11 誕生日のプレゼント
ソリアナが姉たちの後を追って階段を上がろうと立ち上がったとき、キッチンにいた母さんに呼び止められました。振り向くと、母さんが緑色のリボンがかかった小さな包みを手渡してくれました。
「ソリアナ、お誕生日おめでとう。これは、父さんと私からプレゼントよ」
「ありがとう!開けてみてもいい?」
ソリアナは丁寧にリボンをほどいて、ゆっくりと包み紙を開きました。父さんと母さんからのプレゼントは、深みのある緑色の布で装丁された美しい日記帳でした。
ソリアナは目を輝かせて、じっくりと日記帳を眺めました。ソリアナの手のひらふたつ分くらいの大きさの表紙には、金と銀の箔押しで光を思わせる模様が描かれています。そして、表紙の真ん中と背表紙には、金色の文字で、ソリアナの名前と1という数字が記されていました。
ヴェルデ家ではみな、十一歳の誕生日には日記帳をプレゼントされました。ランドラでは、古くから続く家系にはそれぞれの家の色がありました。日記帳はヴェルデ家の色である深い緑色の布で装丁されていました。そして、日記の表紙に入っている金と銀の箔押しの模様は、それぞれの持ち主をイメージした唯一無二のデザインになっていました。
「その日記は、ソリアナだけが開くことができるように意識の力で設定してあるの。そして、持ち主が亡くなると跡形もなく消え去ってしまうのよ。だから安心して、何でもあなたが書きたいことを書いてね」
「わあ!こんなに素敵な日記をもらえて嬉しいよ。母さん、本当にありがとう」
「そうそう、一冊を最後まで書き終わったら、二冊目の日記が自動的に現れるの。どんな風に現れるかはその時のお楽しみね。父さんは、この日記で本棚がひとつ埋まっているわよ」
「父さんはすごいね!大切に書くね。そうだ、光のガイドさんと話したことを日記に書こう。あ、魔女さんの歩く家も!」
ソリアナは大切そうに日記を抱え、三階の子ども部屋へと階段を上っていきました。三階は、シエナ、レゼダ、メーラ、ソリアナ、女の子四人の部屋でした。
部屋の四隅にそれぞれのロフトベッドが置かれていました。上段のベッドには天蓋付きのカーテンが掛けられていました。ベッドの下は机になっていて、机の奥に本棚があり、机の右下には小さな引き出しが三つありました。そして、ベッドの隣に小さなクローゼットがひとつありました。
部屋の真ん中には小さなテーブルと丸イスが四脚ありました。今は、そこでレゼダ姉さんとメーラ姉さんが話し込んでいました。二人の姉さんたちは、身振り手振りを交えて熱心に話し合っていました。どうやら魔女の歩く家のことを話し合っているようでした。
ソリアナは静かに自分のロフトベッドへと歩いていくと、机の上に日記帳をそっと置きました。ふと肌寒さを感じて、開いていた東向きの窓を閉め、クローゼットから薄手のカーディガンを取り出して羽織りました。
「光よ、明るく照らして」
机の上の小さな読書灯に話しかけて光を呼び出すと、引き出しからペンを取り出して日記を開きました。最初のページには、日記を使い始めた日を書き込むところがありました。ソリアナは、丁寧な文字で、十一歳の誕生日である今日の日付を書き込みました。
そして、昨日熱を出したこと、光のガイドさんが現れて話をしたことなど、ひとつひとつ思い出しながら書き止めていきました。
昨日、光のガイドさんが言っていた、情報をパッケージにしてブループリントに送る、ということについて、ソリアナにはよく分かりませんでした。けれども、こうして日記に書いてみると、昨日光のガイドさんから聞いたことを、忘れることなくすべて思い出すことができました。
ソリアナは日記のページを改め、次に、魔女の歩く家について聞いたことを書きました。少し考えて、魔女の家の外観と室内の間取りの簡単な絵も添えました。ソリアナたちは三賢女の末裔だった!という嬉しい情報には、二重の下線を引いておきました。
そして、さっき光のガイドさんから聞いたことも、しっかり書き止めました。書いているうち、ブループリントとは何か?情報をパッケージにして送るとはどういうことか?など、分からないことがいくつも出てきたので、ソリアナは、光のガイドさんに聞きたいことも書き止めておくことにしました。
テーブルで話し込んでいたレゼダ姉さんとメーラ姉さんは、黙々と日記を書いているソリアナに気がつくと、その背中を温かい目で見つめていました。そして、自分たちもそれぞれの机へと向かい、日記を開いて今日の出来事を書き始めました。
夕食ができたとシエナ姉さんが呼びに来ましたが、三人はとても集中していて、一度呼ばれただけではその声が聞こえないほどでした。気がつけば窓の外は真っ暗でした。
にぎやかに夕食を取り、歯を磨いてお風呂に入ると、ソリアナは眠気に襲われました。昨日は熱も出ましたし、この二日間は本当にいろいろなことがありましたから、疲れていたのでしょう。ソリアナは、今夜はいつもより早くベッドに入ることにしました。
「なんだか眠くてもう起きていられないの。姉さんたち、お休みなさい」
「ソリアナ、お休み。誕生日の夜ね。よい夢を」
「お休みなさい」
ソリアナは姉さんたちに声を掛け、ベッドの周囲のカーテンを閉めました。そんなソリアナの様子を見ていた姉さんたちも、静かに眠るための身支度を済ませると、早めにベッドへの階段を上がっていきました。
横になると、ソリアナはあっという間に眠りに落ちました。そして、夢を見ました。夢の中でソリアナは、前世の占い師の仕事をしていました。路上で占いをしているソリアナの前には、たくさんの人が列をなしていました。
ソリアナは相談に来た人々の悩みや苦しみに真摯に向き合い、クレアコグニザンスの力によって知りえた情報を必要に応じて伝えていました。本当にたくさんの人を占いました。感謝の言葉を口にしながら涙を流す人もいれば、そんなことが聞きたいんじゃないと怒って帰ってしまう人もいました。
前世のソリアナは本当に忙しく、お休みの日には動くことができないほど疲れ果てていました。今思えば、占いに来た人の重いエネルギーを受け取り、自分に移したその重いエネルギーを浄化して癒していたのでした。ですから、休日でもどこかへ出かけるような余力は残っていませんでした。
ソリアナは突然、夢の中で、これは夢だと気づきました。そして、前世の自分が、いつかどこかに旅に出たいなあと、ずっと旅に憧れていたことを思い出しました。今回が最後の転生なら、たくさん旅をしたい!夢の中でソリアナは、そう強く心に決めたのでした。




