第27話 優柔不断なあの子
今日は珍しく皆んなが家にいる日曜日だ。
一華の部活があったり誰かれか出掛けて皆が揃って家に居る事は滅多にない、そこで栞さんから提案があった。
「お天気もいいので近くにオープンしたジェラート屋さんに皆んなでいきましょうか」
という事で総勢7名で出陣、何やら広いウッドデッキのテラスが素敵で雰囲気がいいらしい。
「アタシのリップ知らない?」
「テーブルに置いてたボクのスマホがにゃい!」
「ママ、髪結んで!」
この人数で出掛けるとなると既にガヤガヤと騒がしくてすぐに出発できないが、これはこれで何か楽しい。
なんだかんだで家を出たのは30分後、店に着いたが既に行列ができていた。オープンしたばかりの日曜日なだけあり、かなり混んでいる。
「スマホでメニュー見られるから予め決めておきましょうか」
栞さんに言われ皆んなで見始めたがウチは俺以外女子なわけで、メニューを見た途端一気に会話が色めき立った。やっぱ女性はこういうの好きだね、俺はすぐに決まったので時間を持て余していた。
あれ? 一華が大人しいぞ、無言でスマホの画面をメッチャ睨んでる、俺はふと思い出した、2人でスポーツ店に買い物に行った時の事を。
あの時は部活で使うシューズだったので決めるのに時間掛かっても仕方がなかったと思うが、ジェラート決めるくらいなら、この待ってる間で決められるはずだよな。
ようやく順番が回ってきて皆予め決めていたものをそれぞれ頼んでいく。だが未だ決め切れていないものが1人、やはりお前か。
「一華、混んでるから早めにお願いね」
「今日は悩んでられんよ一華、見てみな後ろの行列」
美優さんに言われ振り返ると待ち人の視線が痛いな、さっきより人増えてるよ。
「はう、わ、わかりました、えっと‥‥‥」
あれだけ時間があって真剣に考えてたはずなのに、一華の脳内では何が起きてんだろう、覗けるなら見てみたいもんだな。
一緒に住んでからわかってきたが学校などではサッパリ、キッチリ、キッカリな一華だが、ことプライベートの買い物になると途端に優柔不断少女になってしまう、しかも重度のだ。
「えっと、あの‥‥‥」
こりゃダメだな、見てられんわ。
「栞さん、会計して先に食べてて下さい。俺達並び直します」
「えっ? さっきより人増えてるわよ」
「大丈夫ですよ、逆にそのくらい時間があった方がいいかな」
「わかったわ、それじゃお金渡しておくわ、響ちゃんお願いね」
「一華、並びなおそう」
俺は一華の手を握り最後尾へ連れて行った。
「えっ、待って、響介!?」
俺は一華に以前聞いてみた、何で決めるのにそんなに時間が掛かるのか。
《それぞれ違った魅力があるから絞れないの、それにね、焦って決めたらいつも後悔する結果になっちゃう》
それぞれの魅力か、俺には無い考え方だったからか記憶に残っていた。
美味しい物食べに来たのにあんな困った顔されちゃ、ほっとけない、ちゃんと決めて笑顔で食べてほしい。
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「あれ? 響介は?」
「一華が決め切れなかったから2人でまた並び直したみたいよ」
「ウソでしょシオりん、行列もっとヒドいことになってるじゃない」
「なんかね、決められない一華を見兼ねた響ちゃんが一華を最後列へ連れて行ったわ、妹の面倒みるお兄ちゃんみたいで微笑ましかったわ、フフ」
「なんですって、ここはお姉ちゃんも行かなくてわ!」
「ダメだよ花音、アンタ最近、響介独り占めし過ぎだから」
「美優姉、そんな事ないわよ」
「独占禁止法だよ」
「そんなー!」
「だったら花火の日何してたのか教えてもらおうじゃないか、私も1枚噛んでた事だしね、フフフフ」
「そ、それはですね、今はちょっと話せないと言いますか……」
「だったら今日は大人しくしてな」
「は、はい」
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「あ、あの響介? そろそろ手を‥‥‥」
「ああ! ゴメン! 握ったままだった」
「どうして並び直したの?」
「折角美味しいもの食べるんだから、ちゃんと悩もうぜ、迷惑だった?」
「そんな事ない、アタシこそゴメンね響介まで巻き込んでしまって」
「それよりさ、どれで迷ってんの?」
「えっとね」
何か不思議な感じがする、いつもならこんなアタシに皆んな慣れてるから、先に注文しちゃってゆっくり選びな的な感じだったのに、それはそれで逆に焦っちゃうんだよね。でも響介は一緒にいてくれて、ちゃんと悩みなって‥‥‥普通急かされる場面なのに。
札幌のスポーツ店に一緒に買い物行った時もそうだったけど、響介といると時間の流れがゆっくりで穏やかだ、凄く落ち着く。
「もうそろそろだけど、決まりそう?」
「えっとね、もう少しなの、苺かブルーベリーでまだ迷ってるの」
「次のお客様どうぞ!」
「え、あ、あの‥‥‥」
どうしよう、並び直したのに。
「それじゃあ、苺とブルーベリーでお願いします、あと分けて食べたいんで容器2つお願いします」
「響介!?」
「かしこまりました、少々お待ち下さい!」
「響介、今のって両方アタシが食べたいヤツじゃ……」
「俺も食べたかったんだ、だから半分コして食べようぜ、どっちも美味しそうだもんな」
「う、うん」
なんだろう変な感じ、いつものアタシじゃない。いつもならジェラート食べれるってテンション上がるはずなんだけど、何か胸が騒がしい。
「テラス席一杯だな、栞さん達はもう居ないしな、食べ終わったから近くのスーパー行くってメッセ入ってたわ」
「う、うん」
何か変に意識しちゃって素っ気ない返事しか出来ない。
響介は何でこんなに優しいのだろう、彼の優しさは他の人と違う、あったかい。
「混んでるな、席どこも空いてないや」
「あそこがいい、あの大きな樹の木陰にしようよ」
「地べたに座る事になるけどいいのか?」
「草だから大丈夫だよ」
彼は一緒にいたらいつもアタシの事を心配してくれる。
「大きな樹だな、こういうとこに座って食べるのもいいかもな」
「うん、風が気持ちいいね」
「それじゃ、半分コだ、はい」
「……」
「あ、ゴメン雑だった? こういうの苦手で、ハハ」
ワザとでしょ、どう見てもアタシの方が多い半分コ。
「美味いな、カットされたフルーツの存在感が凄い、食べごたえあるね」
「うん、この丸ごと感がいいよね、どっちも美味しい、ありがとう! でもホントは何食べたかったの? 響介は」
「うーん、特になかったかな、だからコレでも全然良かったんだよ」
《響、アンタ果物苦手でしょ?》
《そ、そんな事ないよ! なんでも食べれるさ!》
《そ、じゃあ私の苺あげるわ》
《す、すいませんでした‥‥‥酸っぱいのは苦手です》
《ハハ、それがいいのに》
響介が来た始めの頃そんな会話してたよね? アタシ覚えてるんだよ、酸味のある果物苦手だって。だから決めきれなかったアタシの為にウソついてるんだよね、響介はウソまであったかい。木漏れ日みたいに柔らかくてあったかい優しさ、安心するな。
アンソレイユの皆んなといるのは好き、だけど外食や買い物は1人がいい、時間掛かって待たせちゃうから、大丈夫って言われても落ち着かない。
でも今日は違った、今とっても穏やかで優しい時間が流れてる。ジェラートもゆっくり味わえる‥‥‥楽しい。この楽しい時間を作ってくれたのは響介なんだよね、いいなあ、こういう人、響介がヒビキだったら良かったのに。
彼といると心が浮き足立つ、それはアレに似ている、そう春の訪れに、アタシの大好きな季節に。
長い冬が終わり柔らかな春の日差しに香る土の匂い。春を祝う様に舞う桜の花ビラはアタシの心の中にも舞い降りる。
この感情は何だろう、懐かしくもあり切なくもあるこの気持ちは。
でも同時に思い出すのは遠い過去に置いてきた心の欠片。響介に惹かれるほどに濃さを増す心の陰、それは誰かを好きになる事を生贄にしたアタシのヒビキへの贖罪。
でも、もう終わりにしよう
ゴメンねヒビキ、キミにした事は、あの時傷付けてしまった罪は消えないし、何処かで会えたらちゃんと謝るから、だからもうキミとはサヨナラすると決めたよ。勝手でゴメンね、ホント酷い人間だよね、恨まれても仕方ない、でもこの気持ちは抑えきれないの。
走る事がまた好きになった、そしてまた好きな人ができたの。
その人はね、きっとどんなアタシでも受け入れてくれる。あの公園の大きな樹の下にいた時のような心地良さで包んでくれるの。
アタシは響介が好き、だからもう行くね、軽くなったこの足で彼のところへ駆けて行きたいから、さよなら、ヒビキ……。
「ねえ、響介。もうちょっとで夏休みだよね、休みに入ったらさ、また一緒に札幌行かない?」
「また何か買い物か? あっ、ケーキビュッフェだな」
「ビュッフェもいいね、それも行こう。つまり、その、デートしようよ!」
「へー、これも乳繰り罪になるのかしらね、一華さん」
「ひゃっ! か、花音!? いつの間に!」
「じゃあ同罪で、響介容疑者を連行しましょうか、言い訳はアンソレイユで聞きましょう、取り調べはアタシの部屋でするわね」
「いや、待て、落ち着け花音!」
「やはり職権濫用しましたか一華巡査部長、任意同行お願いするにゃ」
「ほら、冗談はそこまでよアナタ達、食べ終わったようだからそろそろ帰りましょう」
残念、もう少し響介と樹の下で穏やかな時間を過ごしたかったな。花音ってば絶対響介の事好きだよね、花火の日2人で何してたの? 響介は花音の事好きなのかな?
アタシが入り込む余地はまだあるのだろうか、ダメだよ弱気になっちゃダメ。
「花音!」
「何、一華?」
「響介と付き合ってるの?」
「は? な、な、何言ってるの? そんなわけないじゃない!」
ふーん、こんなに動揺するのは怪しいな、何か隠してる?
「ホントに?」
「当たり前でしょ、何でそうなるのよ!」
でも好きなんでしょ、響介のこと。
「だったらアタシと響介がどういう関係になっても文句言わないでよ、行こ、響介!」
「おい、一華!?」
「わお、こりゃ宣戦布告だ、面白くなってきたな、花音、だから言ったろ? 独占禁止だって」
「な、な、なんでよー!」
「なあんだ、花音タンに遠慮しなくても良かったんだ、だったらボクも響介くん争奪戦に参戦するにゃん! 待つのだー、巡査部長! これ以上罪を重ねるんじゃにゃい!」
「来愛まで!? なんでー!!」
「アハハハ、響介早く! 追いつかれちゃうよ!」
「一華、車に戻らないと……もう、しょうがないヤツ」
花音のあの驚いた顔、最高!
「決めた! 陸上も響介も譲らないよ!」
「何だって? 聞こえないよ、1回止まろう一華」
「ヤダ! もう止まらないから!」
その後ママに怒られた、すぐ帰れなかったからスーパーで買ったアイス溶けちゃったでしょって。
さっきジェラート食べたじゃん、ママもまだまだ子供だね。
今日はね、響介のお陰ですっごく楽しかったんだよ、始めは皆んなで行くって言った時、不安だったの、アタシはいいやって思ってたけど1人だけ行かないのも雰囲気悪くしちゃうかなって思って結局断れなかった。
案の定美味しそうなのばかりで決めきれなくて、また皆んなに迷惑かけちゃってるって思ってたら、響介がアタシの手を握ってもう1回並ぼ? って、針のムシロの様な場所から笑顔で助け出してくれた。あの状況は辛かったからジェラートの国に現れた王子様かと思ったよ。
また考える時間が出来たのに決められなかったのはね、他の事考えてたから。あんな風に助けられたら意識しちゃうじゃない。
ねえ響介、もう最後の1歩越えちゃったよ、あの日から育った気持ちは満開に花開いたの。
スタート切ったら全力だからね、花音、来愛、負けないよ、覚悟しといてね!
過去を吹っ切り天真爛漫な少女へと変わっていく一華はまた新しい一面を見せる。今度は響介とクワガタ捕りに行く事に。他の女性陣は虫が苦手な中、そんな一華と意気投合する響介。それに危機を感じた花音は嫌々ながらも2人きりにさせたくない思いから一緒に行こうとすると結局皆んなで行く事になった。
第28話 真夜中のデート 12/3 お昼更新です!




