第2話 アンソレイユ
12/4 シーンの切り替え方、変更しました。
「えっ、なんで俺の名前を……」
「さて、なんででしょう」
その人は風に舞う髪を掻き分けながら悪戯っぽく笑う、大人の女性なのに少女のようなあどけなさを感じる笑顔に目をいや、心を奪われていた。
って待て待て、その手に持ってる物……。
「俺の生徒手帳!」
転んだ時に落としたか。
「エヘ、バレたか」
また屈託なく笑う、大人の女性を可愛いなんて思ったのは初めてだった。
「響ちゃん、公園行こう!」
えっ? 響ちゃんって。
そして俺達は近くの公園のベンチに座り話しをする事に。
彼女の名前は栞さんと言うらしい、この近所に住んでるみたいだ。
俺はここまでの経緯と自分の陰キャなクソみたいな性格も包み隠さず全部話した。初めて会った人なのに、しかもこんな綺麗な人に自分の全てを曝け出すなんて自分でも驚いた。
「そっかー大変だったね響ちゃん、でも頑張ったよ、エライ、エライ」
「いや、全然ダメでしたよ、どこ行ってもちゃんと話せなくて上手くやれない」
なんでだろう、栞さんとは普通に話せる。
「そんな事ないよ、今までやれなかった事にチャレンジしたでしょう? 結果じゃなくて1歩進んだ自分を褒めようよ、頑張ったから出会えたんだよ私達、だからウチ来なよ響ちゃん」
え、ええー、どゆこと? なんで、なんで、なんで!? もう、俺達そうゆう関係!? 待って栞さん、心の準備させてーー!
「そ、そんな、会ったばかりの人とそうゆう関係というか、そこまでお世話になるのは……」
まて、何か見覚えあるぞこの展開……。
綺麗な人に絆されて着いて行った挙句見ぐるみ剥がされ島流しにされるアレ……。
「美人局だーー!」
「えー、もう酷いよ響ちゃん!」
「じゃあ何で俺なんかと、ど、同棲だなんて」
「同棲!? アハハハ、面白いね響ちゃん、やっぱりキミがいい、着いてきて!」
いいのか、いいのか響介、アジトに連れ込まれたら終わりだぞ、ああでもこの人は違うと思いたい!
案内された建物は一軒家とは言えない大きさだった。
「着いたよ響ちゃん、シェアハウス ”アンソレイユ“ へようこそ!!」
「へっ? シェアハウス?」
「アンソレイユはね “陽だまり“ と言う意味なの、私がオーナーで同居人は5人、皆んなとってもいい子だよ!」
「あの栞さん、聞いてました? 俺のコミュ障……」
シェアハウスなんて陰キャの俺には地獄の檻だろ!
「響ちゃん……家賃はいらないのよ?」
「えっ、ど、どゆこと?」
「体で払って貰うわ、フフ」
やっぱり美人局かーー! あんな事やこんな事、いや、待て体で払うって普通女の人が言われるやつじゃん!? ということは、もしかして俺、俺は栞さんに色々されちゃう方かーー!
「そ、それは、是非、よ、喜んで……」
「ママ、ソイツ誰?」
突如背後から聞こえた声に俺と栞さんとの甘い妄想にヒビが入った。
「あら一華、お帰りなさい」
「今、何て……」
ママ? 聞き間違いだろ絶対! この背後の女はどう見ても俺と同じ位の歳だろが!
「い、今栞さんの事何て!?」
初対面だが関係ない、栞さんとの甘い時間に割り込みやがって!
「はあ? 何アンタ、キモいんですけど! ママ、ほんとこの人なんなの?」
「ママじゃないだろ! お姉さんの間違いだろがー」
「あら、響ちゃんたらっ」
俺は一華と呼ばれた少女の肩を掴み激しく抗議した。
「ホント何アナタ? ママのストーカー!? 警察呼びますよ!」
「ちょっと響ちゃん、落ち着いて! 一華、ゴメンね、響ちゃん色々あって混乱してるのよ、大丈夫?」
「いやいや、混乱すんのコッチだよシオりん。一瞬家入るの戸惑ったわ」
何か派手な奴来たわ、ギャルだ。
「あら、花音お帰りなさい、取り敢えず皆んな中に入りましょ」
白色基調の淡いデザインの内装にアンティークの家具、清潔感に溢れるこの空間に異物と思われる俺がいる現実……帰りたい。
「お帰りなさい皆さん、ご機嫌様知らない人」
なんかもう1人現れたぞ、ちっこいヤツが。
「ココ、ただいま。一華、花音、彼の事は皆んなが帰ってきたら話すわ」
「シオりん、まさかソイツに部屋貸す気?」
「ダメだよ、ママ! ここは男子禁制でしょ!」
栞さん、いきなり修羅場なんですけど!?
何故俺をこんな猛獣の檻の中に入れようとするんだよー!
「皆んなその話しはあとでね、響ちゃんお店に案内するわ」
お店?
シェアハウスの裏側はアンティークショップになっていた。通りに面した窓は大きく通りゆく人や風景がよく見える。どうやらコッチが表通りか、アンティークな店内と風景が楽しめるように窓際に幾つかテーブルと椅子が並んでいる、テーブルにメニュー表がある事から察するに軽食を楽しめるのだろう。
なんて栞さんにピッタリな店なんだ!
でも人妻で子供がいたなんて、しかも俺と同じ位の。
「ここはね、アンティークの小物や家具をあしらって、その気に入った食器でお食事もできるの。手作りのケーキやこだわりの紅茶などでおもてなして、そしてお泊まりもできる様に造ったのよ。主人と憧れてたアンティークショップとペンションをずっとやっていくんだと疑わなかった。でも主人は病気で逝ってしまったの、だからねペンションはやめてシェアハウスにしようと決めた、きっと私が寂しかったからかな」
そっか、旦那さんは……。夢が詰まった箱、その想いが至る所から感じられた、それを見たら自然と涙が溢れていた。
「響ちゃん、ゴメンね、こんな話。何も泣かなくても、やっぱりキミは優しいね。ねぇここで私を手伝ってくれないかな? お店の事とか」
「やります! いやお手伝いさせて下さい!」
体で払うってそういう事か……。
「ホント!? ありがと、響ちゃん!」
はう!?
嬉しさのあまり抱きついてきた栞さんはいい香りがした、ゼロ距離で見る彼女の身体は思いの他細く甘い香りに絆されて抱きしめたくなる衝動を必死に抑えていた。
夕食頃になり遂にシェアハウスの住人が一堂に会す為リビングに集められた。
俺の心臓は祭りの太鼓の様に騒がしく落ち着かない、完全アウェーだ。
リビングのソファーには3人、そのウチ2人はここに来た時あった奴等だ。少し離れた窓際に小さな1人様のテーブルがありそこでスマホをいじってるヤツ、俺にはわかるコイツだな、コイツがこの群れのボスだ! 陰の者は強者に目を付けられたら終わる、だからこそいち早くソレを見抜く目が養われるのだ!
それと床に座るちっこいのは玄関で出迎えてくれた子だ、小学生か?
「まずは自己紹介だけど私にさせてね」
「シオりん、その前にソイツに部屋貸すの決定?」
ピリッと空気が張り詰めたのをこんなに間近で経験した事がない、冷汗止まんねー、しかも女ばっかじゃん。
「ゴメンね花音、先にね響ちゃんに皆んなを紹介したいの。ではまずは白鳥美優 ちゃん大学2年生とっても頭いいのよ」
窓際のボス子か。セミロングのオレンジ色の明るい髪色とは対照的にやる気のなさそうな表情が特徴的だ。元がいいのに勿体ないな。
「よろー、あんま関わんないと思うけど」
できればコッチも関わりたくないんだが。
「次は来愛ね、八神来愛、高校3年生だよ。お料理がとっても上手なの」
光沢のあるグレーな髪は腰まで伸び知的なメガネが似合う才女といったところか、色白で切長の目に泣きボクロ、あんな目で蔑まれたら昇天しそうだ。
「状況が把握されてないのでよろしくとは言いません、でももし一緒に住む事になるのならご覚悟を」
何のだよ!
「次は花音、一度会ったわね、桐島花音、高校2年生、とにかくオシャレで今時の女の子って感じだよね、フフ」
フワっとしたピンクの長い髪とピアスにデコり過ぎなネールとスマホ、なんかもうお腹一杯です、間違いなくカースト上位ランカーだな。性格は気の強い猿みたいだ。よしピンクの髪と合わせてピンキーと名付けよう。
「アタシは、黙秘権を行使しまーす」
ピンキー俺に敵意剥き出しなんすけど。
「そして夢野一華、ウチの長女よ、響ちゃんと同じ高校1年生。我が子を褒めるのは照れるけど文武両道よ」
初見では間違いなく気の強さを感じた、黒い長い髪を青色のリボンで結ったポニーテールに大きな瞳と端正な顔立ちは正に母親譲り。
「ママ、どう見てもその人の話しが優先だと思うのですけど」
「もうちょっとよ、待って一華。最後はウチの次女、夢野心愛よ。中学1年生、絵を描くのが大好きなんだよ」
黒髪のツインテールの小さい子、小学生だと思っていたが中学生だったか。何かモジモジしてる、性格は大人しそうだな。しかしまぁ、なんて美形な親子だ、旦那さんも、さぞイケメンだったのだろう。
「さあ響ちゃんね、真壁響介くん、高校1年生。彼には今日からウチのお店のお手伝いをしてもらうのでお部屋を提供します」
リビングの温度が一気に上昇した。
「異議ありです!」
「はい、来愛さん」
「ここは男子禁制のはずでは?」
「ゴメンなさい、改正させて下さい。ウチは女性陣だけなので以前から不安はありました。色んな面で男手が必要な事はあると思います」
「はい、それならもっと適任者がいると思うけど? 彼はどうみても非力なナメクジにしか見えないよ、それに見た目が嫌、目が見えない位髪がワサワサで生理的にちょっと」
そこまで言う? ピンキー黙秘権はどうしたよ? つうか、もうやめてくれよ栞さん、俺はどうしてもここじゃないとイケナイ訳じゃない、なのになんでここまで言われなくちゃならないんだ。
俺は席を立った、一刻も早くこの場を去りたかった。
「確かに男性が加われば生活スタイルも変わり最初は戸惑うでしょう。でも必ず彼がいて良かったと思う時は来ます。私達にも、響介くんにもこの出会いはプラスになると思います。ですからどうか皆さんご承諾ください」
オーナーなのに皆んなに頭を下げてまで、なんでこの人はこんなに俺に一生懸命なんだ。
「ココはいいよ。だってママはいつだってアタシ達の事想ってくれてるから、きっと大丈夫だよ」
「ココ……確かにママはいつだって私達の事を考えて色々してくれてるけど、コレはちょっと……」
「ねぇ、あんた達の推しはどんな男?」
突然窓際のボス子が切り出した。
「私はモデルで俳優のヒロヤ! クールなイケメンは最高ね!」
ピンキーは何も考えてなさそうだ、絶対頭悪いだろコイツ。
「ボ、ボクは夏グラの海斗くん、素直じゃないけど、やる時はやるカッコいい男の子だにゃん」
にゃん? 見た事ないが確かアニメの夏色グラフィーの事だよな、クレアだっけ? コヤツは見た目詐欺だな、絶対オタクだ! オタ子ね。
「私は、アジャスターのボーカルのnoise かな、あのハスキーボイスと、は、はだけたシャツから見える筋肉美は目の保養です」
はい、肉食決定! なんでコイツは栞さんの品を受け継がない?
「ココは思いやりがあって優しい人なら……」
この子は絶対いい子!
「皆んな好みは様々だけどそれが男さね。じゃあ皆に問う、この生き物はなんじゃ?」
ボス子、何故俺を指差す……。
一堂の視線が一気に俺に向いた。
「うーん? 生き物ですら怪しいですね」
おいオタク、生き物の定義とは……。
「お、男の子の風上にも置けない人です」
長女、俺が何をした?
「アハハー、男と呼ぶにはねー」
ピンキー、じゃあ何て呼ぶんだよ!
「ココは、えと、だ、大丈夫だよ……」
ああココちゃん! でも大丈夫って……。
「答えは出たようだね、響介くん、良かったな、男としてこれっぽっちも思われてなくて」
「そ、そこまで、い、言わなくても……」
「何言ってるのか聞こえないです、ゴニョゴニョと、ホント男らしくないですね」
そこまで言うかコイツ! ああでも言い返せない。
「一華、いい過ぎよ」
栞さんが耳元で囁いた。
〈響ちゃん、我慢して。行くとこないんでしょ、ここを乗り切ればゲットだよ!〉
栞さん、俺に人間を捨てろと‥‥‥。
「は、はひ、そ、その通りです、すみません……」
余裕で捨てた。
「フン、情けないですね」
クソー、ここまで我慢する価値はあるのか!
住居、バイト、食事、6人の美女……。
ま、まあギリ及第点か、しょうがない我慢してやるよ、ハハ。
「しょうがないわね、皆んなしっかりルール決めて行こう、ナメックに乱されない様に!」
「ナ、ナメックって、な、な、何だよ……」
この群れボス子が締めてると思ったがリーダー格はピンキーか。
「また、ゴニョゴニョと。しっかり話しなさいよ」
くそ長女め! コイツの名前は何にしようか、性格悪子だからワルコと名付けよう!
「まあ、あだ名もいいけど、皆んな下の名前で呼ぶ様にしようか、これはルールの1つにしよう、ねぇ響介くん」
背後から耳元で囁かれた、あの当たってるんですけどお姉さんのアレ!
「は、はい、美優さん……」
「も少し声出してね、ウフ」
侮ったコイツはボス子改めエロ子だ!
「シオりん、お手伝い表にナメックも入れていいの?」
「待って、花音、洗濯物は絶対イヤよ!!」
「ボクも下着見られたら躊躇なく殺します」
「そうか確かにアタシも迂闊だったわ、こんな盲点付いてくるなんて、卑劣極まりないヤツ!」
言ったのお前だよピンキー! 絶対コイツ頭悪いな。
「大丈夫よ、お手伝い表には入れなくて。私の仕事手伝ってもらうの、響ちゃんは私のパートナーなんだから、よろしくね、響ちゃん!」
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします!!」
やっぱ栞さんいいなー!
〈デレないで、ママに何かしたら100回コロしますよ!〉
ワルコめ耳元で酷い事囁きやがって、死ぬのは1回でいいんだよ! い、いやダメだろ!?
「フフ、栞さんの時はしっかり声でてるね」
「美優姉も何かアイツに甘くない?」
「まあまあ、でも花音これからは下着姿でウロチョロしないことね」
「そ、それは美優姉もでしょ!」
「響ちゃん、お部屋に案内するわ」
うん? 何か視線を感じる……。
ワ、ワルコ! 奴から凄まじいまでの戦闘力を感じる! 何があった!?
「ここよ、1番左端のお部屋、一華の隣ね」
ああ、だからかー!
「よ・ろ・し・く・ね、お隣りさん……」
「は、はい……」
ワルコ目が怖すぎるんだけど。
俺は取り敢えずベッドに寝転んだ。
何か色々ありすぎて夢の様な1日だったな。
ガチャ!
「ナメック、コレ! ルール一覧よ! 絶対、ゼーータイ守ってよね!」
「ピンキー!? な、なんだよ、ノ、ノック位しろよ」
「あらナメクジにプライバシー何てあるのかしら? フフフ」
「だ、だったら俺だって、お、俺だってやるからな!」
「はあ? 本性現したわね、この変態! そんな事したら踏み潰すからね、アンタのア・ソ・コ」
「ヒィーー!」
思わず俺は股間を押さえた。
「あと何だって? アタシの事さっき何て呼んだのよ!」
うっ、気圧される……。
「い、いや、その……」
「うん?」
負けるな俺!
「ピ、ピンキーだよ! 猿みたいに喚くピンク頭!」
「な、な、なんですってー! 歳下のクセに生意気よ!」
「そっちから変なあだ名付けてきたんじゃないか!」
「アンタはナメクジでもマシな方なんですけど?
寧ろナメクジが可哀想だわ、フン!」
このアマー!
「う、うるせー、もう、出て行けよ!」
ムニュ!
何だこの感触……ピンキーを押したらムニュって、ま、まさか……。
「こ、このエロナメクジーー! どこ触ってんのよ!」
グーで殴るなグーで!
「まあまあ、アンタもアンタだよ、花音。面白くて見てだけど響介、目瞑ってたし不可抗力だよ」
「でも、でもーー! このエロナメ!」
「エロナメは良くないって花音、卑猥だよ。ほら、行くよ、おやすみ響介」
エロ子は去り際にウインクしながら親指を立てた、良くやり返したって事かな? エロ子って案外いい人なのか? さりげなく、もう呼び捨てだったな。
再び俺はベッドに寝転んだ。
なんだかんだ結構話せてたな俺。
何かもしかしたらここでなら、違う自分になれるかな、そう思いながら俺はいつの間にか寝落ちしてしまっていた。
しかし、コレはほんの序章に過ぎなかった。
これから地獄の生活が始まる事をこの時はまだ気付いていなかった。




