第3話 成功? 精巧?
巣に戻る。
ゴブリンA とゴブリンCが鍋を囲んでいた。
鍋の中身を覗いてみると、ゴブリンDだった。
ネトラレさんの視覚アシストで死体の額に「D」とあるので間違いない。
「ぎゃぎゃ?」
喰うか? とでも言ってるのか、骨が飛び出たゴブリンDの腕を勧めてくる。
もちろん、喰うわけがない。
俺が狩りをしていたのはレベルアップのためだが、それ以上に、この悪食極まるゴブリンの食生活に付き合いきれなかったからだ。
ゴブリンの主食は、なんとゴブリンなのだ。
天井岩の落下で事故死したゴブリン、喧嘩で撲殺されたゴブリン、病死したゴブリン……、ゴブリンの巣穴には鍋の具材は事欠かない。
虫やカエル、コウモリなんかも喰うが、巣に迷い込んだのを捕れたときだけだ。
腹が空けば死体を鍋に放り込み、死体がなければ弱い同胞を肉にして放り込む。
ゴブリンに「料理」なんて文化はないので、血抜きも内臓の処理もしない。
だから出来上がるものは血糊と糞尿の調味料で味付けされた酷いものばかりだ。
病死したゴブリンの死因は十中八九、この『ゴブリンのスープ、糞尿と血糊の腐敗臭を添えて』に違いない。
(……そういえば)
久しぶりに牛を見たせいか、ふと思った。
(もう何日もデカい肉を食ってないな)
前世の最後に喰ったのは味気ない保存食だった。
特大骨付き肉をたき火で上手に焼いたのはいつぶりか。
……じゅるり。
(あの牛……旨そうだったな……)
ちゃんと血抜きして、内臓を取り出して、後ろ足のどっちかをモモのあたりから切り取って、たき火でじゅーじゅーと焼くのだ。
塩か胡椒がないのは残念だが、……たっ、堪らん!
(よし、まずは牛を狙おう……)
ひとりで牛を盗み出すのはリスクは高いように思えるが、牛は温厚な生き物なので怖がらせたり、驚かせたりしなければ、盗み出すのもさほど難しくない。
盗賊団を率いていたときは手下のちび達を喰わせるために良くやったものさ。
……とりあえず夜を待とう。
巣穴の適当なところで寝転がる。
「ネトラレさん、夜になったら起こしてくれ」
『了解――』
と、不意にネトラレさんの声が途切れ、
『パンパカパ~ン♪ おめでとうございます。生後10日生存によりグリーンゴブリン(成体)に進化しました。スキル《セーブポイント作成》が開放されます』
「あん?」
寝転がって後数時間何をしようか、と思案しようとしたところで、突然、ネトラレさんが感情のこもらない声で歌い出した。
「なにごと?」
『グリーンゴブリン(成体)に進化しました』
「なにが――」
変わった、と聞くまでもなく、ネトラレさんが気を利かせてくれた。
なまえ:ガガ
しゅぞく:グリーンゴブリン(成体)
じょぶ:ノーマル
れべる:2☆
ちから:6
からだ:4
すばやさ:4
きようさ:2
かしこさ:6
みりょく:3
すきる:【幼体ペナルティスキップ】【ゴブリン投擲術】【ゴブリン槍術】
【セーブポイント作成】
てんせい:2
レベルカンストは変わらず、か。
あと、特に変わったところは、……おや? スキルが増えてるじゃないか。
「【セーブポイント作成】とは?」
『死んだ場合、そこから新たに転生してやり直すことができるポイントです』
「なんと!! 死んでもまた転生できると?!」
――つまり! ゴブリン以外の生き物に転生することも?!
『ただし、ゴブリン限定です』
「……さ、さよか」
ま、まあ、ゴブリン限定でもやり直せるだけまだまし、……か?
「どうすればいい?」
『雌個体と性交してください』
――ん?
『雌個体と性交してください』
「精巧? 成功?」
『「性交」です。「性交」についてチュートリアルが必要ですか?』
「い、いや、それくらいはわかるが……、バグった?」
『98%正常に稼働中です』
……2%バグってんの?!
「いや、まあいい。しかしだな、その……それをやるとだな、できるのはゴブリンの子供だけだぞ?」
『正確には、雌個体の子宮で複製された雄個体の同一個体です』
「え? それって……クローンってことか?」
『作成された「子ゴブリン」を異世界の言葉で定義するのならそうなります』
「え? え? つまり、死んだら自分のクローンに転生するってこと??」
『そうなります』
「なんか、聞けば聞くだけ人間性がごりごり削られてくんだけど?!」
『心配ありません。個体名「ガガ」は今現在「ゴブリン」です。不要な人間性はゴブリン社会での作戦行動に支障が出る恐れがありますので廃棄を推奨します』
「絶対、嫌なんだけど!?」
『……作戦実行前にセーブポイントの作成を推奨します』
はぁ~、とため息が聞こえてきそうな間を置いてネトラレさんは言った。
『洞窟奥……通称「繁殖場」に移動してください。ルートを表示しますか?』
「大丈夫だ」
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