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第21話 黒パンと祭壇

 廃屋を何軒か回り、ネトラレさんの地図にいくつか印を残しておく。


 釘多め、家具多め、腐敗多め、とか後でどんなものがあったのかわかるように。


「……こんなものか」


 日もとっぷりと暮れ、夜のとばりに星々が輝こうとしていた。


 夜目が利くゴブリンにとってはここからが本当の意味での活動時間だが、ものの良し悪しを見るにはどうしても陽の光が必要だ。


 夜目が利いてもこればかりはどうしようもない。


 両手に持てるだけの板と釘だけを持って素直に撤収しよう。


 工具の類は残念ながら見つからなかった。


 ……まあ、しょうがない。


 前々世ならホームセンターで簡単に買えるものだが、この世界の工具はほとんどが一点ものだ。鍛冶屋に頼んでひとつひとつ作って貰う高級品なのである。


 どんな手違いがあろうと廃屋に捨て去られているはずがない。


「ボス~、ありましたよ~」


「――?!」


 ゴブリンCが駆け寄ってくる。


「みっ、みみみみみっ、見つけた?!」


「金槌です。偉いですね、褒めてください」


 と、ゴブリンCが差し出したのは、真っ黒い……なに、これ?


 何やら甘い香りが漂ってくるのだが……。この香りは、……まさかな。


「どこら辺が金槌だ?」


「ここら辺、カナヅチにそっくり!」


「いや、部分的にそっくりなものじゃなくて金槌そのものを持ってこい……ってか、それ……黒パンだよな?」


「なんですか? 黒パンとは? 良い匂いがしますね」


「食べ物だ」


「ほんとだ、食べられます」


 むしゃむしゃ、と上手そうに咀嚼しやがる。


「……」


「でも、うちは血の滴る生肉の方が好きです」


「なら、半分くらい残して欲しかったが……」


 久しぶりのパンだったの。……しかし解せないな。


 庶民がお米代わりに食べるようなもので、廃屋に放置されていたらネズミかなんかに食い荒らされるか、カビに覆われて自然に還るかの二択なのにだ。


 ゴブリンCの胃袋に消えた黒パンには、かび臭さも、野生動物に囓られた痕もなかった。まるで朝食に出た奴をそのまま持ってきたかのような状態だった。


「どこで見つけた?」


「木箱の上に置いてました」


「木箱の上?」


「木箱が詰まれてお月様に照らされてました」


 何かの捧げ物かな? しかし廃屋なんかで何に捧げ物をするというのか?


「案内してくれ」


「こっちです」


 2匹で目的地に歩き出す。


「ところで体は……大丈夫か?」


「お腹が少し一杯になりました」


 少しなのか、一杯なのか……、まあいいが、毒が入ってないとはまたまた面妖な。


 てっきり忍び込んだ小型の魔物を殺すために置かれていたと思っていたのに。


「ペラペラの革も見つけました。尻を拭くにはよさそうです」


「ペラペラの革?」


 革で尻を拭くな、というツッコミの代わりにそう問いかけ、ゴブリンCからその「ペラペラの革」とやらを受け取る。


「羊皮紙か……」


 この世界には木で紙を作る技術がないので、何か書くものと言えば、もっぱら動物の皮を加工したものか、竹片を巻物状にしたもの、または石版と相場が決まっていた。


 ちなみにどれも高級品であるため、すり切れるまで何度も使われ、容易に捨てられることはない。もちろん廃屋に放置したままなど金をどぶに捨てるようなものだ。


「何か書いてあるな……」


 スキル【世界統一人類語】がないため、ただのシミのようにも模様のようにも見えるが、羊皮紙である以上は「文字」の類だろう。あとでビチ子さんに読んで貰おう。


「ここです」


 三軒隣の廃屋に案内された。窓からこっそりと中を伺ってみる。


「誰もいなかったですよ?」


「今はいるかもしれないだろ?」


「なるほど! 流石、ボスです!」


 ……我ながら馬鹿な会話をしているなぁ。


 呆れながら中を観察すると、中は木箱で一杯だった。


 木箱置き場? いや、物置かな? 


 しかし、置いてあるのは木箱ばかりで、廃屋の中央辺りにうずたかく積まれて、天井の穴から差し込む月光のスポットライトがその頂上を照らしてた。 


 ――祭壇。


 荘厳でもなければ美麗でもないが、ふとそんな二文字が頭を過った。


 おそらく黒パンはあの頂上に置かれ……いや捧げられていたのだろう。


「これ、とっちゃ不味かったんじゃないか?」


「そうなんですか?」


 ゴブリンCは無邪気に首を傾げやがるが、きっとそうに違いない。


 きっと民間伝承の何某に捧げた供物、……いや、そんなわけないか。民間伝承の何某用だったら、木箱じゃなくて、ちゃんとした祭壇を作るわな。


 じゃあ何のために黒パンを捧げていたんだ?


 まさかまさかゴブリンに食べさせるためじゃあるまい。ゴブリン用だったら、毒くらい仕込んでいるだろうしな。


 ……謎だ。


「とりあえず帰るか……」


「了解です」


 少なくとも黒パンを取ったことで俺らの存在は嗅ぎつけられただろう。


 黒パンを置いた犯人次第では廃屋は放棄しなければならない。相手が大人なら確実にゴブリンを疑うだろうからな。誘拐の前科もあるわけだし。


 材料集めに良い場所を見つけたと思ったのに……、


 やれやれだ。上手くいかないものだ。


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