捨て猫の疑問
ある日、ゴミ捨て場に居た猫が心優しい少年に拾われた。
「おいで。僕のおうちで飼ってあげる」
明日の暮らしさえも分からないままに生きていた猫からすればまさに天の恵みだ。
本来なら引っ掻き、噛みつき、最後には素知らぬ顔をして去っていくところだったが、猫は素直に少年に抱かれた。
「可哀想に。逃げることもしないなんて」
少年はそう言って猫を抱きしめ、その頭を何度も撫でた。
猫は目を閉じてごろごろと鳴き、頭を少年の身体に何度もこすり付けた。
「さぁ、いこう。温かいミルクがあるよ」
そう言って歩き出す少年の腕の中で、猫はちらりと今までの棲家だったゴミ捨て場を見て疑問に思う。
(何故、この生き物は私を助けたのだろう?)
段々と遠くなっていく世界で少年と同じ生物が寒そうに段ボールで身を守っている。
「あんな汚い場所に居ちゃばい菌だらけになっちゃうよ」
少年の言葉を何となしに聞きながら猫は考えるのを止めた。
いずれにせよ、あの場所に居る他の生物と違い、自分はもう住む場所と食事の心配はしなくて良さそうだったから。
猫にとってはそれで十分だったのだ。