第7話 刃の先に巣食うもの
「私が求めるのは一つだけ。これ以上悠くんに絡むのはやめて。やめないのならお前の首を掻っ切るよ」
本当は悠くんのことをずっと見ておきたいのだが、コイツからは危険な匂いがする。
このまま放置していたら、取り返しがつかなくなりそうである。
そんな予感を抱いて、わざわざ後ろをつけて脅すことにしたのだが…。
「なんで絡んだらいけないの?私は純粋に茅森君と仲良くなりたかっただけなんだけど」
「まだそんなことを言うの?お前が悠くんを狙っていることなんて分かってんだよ!」
勢い余って大声を出してしまった。
普段はこんな大声を出さないので、少し喉が痛い。
しかし、この場で問題を解決しないといけないと、今後もズルズル続くかもしれない…。
「まぁ、流石にあからさま過ぎたかな。やっぱり彼は"ここでも"人気なんだよね。まるで虫が光源に集まるように、彼の元にメスが集まっちゃうんだよね」
桃園ユリはこの一瞬で雰囲気が変わった。
先程までとはうって変わって、遠い目をしていて達観しているような感じである。
その口ぶりは昔から悠くんを知っているようである。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
気味が悪い気味が悪い気味が悪い気味が悪い。
私が初めて悠くんと出会ったのは、高校に入ってからである。
高校以降の彼のことは全て知っているつもりだが、過去のことは情報を手に入れるのが難しくてあまり知らない。
それがとても歯がゆくて、もどかしくて、切り刻みたくなってしまう。
「ちょっと手元をお留守にしすぎじゃないっ!」
ずっと後ろからナイフを突き立てられていたが、急にボソボソと呟いていたので、明らかにチャンスに思えた。
なので、まず綾瀬さんの手首を掴んで握っているナイフを落とさせて、再び取られないように遠くに行くように蹴飛ばした。
ナイフが地面を掠める音が、どんどん小さくなっている。
綾瀬さんは不意を突かれたようで、少しの間硬直していた。
その間に私は走って逃げることにした。
追撃をしようか一瞬悩んだが、あのまま追撃をしようとすると、綾瀬さんなら道連れ覚悟の行動をとってきてもおかしくない。
だから、逃げるのが得策だろう。
私は走るのが苦手なので、追いつかれた嫌だなと思って後ろを振り向くと、どうやら追っては来てないようである。
「(ふぅ〜、あの子は本当に厄介だね。なによりも手段を選ばない所が…。でも、その点においては私にも似てるしね)」
走り去っていくあの女の後ろ姿を眺める。
愛しの悠くんはとんでもない女に狙われてしまっているようである。
私は絶対に悠くんを守らないといけない。
しかし、法律とかいう障害のせいでもし捕まってしまうと、長い間会えなくなってしまう。
そんなの嫌だ…。
だから、今さっきまで刺したい衝動を必至に我慢していたのだが、その甲斐はあった。
あいつにナイフを向ける時に、こっそり髪を少しだけ切っておいた。
これを食べればあの女に変身出来るようだが、倫理観の問題と、シンプルに悠くん以外の人間の体の一部なんて食べたくない。
しかし、私は必要の奴隷(悠くん関係限定)なので、必要に駆られればやむを得ない場合もあるだろう。
その時のために髪の毛を採取する必要があったので、忠告と同時に出来たのは僥倖だ。
この後は今後の作戦を立てるために、おとなしく家に帰ることにした。
カーテンの隙間から、朱に染まった夕陽が細く差し込んでいた。
壁にその光が静かに伸び、部屋の中に長い影を落とす。
僕の部屋には物はあまりない。
物欲が無いのではなく、その逆でブュリダンのロバのように、同じぐらいに欲しい物がたくさんあるので結果的に選べなくなり、その場に停滞してしまうので僕の部屋は少し寂しい。
しかし、今の時代スマホさえあれば大抵のことはできてしまうので、もうこのままでも良いかなと思い始めている今日このごろである。
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