第三段階の呪い
学校の会議室の空気は、いまだに冷めることなく渦巻いていた。
議論は堂々巡りを繰り返し、冷たさと熱さが交錯し、形式的な態度の裏に隠された不安が漂っている。
突然、テーブルの端から椅子のきしむ音が響いた。
エズラの父が半ば立ち上がっていた。
顔は赤くなり、呼吸は荒い。
「息子は完璧じゃない…」
声は怒りに押さえつけられていた。
「だが、こんな死に方をする理由はない。こんな方法で命を奪われるなんて…あり得ない。
皆さん…ここで呪いの話ばかりするな。犯人を探せ。誰が…誰がこんな残酷なことをしたのかを。」
母親は顔を上げず、肩を震わせていた。
抑え込んだ涙が、短く詰まった呼吸の中からこぼれ落ちる。
ユニ先生はうつむいたまま、目を潤ませた。
生徒指導の教師として、何人かの生徒が密かにエズラのことを相談しに来ていたのを知っている。
しかし、それらは記録に残しただけで、行動には移せなかった。
今ここで何を言っても、ただの言い訳にしか聞こえないだろう。
心の中でつぶやいた。
――ごめんね。私たちは知っていたのに、十分に気にかけなかった。聞いていたのに、十分に寄り添わなかった。
サティア先生が少し身を乗り出した。
声は落ち着いていたが、厳しさを帯びていた。
まるで燃え広がる感情の炎を抑え込もうとするように。
「我々は理解しています、ウィラタマさん。」
彼はエズラの父をまっすぐに見つめた。
「ここに座っているのは、真実を見つけるためです。私たちは共にそれを探していきます。」
数人が小さくうなずいた。
だが重苦しい空気はまだ消えない。
「すみません…」
か細いが、全員の注意を引くには十分な声が響いた。
エズラの母が顔を上げた。
黒いスカーフに包まれた目は泣き腫らしていたが、その奥の光は鋭く、深い傷を宿していた。
右手にはしわくちゃで濡れたティッシュが握られている。
「さっき言っていた…そのサイト。どういう意味なんですか?」
警部補アリフが新しい資料を開いた。
「そのサイトの名は『スンボクと虐げられた者たちへの正義』。直接リンクがないとアクセスできず、一般の検索結果には出ません。」
「追跡できるのか?」とサティア先生が即座に尋ねた。
「現在、試みています。」
アリフは一息置き、続けた。
「そこには呪いの仕組みが詳しく記されていました。」
彼はテーブルに視線を落とし、再び顔を上げる。
「呪いは意図を持って書かれねばならない。無力な者を傷つけたとされる相手に送られるのです。」
「つまり…」ユニ先生がほとんど囁くように言った。
「誰かが意図的にエズラに送ったということですね。」
アリフはうなずいた。
「そのサイトを手掛かりとするなら、リンクを受け取った十人の生徒の中に、送信者がいます。
そしてその送信者こそ、エズラのロッカーに呪いの手紙を置いた人物――つまり“呪いをかけた者”です。」
彼は手元の写真を掲げた。
「この記号。」
指差しながら言った。
「これは第三段階の象徴です。サイトの記述によれば、第三段階は“不可逆点”を意味します。」
顔を上げ、視線を鋭くした。
「つまりエズラは“スンボクの目”を見た。
それは呪いの最終段階――死の確定を示す証です。」
サティア先生がアリフに向き直った。
声は落ち着いていたが、核心に迫っていた。
「エズラがその手紙を受け取った、あるいは読んだことを最初に知ったのは誰ですか?」
「複数の証言を確認しました。」アリフは答えた。
「最初に目撃したのはトニ――エズラと親しいとされる生徒です。彼は普段、ただの従者のような存在ですが、その日、手紙を読んだエズラの表情が変わるのを見たと証言しました。
言葉は少なかったが、彼が口にしたのは一言――“怖い”。
エズラがそんな感情を表すのは珍しいことでした。」
ウィラタマ氏は沈黙したが、両手は机を強く握りしめ、指の関節が白く浮き上がっていた。
胸は上下し、言葉は喉に詰まり、溢れる感情は怒りと悲しみに絡め取られていた。
「誰が…誰が息子のロッカーにその手紙を置いた?」
声は震えていたが、圧は部屋全体を揺さぶった。
彼はアリフ、そしてサティア先生をにらみつける。
「学校には監視カメラがあるだろう?廊下も、ロッカーも。
まさか“映像が残っていない”なんて言うんじゃないだろうな?」
サティア先生の体が固まった。
深く息を吸い、慎重に言葉を選ぶ。
「申し訳ありません、ウィラタマさん。
事件当日、12年生のロッカーが並ぶ後方廊下のCCTVは修理中でした。できるだけ早く復旧しようと――」
だが言葉が終わる前に、ウィラタマ氏は立ち上がった。
椅子が激しく軋む音を立てる。
感情が爆発した。
「どうやって学校を守っているんだ?!
私はこの学校の最大の支援者だ。
この校舎も、あの実験室も、奨学金も――私が出資した!
だというのに…息子は死んだ!
たった一つの手掛かりすら、管理の不備で失った?!無能だ…お前たちは全員無能だ!」
何人かの教師はうつむいた。
サティア先生は黙って、その怒りを受け止めていた。
アリフは冷静に座ったまま、姿勢を正した。
声は低く、しかし力強い。
「ウィラタマさん、あなたの怒りは理解できます。
今の喪失感を私には想像することすらできません。
ですがお願いです…少しだけ心を落ち着けてください。」
その眼差しは鋭かった。
だが脅しではなく、揺るぎない決意だった。
「CCTVは重要な道具です。だが唯一の方法ではありません。
我々には法医学、デジタルトレース、そして時系列の解析があります。
徹底的に調べ上げます。そのためには全員の協力が必要です。
学校も含めて。」
その声は会議室に響き渡り、熱を鎮め、全員に目的を思い出させた。
ウィラタマ氏は答えなかった。
呼吸は荒く、目には涙がにじんでいる。
わずかに体が震えていた。
怒りか、失われゆく威厳を必死に支えようとするからか。
これまで誰よりも高い場所に立ってきた男――学校でも、仕事でも、息子の前でも。
だが今、彼はただ一人の父親として立たされている。
二度と帰らぬ息子の父親として。
「知っているか…」
かすれた声が漏れた。
「息子を失うとはどういうことか…
そして誰一人として、その理由に答えられないということが…どういうことか…」
彼はもう言葉を続けなかった。
壁を見つめるだけ。
誰かを責めるためではなく、もう責める相手すら分からなくなっていた。
そして誰も否定できなかった。
呪いであろうと、なかろうと――
確かに“何か”が起きてしまったのだ。
――――
小さなレトロバイクが朝の風を切り裂くように走り抜けた。
街は息を潜めるかのように、いつもより静かだ。
風が制服のジャケットをはためかせ、クラシックなヘルメットの奥で、まっすぐな瞳が前方を見据えている。
レイジはハンドルを強く握り、身体を前へ傾けた。
ただ一つの衝動――あの学校へ戻らねばならない。
昨夜は家に籠ると口にした17歳の少年が、今は走り出している。
昨日、何かを見つけたのか?
ただの予感か?
それとも…説明できない心の衝動なのか?
誰にも分からない。
ただ一つ、はっきりしていることがある。
カメラはゆっくりと引き、電柱や建物が遠ざかる中、彼の小さな背中を映し出す。
そして、その車輪が回り出した瞬間から――
彼は危険の中心へと向かっていた。




