第5話 激ヤバ女襲来
目の前の青年はすやすやと気持ち良さそうに寝ている。
そんな彼を見ていると心がとても弾んでしまう。
これから彼を私の家に連れ込むことを想像すると、口角がつり上がってしまう。
しかも、いつものクセでついつい髪を触ってしまう。
「(あっ…、またこのクセ出ちゃってる)」
私は感情が昂ると髪をいじってしまうクセがある。
このクセのせいで髪が少し傷んでしまうので、控えるようにしているのだが、こんなに嬉しいことがあるともはやしょうがないだろう。
でもこの段階まできたら、後は私の家に連れて帰るだけである。
ウッキウキな気分で席を立とうとすると、気味の悪い女が私の席にやってきた。
その女はまるで壁に溶け込む影のように、存在を主張するでもなく、ただ彼をじっと見つめている。
瞬きすら忘れたような静止した瞳の奥に、何か冷たいものが潜んでいるのを感じた。
雰囲気が非常に不気味で怖い…。
まるで幽霊のような女である。
そこに立たれると邪魔なので、話しかけないといけないとなると嫌になる。
だが、退いてくれないと彼を運べないので腹をくくることにした。
「ちょっとあなた。すみませんけど、すこし退いて頂けませんか?」
話しかけるとその女はゆっくりと私の方を向いた。
すると、小声でなにかボソボソと呟いているようである。
そしていきなり机を叩きだした。
「おかしいな…悠くん昨日は夜の0時には寝ていたはずなのに。お前なにかしただろ」
声に覇気はないものの、よく分からない圧力を感じる。
しかし、彼の就寝時間など知っている訳がないはずである。
もし、本当に知っていたとしたら、ただのストーカーである。
「あなたは何を言っているんですか?私がなにかした訳ないでしょ。しかも、彼の寝ている時間を知ってるなんて言う虚言癖持ちの人の話なんて聞いておけないです」
話を切り上げて席を立とうとすると、さらに追及してきた。
「私はずっとお前と悠くんを見ていたけど、あのマスターと仲が良いみたいだね。それなら睡眠薬を仕込んでもらう…、とかも出来るんじゃない?」
自分がこんなに早口で饒舌に話すことなんて初めてだが、今はそるぐらいの緊急事態である。
目の前にいるこのゴミは絶対に悠くんの飲み物になにか薬を入れているはずだ。
そんなことはほぼ自明だが、どうしても証拠がない。
しかし一つあるとすれば、ゴミにも悠くんが飲んだ紅茶を飲ませれば結果が出て白黒はっきりするが、悠くんが口をつけたものに他の人が口をつけると思うと、反吐が出る。
なので、この策は使えない…使いたくない。
こうなると最終手段を使わざるおえない。
それは一番有効な手ではあるが、時間が少しかかってしまうが、もはややむ無し。
その最終手段とは非常にシンプルで、悠くんの隣に座って全力で揺するということだ。
このまま水掛け論をしていても無駄なので、本人に聞けば一発で分かる。
「あなた何してるの!?せっかく彼が気持ち良さそうに寝ているんだから、寝させてあげましょうよ。それと茅森くんに触らないでください」
「(この後は私の家に彼を連れて帰れば勝ちだったのに、邪魔しやがって気味悪根暗女)」
いつもはこんなに他人のことを悪く思うことなどないのだが、今は胸の中に憎悪が湧いてきてすぐにこの女を短冊切りにしてやりたい気分だ。
そんな衝動を歯を食いしばり、必至に耐える。
2人で押し問答を続けていると茅森くんが少し動いた。
「(う〜ん…。なんだか周りが騒がしいような気が…)」
微かに意識が戻ると、やっと目が開けられる状態になった。
しかも、誰かに揺らせれているような気もする。
ここまでくると、もう再び寝ることは無理そうだ。
まだ寝たい気持ちもあるが、仕方なく目を開くと目の前には桃園さんが座っている。
これは当たり前だと思うが、一つ意識が消える前と変わったところがある。
それはこの場に居ないはずの、知っている顔が自分の隣にあった。
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