第3話 ハイドアンドシーク
昼休みが終わり、残りの授業もあと僅かになってしまっていた。
そうなると胸の中に焦燥感や不安感が湧き上がってきた。
悠くんはおんな女に誑かされることは無いと信じている。
しかし万がーということも考えられる。
だから、私が悠くんを守ってあげないと…。
そんな気持ちのまま午後の授業は終わった。
私は人と関わることが苦手だ。
隣りの席の子とペアになって英文を読み合うなど、もってのほかである。
私の愚痴は置いておいて、悠くんはり帰る準備をしている。私も急がないと。
「(桃園さんとの約束は無視しようかな…)」
そんな悪い思いが頭の中で巡るが、校門の前で待たれているとすると逃げれそうにない。
なので、諦めて普通に帰ろうと思い、席を立った。
この学校は生徒数も多いため、その分教室の数も多い。
そのせいで廊下は長く、歩くのが億劫になる。
長い廊下を渡って、階段を下るとすぐに昇降口に着く。
そして靴を履きかえて外に出る。
するとグラウンドではもう部活のアップが行われており、大変そうだな。 と、完全な他人事に思っていた。
やはり今の時間帯は部活に入っていない生徒の帰宅ラッシュなので、人がたくさんいた。
しかし、そんな中でも一際目立っている生徒がいた。
それは今日、僕のクラスにやって来た桃園ユリである。
彼女の周回だけ他とは隔絶されており、別空間になっているようだった。
あまりの変わった光景に笑いそうになりながら必至に我慢した。
そして群衆に紛れて桃園さんに見つからないように、ひっそり帰ろうと試みた。
「あれ、茅森くん。私はこっちですよ」
桃園さんはこちらを見て、手を振っている。
見つかってしまった。
完壁に影になって群衆に紛れ込めたと思っていたのに、普通に見つかってしまった。
こうなると潔く出て行くしかなくなった。
「そんなとこに居たんだ。ごめん、 全然気づけなかった」
自分でも、ものすごく自々しく言ったように感じた。
しかし、桃園さんは気付いているのか、気付いていないのか分からないが、穏やかな笑みを携えていた。
その表情に背筋に嫌な汗が伝う。
「半強制的に付き合わせちゃってごめんね。でも後悔はさせないから」
強制していることは、本人にも自覚はあったようで少し安心した。
しかし気が付くと、周囲から好奇な目線を向けられていた。
それは仕方のないことなので、気にすることはやめた。
「じゃあ私についてきて」
「(どこに行くのか知らされてないんだけどな…)」
桃園さんは僕の腕を軽く引いてきた。
正直やめて欲しいのだが、なかなか直接伝える事は気まずい。
だから僕は腕を引っ張られたまま、共に歩いた。
私の瞳は永久凍土のごとく冷めていた。
悠くんはあの女に連れられて行ってしまった。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
あの女は悠くんと知り合って数日なはず。
なのになんで、あんなに馴れ馴れしいの?
確認しないと………あの女はすごく臭い。
違和感がどうしても拭えない。
そんなことを考えていると、視界から悠くんとあの女の姿が消えている。
自分の世界に入り込んでいたから、2人はどこかに向かってしまったようである。
急いで2人の後を追った。
「それで、どこに行くのかそろそろ教えてくれない?」
手は離してもらえたが、どこに行くかは未だ教えられていない。
もう歩いてから10分程経っているのに…。
いつも通っている道ではないので、ここの場所もよく分かっていない。
「今から行くのわね、私の行きつけのカフェなの。そこに茅森くんも来てほしいんだ」
やっと教えてもらった場所は、思ったより普通の場所だった。
自分的にはもっと危ない場所だと思っていた。
例えば宝石店に連れていかれて、周りにゴツい黒スーツを着た男に囲まれながら、宝石を買えと脅される…みたいなやつとか。
これぐらいしか自分の足りない頭では考えることが出来なかった。
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