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第14話 トントンノック大作戦

 小難しい説明を聞いたところで【ゴブリン言語】がなければ何も始まらない。


 というわけで、まずは業ポイント稼ぎだ。


 チビゴブリンではろくな悪事を働けないと諦めていたが、農夫の一件がよいヒントとなり、殺しも盗みもなしで、業ポイントを稼ぐ方法を思いついた。


 とりあえず日が沈むのを待ってから近隣の村周辺に移動する。


『何をする気ですか?』


「嫌がらせだ」


『嫌がらせ? 安眠でも妨害するつもりですか?』


「いや、それだとヘイトを稼ぎすぎる。農夫の一件で真っ先にゴブリンが疑われるだろうしな。できれば犯人が特定されない方法で業ポイントを稼ごうと思う」


『詳しくお願いします』


「名付けて『トントンノックダッシュ大作戦』だ!」


 簡単に言えば、前々世であった「ピンポンダッシュ」のノックバージョンだ。


 一家団欒でくつろいでいるところをノックで呼び出され、重い腰でいざ玄関のドアを開けてみれば誰もいない。……くくくっ、住人にはさぞいい迷惑だろう。


『あまりにせこいのでは?』


「小さな事からこつこつとだ!」


 周囲に人の目がないことを確認してから、さっそく一件目のお宅のドアをノック。


 ――こん、こん、こっ……。


 礼儀として三回ノック……しようとした、そのときだ。


 3回目を打つか打たないかの間に、中から慌ただしく足音が近づいてきた。


 ――やばいっ!


 慌てふためきながら物陰に隠れる。


 同時に、玄関のドアが蹴破るかのような勢いで開かれ、青年が顔を出した。


「――! ――! ――!」


 青年は何事かを必死に叫びながら、周囲を狂ったように見渡し、何も見つからないと肩を落として中に戻っていった。


『なんなんでしょ?』


「なんなんだろうな?」


 青年の剣幕にせこく業ポイントを稼ぐ気もなくなったので、窓から家の中を覗いてみた。


 家の中には、先の青年と年若い女性がひとり机で項垂れていた。


 見た感じ、ふたりは夫婦だろうか。


 項垂れる女性の肩に手を置き、青年が優しげに声を掛けている。


『なんと言ってるのですか?』


「まてまて」


 ふたりの唇を読むにこうだ。


「ああ、可愛いアルマ、どこに行ってしまったの?」


「夕暮れ時にダカンのところの息子が森に入っていくのを見たらしい。もしかして森の中で迷子になっているのかも」


「ああ、そんな、なんてこと……」


「これから男衆が森の中を探してくれるそうだ。もちろん、ぼくもいくつもりだ」


「森にはゴブリンがいるんでしょ? 大丈夫なの?」


「なに、グレッグさんも一緒に行ってくれるそうだから大丈夫さ。彼は前にもゴブリンを退治していたからね。いざというとき頼りになるよ」


 ……グレッグ?


 何となくあの農夫が頭を過った。


「じゃあ行ってくるよ」


「わっ、わたしも――」


 と、女性が立ち上がるのを青年は優しく押し止めた。


「アルマがひょっこり帰ってくるかもしれないから君はここで待っていてくれ」


「で、でも……」


「帰ってきたのに君も僕もいなかったらアルマが寂しがるだろ?」


「そ、そうね……わかったわ」


「じゃあ行ってくるよ」


 青年は家を出ると、村の広場の方に向かった。


『チャンスですね』


「チャンスだな」


 村から男手がなくなれば残すは女子供か老人くらい。


 盗みが見つかったところで追撃はたかが知れている。


 まさに盗み放題のボーナスチャンス。


 まずはこの家の裏口からこっそりと入って台所用品を物色する。


「……おお!」


 ゴブリンの巣穴にある粗末な品々に慣れすぎたせいか、鍋もフライパンも包丁も、ありふれたものなのだろうが、もの凄い貴重品に見える。


 全部、いただいていこう。


 鍋は頭に被り、フライパンはそこら辺の紐で背中に括り付け、オタマと包丁は腰蓑に佩く。


 袋の類を持ってこなかったのが悔やまれるが仕方がない。


 盗みを働く予定はなかったからな。


 ついでに調味料の類も貰っておこう。胡椒は無理でも塩くらいあるだろう。


 塩~、塩~、あった、が壺入りだ。


 壺ごと抱えて持って行けないので、そこら辺の革袋に少量を拝借する。


「――!」


 ――うぉ、びっくりしたぁ!


 振り返ると、件の女性が俺を見下ろして顔を青くしていた。


 女性は口に当てた手を戦慄かせ、及び腰で、今にも尻餅をつきそうな格好だった。


 ……まあ台所でゴブリンに出会したら誰だってそうなるわな。


 前々世でいうならゴキブリに出会したようなもんだもん。


「仕事の邪魔すんじゃね~!」


 びっくりさせられた恨み辛みも込めて思いっきり怒鳴りつけてやった。


 女性には、ゴブリンが「ぎゃぎゃ~!」と吠えたようにしか聞こえないだろうが、効果は抜群だ。悲鳴を上げて逃げ……ない?! 


 それどころか、そこら辺にあっためん棒を手に取って殴りかかってきた!?


「――! ――! ――!」


 唇を読むにこう言っている。


「アルマを帰して! アルマをどこにやったの! 帰して帰して!」


 ……ゴブリン違いも甚だしい!


 奥さん(?)、ぼくは良いゴブリンです! アルマなんて掠ってません!


 言ったところで伝わるはずもない。


 速やかに裏口からトンズラして茂みに飛び込む。


 流石の女性も茂みまでは追ってこなかった。


 怒り心頭でも夜の茂みでゴブリンを探す愚かさに気づくくらいは冷静なのだろう。


 女性が家に戻るのを見計らってから顔を出した。


「久々にビビったわ~」


『鬼気迫るものがありましたね』


 ……それほど「アルマ」ってのが大事ってことか。母はなんちゃらだな。


「そういえば森にゴブリンがいるとか言ってたな? もしかして俺らのことか?」


『子供がいけるくらい村に近い森みたいですから、我々とは別の群ではないでしょうか?』


「ふ~ん、……行ってみるかな。上手くいけば村人がゴブリンを退治した後で、巣穴だけちゃっかりいただけるかもしれないぞ?」


『漁夫の利、というやつですね。しかしそう上手くいくものでしょうか?』


「行ってみればわかるさ」


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