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陽だまりのセプテット  作者: ÷90
第1章 邂逅

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第17話 不器用な優しさ


 玲彩はあの子ではなかった。だとすれば、あの子は誰で、どこにいるのだろうか。


 玲彩にはあの後、8年前の事件の事を話した、その後どうなったかも。実際玲彩は変わる前の俺を知っていた訳だし、話す事にあまり抵抗はなかった。


《凄いよ、響介、小学2年生でそんな行動できるなんて。でも、もうそんな危ない事はしないでね、無事で良かった。その子の事が今も気になるのはわかるけど、どこにいるかもわかんない上に名前も知らなかったら、どうしようもないよ。今立ち止まるのは勿体ない、青春ど真ん中なんだよ、今は! ねっ、だから進もうよ皆んなでさ》


 皆んなで……か、何か嬉しい言葉だな。

でも名前が思い出せないんだ、あの子が俺の事をヒビキと呼んでたみたいに、俺もあの子の事をあだ名で呼んでた気がするんだが。


———


 とりあえずメシでも食べよう 、腹が減ったので俺はキッチンに向かった。

 ガサゴソ物を漁る音が聞こえる、まさか泥棒か?


「あ、お兄ちゃん、どれにする?」

キッチンを覗くとココが非常食用のカップ麺をテーブルの上に並べていた。


 そう、今日のお昼は栞さんも、セカンドシェフの来愛もいないのだった。朝食後、栞さんが作り置きしていくからと言ってくれたのだが、忙しいそうなので大丈夫だよと断ったのだった。


 それでココがカップ麺を準備してくれてたわけか。


 「何がいいかな? あんまり食べた事ないからわかんないの」

それだけ栞さんが、忙しくても作ってくれてるって事だよな。


 たまに来愛が作る時がある。不登校だった時、せめて家の手伝いをしなさいと言われ、母親に料理を教わりながら一緒に作っていたらしい。


 だから、たまに作りたくなるんだと言って栞さんの代わりに作る時があるが、それは建前で、本当は忙しい栞さんを手伝ってあげたいと思ってしてるんだろう、優しいヤツなのだ。


「ココはラーメン何味が好きなんだ?」

「うーんとね、ココは……」


「何か作ろうか?」

意外な人から飛び出た言葉に、一瞬、思考回路がショートした。


 今日は土曜日だが、一華は弁当持って行ったから昼に帰って来る事はないし、珍しく美優さんもいない。

大学でレポートの仕上げするらしい、本当に大学生だったんだな。

 花音は最近、家に居る事が多くなった、俺がここに来た当初はほぼ遊び歩いていたイメージだったのだが。


「ホント!? 花音ちゃん作ってくれるの? やったー!」


 ココよ、作るのは花音だぞ、作ってくれるなら誰でもいいのか?

 でも、ココのこの異常な喜び方、そんなにカップ麺嫌だったのか? 


「2人とも、何がご所望かしら?」

「ココは、オムライス! ふわっふわっのヤツね!」

ココ、ハードル上げんなよ。

「響介は?」

「何でもいいのか?」

「取り敢えず言ってみて」

「か、唐揚げが食べたい」


 花音は冷蔵庫を覗いた後、調味料を確認している。

「買い物行くわよ」

「えっ、そこまでしなくてもいいよ、それならカップ麺で俺は大丈夫だから」

「そう……」

花音はあっさり引き下がったが、この日のココは様子が明らかにおかしかった。

「ダメ! 買い物行くの! お兄ちゃん準備して!」

カップ麺に恨みでもあるんか? でも自分で出してたよな?

 俺達は3人で近くのスーパーに向かった。


———


「試食やってる、ウィンナーじゃん!」

「ココも食べたい!」

花音そっちのけでココと探索の旅に出た。


「ココ、このお菓子食べたくないか?」

「食べたいけど、花音ちゃんがお金出すんだよ?」

「大丈夫、そっとカゴに忍ばせれば、会計まで行って返品はしないだろ? だからココは俺がカゴに入れる時、花音に話しかけて注意を逸らすんだ!」

「で、できるかな?」

「迷うなココ、迷いは弱さだ、やる! 1択だ!」


 調味料コーナーで花音発見!

「いくぞ、ココ! 我等が野望の為に突撃だ!」

「お、おおう!」


「あ、あのね、花音ちゃん」

「どうしたの、ココ」

「花音ちゃん、シャ、シャンプー何使ってるのかなあって、とってもいい香りするから」

いいぞ、ココ! そのまま注意を……。

「で、アナタは何してるのかしら? 響介」

「い、いや、コレはですね、うん、何だろね?」


「返してきなさい、お菓子は無用よ」

「花音さん、美味いんだってコレ! 頼むよ一生のお願いだから!」

「随分と安い一生なのね、アナタの人生はそのお菓子と等しいという事かしら」

はうっ! 今日の花音からはオカンのオーラが出てる!


「お兄ちゃん、子供みたい」

「カゴ位持ったらどうなのかしら?」

「は、はい、喜んで」

今日の花音、怖い。


「奥さん、奥さん! そこの若くて美人な奥さん!」

「えっ、アタシ!?」

「どうかしら、特売のウィンナー、とっても美味しいのよ」

「すみません、折角ですが、今日はチョット」

「あら、そうなの残念だわ、そこの若い旦那さん美味しいって3回もいらしたのよ」 


 キッ!

「か、花音睨むなよ、だ、だって美味しいんだもん」

「そんなに食べてたの? それじゃ、ひ、1つ頂きます……」


「もう、響介のせいで余計な買い物しちゃったじゃない」

「まあまあ、奥さん、怒らない、怒らない。綺麗なお顔が台無しだぜ」

グリッ!

「イタッ! 足を踏むな、足を!」

「お兄ちゃん、ふざけ過ぎ!」

「ココも食べてたろ!」

「ココは2回だもん!」


——— 帰宅


「いやー、いい買い物したぜ」

「お金出したのはアタシですけどね」

なんだかんだで結局お菓子も買って頂いたのだ。

「そうだよ、お兄ちゃんは子供みたいにゴネてただけなんだから」

なんだ? 今日のココは随分と花音よりだな、何か寂しい。 


「花音さん、何か手伝いましょうか?」

少し機嫌でも取りますか。

「そうね、アナタはソファーにでも座ってて頂けるかしら?」

「え、いや、て、手伝いをですね」

「あら、邪魔しない事も立派なお手伝いだけど?」

「は、承知致しました、料理長殿!」

「ココもリビング行ってます!」

「フフ、待っててね、今作るから」


「花音ちゃんのオムライス、楽しみー!」

ココの様子だと、花音の料理食べた事ありそうな感じだな。けど、アイツちゃんと料理してんのかな? とんでもない物入れてたらどうしよう……。


 俺は心配になってキッチンをコッソリ覗いてみた。すると、そこには今まで見た事がない花音の姿があった。

 赤白のチェック柄のエプロンに長いピンクの髪の毛を後ろで結った、ポニーテール姿の花音が手際良く料理をしていたのだ。


 何かいい! このギャップは反則だよ、料理なんてしないわよ的なオーラ出してるクセにさ。


「凄いでしょ、花音ちゃん。包丁捌きはさることながら、無駄のない動きと盛り付けが凄く綺麗なんだよ。手伝っても邪魔になりそうなの、わかるでしょ?」

「う、うん」


 味は食べてないからわかんないけど、これだけの料理スキルあって何で普段手伝わないのだろう。その答えは花音の料理を食べてみてわかるのだった。


———


「おまたせ、出来たわよ。2人ともいらっしゃいな」

俺の唐揚げには味噌汁も付いていた。ココのオムライスは、何かデカいプレーンオムレツが炒めたライスの上にドンッと乗っている。


「花音ちゃんアレやってアレ!」

「はいはい、ナイフ持って来るわね」

花音はプレーンオムレツを軽くナイフで斬るとパカッと割れる様にオムレツが裂けトロットロの中身が溢れ出した。

「こ、こんなのテレビでしか見た事ないぞ」

「へへーん、凄いでしょ、花音ちゃんのオムライス!」

「デミグラスソースかけるわね」

「はーい!」

こりゃ美味(うま)そうだ。


 たが肝心なのは味だ、確かにオムライスの見た目は

抜群だった。


 俺は早速、唐揚げに箸を伸ばした。恐る恐る口に運ぶ、サクッとした衣の中の肉はアツアツで柔らかく旨みたっぷりな肉汁が溢れ出す。そして短時間で漬けたとは思えないほど味が染みている。

こ、これは、正に至高の逸品!


 俺はオムライスも食べてみたくなった。

「ココ、一口もらっていいか?」

「いいよ!」

オムライスを食すも、やはり花音の料理は根本からして違う。ライスの出来からして突出している、ガーリックライスだろうか、凄く香ばしい! ()つ、卵とデミグラスソースとこの3者が合わさった時に口の中で広がる三重奏(アンサンブル)! 見事と言う他に言葉無し!


「俺の負けだ!」

「お兄ちゃん、何と勝負してたの?」

ん? 確かに……。

「どう? 響介、お口に合ったかしら」

「とんでもなく美味い!」


「良かった!」

 花音からやっと笑顔が(こぼ)れた。まさか緊張してたのか? いや、まさかな。


 でもホントに美味い! 栞さんや来愛も料理は上手だと思う、でも花音の料理は何て言うか根本からして違う。店で出せる様な洗練されたレベルだ、普段料理してない人に出せる味ではない、魔法の調味料でもあるのか? いや、あのトロトロのオムレツ、サクジュワな唐揚げ、簡単に出来る物ではない。


「何でこんなに料理上手いんだ?」

「そうかしら? お料理の先生に習っただけよ、アレだけやらされたら、誰でもこの位出来る様になるわ」

料理の先生ってお料理教室か? 花音が?


 花音が料理出来たのは意外だったが、もっと意外だったのが、これだけの腕前なのに全くひけらかさない事だ。


 アタシの手料理食べられるなんて奇跡に等しいわ、何てセリフも期待してたのだが、このレベルの料理を何も言わず淡々と作り上げ、誰にでも出来るわと言う、らしくない謙虚な振る舞いは、良く出来た人だなと思いそうだが、その時の花音の顔はどことなく寂しさが(にじ)んで見えた。


 でも俺達が食べてる所を見てる顔は凄く嬉しそうだった。



  花音はどうしてアンソレイユに来たのだろう



 これだけ料理できるのに1度も花音が作ってる所見た事ないな、手伝いしないタイプでもないのに。

 俺は花音が洗い物してる時にココに聞いてみた。


「なあココ、花音はあんなに料理出来るのに、今まで皆んなに作った事ないのか?」

もしかして、俺が来る前までは作っていたとか。

「1度だけあるよ、オムライス。皆んなビックリしてたよ、でもそれからは1度もないよ、なんでかなあ」


———


 リビングで紅茶を飲みながら花音がくつろいでいた。ココはアトリエで絵を描いている。


「なあ、花音どうして普段料理しないんだ?」

俺は花音の対面側のソファーに座り聞いてみた。


 トントン。

花音が座っている横を指で叩く、何だ?

トントン。また? まさか……。

「言わないと、わからないのかしら?」

目も合わせないで澄まし顔で言う。


「は、はい」

俺は花音の隣りに座った。これでいいのかな?

「それで、何が聞きたいの?」

満足そうに微笑む、相変わらず、からかわれてんな。


「あんなに料理上手なのに何で普段作んないのかなって思ってさ」

「別に、栞さんと来愛が作ってくれるから甘えてるだけよ」

「本当は?」

「な、何よ、ウソじゃないわよ」

「なぜ目を逸らす」

「アンタの顔が暑苦しいからよ」

「隣りに呼んどいて?」


「な、な、何? 随分と攻めてくるじゃない!」

「わっかりやすいなー、花音」

「何の事?」

「ウソ下手だね」

「な、何よ、年下のクセに生意気ね!」

「やめろ、クッションで殴るな」


「だって花音はさ、細かいとこにでも気がきくし、栞さんの手伝いだって普段からしてるのに、あんなに上手にできる料理をなんで手伝わないのかなって思ったんだよ」

「……」


 そっか、そういう事か。花音の沈黙が俺に答えを教えてくれた。

 花音は素直じゃない。特に優しさはあまりストレートに出さない、回りくどいと言うか、照れ屋なのか、文句言いながらしたり、嫌がらせかって思う事が実は大事な事だったり。


 この前の事を思い出した。

《いつまで干してるの? 邪魔なんだけど》

ってソファーでくつろいでる俺の上にボンッとジャージを置かれた。洗ったのは昨日なんだけど、と一瞬ムッとした。いつも言わないのに機嫌悪くて八つ当たりかと思ったら、明日体育の授業あって危うく忘れる所だった、まさか、リビングの壁に貼ってる時間割見たのか?

 

 何かするにも一言言わなきゃ気が済まない人がいるが、花音の場合はそんな感じではない、ジャージだって綺麗に畳んでくれてるし、分かりづらい優しさだ。


 これは、そんな花音を知ってる俺の推測だ、お前の心読み切ってやる。



        不器用なお前の為に



「やっぱ花音は優しいよな」

「な、なんでそうなるのよ」

「前に1度作ったんだって? 皆んなに。ココから聞いたよ、ここからは推測だけど、その時の栞さんと来愛の表情から何か読み取ったんじゃないの?」

「!?」


「それから2人に遠慮して作らなくなった、そうなんじゃないか? 自分では同じ事をやれば誰でも出来る、その程度の腕前だと謙遜していた料理が、周りの反応を見て2人を凌牙していた事に気付いたから、それ以降作らなくなったんでしょ。」

「……」

「いつも作ってくれてる2人に遠慮したんだよね。それを裏付けるのが、2人の料理に滅多に美味しいって言わない所。そうゆう事でしょ?」


「……決して自分の事を上に見てる訳じゃないの、栞さんや来愛が同じ事したらきっとアタシより美味しく作れるよ。だからアタシが美味しいって言ったら嫌味に聞こえるのかなって、ホントに美味しいんだよ2人の料理、言いたいのに、いつしか言い辛くなってた」


「ホント分かりづらくて不器用な優しさだな。でも俺は好きだよその優しさ、花音らしくてさ」



======


《もっと素直になりなさいな、アナタの折角の優しさが伝わらないでしょう? こんなにも優しい子なのに、それをわかってもらえないなんて勿体ないわよ》


《いいもん、おばあちゃんと六花(りっか)だけわかってくれたらいいもん》



 こんな捻くれたアタシを見てくれる人がもう1人いたよ、おばあちゃん。

こんなアタシ何か理解しなくてもいいのにバカな人。


 でも彼ならもしかして、いずれ戻らなくてはならないあの欲にまみれた闇の世界の中でも



     アタシを見つけてくれるかな



《もし、アナタの優しさに気付いてくれる人がいたら

大事にしなさいね、花音》



































一華のシューズが盗まれた!? 放課後、帰ろうとした響介は一華の部活のシューズバックを持ったガラの悪い生徒達を見かける。一華のシューズを取り返す為、響介は、またもや無謀な争いに挑む!


        第18話 誰が為に 


    10/30 12:10 予約投稿にて更新です!

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