんな状態か分からないから、いろいろと用心する必要があると思う。明日、マージナルを旅する間、気を付けなければいけないことをみんなで話し合っておきましょう」
母さんは慎重な口調でそう言いました。マージナルの人々は意識の力の存在を信じていないため、ヴェルデ家の人々が自然に使っている意識の力については、しっかりと対策をする必要がありました。
明日、家族全員で旅の大まかなルートと心得を話し合って、明後日はいよいよ旅に出ることになりました。
マージナルの人々と交流したことがない子どもたちは、旅を楽しみに思う気持ちと、マージナルの人々への不安な気持ちが入り混じっていました。
マージナルの人々と交流してみたいと思っていたソリアナは、どんな方法で交流することができるかなあと考えながら眠りに落ちました。




