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陽だまりのセプテット  作者: ÷90
第1章 邂逅

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22/26

第22話 この想いが届かなくても


 プニプニ、プニプニ。

「何をしているのですか、あなた達は」

美優と来愛とココに顔とか腕とか色々プニプニされているのだけど……。


「なんなのよ! もう!」

「怒った」

「怒るでしょ! フツー」


「でも、いつもならさー、触らないで! とか、(さげす)んだ目で一瞥(いちべつ)くれるイメージなんだけど、アンタ、ホントに一華?」

「まさか、宇宙人にマインドコントロールされたかにゃ!?」

「宇宙人って来愛ちゃん。えっ、まさかポップコーン……クィーン?」

「なにそれ、ココ」


「ココの絵画の先生がお兄ちゃんのお友達なんだけど、先生が言うにはね、お兄ちゃんはポップコーンキングの体を乗っ取ったらしいの、だからお姉ちゃんもそうなんだとしたらポップコーンクィーンかなって」

「ココ、先生替えた方がいいと思うが?」


「響介くんがキング!? だったらボクはポップコーン? ポップコーン……」

「来愛、無理に張り合わないでいいから。それよりも、今のツッコミ所満載な話しを本気にするなよ」

「ポップコーンセクシーにゃ!」

「聞けや! そのエロい身体でやったら反則だからね」


「それよりもさ、来愛、ココ。どうせなら改造しちゃわなーい?」

「どっかで聞いたようなセリフにゃ」

「おもしろそー!」

「ちょっと、ココ! 皆んなもやめてよー」


「髪型は、どうする?」

「可愛いくしたいから、ココはツインテがいい!」

「メイド服持ってきたにゃ!」

「ヨシ、皆の者かかれー!」

「イヤー! ヤメテー!」


———


「何してんの皆んな? 朝から騒がしいんだけど」

「おはよう、響介くん、一華を可愛くしてたにゃん!」

「きょ、響介!? ダメよ、来ないでー!」

「一華、暴れるからパンツ丸見えだよ」

「キャー! ウソ、ウソ、ウソー!」

「苺のパンツがね」

「違う! 今日はピンクの……って、何言わせんのよー!」

「響! ピンクだってさ、見えた?」


 朝から何やってんだ? この人達は。

「見たの? 見たのね? 見たんだからね!」

言葉おかしくね? 一華さん。

アレ? 一華、戻ってない……。


「それ位にしたらどうなのかしら? アナタ達」

「ママ、助けて! 皆んなでアタシを(いじ)めるのよ、偽物だって」


「はい、そこまでよ。一華、着替えてらっしゃい」


———


「一時的だと思うわよ。今まで抑え付けられていた事から解放された反動による幼児退行かもしれないわね」


「栞さん、それって普通、逆じゃね? 極度のストレスや不安が生じた時になるやつじゃん」

「さすが、一応、大学生だけあるにゃん」

「一応じゃねーよ」


「んー、だったら、アレが本来の一華ね」

「アレが!!」(一同の声)

「小さい時にソックリよ」


「だったらこれからの一華、ずっとあんな感じなん? 面白そう!」

「美優、不謹慎よ。一華だって戸惑っているでしょうに」

「スミマソ」


「一華が落ち着くまでは、皆んなもあまり刺激しないでね、特に、美優!」

「う、うぃーす」


———


 栞さんはココを連れて買い物に行った。

 一華が着替えてリビングに来た、部活休みだったのか。


「さっきはゴメンよ、一華。で、何があったんだい?

 お姉さんに聞かせてみ?」

この人は、そっとしといてと言われただろうに。


「えっと、なんかね、ずっと(つか)えてたものが、取れたって言うか、スッキリしたと言うか」

「つまり、ポップコ……」

「来愛、黙りな」

コヤツもか。


 もしかして美優さんは心配してるのか? ここではやっぱお姉さん的存在なんだな。

「それで、昨日帰り遅かったがどこまでいったんだい?」

「えっとね、まずはスポーツ店行って……」

「違う! そういう意味じゃないんだ、一華。若い男女が夜に帰って来てスッキリしただと?」

何言う気だコヤツ。

「響介とどこまでヤッたか聞いとるんじゃー!」

このエロババアー!

「や、やったって、何の事言ってるの?」

「しらばっくれるんじゃない! にゃんにゃんしたんでしょ!」

オマエもか、来愛ー!


「いい加減にしろーー!!」

「響、落ち着けって、これはだな」

「黙れ美優!! 刺激するなと栞さんに言われただろうが!!」

「わ、わ、わかった、わかった、ス、スミマソ」

「スミマソだ!?」

「す、すみませんでした!」

「あの美優タンが怯えているだと!? 響介くんが、覇気を(まと)ってる……これが、ココが言ってた、ポップコーンキングなのにゃ?」

「来愛!!」

「ヒィー! お助けを!」


「響介、もういいから、大丈夫だよ」

「一華、無理すんなよ。でも、一夜明けたら元に戻るかなって思ってたりしたんだけど」


「前のアタシの方が良かった?」

この子はまたそういう事を!


 ヒソヒソ

〈イチャついてるよアイツら、ワタシらいるのにさ、これがアレかい? 2人の世界ってヤツかい?〉

〈一夜明かしたとか言ってたにゃん、やはり2人はもう……〉

コイツら全然わかってねー。


「なんかね、わかんなくなっちゃった。前のアタシ……エヘヘ」


「いい! カワユス! 今の一華でいいにゃん!」

「これはこれで良しか! めでたし、めでたし」

「めでたしじゃねえだろー!」

「何でだよ、響!」

「そうだ、そうだ! 今の一華をもっと近くで見るにゃん!」

来愛に引っ張られ、一華の顔が目の前に!

一華ってこんなに()が大きかったっけ?

驚いてるからか?


「やめろや!」

「えっ、嫌なの響介、アタシの事」

何言ってんの!? 一華さん!!

これはダメだ! 一華って天然要素あったんかい!

は、話しにならん!

破壊力有り過ぎるだろ、一華の天然爆弾は!

加えてあの2人はマズい。コイツらを黙らせられるのは花音しかいない! 花音……。


      何で胸が痛くなるんだよ


「そういえば花音は?」

「寝てるんだろ、朝帰りしてたっぷり怒られてたからな、栞さんに」

「一華、隙ありにゃ!」

「な、何すんのよ、来愛!」

「可愛いから、イチャイチャしたいにゃ」


 俺は気付いてないだけで花音に何かしてしまったのだろうか。

でも、いいや、こういう事を考えるのはやめよう。

とうの昔にやめたじゃないか。


《ちょっと話し掛けてやっただけなのにさ、その後から話し掛けてくるんだよ、友達じゃねーての》


《気安く話しかけんな、この前の体育は組む相手がお前しか残ってなかったから仕方なくだったんだよ!》


 アレ以来、何もかもに自信がなくなっていった。

勇気を出して行動しても、何も変わらなかった。


 人の心なんて、解んないし、すぐ変わる。そんなもの考えるだけ、期待するだけ無駄なんだよ。




 何言ってんだ、俺? 槇斗に聡士先輩に何言った?



       俺、矛盾してないか?



 気持ち悪くなって外に出た。

 俺は変わったんじゃないのか、変われたんじゃないのか? だったら何でまだ同じ事を繰り返してる?


 人を諭す様な事をしてきたクセに自分の事がわかってなかった。

 人にどう思われようが関係ないだと? それ以前の問題じゃないか、ホント馬鹿だ俺は。

 


 前も似た様な事あったな、その時隣には……。



======


 うるさいわね、全然寝れないじゃないの。

 日差しが庭を照らす。裏庭の花壇の花達は、日頃お世話をしてるシオりんの気持ちに応える様に、今日も元気一杯に咲き誇っている。毎朝、ベッドの窓から見るこの風景が好き、でも今日の朝は寝起きの朝じゃないけど。


 朝帰りはマズかったかな、振られた聖奈(せいな)慰めてたら、帰るに帰れなくなって聖奈の家で朝まで愚痴を聞かされてた。


 久しぶりに怒られたよシオりんに。

でも嫌いになんて絶対ならない、だってあの人は優しさの塊の様な人だもの、迷惑掛けてゴメンね、シオりん。


 朝、一華とすれ違ったけど、一目で分かったよ変わったなって。目の輝きが、表情がまるで違うもの、目を疑うくらい。きっと響介が何かしたのでしょうね。


 アナタ達が楽しそうでそれはそれで嬉しいわ、でも、アタシはもうあの輪の中には戻らない。


 お婆様にあの家から逃してもらってここに来たけど、果たしてあの人が18歳になるまで、大人しく待っているだろうか。

 そろそろ潮時かしら、これ以上ここにいたら離れられなくなってしまいそう。


 響介がカッターで切られたと聞いた時は、ソイツが憎くてたまらなかった。あの時止められなかったらアタシは何をしていたのだろうか。


 でもその時に気付いてしまった、響介を想う気持ちに。


 それは、抱いてはいけない感情だった。


 アタシはいずれ、あの家に戻される。あの家で必要なアタシはあの人の戦略的な駒。幼い頃から徹底して教育されてきた。容姿を磨がき、あらゆる教養を叩き込まれた。男がこぞって欲しがる一級品の女になれと。


 いつの世も女は武器になる、器量、教養、才もある女ならば尚更だ、父は口癖の様に言っていた。

 大方、成り上がる為に自分が有利になるような所と、アタシを政略結婚させようとしているのだろう。


 桐島家は不動産業を営んできたが曽祖父の代で事業を多角化し、お婆様の代で成功を収めた。

 実の娘でも非情に扱う父はその桐島のトップに君臨する。しかしお婆様が築いた地位と権力を失墜させた無能な男。でも悪知恵は働きその卑劣極まるやり方で、自分の失敗をお婆様のせいにしてお婆様を表舞台から引き摺り下ろした。


 だけどお婆様が表舞台から去ったもう1つの理由は

アタシ。


 感情を押し殺し、父に従い人形の様に振る舞うアタシを不憫(ふびん)に思ったお婆様は、18歳までは自由に生きさせてやって欲しいと、父に家督を譲った。

 そんなお婆様のお陰でアタシは15歳で初めて自由を得た。


 信頼できる知り合いからの紹介だと、アンソレイユに連れて来られた。ここでなら何の心配もなく、自由に生きられると。


 でも、あの家で過ごした長い年月の中でアタシの心は(むしば)まれていた。(すさ)んだ心のまま来たアタシはアンソレイユの皆んなに、沢山迷惑かけちゃったな。でも、そんなアタシをシオりんは見放さなかった。どんな時でも手を差し伸べ、時には抱きしめてくれた、美優姉も皆んなも優しかった。


 その後も父は、桐島家復興の為とは名ばかりで、自分の私利私欲の為に手段を選ばない卑劣なやり方で、失った地位と権力を取り戻そうと躍起(やっき)になっていた。


 綺麗になっても、何が出来きても当たり前で褒める者なんていない。料理が上手に出来ても美味しいなんて言われた事もない。駒として育てられた人形に


        心なんていらない


 そう思って生きてきたアタシにとって、アンソレイユは人でいられる場所になった。


 それで良かったんだ、3年後あの家に戻されたとしても、ここで暮らした温かい思い出があれば。


   なのに、響介、アナタと出会っしまった


 思い出は持ち帰っても支えになってくれる。だけど感情はダメだ、それも響介を想う気持ちを捨て切れないまま、あの闇の世界に戻ったらアタシの心は耐えきれなくて壊れてしまう。

 

 そしてアナタはきっと、アタシを助け出そうとするだろう。


 でも(いち)高校生がどうにか出来る世界じゃない。

 あの男を敵に回す? 何されるわからないわ。

 響介に何かあったらアタシは……アタシは……。


 

      だから響介から逃げたの



 最初はね、何コイツって、思ってたんだよ。

変なヤツが来たなって。シオりんがどうしてもと言うから我慢してたけど初めは生理的に無理だった。年下だし陰キャ何てキモいだけじゃん、でもね、目の前で成長して行く響介からいつしか目が離せなくなっていた、不器用なのに迷いながらでも真っ直ぐに進もうとするアナタから。


 響介の生き方は嫌いだった。傷付きながらも、もがいて、人の為なら形振(なりふ)り構わないで、そして、また傷付いて、それでもまた進もうとするアナタは人形として生きてきたアタシには眩しかった。


 響介にアタシの生き方を否定された気がしてたんだ。


 それなのにアタシの価値観を壊し、生き方を否定したアナタに()かれていった。 

もっと知りたい、側にいたいって思うようになっていったの。


    でもね、アタシはもうここを離れるわ


 この想いがこれ以上大きくなる前にさよならするの


   アナタをあの世界に近づけたくないから


 

       人形だったアタシに


   恋をする気持ちを教えてくれてありがとう


    幸せになってね、響介

       

          








自己嫌悪に陥る響介だったが紗夜子の言葉で目が覚める。そして紗夜子から栞の事を託されるのだった。

その時に紗夜子から亡くなった栞の夫、慶太郎が着ていたスカジャンを渡される、お前が持っていろと。紗夜子が響介に託した想いとは?


第23話 慶太郎 11/9 お昼に更新です!

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