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第15話 森の中のアルマ

 松明片手に森に向かう村の男衆のあとをこっそり追いかける。


 森まで案内して貰ったところで俺は男衆と別れ、木立の中をひたすら走った。


『場所がわかるのですか?』


「ゴブリンは臭うからな、他の群の奴は特に……」


 木登り、周囲を見渡す。


 ゴブリンは夜目が利くから真っ暗闇であろうと動くものを逃すことはない。


 ゴブリンの唯一と言ってもいい強みだ。


 森に生息するゴブリンの一匹でも見つけて、そいつを追跡すれば巣にたどり着ける、と安直に考えて事だったが、……大当たりだ!


 枝葉の合間に、赤い光がちらほらと揺れているのが見えた。


『松明の明かりですか?』


「そのようだ」


 念のため、後ろを振り返ると村人が掲げる松明が点々と列をなして近づいてくるのが見えた。闇に潜む何者かを警戒してか、その足取りは決して早くない。


 俺が気づいたものにもまだ気づいていないようだ。


 木を降り、赤い光の方に静かに向かう。


 木立を抜けると開けた場所に出た。


「――、――、――」


 ……いた。


 多分、村人が探している少女だ。


 少女は大きな岩の上に陣取り、その周囲をゴブリンに囲まれていた。


「ゴブリンが普通にゴブリン顔に見えるんだが?」


『ならゴブリン顔のゴブリンなのでしょう』


「なるほど……」


『それより、どうしますか?』


「さて、どうしようか……」


 絶体絶命、って感じだ。


 地の利は少女にあるが、如何せん、数の利がない。


 大岩をよじ登ろうとするゴブリンに、少女に石を投げつけるゴブリン。


 そいつらを見て馬鹿騒ぎをする、ゴブリン、ゴブリン、またゴブリン……。


 少女はよじ登ろうとするゴブリンを蹴落とすものの、一匹にかまけている間に、別の一匹がよじ登り、そいつを蹴落とす間に、また別の一匹がよじ登ろうとする、モグラならぬゴブリン叩き状態。少女の体力が尽きれば一巻の終わりだ。


 俺は腰蓑から包丁を抜き、逆手に構えると、一番近くにいたゴブリンの背後に、ぬきあ~し、さしあ~し、しのびあ~し、と近づき――、


「――?!」


 何かを言う暇も与えずに、包丁でその喉を真一文字に切り裂いた。


「ひと~つ……」


 ゆっくりと寝かせ、さらに一匹に近づく。


「――!?」


 喉を切り裂き、音を立てないように寝かせる。


「ふた~つ……」


 さらに一匹……に近づいたところで何気なく振り返ったそいつと目が合った!


「――っ!」


 慌ててそいつの額に包丁を突き刺す。


 ――ごぎぃ!


 包丁の先端と骨の砕ける音がやたらに大きく響き渡った。


(いかん!!)


 音に気づいたゴブリンが振り返る。


 俺は包丁を抜き、……抜けない!? 頭蓋骨にひっかかっている!!


(……くそぉ!)


 包丁を諦め、緑の疾風となってゴブリンの脇を駆け抜ける。


 後ろの数匹は俺の存在に気づいたが、前の数匹はまだ気づいた様子はない。


 大岩の前のゴブリンに狙いをつけ、さらに速度を上げる。


 そうして――


「ぎゃぎゃ?」


 狙いをつけた1匹が振り返った、その瞬間――。


 俺はそいつの顔面を踏み台にして大岩の上に飛び乗った!


「――! ――! ――!」


 突然の俺に少女が狂ったように叫ぶ。


 無理もないが、同情している暇などない。


 このままでは少女が自分から大岩から飛び降りそうだったので、背中のフライパンを足下に投げつけてやった。


「――?」


 少女は怪訝な顔をしてフライパンを拾い上げ、俺とフライパンを交互に見つめた。


 ――殴って良いの? とでも言いたげな顔だ。


 もちろん、殴られたくてフライパンを渡したわけではない。


 俺は兜代わりの鍋を脱ぐと、腰蓑に佩いていたオタマで、強かに叩いて見せた。


 ――ガンガンガンガンガンガン! 


 近所迷惑も甚だしい騒音が鳴り響く。


 少女は俺の奇行にキョトンとした後、はっとした顔をした。


 ……賢い子だ。


 少女はフライパンを振りかぶると、思い切りよく大岩に叩き付けた。


 ――ごぃぃぃぃ~ん!


 俺らの奇行にゴブリン共が「ぎゃぎゃぎゃ!」と騒ぎ立てる。


 恐怖のあまり気が触れたとでも思ったか?


 ――ぷすぅん!


 唐突に、気の抜けた音を鳴らしてそいつの額に矢尻が生えた。


「ぎゃ?」


「ぎゃぎゃ?」


 頭を矢で貫かれた1匹が忽然と倒れ、物言わなくなるのに、他のゴブリンは顔を見合わせて何事かを言い合う。言い合う間に別の1匹の頭に矢が突き刺さった。


(――ようやく来たか)


 次の瞬間、怒号を上げて村の男衆が雪崩れ込んできた。


 完全に不意を突かれたゴブリンどもは為す術もない。


 男衆の農具に耕される奴、狩人の弓矢に貫かれる奴、無残に足蹴にされる奴……。


 応戦か退却かを迷う間に半数が蹴散らされ、ようやく多くのゴブリンが退却を決断したときには、単にその無様な背中を怒れる村人の前に晒しただけだった。


 背中を痛打され、あるいは矢で射貫かれ、次々と脱落していく。


 と、俺のところにも矢が飛んできた。――あぶねっ!


 ……まあ狙いは悪くない。


 少女を守るつもりなら真っ先に狙うべきはもっとも近くいる俺だろうからな。


 ――逃げるっ!


 少女が呼び止めるように何かを叫ぶが、まあ言葉がわからんので無視だ。


 大岩の後ろに飛び降り、すたこらさっさと木立に逃げ込んだ。


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