第35話 フォルトゥナ〜運命の車輪〜 完結編 女神の決意
今年もよろしくお願いします!
「響介くん、おはよう。良く眠れたかにゃ?」
なんで来愛が隣りで寝てる?
「来愛、抜け駆けは許さないよ! アタシのベッドなんだから!」
「俺のだ! 朝から何なんだよ、お前ら」
「酷い、チームKの仲間に向かって……」
「ゴメン、ゴメン。助かったよホントに、2人ともありがとう」
「あら、アタシにはお礼言わないのね」
部屋の入り口には花音が立っていた。
「花音タンは役に立ってなかったから礼などいらないのだ」
「そうだ、そうだ! おととい来やがれ!」
「あらそう、もうご飯作ってあげないんだから」
「そ、それは一大事にゃ! いっタン謝るのだ!」
「なんでアタシが? 来愛だって役立たずって言ってたじゃん!」
「へぇ、そんな事言ってたのね」
「はわわわっ! 言ってないにゃ! いっタン最低なのだ!」
騒がしいけどいつもの日常に戻れた気がするな。
この2週間あまり寝れてなかったから久々にぐっすり寝たよ、静かに起きれたらもっと良かったんだけど。
「花音もありがとな」
「いいえ、どういたしまして」
「チームKの打ち上げしようよ!」
「あら一華にしてはイイコト言うじゃない」
「花音、目が怖いよ、ホント、ゴメンって」
「じゃあ、皆んなに連絡するよ、場所は紗夜子さんチね!」
「いっタンまた勝手に決めて怒られるにゃ、それと時間は午後からにしてね、もうすぐお姉タン来るから」
「へっ、優莉愛さんが!? なんで!」
「響介くんに負担かけさせたくないからだと思うよ、疲れてるから札幌まで来させたくなかったんだよ」
程なくして優莉愛さんが来た、何か顔合わせづらいな、好きにやっていいよと言われていたとはいえ、やり過ぎたんだろうな。
「栞さん、久しぶり! 来愛の事いつもありがとね、あとこれ皆んなで食べて」
「あら、ありがとう、気を遣わせちゃったわね。まさかユリちゃんが響ちゃんをお世話してくれてたなんて。上がって、紅茶いれるわね」
「相変わらず紅茶好きよね、それ以上イメージ良くしないでよ」
「やーねぇ、好きで飲んでるだけよ、好きな物は人に勧めたいでしょ? けど響ちゃんはダメだからね」
「はて、何のことでしょ?」
「おはようございます、優莉愛さん。わざわざお越し頂いてありがとうございます」
「固っ苦しいよ、響ちん。もっと砕けていこうよ、特にここではね」
「ここでは?」
「フフ、響ちゃん、ユリちゃんはね、一華とココのお婆ちゃんの部下なのよ、つまり主人の母、私にとっては義母ね」
「そうなんだよ響ちん、鬼神と呼ばれるくらいの怖い人だからね」
「それって優莉愛さんのことじゃ、あっ……」
しまった口が滑った。
「ほう、響ちんはこのプリティなワタシが鬼だと?」
「違います! 違います! 仕事の鬼だなあ、なんて」
見学で来た高校生に用地取得の交渉なんてフツーやらせないからね!
「今時プリティなんて言わないにゃ、お姉タン」
「お婆ちゃんはとっても優しいんだよ、お兄ちゃん!」
「厳しい所もあるけど、情に深い人よ」
「確かにそういう人だね。あの人に目を掛けてもらったから今のワタシがあるんだけどね、あっ! この話し一枝さんにしないでね! 恥ずかしいから」
「チッチッ、気持ちはちゃんと伝えるものなのだよ、ユリッチ」
人差し指を振りながら偉そうに言う一華だが、最近怖い物知らずになってきてんな。
「はっ? アンタ誰!?」
「一華だよ! 何度か会ってるじゃん!」
「ウソつくな! だからなんですか? みたいな澄ました顔した可愛げのない女の子だったクセに!」
「あー、酷い! そんな風に思ってたんだ! 本性現したな! 来愛、お行き! その豊満ボディで昇天させてあげなさい!」
「ボクは使い魔じゃないにゃ、昇天って。確かににゃー子の得意技だけど、お姉タンにやるの? はあ、仕方ないにゃ」
「やらんでいいわ! ホント誰かわかんなかったよ。でも何かいいね、何があったか知らないけど今の一華の方がいいよ、すごく生き生きしてる」
優莉愛さんってコミュ力高いよな、一華となんて従姉妹のお姉さんみたいな関係に見えちゃうよ。
「ところで優莉愛さん、今日はどの様な要件で来られたんですか?」
「コネクトの件、ワタシが引き受けもいいかしら?」
「えっ、ええー!? やって頂けるんですか? 拙い内容なんですけど、すごく有難い話しです。商店街の皆さんもきっと喜んでくれると思います!」
「ホントキミは自分の事の様に喜ぶんだね。でもね、確かに内容は色々と見直しが必要だわ、ウチのプロジェクトに加わることはかなり難しいとは思う」
「そっか、そんな簡単にはいかないですよね、小鳥遊HDの街づくりに加えてもらうなんて虫が良過ぎたか」
「よって只今から清高商店街プロジェクト″コネクト″を発動します! これはワタシ個人が立ち上げるプロジェクトよ、チームは3人しかいないし、一朝一夕ではいかない困難な道になるけど、ワタシは新しい風が吹くのを感じたよ」
「プロジェクトとしてやってくれるんですか! やった! 嬉しいな、ありがとうございます! 優莉愛さん、どうか清高商店街をよろしくお願いします!」
「人ごとの様に言ってるけど3人のウチの1人は響ちん、キミだからね」
「ええー!!」(一同の叫び声)
「ユリちゃん、響ちゃんは高校生よ、そんな大それた事はできないわ」
「大丈夫よ栞さん、ワタシの手伝いのようなもんだから、バイトで雇うし」
「お姉タン、バイトの範囲じゃないのだ」
「響ちんなら出来るわよ、既に実績もあるしね。それに社員にする事も可能だけど、色々制限があるし、試験や面接も受けなきゃならないから面倒なのよ」
「俺がプロジェクトの一員?」
「やってみなよ響介、アタシも出来る事あったらお手伝いするから」
「ありがとう花音。優莉愛さん、御指導ご鞭撻の程宜しくお願いします!」
「こちらこそよろしくね」
「優莉愛さん、もう1人は?」
まさか槇斗か?
「健吾だよ、会ってるでしょワタシの連れ、高梨健吾よ。″たかなし″違いでウケるっしょ。まだ伝えてないんだけど大丈夫、彼、ワタシに逆らえないから」
こわっ、パワハラじゃないよね? もしかしてあの人普段からこういう扱いされてんだろうか。
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「と、言う訳で、詳しい話しは後日連絡するわね、それじゃ帰る前にちょっといいかな、栞さん。あの喫茶店行こうよ」
「フフ、好きね、あのお店。準備してくるから待ってて」
ホントにお義母さんの言った通りの展開になったわ。昨日お義母さんから電話があった、ユリちゃんが来るって。響ちゃんに用事はあるのだろうけどユリちゃんが本当に会いたがってるのは私だろうって。一体何を聞いてくるのかしら。
《栞、明日ユリがアンソレイユに行くみたいなの。響介くんに用事があると言ってたけど、本命はアナタよ。アンソレイユと栞が抱えている秘密に気付き始めてる》
《なんでそんな事になったの?》
《実はね、響介くんの事ユリにお願いしていたの。そのせいで響介くんが大変だったらしくて申し訳なかったわ。その時に響介くんのお友達や一華達が手伝いに来ていたらしいのだけど、その中にあの子、桐島花音がいてそれで気付いてしまったらしいわ、2年前の計画が中止になった理由に》
《お義母さん、気にし過ぎでは? 花音と会っただけで気付くとは思わないのだけれど》
《ユリとはウマが合ってね、付き合いも深かったからお互いに色んな話しをしたの、身の上話もね。だから私の元旦那の事も、アンソレイユを建てたのが慶太郎だという事も知ってるの》
《それにしてもこの件を探ってどうしようというの?》
《そこまではわからないわ。でも覚えてる、あの計画を中止した時理由を追及してきたからね、周りは何とか誤魔化せれたけどユリだけは納得していなかった。ずっとモヤモヤしていたんでしょう、それが桐島花音というピースを見つけて彼女自身答えを見つけようとしているのかもしれない》
《お義母さん、私はどうすれば?》
《取り敢えず何聞かれても知らないフリをして。ユリがこの件に踏み込んできたらロクな事にならないわ、あの子は白黒ハッキリさせないと気が済まない性格だから》
ホントにお義母さんの読み通りになるなんて。前から思っていたけど正直ワタシはユリちゃんが苦手。心の中を見透かされてるんじゃないかと思う時があるの、元々持っている鋭さだけではなく、あの歳で相当な修羅場を経験してきてるらしいから。
それにしても流石はお義母さんの懐刀、お義母さんも言ってた、鋭利過ぎて扱い方を間違ったら、いつか自分が斬られるんじゃないかもしれないって。
ユリちゃんと向かったのはこの街に古くからある喫茶店。コーヒー豆も売っていて昔のままの店内は時を遡った感覚を味わえ、今も尚このお店のファンは絶えない。
「急にゴメンね栞さん、コッチに来たら必ず寄るんだこの喫茶店。いいよね、この昔ながらの雰囲気。紅茶好きの栞さんへの当て付けじゃないからね! ワタシそこまで性格悪くないから」
「フフ、大丈夫よユリちゃん。私もこの雰囲気好きよ、それで話って何かしら?」
「回りくどいのは嫌いだから単刀直入に聞くね、桐島花音は現桐島グループの社長の娘ね、つまり社長令嬢……あの子がなんでアンソレイユにいるのかその理由教えてもらえないかな。プライバシーの侵害なんて言わないでよ。ワタシはね、栞さんが花音ちゃんに何か負い目を感じているか、庇わなきゃならない理由があるんだと思ってる、そうじゃない? だから一枝さんはあれだけ意気込んでいた計画をやめた、栞さんの為にね」
ほんと恐ろしい子ね、生まれる時代間違ったんじゃないかしら。戦国時代なら天下取りに加わってそう。
「これはプライベートな事よ。言い方悪いけどユリちゃんにそこまで話す理由はないわ」
お義母さん、私は知らないフリなんてしない。ユリちゃんにそれをするという事は、獣に背中を向ける行為と同じようなもの。すぐにバレて隙を突かれ、本当の事を言わなくてはならない状況に追い詰められるのは目に見えている、ならば真っ向勝負よ。
「ユリちゃん、アナタは人の家の家庭の事情に、土足で踏み込んでくる様な礼儀知らずな人間なのかしら?」
「うわっ! 怖いなあ栞さん、鳥肌立っちゃったよ。一枝さんに言われてたんだ、栞さんを怒らせるなって、アンタなんか一瞬で消されるよって」
消されるってお義母さん……。
「ゴメンね栞さん、言い方悪かったね。ワタシ思い立ったら爆進しちゃうタイプでさ失礼だった、ゴメンなさい。でも知りたいんだ、だって今日だって思ったもん、アンソレイユはあったかいなって、ホント陽だまりのようだよ。だからこの場所を、土地を巡る争いで煮えたぎる様な火溜まりにはしたくないって思ったんだよ」
ユリちゃんそんな事思っていたの?
「なんかね、視えるの。その争いに巻き込まれる響ちんの姿が。今回の件でわかったような気がするんだ、栞さんのお気に入りで一枝さん程の人が気に掛けてしまう響ちんの人間力。でもねこのまま進んだら響ちんは壊れるよ」
「そんな! 巻き込んだりなんかしないわ! それにそんな事望んでなんかいない……」
ホントに? どうにも出来なくて、その時が来ない事を祈ることしかできない未来を誰かに変えてほしいんじゃないの? 慶太郎が生きていたら絶対何とかしてくれていた、だから時折慶ちゃんと重なる響ちゃんに何かを期待してしまっていたんじゃないの?
「会った事もないのに一枝さんに気に掛けられ、ワタシにも見込まれる程の男だよ、この秘密にいずれ気付くよ響ちんは。そして夢野と桐島という2つの巨大な歯車に立ち向かって行くんだろうね、だってそういう人間じゃん。それに一枝さんだって本音はこの土地を手に入れたいんだから、桐島の独壇場にしない為にね」
もう何が正しい道かわからない。
「知ってるとは思うけど花音と慶太郎は母違いの異母兄妹なの」
お義母さん、違うよ。ユリちゃんはきっと守りたいんだよ、来愛と響ちゃんがいるアンソレイユを。
「それは知ってるよ、後妻さんは慶太郎さんが桐島家から出て行った後に来たんだよね、そしてお父さんと慶太郎さんは縁を切る程仲が悪かったって聞いてたよ。だからその後慶太郎さんは母方の苗字に変えたんだって。だから花音ちゃんとは兄妹というだけで会ってもいないし、気に掛けるような存在ではないと思うんだけど」
「ううん、凄く仲が良かったの慶ちゃんと花音は。お義母さんそこまで言ってなかったのね。ウチに連れて来ることはなかったけど、慶ちゃんは花音をよく遊びに連れて行ってたわ、勿論お義父さんには内緒で。だから花音もすごく懐いてたらしいの」
「だったら桐島の狙いは花音ちゃんを栞さんに懐かせて、栞さんを桐島寄りにさせようとする作戦でアンソレイユに?」
「花音は慶太郎が住んでいた場所も家族が誰かも知らないの」
「えっ? 仲良かったのになんで?」
「慶ちゃんが花音を遊びに連れ出した理由は、桐島でのあの子の扱いが酷過ぎたからなの、だから慶ちゃんは尚更自分の家族の事は話せなかったんでしょう」
「それなら今教えてあげてもいいんじゃない? 大好きだったお兄ちゃんの家族でしょ?」
「言えないわ、だって花音にとって慶ちゃんは1番の心の拠り所だった、でもその人には自分ではなく、帰る場所がある。花音がそう思っていたとしたら私達の存在を良く思っていないかもと思って言い出せなかったの」
「複雑だなー」
「仮に違って花音が私達寄りになったとしたら、兄を追い出し自分を苦しめる父親の所には2度と戻らないと思う。そうなっても私は花音を庇うけど、向こうにとってはそれが攻めて来る口実になりそうで言えなかったの」
「優し過ぎるよ栞さん、だからそこにつけ込まれたんだよ。一枝さんが計画に移ろうとした時、その板挟みになる花音ちゃんを守った。あの計画を止めたのは栞さんだったんだね」
「うん、ウチに来た時の花音は心が荒んでた。そんな時に大人の勝手な争いに巻き込みたくなかったの」
「そっか、そこを突いてくるなんて桐島には相当な切れ者がいるね、でもなんの為? うーん、時間稼ぎか。確か花音ちゃんがアンソレイユにいるのは18歳までって来愛が言ってたような」
「そうよ、18歳になったら花音はあの家に戻る事になってるわ」
「そっか、読めたぞ、どこぞと政略結婚させる気だな、それまでの準備期間が欲しかった訳だ。となるとこれが成功したらかなり力をつけそうだな桐島は、きっとそんな相手に接近していると思うね」
「そうなの? 代替わりして下降気味と聞いていたけど」
「盛り返してくるよ、これ程の策を仕込んでくるヤツがいるんだ、ただの時間稼ぎじゃあるまい」
「何か顔が怖いわよユリちゃん」
「話してくれてありがとう栞さん。来愛もお世話になってるし困った事があったら連絡してね、一枝さん以外のルートも持ってた方がいいよ」
「ありがとうユリちゃん、心強いわ」
「それにしてもホントいい所だねアンソレイユ。来愛も生き生きしてる、でももうあの時の来愛には2度と会えないんだろうな」
「あの時の来愛?」
「ううん、何でもないよ。それよか一華、随分雰囲気変わったね、何かあったの?」
「フフ、響ちゃんかな? 直接は聞いてないけど響ちゃんが変えてくれたんだと思う、一華も花音もね」
「えっ、花音ちゃんも?」
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響ちんって何気に凄い? もしかして響ちんなら本当の来愛を見つけてくれるだろうか。
栞さんを送った帰り道、やっとあの日のモヤモヤが晴れてスッキリした感と、これから確実に起こるであろう、あの土地を巡る権利争いに憤りを感じていた。何でよりによってアンソレイユなのよ、他の場所ならここまで気にならなかったのに。
そして響ちんはこの世界に足を踏み入れてしまった。レールが繋がっていく、この流れはあの子をどこに連れて行こうとしてのか、きっと遅かれ早かれ火溜まりの権利争いに巻き込まれるだろう、いや、あの子は自分から突っ込んで行くタイプか。
商店街の事は見事だったけど圧倒的に知識と経験値が足りない、しかも今度の相手は企業だからね。
あの時のワタシの様に潰される? そりゃそうだよ相手が悪い。
いや、違うか、そうはならない。だってあの時のワタシと響ちんには決定的な違いがあるじゃない。それは、あの時ワタシは1人だった。味方は1人もいなく孤独な戦いだった、でも響ちんにはワタシがいる、1人で闘わせたりなんてしないから! 育てようワタシが、響ちんに桐島と夢野と渡り合える力をつけさせるんだ。
《最年少でプロジェクトリーダー任されたからなんだってんだ、お前みたいな小娘の言う事なんて聞けるか!》
《皆んなで作り上げるだ? 夢見てんじゃねーよ、そんな綺麗事でメシ食っていける程甘い世界じゃねーんだよ、お嬢さん!》
いや、それだけじゃ足りないわね、ワタシにとってもきっとある意味リベンジになるわ、この闘い。あの時のヤツらに言ってやりたい、いるのよここに、綺麗事をやってのけるほど熱い情熱を持った男が。
決めたわ、みてらっしゃい! ワタシが響ちんを、小鳥遊までも飲み込むほどの化け物に育ててみせるわ!
響介の凄さを目の当たりにした優莉愛は、その人間力に惹かれていく。そしてある淡い気持ちが胸の中を駆け巡る、響介なら本当の来愛を見つけてくれるのではないかと。来愛が隠した自分自身を殺した過去が今、明かされようとしていた。
第36話 アイアンメイデン〜あの日の君を探して〜前編 1/12 お昼に更新します!




