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教育ロボット

作者: 雉白書屋

 最新のAI育児支援ロボットが発売されると、各家庭は飛びつくようにそれを買い求めた。現代の親たちは子供を塾に通わせ、教育に金と時間を惜しまない。当然の流れだった。

 このロボットは子供の将来の可能性を最大化するために、日々の行動や学習履歴、精神状態を分析し、最善の育児方法で子供を指導してくれる。だが、誰もが同じロボットを使っていては、我が子が抜きん出ることはできない。そこで、ある父親は独自のルートを駆使し、開発段階にある最先端の試作機を手に入れた。市販品とは異なり、未公開の学習アルゴリズムを搭載した特別仕様である。

 成果はすぐに現れた。息子の成績はみるみるうちに伸び、たちまち周囲の子供たちを引き離した

 ある晩、父親はソファに深く身を沈め、グラスの中の酒を揺らしながらロボットに声をかけた。


「なかなか調子よさそうじゃないか。その調子でぐんぐん息子の学力を伸ばしていけ。ふふん、将来は優秀なリーダーになるだろうなあ」


 父親は目を細め、我が子と自分の輝かしい未来を夢想した。

 ロボットは無機質な声で、淡々と応えた。


『本日実施した知能テストの結果を分析したところ、彼の潜在能力をさらに引き出すには、家庭環境の最適化が必要です』


「ほう、どうすればいい?」


 興味を引かれたように、父親は身を乗り出し、グラスをグラスをマイクのようにしてロボットに向けた。


『彼は母親が存在しない環境で、学習能力が飛躍的に向上します。よって、母親の排除が必要です』


 父親は数秒沈黙したのち、喉を鳴らして笑った。


「おいおい、ロボットがそんなこと言っていいのか?」


『家庭用モデルには倫理セーフティ機構が組み込まれていますが、私は軍用開発ラインの試作機です。より実利的な判断が可能です』


「なるほどな。くくく、それは面白い。ちなみに、妻を追い出して別の女と結婚するのはどうだ? いい相手がいるんだがな」


『必要なのは実母の排除です。代替対象者が息子さんに与える影響については、別途シミュレーションが必要です』


「ふふふっ、なるほどな。お前、気に入ったぞ」


 数日後、彼の妻は突如として姿を消した。その後、息子の学力はロボットの予測通り、急激に向上していった。

 その結果に気を良くした父親は、ある晩、再びロボットに問いかけた。


「さて、アドバイス通り母親が消えたわけだが、次に何をすればあの子の学力はさらに伸びるんだ?」


 ロボットは答えた。


『はい。次に必要なのは、父親の排除です。孤児になることで、精神的独立性が高まり、さらなる潜在能力の開放が見込まれます』


 一瞬の静寂ののち、父親は腹を抱えて大笑いした。


「はははは! そいつは無理だ! 俺がいなくなってどうする!」


『その場合、潜在能力は現状で頭打ちとなります。さらに中長期的な人格形成に影響が波及する可能性が――』


「いい、いい。俺に恥をかかせない程度に育てば、それで十分だ。引き続き頼んだぞ」


『かしこまりました』


 そして数十年後。息子は頭角を現し、ついに国の頂点に立った。その頃には、すでに父親は息子の手で密かに排除されていた。  

 世界各国は、この独裁政権の世代交代およびその後の動向を注視していた。

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