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陽だまりのセプテット  作者: ÷90
第1章 邂逅

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第21話 恋の1歩手前


「花音……」

胸が(うず)く、大丈夫だ、この痛みには慣れてるから、大丈夫だ……。


「気になるなら、どうぞ追いかけて行ってくださいな」

「いや、そりゃ気になるだろ、様子おかしかったら」

何か怒ってる? 一華さん。

「ふーん、そうかな? 今朝、夕飯いらないって言ってた位で、気になるような感じでは無かったですけど」

た、確かに! 俺に対する態度が変わっただけか!

なーんだ、良かった、よかっ……いや、良くないだろ!


「追いかけないのですか?」

「今は通ったから気になっただけさ、行こうぜ」

「うん!」

何かタイプ違うと思ってたが、似てるトコあるんだよな、花音と一華。


 移動手段は電車だが札幌まではそんなに遠くない、車でなら30分位だろうか。


——— 札幌 大型スポーツ店


「凄い広さだな!」

スポーツに縁のない俺にとっては全てが目新しい。

「おっ、キャンプ用品もあるのか!」

「フフ、響介、子供みたいですよ」


「だってさ、スポーツ店来たの初めてだからさ、しかもこんな大きな店」

「好きな所見て来ていいですよ」

「ちょっと見て来るわ、ちなみにシューズいくらすんの?」

「10万あれば足りるかと」

「じゅ、10万! マジで!」

舐めてた! 陸上部はセレブの集まりか!?


「アハハ、冗談だってば!」

ペシッ!

背中を軽く叩いて笑う一華は、クールの欠片なんて微塵(みじん)も感じさせない程、笑顔が可愛いかった。


「じゃ、ちょっと行って来るわ」

「はーい」

調子狂うな。普段から笑わない分けではない、何というか、微笑? 微笑(ほほえ)む感じだ。でも今日の一華は声を出して笑う、ホントに楽しそうに。来て良かったな、でも、あの無防備な笑顔は反則だろ?


 30分後、一華の所に行くとまだ悩んでいた。まあ、大事な相棒決めるんだもんな、すぐには決まらないか。

 1時間後、まだらしい。てか、見てる場所変わってなくない? 


 《響ちゃん、一華とお買い物行くんでしょ? 気を付けてね》

 気を付ける?


《何をですか?》


《えーとね、気を付けるというか、我慢するというか、長いのよ》

長い?


《あの子、昔から優柔不断なの、だからね、選ぶのとっても時間掛かるの》


 ああー、こういう事ね。やっぱり花音とは違うな、アイツだったら、これよ! これしかないわ! 運命の出会いね! みたいな事言って即決しそうだもんな。


 おや、メッセだ、一華じゃん。まだ決められない、もう少し待って、ゴメンね、か。

 気にしてるなら一華のトコへ行ってみるか。


「どうかな、お気に召されなかった?」

「あ、響介、待たせてゴメンね。良さげなのが幾つかあって迷ってるの」

今日の一華は話し方もフレンドリーな感じでいいな。


「値段は気にしないで。折角だから自分が気に入ったシューズを選んでよ。全国連れて行ってくれる相棒なんだからさ」

「全国へ連れて行ってくれる?」

「うん、性能とかもあるかわかんないけど、インスピレーションも大事じゃね?」

「うん、わかった!」


「居たら気になるだろうから、ちょっとブラブラして来るわ」

ピン!

えっ、シャツの裾を掴まれた。

「ん、どした?」

「あ、あのね、居てほしいの……」

ドキュン!!

胸を何かに撃ち抜かれた様な衝撃!!

視線を逸らして、照れながらシャツを引っ張る一華さんは、可愛い過ぎた!!

ホント、異世界に来てんじゃね、俺!?


「いいよ、ゆっくり選んで」

更に1時間が過ぎた。


「ゴメンね、響介、退屈でしょ?」

「いや、悩める美女をこんな近くで見られる特権与えられて、感謝しかないね」

「もう! でね、2足まで絞ったんだ、最後は、そ、その……」

何だ? 下向いちゃった。

「響介に決めてほしいの!!」

な、なんと……まあ、可愛い事を!!


 ヒソヒソ

〈青春してんなー〉

〈彼女可愛い! 羨ましいぞ!〉

〈こんなトコでイチャつくなよな〉


    絶対、異世界だろ! ここー!!


———


「ありがと、響介。ゴメンね、時間掛かっちゃって」


「お気に召されましたか、お姫様?」

「はい、とっても!」

大事そうにシューズが入った箱を抱えて微笑む一華に、また目を奪われてしまった。ホント、今日の一華は可愛い、感情も表情もその人の魅力になるんだな。


 話し方も態度もガラリと変わった一華に戸惑いながらも、その理由を聞くのをやめた。気にされて、元に戻ってほしくなかった、もう少しこのままの一華でいて欲しかったから。


 なんだろう、この胸の(ざわ)めき。なんだか、凄く懐かしい感じがする。


「お金出してもらって、ゴメンね。どうしても、響介に買ってもらいたかったの。ワガママ言って嫌いになったりしない?」

あー、もう! 今日の一華さん、言葉使いも可愛いし、シューズ抱きしめながら上目遣いは、もう、完敗です!

「ここまで喜んでもらえたら、俺も嬉しいよ」


「ありがとう! 大事にするね!」


———


「ねえ響介、折角札幌来たんだから何か食べて行こうよ」

「そうだね、一華は何か食べたい物ある?」 

何かいいな、これまでも一華と話す事はあったけど壁の様なものを感じていた。

 今は、友達って言える様な雰囲気だよな。


「実はね、行きたいお店があるんだ。ビュッフェなんだけどね、ケーキが沢山あるんだよ、軽食もあるみたいなんだけど、嫌かな?」

「うん、そこ行こっか」

「いいの? お肉とかないけど」

「今日は姫のお好きな様に。どこでもお供いたしますよ」


 店に着くまでの会話は他愛の無いものだったが楽しかった。今日の一華は何ていうか子供っぽい、笑顔もクールビューティーからは掛け離れた幼なさを感じる。

 ここまで変わった経緯はわからないけど、こんなに楽しそうな一華を見てると、こっちまで嬉しくなる。


「あった! あそこだよ! うわー、おしゃれなお店ー」

小走りで向かう一華。

「響介ー、早くおいでよー」

「ああ、わかっ……」



  《早く、早くー! 先行っちゃうよ、ヒビキ!》


     《速いよー、待ってってばー》

            .

            .

          


         ちーちゃん!

        

     


 ち、ちーちゃん……?


「どうしたの、響介?」

「あ、いや、な、なんでもない!」

今、頭の中をよぎったのは……。

「やっぱり別のお店にする?」

不安そうに聞いてくる一華。


「大丈夫! ちょっと、その、そう、栞さん! 栞さんに連絡するの忘れてたなー、て思ってさ!」

「ふふん、朝出る時に言ってあるから、大丈夫だよ、今日夕ご飯いらないって。ほら、行こ?」


——— 店内


「すごい沢山あるー、目移りしちゃうよー」

一華の目がキラキラしてる、女の子は甘いもの好きなんだな、アンソレイユの皆んなもそうだもんな。

あっ、例外がいた、ラーメンと肉が好きなヤツが。



「そ、そんなに食べられるの?」

なんかとんでもない量持って来てるぞ、お姫様は。

「大丈夫! ケーキとアイスはね、いくらでも食べられるよ!」

テーブルに所狭しと置かれた圧巻の皿の量。

この細い体でなんとまあ。


——— 1時間後


「た、助けてください……」

食べ切れるわけはなかった。

俺は栞さんの話しを思い出した、優柔不断。多分、一華は、食べ切れるかよりも、食べたい物を絞り切れず手当たり次第持って来てしまったのだろう。子供か!



「ふうー、何とか、食べ終わったな」

「ゴメンね、響介。殆どアタシが食べ切れなかった物を食べさせてしまって」

「ケーキはいくらでも入るんじゃなかったのか?」

ちょっと意地悪してみた。

「ううー、ゴメンなさい。でも最初は食べ切れると思ったんだもん」

「言い訳しない」

「お、おトイレ行って来ます!」



======


 楽しいな、響介のお陰で今日はすっごく楽しい!


 トイレを出た後、ふと、窓ガラスに映る自分の姿が目に入った。

そこには自分の目を疑ってしまうほど、にこやかな顔をした女の子が映っていた。


 えっ、誰? これ……。 

こんなニコニコして、鼻歌まで歌ってたよね。


 えっ、えっ!? もしかして今日ずっと、こんな感じだった? 響介の前で!? ウソ、ウソ、ウソー!!

恥ずかしくなって思わずその場にしゃがんでしまった。


「どうした、一華?」

しゃがんだアタシを見てか、心配して響介が駆けつけて来た。


 きょ、響介!? ダメ、見ないで!

「一華?」

やだ、むりむりむり!!

「いやー! 来ないでー!」

響介の顔、見れないよー!

「な、なんで!?」

どうしよう、アタシ、嬉しくて、浮かれ過ぎてた?

あの苦しさから解放されて、新しい走る理由ができて感極まってたのかな?


よくよく思い返せば、今日のアタシって子供みたいだよ!


「どうなされましたか、お客様!」

ヒソヒソ

〈痴話喧嘩かしら?〉

〈叫んでたわよね〉

〈痴漢よ、痴漢!〉


「い、一華さん!? 何、この展開……」


———


 アタシ達は店の人達に謝罪して逃げる様に店を出た。

「あ、あのう、響介。手、手が……その」

 お店を出る時、慌ててたからか響介がアタシの手を握って、そのまま外に。


「ゴ、ゴメン!」

「ううん、アタシの方こそ、ゴメンなさい!」

響介に迷惑かけちゃった。今日は凄く楽しい日なのに最悪な評価されそう。シューズ買ってとゴネるワガママ女、お店で叫ぶ迷惑女。ううー、泣きそう。


「何かあった?」

響介がアタシの頭を優しく撫でた。ダメだよ、ソレは、甘えたくなるじゃない。

「うん、でも、何て言ったらいいか、分かんなくて」 


嬉しかったの。

響介がアタシのワガママ聞いてくれて、それから新しい走る理由もできて。


楽しかったの。

あの苦しみから解放されて浮かれてはしゃいでしまうくらい。


 それとね、久しぶりに意識してしまったの、男の人を。

苦しみから解き放ってくれて、前に進む力をくれた人。


 あんなワガママを聞いてくれてありがとう。

確かに理不尽大魔王だねアタシ、フフ。

 でもどうしても響介が買ってくれたシューズで走りたかったの。


 走る理由はね、シンプルに好きだからって思えるようになった。


 だから、そんな気持ちにさせてくれた響介と一緒に走りたかったんだ。


 今日が嬉しくて、楽しいのは、きっとキミといるからだよね。

 なんかね、胸がポカポカするの、まるで春の日差しみたいに。


 長い冬を越えて待ち焦がれた季節の到来。春の優しい風と陽気に軽くなった心が浮き足立つ。


     そんな春のような香りがする人


 この気持ちは何だろう? 懐かしくて、でもちょっぴり切ないこの気持ち……。

 

「そろそろ帰ろっか?」

「うん!」


 フフ、ホントは知ってるよ、この気持ちがなんなのか。でもアタシはまだ気付かない振りをする、この1歩手前が安心出来るから。


    あと1歩踏み出せる勇気が育つまで



======


——— アンソレイユ


「着いたな、もうこんな時間か」

スマホを見ると、22:00になろうとしていた。こんな時間まで一華と一緒にいるとはな。


「響介、今日はありがとね」

「ケーキは暫く勘弁してほしいがね」

「もう! 悪かったってば」

結局何があったのかは聞けなかった。明日になればまた、澄ました一華に戻ってるのかもしれない。

それでも今日という日は忘れないだろう、あの笑顔は俺の心に刻まれたから。


「1歩手前だよ」

「え、何の事?」

「教えてあげない! ほら入って、入って!」



======


 やっぱりまだヒビキの事は気になるの。でもキミのお陰で前に進めるよ。

 いつか、この1歩を踏み出してキミの隣りに……。


「響の背中に手を伸ばして何してんだい? 一華」

「み、美優? え、あ、ひ、引っ張ったら転ぶかな? なんて」

「当たり前じゃない」

美優に見られてたなんて。


「じ、実は気を送っていたのだ!」

「何の為に?」

「えと、将来の為……?」

「アンタ、誰?」

「一華ですけど」

「ウソ付け!」

「一華だってばー!」



  いつものアタシって、どんなだったっけ?











朝帰りした花音をよそに、リビングで盛り上がる美優達。花音はアンソレイユを離れる事を決意する。

花音が響介から離れた想いと花音の生い立ちが明らかになる!


第22話 この想いが届かなくても

11/7 12:10 予約投稿にて更新です!

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