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陽だまりのセプテット  作者: ÷90
第1章 邂逅

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第15話 わがままな太陽


「えっ? 誕生日プレゼントですか?」


 明日はココの誕生日、プレゼントをずっと考えていたが決まらず、遂に本人へ聞くと言う悪手を取るハメになってしまった。


「はぁ、聞かないで渡すのがいいんじゃない? 響。

わぁー、コレ欲しかったのー、何でわかったの!? 的な感じでしょうが」

これでも散々悩んだんですよ、美優さん!


「アタシは聞いてきてほしいかも、だって、しょうもない物貰っても困るし」

花音はドライだな、でも、コレはコレで何か切ない。


「花音、リアルな経験談やめな。アンタは貰い過ぎでしょ、その気も無いのに愛想振り撒くから」

「失礼ね、そんな軽薄な女じゃないわ。アタシの美貌に惑わされた男達が勝手にくれるんだもの、無下に断る訳にもいかないでしょ」


「ボクは響介くんが選んだ物なら、何でも嬉しいよ」

来愛、何て嬉しい事を!

「チョット来愛! どさくさに紛れてポイント稼ぎしないでよ」

ポイント稼ぎ?


「私も来愛に近いですね。どんな物でも、色々考えたり、悩んで選んでくれた気持ちが嬉しいですから」

へー、意外。一華こそドライだと思ってた。


「へー、そう。アナタ達、気持ちが()もっていれば、何でもいいのね、な・ん・で・も!」

花音が(ひね)くれてしまった、他の2人の回答が秀逸過ぎただけに!

「ひゃー、次の誕プレが怖いね」

美優さん、そこはフォローしてよ!


「まあまあ、人それぞれだよ、人それぞれ。で、今回は何がいいか教えてくれないかな? ココ」

マズい、話しを逸らさないと。


「えっと、ココはその日お兄ちゃんに家に居てほしい………」

「えっ、それだけ?」

「は、はい」

更に上いったー! 何、この回答!? もはや天使なのではこの子!

あ、ああ、何か花音がプルプルしてる、中1にムキになるなよな、美優さん、笑い過ぎだから。


「そ、その日は、お昼からお友達とのお誕生日会もあるので居てくれる? お兄ちゃん」

ああ、こんな妹が欲しかった! サラバ、瑞稀!

お兄ちゃんは、今日からココのお兄ちゃんです!


「ははぁーん、そゆことね」

「ガンバですよ、ココちゃん!」

どゆこと?


———


 ココは、ああ言ってたけど何か形にしたいな、何がいいだろうか。

俺は部屋に戻りベッドで寝転びながら考えていた、だが昨日の事が頭をよぎる。

 皆んなで遊んで楽しかったな、こんな高校生活になるなんて思ってもいなかったよ。


 こんなに楽しいのは、あの時以来だ、あの子と遊んでいたあの頃。


         その後は?


 母さんに色々制限されて思うように遊べず、今まで仲良かった友達も少しずつ離れていって、でも何か寂しいっていう想いよりも、何もかもがどうでもよくなっていた。

 心にポッカリ穴が空くとは正にあの時の事なんだろう。

 あの子に会えなくなって辛かったんじゃない、大好きだった人に裏切られた気がして辛かったんだ。



《こんな日に遊べると思ったヒビキが、おかしいのよ!!》


《こんなに雪降ってるのに、遊ぶわけないじゃない! ヒビキのバカー!!》


    俺、本当にあの子に会いたいのか?


 あの子のせいで、あの後俺は、俺の生き方は閉鎖的になってしまったんじゃないのか?


 人を信じる事が怖くなり、何もかも色褪せて今までどんな風に呼吸をしていたのかもわからなくなる位、自分を見失って生きてきた過去が、あの子と関係ないといえるのか?


 胸の中がグチャグチャに掻き回される。楽しさや、好きだった感情と、相反する憎しみに似た感情が同居する気持ち悪さに耐えきれず部屋から出た。


 憎しみは愛の裏返しで近しきものだと言う人もいるが、憎しみだけならまだしも、愛が混ざった憎しみは自分の存在も溶かしてしまうようで怖くなった。


      もう、わからないよ


 ダメだ、外の空気を吸って気分転換でもしよう。

リビングでくつろいでいる皆んなを横目に、俺は外に出た。


 はぁ、何か自己嫌悪に陥ってんな。

家の壁にもたれ夜空を眺めた、夏は夜の風が心地よい、夏は大好きな季節なのに心は冬の嵐が吹き荒れる、そうだ、俺は、俺の心はまだ、8年前の真冬のあの樹の下で雪に埋もれたままなんだ…‥。


「辛気臭いわね、明日はココの誕生日よ。そんな顔で居られたら迷惑だわ」

「花音……」

いつの間にか外に出て来た花音が、俺の横で一緒に夜空を眺めていた。全然気付かなかった。


「何か悩み事?」

綾姉、こういうトコなんだよ、花音の優しさは。

でも、あの子の話し何て出来ないし、ましてや花音と玲彩はあの時、剣悪なムードになってたしな。


「いや、チョット夜風に当たりたくなっただけさ」

「そうね、アナタに悩む脳みそ何てなさそうだものね」

前言撤回! さっきの腹いせか?


「悩むだけ無駄なのよ、考えてもわかんない事に使う時間も気持ちも無駄なの、そう思わない?」

「花音……」

「わかったのなら、顔を上げなさい、何か見えるかもよ」


      堕ちる心に陽が差してくる


「どうせ頭使うなら、アンタはアタシの事だけ考えてればいいのよ」


         わがままな太陽


 夏の日差しの様に少し乱暴な太陽が、冷えた心を手荒に溶かす、花音は太陽だ。ほら、アタシを見なさいよ、とばかりに主張する真夏の太陽。彼女の前では俺の悩みなど一瞬で焦がされてしまう、ほら、大した事ないでしょ、何て言わんばかりに。


「ハハ、考えてやるよ、頭の隅っこでな!」

ホント、一緒にいると元気になるというか力が湧いてくる。

「フフ、照れちゃって。いつもアタシの事考えてるクセに」

「そうだな、1000年後の地球はどうなってるのかなってのと同じ位考えてるよ」

「もう、それって、殆ど考えてないじゃん!」

「バレた? ハハハ」

よし、休み明け玲彩と話そう、あの子かどうか確かめるんだ、いつまでも立ち止まってちゃいけないから。


———次の日


 今日はココの誕生日、月曜日だが祝日と重なって3連休だ。だが結局まだプレゼントが決まっていない。


 ん? 綾姉から電話だ、珍しいな。

「もしもし? どうした、綾姉」

「ポコキン! 緊急事態だ、助けてくれ!」

ぽこ? 今なんて?


「綾姉、今俺を何て呼んだ?」

「そんな事どうでも良かろう! 早く来てくれ!」

「言わないと行かないぞ」

「ポコキンだ、ポコキン!」

朝から何言ってんの、この人。

「どうして、そうなった!」

「ポップコーンキングだろうが、お前は! 早く、早く来るのだ!」

「危ない略し方するな! 他の家族は?」

「世界1周旅行でいないのだ!」



 どんな生活してるんだろう? しょうがないな、随分慌ててたし行ってやるか。綾姉の事だから、しょうも無い事の様な気がするがな。ココのお誕生日会は昼からだから、まあ、間に合うだろう。


 綾姉宅に着くと慌てた綾姉に掴まれ、トイレに連行された。


「よく来てくれた、ポコキン、トイレの水が止まらんのだ!」

何ともビミョーな、緊急事態だな。まずは水を落とす(抜く)か。

俺はトイレの隅にあるレバーを下げた。


「おおー、止まった、水が止まったぞ、ポコキン!」

「水道管が凍らない様に冬に水落としするだろ? 同じ事だよ。それと、ポコキン呼びするな!」

「何でだ? ポップコーンキングじゃ長かろう」

「そこからな! 響介でいいだろう! 響介で!」

気に入ってんのか? ポップコーンキング……。


「それよりも、さっきの原因調べないとトイレ使えないだろう」

俺はトイレの貯水タンクのフタを開けた。ホースがあるから完全には開かないので手探りで調べると、タンクの底の排水弁に何か挟まって排水弁が開きっぱだった。

 これが原因か、コレを取り除けば排水弁が閉まるはず。俺は挟まっているヌルヌルする個体を取った。

「何じゃこりゃ!」

紺色の絵の具の塊のような物体。


「それは洗浄剤だ! 昨日タンクに放り込んだヤツだ」

ウゲェー、俺の手が真っ青に染まってやがる!

「何じゃこりゃ!」

「ウヒャヒャヒャ、臭い、臭い、トイレ臭いぞ響介!」

「洗面台借りるぞ、綾姉」


 取れん! 色が全然取れない! 匂いもキッツ!

「難儀しとるのう、トイレマン」

「何でこうなったと思ってんだよ!」


———


「ふー、やっと取れたよ、何時だ今?」

「昼だな、お詫びに出前でも頼もう」


「なんだって、ヤバい! 始まっちまった! 綾姉、帰るわ、次から気を付けろよ!」


 クソ、思いのほか時間掛かってたな。

取り敢えず、栞さんに連絡し遅れる事を伝えた。

バス停に着いたが祝日で本数が減ってる、次のバス来るまでまだ30分あるか。そうだトルデリが近いな、結局プレゼント買えなかったからケーキでも買おう。


 俺はトルデリに向かった。その時ある事を思い出した。ここって、あの公園近いよな。

お気に入りの遊具と大きな樹とあの子がいた公園。

チョットみる位なら、そんな軽い気持ちだった。


 この角を曲がれば見える、8年振りか、なぜか胸が高鳴る。そう8年前あの子に会いに行くのに必死に自転車を漕いで向かった、あの高揚感に似ていた。


 角を曲がる、公園が見えた。

そして目に映ったものは大きな樹と……玲彩だった。


 な、なんで!? 玲彩がここに!?


 思わず隠れてしまった、俺は訳がわからず軽いパニックに陥った。


 なんで? 玲彩の家は学校の方だろ、こことは真逆の方向。ならここにいる理由なんて何がある?


       玲彩があの子なんだ


「落ち着け、落ち着け! 会って確かめるって決めただろ!」

よし、俺は覚悟を決めて公園へ向かった。

いない? しかし、玲彩の姿はどこにもなかった。


 幻か? そんなわけないだろ! 

俺は辺りを探し回ったが結局、玲彩は見つからなかった。

 電話だ、電話しようと携帯を取り出した俺は届いていた着信の数に我に返った。


「も、もしもし……」

「響ちゃん、大丈夫!? 何かあったの? 何回も電話したんだけど」

「す、すみません、連絡出来なくて。た、誕生日会は?」

「終わったわ、えっ? ちょ、美優!」

「何やってたのさ響!」

栞さんの携帯を奪ったのであろう、美優さんが怒鳴りつけてきた。


「アンタをさ、大好きな、かっこいいお兄ちゃんを友達に紹介したかったんだよ、ココは!」

あっ、ああ……。

「友達はココにお姉ちゃんしかいないの知ってるんだから、そんなココが何て言われたと思う? ウソツキって言われたんだよ! 誕生日にさ! 何やってたんだよ! 美優、代わりなさい! 響ちゃんだって何かあったんでしょ、響ちゃん、気にしないで早く帰って来てね、それじゃ切るね」


       《ウソツキーー!!》


 何やってんだ俺は……。


———


 アンソレイユに戻った俺は、散々美優さんに叱られた。帰れなかった理由は綾姉が絵の具の筆を洗ったコップの水をジュースと間違って飲んで、死にそうになったとウソをついた。ゴメン綾姉。


 ココは部屋に閉じこもってしまっていた。

ドア越しに謝るか。

「ココ、ゴメン、約束守れなくて……」

「……らい、嫌い、お兄ちゃん何て大っ嫌い!!」

「ココ、何て事言うの? 響ちゃんだって大変だったのよ」


 一緒にココの部屋まで付いて来てくれた栞さんが諭してくれている。大変だった? 何がだよ、俺は自分の事しか考えていなかった。


「それなら、出来ない約束なら、最初からしないでよ! ウソツキ!!」

「ココ……。ゴメンね響ちゃん、落ち着いた時に説明したらわかってくれると思うから」


 俺は力無くリビングに戻った。

「響介くん、今回は仕方ないよ。ボクからもココタンに説明しとくから、後はゆっくりしてね」

「甘いんだよ、来愛は、ココにとって今日がどれだけ大切な日かコイツはわかってないんだよ!」


「そんな事ない! 美優タンは響介くんの何を見て来たの? 理由も聞かないで、一方的に責めないでよ!」

来愛が美優さんに言い返した? こんなウソツキな

俺の為に。


「来愛の言う通りですよ美優、響介は人の気持ちを踏みにじる様な事しないと思います」

一華も、ホント俺は何やってんだよ。


「そ、そうだな、ゴメンよ響、言い過ぎちまった。でもよ、アイツ等あんな言い方しなくてもよう」

多分、ココは友達に酷い事を言われたのだろう。

「まだ子供よ、あの子達は言葉の使い方知らないだけよ」


———


 俺は部屋に戻りベッドに寝転び天を仰いだ。


 《ウソツキ、ウソツキ、ウソツキーー!!》


 理由も聞かず、一方的に責められるって、こんなに(こた)えるんだな。理由も理由だがな。あの時俺があの子にした事はもっと一方的だった。小学2年生にあの言葉は相当辛かっただろうな。俺は結局、自分の事しか考えてなかった。勝手に被害者ぶって、自分の気持ちをあの子に押し付けてたんだ。あの子が返した言葉だって本心じゃなかったのでは? 


 コンコン。

「はい」

「入るわよ」

花音、そう言えば帰ってから花音とは何も話してない。


「ちゃんとケジメを取るのよ、アナタにも理由はあるでしょう、でも約束を守らないでココを傷付けた事には変わりないわ」

花音らしい言葉だ。

「ハハ、花音ならそう言うと思ったよ。ありがとう、甘やかさないでくれて」

「当然よ、アメとムチは使い様って言うでしょ」

「上手なこって」


 責めるでも、(かば)うでもない、花音の言葉は俺をいつも前に進めてくれる。

ココを傷付けた償いはすぐにでもしよう。


 そして、玲彩に会って謝ろう、動かすんだ、8年間止まっていた時間を。

























玲彩と2人で遊びに行く事に決めた響介は、遂に8年前の事を打ち明ける。新たに知る玲彩と一華の関係、少しずつ一華の過去が紐解かれていく。


次回 第16話 贖罪(しょくざい) 10/26 お昼更新です!

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