第1話 ちゅ~とりある
こうして、俺はゴブリンに転生させられた。
前々世の知識で言うなら、まさに「オー・マイ・ゴッド」である。
「どうすりゃ良いんだ……」
聖女が裏切った理由を調べたくとも、ゴブリンではどうしようもない。
そもそも街に入れない。門番に殺されるわ。
街に忍び込んだところで誰がゴブリンに協力してくれるものか。
貧しい家柄でもせめて人間だったらやりようがあるのだが……。
『転生体の覚醒を確認しました。固体名を設定してください』
――は?
ふて寝を決め込んでいたら突然そんな声が頭に響いた。
『現在の個体名は「ゴブリンG」です。群でG番目――つまり7番目に生まれたゴブリンという意味です。このままの個体名で設定しますか?』
「ぎゃぎゃぎゃ?」
――おおっ?!
俺は「お前は誰だ」と言ったはずなのに、捻り殺された鴉の断末魔みたいな声しかでなかった。もしやこれがゴブリンの言葉か?
『ナビ精霊、NT-R3です』
――おっ、通じた。
NT-R3さんか。呼びづらいから『ネトラレさん』と呼ぶことにしよう。
『ランダムで設定することもできます』
「いや、『ガガ』で登録してくれ」
前世の名前でも良かったのだが、ゴブリンにはもったいないような気がしたので、気分一新の意味も込めて、前世の名前をちょっと削ってみた。
『個体名「ガガ」を登録しました。続いてチュートリアルを始めます』
「ちゅ~とりある?」
『なお、チュートリアルのスキップは可能です。スキップした場合、チュートリアル特典を受け取ることはできなくなります。スキップしますか?』
目の前に「Yes/No」の吹き出しが現れる。
とりま「No」を指チョンしてみた。
『チュートリアルを開始します』
――おうよ!
『右足を出し、次に左足を出すと歩けます』
――お、……お?
『指を開き、対象を手の平に収めた状態で、指を閉じると、対象を持つことが出来ます。なお、指を開くと対象を放すことが出来ます』
「……」
「膝を曲げ、臀部を床につけると座ることが出来ます』
「……」
『頭部を回すと他の方角を見ることが出来ます」
「あ、あの……」
『チュートリアルを中止しますか?』
「い、いえ……」
ゴブリン特有のだけで良いんだが……。
『左足と右足を早く出すと走ることができます』
「……」
その後、チュートリアルに従い、基本動作をひとつひとつやり遂げる。
『以上で、基本動作のチュートリアルを終了します』
「え? 終わり?」
『はい、終わりです』
「口から毒液を吐くとか、鼻から火を噴くとかは?」
『ゴブリンにそのような機能はありません』
……ですよねぇ。
『チュートリアル終了特典により業ポイントが200ポイント加算されました』
――業ポイント?
『現在の業ポイントで習得できるスキルを表示しますか?』
また目の前に「Yes/No」の吹き出しが現れる。もちろん「Yes」を選択。
すると、新たな吹き出しが現れて、
「……これは?」
ぱっと見ただけでも『ゴブリン言語』『ゴブリン戦術』『ゴブリン剣術』などなど。
頭に『ゴブリン』がついてはいるが、大半は前世でも馴染みのある技能系スキルだ。
『ちからUP』『かしこさUP』などのステータスアップ系のスキルが並んでいる。
これまた前世でも馴染みのあるスキルだ。
技能系は一律「200P」で、ステータスアップ系は一律「50P」必要らしい。
……しかし、どれが有用なのか、まるでわからん。
前世の経験から「投擲術」と「槍術」を選びたくなるが……。
「業ポイントはどうやると獲得できるんだ?」
『人類勢力に不利益を与えると獲得できます』
「例えば?」
『殺人、窃盗、強盗、器物損壊、強姦――』
ふむふむ、まとめるとお巡りさんに捕まる行為全般ってとこか。
流石、ゴブリン。人類の敵。
『対象の価値が高いほど獲得できる業ポイントは増えます』
……まあもっともゴブリンでは大それたことはできそうにないが。
そういえば、ゴブリンのステータスってどうなってるんだろうか。
低いのは覚悟の上だが一応、知っときたい。
前世で傭兵をやっていたときは、古代魔術の謎技術で造られた身分証によって知ることができたが、はてさて、ゴブリンはどうやって調べれば良いんだ?
『ステータスを表示しますか?』
「できんの?!」
『できます。表示しますか?』
「よろ~」
ぴこぉん、と懐かしい電子音を鳴らして新しい吹き出しが浮かぶ。
……なになに?
なまえ:ガガ
しゅぞく:グリーンゴブリン(幼体)
じょぶ:ノーマル
れべる:1
かるま:400
ちから:5
からだ:3
すばやさ:4
きようさ:2
かしこさ:6
みりょく:3
すきる:【幼体ペナルティスキップ】
てんせい:2
「――ひっ、く!?」
低い低いとは思っていたが、全部一桁!!
流石、雑魚オブ雑魚! 初心者冒険者の経験値ボックス!
「これでどんな悪事を働けと……?」
殺人は絶対に無理だろう。農夫だってこれの二倍以上はあるわ。
せめて「すきる」は……【幼体ペナルティスキップ】?
「なんぞ、これ?」
『幼体時のステータスを成体時と同じにするスキルです』
「ちなみに幼体時にステータスとは?」
『オール「1」です』
「あっ、ありがたい!!」
――ある意味、神スキル!!
……まあ成体時でも毛が生えた程度にしか違わないけど。
「とりあえずはレベル上げかな~」
傭兵式トレーニングでステータスを上げるのもいいかもしれん。
『業ポイントでステータスアップを推奨します』
「そうなのか?」
傭兵の時はステータスUP系より技能系のスキルの方を重宝したものだが、ゴブリンは勝手が違うのだろうか。とりあえず保留しておく。
――さて、と。
当面は傭兵式トレーニングしながらレベリングって感じかな。
……まあなんとかなるだろう。
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