表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソリアナの最後の転生 だからのんびり楽しく旅ぐらしがしたい…だけどなぜかいつも波瀾万丈  作者: 青山心為
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/22

1 十一歳の誕生日

 ソリアナはとても幸せな気持ちで目が覚めました。

 今日はソリアナの十一歳の誕生日です。母さんがソリアナの大好きなブルーベリーのマフィンを焼いている甘い匂いが、一階のキッチンから三階の子供部屋まで漂ってきていました。


(今日も楽しい一日が始まりました。ありがとうございます)


 胸の前で手を合わせ、心の中で感謝の祈りを唱えたソリアナは、ベッドの上で座り瞑想を始めました。十五分間、目を閉じて呼吸に意識を集中し、頭の中を空っぽにします。


 ソリアナは瞑想を終えると、甘酸っぱいブルーベリーマフィンを思い浮かべながら、笑顔でベッドから降り立ちました。



 ソリアナたち家族が住んでいるマージナル国では、十一歳の誕生日に将来の夢や希望を家族と話し合って決めるよう定められていました。近くの村の人の話では、なりたい職業に就くことやお嫁さんになることなどを目標とすることが多いようでした。


 目標を決めたら、それを声に出して宣言します。そして、一人ひとつ持っている守り石に息を吹きかけながら念じると、守り石が目標を記憶します。


 守り石とは、生まれたときに神殿から貸与される小さな握り石のことです。新生児は必ず神殿の神官から祝福を受けるよう定められているため、全ての国民が一人ひとつの守り石を持っていました。


 目標を吹き込んで記憶させた守り石は、専用の布袋に入れて首から下げ、一生の間ずっと身に着けて過ごします。神殿では常々、『守り石には神の愛が宿っており、その人を守り導いてくださる。感謝して常に身に着けることで神の愛は私たちに届くのだ』と教えていました。人々はみな、生まれてから亡くなるまでの間、肌身離さず守り石を身に着けて生活していました。


 マージナル国では、人が亡くなると神殿にて送り火を焚いて火葬にされました。遺灰は神殿で定められている土地に穴を掘って撒き、大地に還します。遺族はそれぞれの家にある祭壇に、故人の愛用していた物や故人との思い出のある物、故人の似顔絵などを飾って思い思いに故人を偲びました。


 そして、故人と一生を共にした守り石は、神殿へと返却され供養されました。



 ソリアナは鼻歌を歌いながらお気に入りの服に着替えました。ベッドを整えると、小さなテーブルに置かれた洗面器に向かって話しかけました。


「ぬるま湯をお願い」


 正確には洗面器に話しかけたわけではありません。この家に設定されているシステムに、洗面器にお湯を入れてくれるように指示を出したのです。


 すぐに、丁度いい温度のぬるま湯が、ほかほかと湯気を立てて洗面器に満たされました。ソリアナは顔を洗ってタオルで拭き、腰まである髪を顔の両側で三つ編みにしました。コップに水を出して歯を磨けば、身支度は終了です。


 三階にあるこの部屋にはもう、ソリアナの他には誰もいませんでした。同室の三人の姉たちのベッドは、きちんと整えられていました。姉たちは一階のキッチンで母の手伝いをしているでしょう。


 ソリアナには三人の姉の他、三人の兄たちがいました。兄たちの部屋は四階にあります。今頃はいつも通り、二階の研究室で父と一緒に意識の力の探求に没頭しているはずです。


 大きく開け放たれた東向きの窓から、賑やかな鳥の声を乗せた爽やかな風が部屋を通り抜けていました。窓の外に見える新緑を(たた)えた森の樹々は、朝の光を浴びて美しく輝いています。空はどこまでも青く澄んで、今日という日を祝福しているかのようでした。


 ソリアナはうきうきとした気持ちで階段を降り始めました。二階の研究室からは、父さんと兄さんたちが意見を交わしている声が聞こえてきます。みんなすぐには出てきそうにないので、声は掛けないことにして一階へと階段を降りました。


「母さん、姉さんたち、おはよう!」


「ソリアナおはよう。お誕生日おめでとう。熱はもう下がったの?」


 母さんはフライパンでベーコンを炒めながら振り返り、尋ねました。実はソリアナは昨日、一日中熱を出して寝ていました。けれども、今朝にはすっかり元気になっていました。ソリアナはにっこりして答えました。


「うん、もう大丈夫みたい」


 上から三番目の姉シエナがソリアナの額に手を当てて熱を測ると、確かに平熱に戻っていました。


「本当ね、熱は下がったみたい。ソリアナ、昨日はほとんど寝ていたでしょう。お腹の具合はどう?」


「お腹空いた!今ならスープをお鍋ごと食べられそう!」


 ソリアナが元気に答えると、下から二番目の姉レゼダは、元気すぎるほどのソリアナの様子を見て、安心して笑いながら声をかけました。


「よかった、お腹の具合も大丈夫そうね!」


「さあ、朝ごはんにしましょう。メーラ、2階に行って父さんたちを呼んできてくれる?下から声をかけたくらいじゃあの人たちは気が付かないでしょう」


 母さんは一番下の姉メーラに声をかけると、山盛りのベーコンの大皿をテーブルに置きました。メーラは腕まくりをしながら、二階へと続く箱型の階段を上がって行きました。



 この家は、意識の力を深く探求しているソリアナの父スプルースと母のエルムが、意識の力を駆使して創り出しました。この世界では、人間は肉体をまとった意識である、と認識されていました。意識は目には見えないもので、魂と呼ばれることもあります。


 意識の力とは、設定や条件を"そうである"と完全に信じることでそれらを現実として生み出す、思い通りの現実を創り出す力です。意識の力は誰にでも使えるものですが、身体の筋肉と同じで信じる能力を鍛える必要がありました。


 マージナルには、無意識に物事を考えて意識の力を浪費している者、流行りを追いかけたり人の意見に左右されたりと集合意識に影響されて望んでもいないことを考え続けて意識の力を思うように使えない者が多くいました。


 みな小さな頃に、意識の力をコントロールすることから学び始めるのですが、マージナルでは上手くいかずにさじを投げるものが続出し、最近では意識の力の存在を信じられない者まで現れ始めていました。


 思うように現実を創造する意識の力を使いこなすには、様々なことを思い付く発想力の豊かさも必要不可欠と言えます。アイデアという種が無ければ、望みという芽が出ることも、その望みをさらに大きく育てることもできないからです。


 みんなと同じことをしている方が安心、という風潮が強いマージナルでは、新しい発想や今までにない試みは敬遠される傾向がありました。ですから、ソリアナたちの家族は、村に属することをせず家族だけで暮らしていました。


 ソリアナたちの家は実際には四階建てなのですが、外観には認識を阻害するミスト状のエネルギーが設定され、この国のどこにでもあるような木造の二階建ての家に見えるようになっていました。


 さらに、火、水、空気、土の四元素を生成し自由に使うことができるよう設定されていて、お風呂、トイレ、キッチンでの水の使用と水温調整、火を使った調理、室温の調整、掃除、洗濯、除菌、消臭、家に隣接した場所での樹木と花への水やり、野菜の栽培などは、システムに指示を出すだけで済みました。


 こういった基本的な機能の他に、四元素の働きを応用した新しい設定が、両親の思いつくままに日々どんどん追加されていきました。この家はこの国の一般的な家とはかけ離れていました。


 そんな訳でこの家は、迷いの森と呼ばれ人々が立ち入ることのない大きな森の端の方に、人々の目から隠れるようにして建てられていました。


 迷いの森は、この国と隣国ランドラを隔てる、古くて広い森でした。樹齢数千年を数える樹々が太く大きく枝を伸ばし、昼でも暗いこの森の中では、どこをどう歩いているのか分からなくなって誰もが必ず道に迷うため、迷いの森と呼ばれるようになったのでした。


 そういったことから、森は二国の間の緩衝地帯とされ、どちらの国にも属していませんでした。端の方とは言え、そんな森の中に家を建てたのは、誰にも邪魔されることなくひっそりと意識の力を探求しながら暮らしたい、そうソリアナの両親が望んだためでした。


 ソリアナの両親は、家の周辺の半径数メートルだけは、道に迷うことなく自由に森の中を歩くことができるようにしたいと考えました。そして、森の樹々にそのように設定しようとした際に、森全体に道に迷う設定がされていることが判明しました。


 誰が何のためにそう設定したのか、そこまでは分かりませんでした。鍛え上げた意識の力を持つ二人は、家の周りの数メートルだけは道に迷わず歩くことができるよう設定し直しすことに成功しました。



 一番上の兄プラート、二番目の兄サレント、下から三番目の兄シプロ、三人の兄たちが談笑しながら賑やかに階段から降りてきました。


「おはよう。ソリアナ、誕生日おめでとう」

「みんな、おはよう。ソリアナ、おめでとう」

「おはよう。十一歳だな!おめでとう」

 

「おはよう、兄さんたち。ありがとう」


 ソリアナが兄たちと話していると、少し遅れて、手元にメモ書きの束を持ったままの父さんもキッチンへと降りてきました。


「おはよう、みんな。ソリアナ、十一歳の誕生日だな。おめでとう」


「おはよう、父さん。ありがとう。あのね、朝ご飯を食べたらみんなに聞いてほしいことがあるの」


 ソリアナは、決意を込めた眼差しで父さんを見て言いました。昨日熱が出てベッドで寝ているとき、ソリアナはとても不思議な体験をしました。そのことを家族に話そうと思っていました。

青山心為(あおやまこな)です。

初めての投稿です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ