第19話 気付けなかった想い
12/6 シーンの切り替え方、変更しました。
滴る血はただ、ただ、赤く、聡士の喉元へポタポタと落ちていく。その血を見ながら思った、心の傷口からは何が流れるのだろうかと。
「何やってんだテメー! 離しやがれ! 離せよ!」
聡士がカッターを喉元に刺す直前で俺が刃を掴んだのだ。皆んなの手前、平静を装っているが泣きたくなる位痛い! でも間に合ってホントに良かった。
「間に合ったのか!?」
紗夜子さん達が駆け寄ってきた。
「響介! 早く手を離して!」
一華が必死に俺の手を開こうとする、お前の手も血だらけになっちまうだろうが。
「響介、お願いだから、手を離して……」
「俺は諦め悪いんでカッターから手を離してもらえますか、先輩?」
「クソが!」
観念したのか、やっと聡士は手を離した。大の字で空を見上げる聡士の目には何が映っているのだろう、自責の念か、それとも、この夕暮れの様に燃える何かに対する恨みなのか。
「やだ、やだ、血が、血が止まんないの! 先生!!」
「手を出せ響介、応急処置だ、このバカが!」
手早い処置、この人ホントに保健室の先生なんだな。
「ほら、あくまでも応急処置だ、保健室行って消毒するぞ! お前等2年も来い、報告は手当の後だ」
「結局、晒しもんかよ、でも俺はテメー等には従わねーぞ! こんなトコ辞めてやらー!」
まだ終わってない、ホントの闘いはココからだ
「ダッセーな先輩、被害者ぶってんじゃねーよ」
「響介、何を言ってるの? もうやめて!」
「コラ響介! もう終わったんだよ、煽るんじゃねえ!」
「テ、テメーに、何がわかんだよ!」
大の字のまま叫ぶ聡士の上に俺は馬乗りになった。
「しつけーぞ、テメー! まだやる気か!」
怯むな! 人の心に踏み入る事は棘だらけの荊の中を掻き分けて進む様なものだ。誰だって心の中は知られたくない、だから隠すんだ誰も入れないように。だけど俺は諦めない、見つけてやる、傷だらけになっても。アンタの裸の心を!
「カッコつけてんじゃねえよ! 苦しいって、助けてくれって言えよ!」
「な、何、バカな事言ってんだ、コラ! そんなわけねーだろが! お前なんかに、何がわかるんだよ!」
閉ざされた世界から抜け出す事は容易ではない。なぜなら、その世界の扉の鍵の在り方を誰も知らないから。
俺もそうだったからわかるんだ、だから教えてあげないといけない。
最初から鍵なんて掛かってないんだよと
外の世界が怖くてそう思い込んでいただけで、出られない理由を作り上げ、そのせいにして生きれば楽だったから。
「先輩、アンタは優しいんだよ」
「バカ言ってんじゃねーよ! 人を傷付ける人間のどこが優しいんだよ!」
「だから、人を傷付けた自分に自己嫌悪して、また負の螺旋に落ちて苦しむんだろ? そしてまた暴力を振るってしまうんだ苦しみから逃れたくて」
「ち、違う、違う、違う! 俺は……」
「もうやめよう、人も自分も傷付けちゃダメだ。そして進もう、やり直すんじゃなくて進むんだ。振り返っても、立ち止まっても、過去の自分は変えられないし、誰かを傷付けた罪は消えない、心に受けた傷だって簡単に癒えはしない。それでも歯を食いしばって進むんだ、その想いがきっと傷付けてしまった人に謝る勇気をくれる、そして傷付いても立ち上がる力になるから!」
俺は栞さんに出会い、アンソレイユに住まわせてもらって、そこから色んな出会いがあって救われたんだ。もう、1人にはなりたくないし、そんな人も見たくはない。
「クソが! 先生、早くソイツの手当てをしてやってくれよ、早く連れて行ってくれ、ウザいんだよソイツは」
「ほら、今度こそ終わりだよ響介、いい加減、保健室に……」
まだなんだよ、まだ辿り着いてないんだ荊の奥に
「先生、お願いがあります!」
「何だ?」
その荊、全部刈り取ってやる!
「この一件、不問にして下さい!」
俺は紗夜子さんに土下座した、怒鳴られるのは承知の上だ。聡士はキッカケがあれば変われる気がするんだ、でも、学校側の処分や、最悪、警察沙汰になってしまったら、変わろうとしてる芽を摘んでしまいそうで怖いんだ。
人を変える何て事は出来ないのかもしれない、そんなエゴ押し付けるなよと思われるかもしれない、でもそんなんじゃないんだ、上手く言えないけど心の奥から声が聞こえるんだよ
その手を離すなと
「バカか、お前は! 刃傷沙汰を不問にしろだと? お前は被害者だろが!」
「そうだよ、響介、何でそんな人かばうのよ!」
わかってるよ、皆んなの言う事は正しいよ、でも……。
「先生、頼むわ、早くソイツを連れてってくれ! バカが移りそうだ」
離さない、絶対に!
「少し前の俺だって、あのまま小さな世界で生きていたら、今頃どうなっていたかわからない、孤独の寂しさや苦しみを理解してくれとは言わない、ただ、変わろうとしている人を信じてほしいんだ!」
「変わろうとしてる? とんだ甘ったれだよ、お前は。人はな、そう簡単に変われねーんだよ」
「そんなことはないよ、紗夜子さん! だったら、もしこの人が、先輩が、同じ過ちをしたなら、俺はこの学校を辞めたっていい! それが俺の信じる覚悟だ!」
「バカも休み休み言え!! 簡単に言っていいセリフじゃねーんだよ、それは!」
「簡単じゃない! 人を信じるって事は簡単じゃないんだ、ましてや信じてるよって言うセリフを信じてもらうには、それ相応の対価や覚悟が無いと伝わんないんだよ!」
「響介、キミはその人に傷付けられたんだよ、何考えているの? 何でそこまで庇うのよ!」
「ソイツを理解すんのはやめとけ、ソイツは正真正銘のバカなんだからよ」
「そうだよ、そのデカいヤツの言う通りだ。もう好きにしてくれ! 俺はもう、逃げも隠れもしないし、この罪は償う、だから早く、早く……このバカの手当てを頼むよ!」
「及川! 響介を運べ! この件は俺が預かる、よって不問とする! 誰も口外するなよ!」
「紗夜子さん! ありが……ちょ、待て、及川!」
及川にアッサリ担がれてしまった。
「これ以上抵抗したら殴って気絶させてから運ぶ事になるが?」
「い、いや、遠慮しときます」
「せ、先生! アタシは、納得いきません……」
「すまない一華、今回は我慢してくれ、あのバカ弟子に責任は取らせるからよ」
「は、はい」
「オラ全員、保健室来い! 手当てしてやるからよ」
「紗夜子さん、ありがとう」
「ふん、とんだバカを弟子にしちまったぜ」
しかし担がれて運ばれるのは何とも情けないな。
「こんなバカと一緒にいるからアイツも感化されたんか、納得したぜ」
「何の事だよ」
「千堂だ。アイツがウダウダしやがって鈴羽を泣かせるから俺はアイツから鈴羽を遠ざけた。だが何が起きたか知らんが急に鈴羽を受け入れる覚悟が出来たと抜かしやがった。あの小鳥遊グループの会長の孫娘をだぞ? それにビビって今までウダウダしてやがったのによ、だが今日、その理由が分かった気がするぜ、バカに汚染されたんだろうよ」
ケガした者は皆、保健室で処置を受けたが俺は病院で適切な治療が必要らしい。
「あ、あの、ゆ、夢野! シューズの事、ホントにゴメンなさい! 必ず弁償する、それとアタシ、もう部活辞めるから」
あの子は1年だったのか、妹って言ってたもんな、辞めるのは彼女なりの反省か、いや流石に居づらいよな。
「走るの嫌いなの?」
「そんな事ない、でも、このまま平気な顔して同じ部活出るほど無神経じゃない」
「確かにアナタ達がした事は許せないわ、でも、好きなら辞めないで、それを奪う権利なんて誰にも無いもの」
「そ、そんな、何で? こんな事したアタシを夢野は
責めないの?」
「だって、罪を理解して償おうとしてる人を責めるのはおかしいでしよ?」
「彼氏と同じ様な事言うんだ。ホント、アンタ達お似合いのカップルだよ」
「えっ、ち、違うってば! そんなんじゃないからね!」
「フフ、アンタ、そんな顔するんだ、いい顔してる。
シューズは明日にでも買ってくるから。夢野、ホントにゴメンね」
「シューズは弁償しなくていいよ」
「そんな、それはダメだよ! そこまでは甘えられないよ!」
「ううん、いいの、シューズは響介に買って貰うから」
「えっ、俺が? 何で?」
「守れなくてゴメンって言ったから」
はい? 言ったかな? そう思ってはいたけど。
「守れなかったのなら、責任感じてるんでしょ? なら、ちゃんと誠意を見せなさいよね」
えっと、さっきまでの泣きじゃくって心配してくれてた一華さんはいずこへ?
「もっともらしい事言ってますが少々理不尽が過ぎるかなと?」
「何が!?」
「い、いえ、はい! 是非そうさせて頂きます」
何か怒らせたのか、俺。
あれ? 紗夜子さんと先輩が廊下に出て行ったな、何かあったのか。
==================
「先生、アイツの手、大丈夫か? ちゃんと動くのか?」
「大丈夫だ、今すぐ病院行って来るからよ、俺が昔から世話んなってるトコだ、何も聞かず処置してくれるさ」
「俺、処分受けるよ先生。今回は俺が煽動者だ、他のヤツ等は俺に脅されてやっただけなんだ、だから処分は俺だけにしてくれ、警察に連絡されても構わない、だからお願いします!」
人は変われる……か。信じる対価、覚悟、伝わってんじゃねーか。
「聡士、俺に恥をかかせるな、二言はねえ。それに弟子がそう言うなら信じてやるよ」
似てるな栞、アイツに似てるよ響介は、ちょっとだけだがな。
==================
その後、不問という事で解散した後、紗夜子さんの車で病院へ行き、治療を受けた。
その帰り道、さや子さんは車の中では終始無言だった、空気が重いな。不問の事怒ってるんだろうか。
アンソレイユに着いてさや子さんは初めて口を開いた。
「響介、俺は今から栞と話してくる。一華は降りていいがお前は車に残ってろ」
「俺も一緒に説明しますよ!」
「俺に不問にしろとほざいた代償だ。黙って受け入れろ。一華の靴の件だけでも問題なのにお前の傷を見たらアイツ殴り込みに行くぞ」
栞さんが?
「この件思う事があって俺に不問を頼んだんだろうが、これで栞が殴り込みに行ったら意味ないだろうが」
あの清楚な栞さんが、そこまでするのか?
あっ、流星の……。
「スミマセン、俺のワガママで」
「下を向くな、思った事をやり通してみろ、その男気俺が守ってやる」
紗夜子さん、ありがとう、マジかっこいい人だ。皆んな心配掛けてゴメン。
暫くして紗夜子さんが戻ってきた。
「響介、今回の不問の件、お前が思ってるよりも重い事を知れ。それはお前が周りの気持ちを聡士の為に抑え付けたからだ」
確かに、冷静に考えるとある意味、傲慢だったかもしれない。それでも、俺は……。
「だから、その対価を払ってきた。文句はいわせねえぞ?」
「た、対価?って、何を?」
アンソレイユで何をしてきたんだ、紗夜子さんは。
「不問にしたのは俺だと言ったんだ、黙って従え! 弟子のケツ拭くのも師匠の仕事なんだよ」
えっ、今、弟子って言ってくれた?
「で、でも……」
「2度も言わすな!」
「は、はい、分かりました! 何から何までありがとうございました、師匠!」
なんて器の大きい人なんだろう。
「それじゃ、俺は帰るが、皆んなにちゃんと、謝るんだぞ。心配してくれる人を大事にしな」
「はい、紗夜子さん、今日は本当にありがとうございました!」
——— 30分前 アンソレイユ
《何ですって! 不問ってどういう事よ! アナタそれでも教師なの!?》
《花音、落ち着きなさい! 理由があるでしょ、それ相応の。そうでしょ? 紗夜子》
《人を傷付けてそれはないでしょ! 一華のシューズも切り裂かれたのよ! 何で不問なのよ!!》
その通りさ、これが普通の反応だよ響介。お前が守った聡士の道、しかと見届けさせてもらうからな。
《美優、皆んなをお願い、ちょっと紗夜子と2人で話したいの》
栞に外へ連れ出された、事の真相を確かめたかったのだろう。
《そうなの、そんな事があったのね。本当の事話してくれて、ありがとう。ゴメンね、紗夜子、不問の件アナタが言い出した事になってしまって》
《気にするな、栞。元よりそのつもりさ。ただあの子、ウチの2年の桐島花音だろ? あの子もココに住んでたんだな、俺はあの子の名前、昔どこかで聞いた覚えがあるんだが》
《気のせいよ、紗夜子。今日はありがとう》
桐島花音、確かに聞き覚えがある。桐島……まさか、あの桐島か? シェアハウス 〝アンソレイユ” 世話好きなお前には合ってると思っていた。だが、まさか美優も居たとはな。
美優、アイツは空気を読む、加えて勘がいい。アイツは俺と一切目を合わせなかった、すぐ俺の事に気付いていたのだろう。見た目は多少変わったが逆にその行動がお前だと確信させた。
栞、お前は昔から厄介事でも平気で首を突っ込む程のお人好しだ。
もし、あの子があの桐島だったら、お前は一体何を隠しているんだ。
==================
へへ、俺、あの紅の紗夜子の弟子になれたんだ!
紗夜子さんが帰り、深呼吸して家に入る。
玄関のドアを開けると神妙な面持ちで一華が待っていた。
「響介、私はまだ納得してないよ。でも今はアナタの側にいてあげる。皆んな待ってるから」
あっ、皆んな揃ってるのか!
マズいぞ、少なくとも2人は鬼化してそうだ。
あの紗夜子さんがゲッソリしてたんだぞ?
何浮かれてたんだ俺。
一華に連れられリビングに入る、皆んないるんだよな、何この静けさ‥‥‥顔上げれないんだが。
ダメだ、絶えられん!
「スミマセンでしたー!」
迷う事なく土下座した。
おい、誰か何か言ってくれよ。
「アンタがバカだと思ってたがここまでとは‥‥‥」
ああ、美優さん!
えっ、あれ?
顔を上げて見ると美優さんと、来愛、ココしかいない。確か一華は皆んなって言ってたのに。
「栞さんと、花音は?」
「花音の部屋だよ、栞さんが必死に宥めてる。あの先生からアンタ達の話しを聞いた時、栞さんと、来愛の切れっぷりも酷かったけど、花音はそれを上回ってたね。栞さんと来愛は条件付きで何とか抑えてくれたけど花音は半狂乱よ」
条件付き?
「お兄ちゃん! 傷大丈夫ですか!? 何でそんな無茶を。あんまり心配掛けさせないで下さい、身がもちません」
泣きながら抱きついてきたココの頭を撫でながら心配してもらえる事を嬉しくも思ったが、俺が傷つく事で心を痛める人達がいる事を初めて知った。
初めて?‥‥‥
その時俺は自分のしてきた事の過ちに気付いてしまった。
今までこんな人達がいなかったわけじゃない、気付けていなかった自分の愚かさに押し潰さそうになった。
居たじゃないか誰よりも心配してくれて体を張って守ってくれた人達が‥‥‥。
何で今まで俺は気付けなかったんだ、それが生まれてから当たり前だったから? それはただの驕りだろ!
何で気付かなかった? 父さんと母さんの気持ちに‥‥‥。
「響介?」
涙が頬を伝った。
気付かなかったんじゃない、俺は人の心を見ようとしなかったんだ。閉鎖的になって、狭い世界で人のせいばかりにして。
自分を思ってくれている人に何て傲慢な態度をとって生きてきたんだ。
誰も気付いてくれない? バカ言ってんじゃねー、気付かなかったのは俺の方じゃん、先輩にあんな事言ったクセに。
俺はまだ何にも変わっていなかったんだ
「お兄ちゃん、泣いてるの? どこか痛いの?」
「大丈夫だよココ、ありがとう」
「響ちゃん!」
栞さんが2階から降りてきた、怒られると思い、思わず目を閉じた。しかし、そんな不安を吹き飛ばす感触が顔を覆う。
こ、この柔らかい感触と優しい香りは覚えがある、俺は今栞さんの胸に抱かれている!?
あれ? 一華もいたよな、前回は即座に止められたのに、何の反応もないぞ?
「私はね、響ちゃんに好きな様に生きてほしいの、でもね、響ちゃんの事大切に思ってる人の事忘れないでね」
ギュー!
いいのか? いいのか、これ!
かなり長めのギュータイムが終わり、かなり癒されました、はい。
「ちゃんと体洗える? 一緒に入ろうか?」
「あ、洗えません!」
「ママ! お風呂はダメでしょ!」
「だって響ちゃん洗えないって‥‥‥」
拗ねた顔の栞さんもいい!
「1人で洗えますよね、響介」
「は、はい‥‥‥」
他の方々の視線が痛い、調子に乗りすぎた。
「花音は?」
俺は1番に花音から、どやされると思っていた。
「さっきまで酷かったのよ、紗夜子から話しを聞かされた時はもう、落ち着かせるのが大変で。もうそろ来るんじゃないかしら」
はあ、何言われるか覚悟しとこう。
しかし、その日、花音が姿を現す事はなかった。
俺も疲れていて大して気にはしていなかった、明日とやかく攻めらるんだろうなと思いながら眠りについた。
あんなに近かった花音との距離がこの日を境に離れていくなんて思いもしていなかったから。
急に素っ気ない態度を取り始めた花音に対し、距離を詰めてくる一華。一華の心境にはある変化が訪れていた。響介と一華は放課後にシューズを買いに行く事になり、昼休みに一華の教室へ行こうとした、響介を呼び止めたのは、あの聡士だった。
第20話 荊を超えて 11/3 お昼 更新です!




