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21 文化祭準備に全力を!

 あの飲み会の最後、小田先輩と仲野先輩は課長と男性の先輩からこんこんと説教された。


 課長、奥さん一筋だからね。オッサンズラブじゃないかと妄想されたとき迷惑してたもんな。


 先輩の暴走で冷や汗かきつつも、楽しく終わった飲み会だった。

 あれ以降、話しかけてくれる社員さんが増えた。

 僕が必要最低限しか喋らないのは口下手だからであって、人嫌いじゃない、というのがわかったからだとか。


 うん、田中さんが言ってたもんね。人嫌いだから喋らないのかと思っていたって。

 何言ったらいいかわからないだけなので、皆さんのことが嫌いなわけじゃないです。


 今は相づちしか返せないけど、うまく聞き役になるのも大事ってハウツー本に書いてあったし、背伸びしすぎずできることからがんばろう。


 世の中の学生たちは夏休みに突入して、ゆっちはバイトのない時間配信している。

 僕も自分の配信がないときはサブアカウント、クラで配信を見に行く。


 ANの曲をはじめとして、若い女の子に人気の女性アーティストの曲をよく歌っている。


「こんりり、リリーです。今日も30分だけだけとみんな、よろしくね!」


 ゆっちことリリーが枠を開くと、リスナーが入室してきて挨拶をする。

 リリーだから語尾に『りり』をつけて、入室は『こんりり』、退室は『おつりり』。

 女の子らしくてかわいいよね。


クラ[こんりり!]

NINE[こんりり。リリーちゃん今日も可愛いね]

ぽん[こんりりー]


「クラさん、ナインさん、ぽんちゃん、こんりり! 今日はANの曲新しく覚えたから歌っていこうと思います!」


 カタカタとパソコンを操作する音が響いてリリーが元気よく歌い出す。


クラSub[ズイ₍₍ (ง ˘ω˘ )ว ⁾⁾ズイ]

ぽん[ズイ (ง ˘ω˘ )วズイズイ (ง ˘ω˘ )วズイ]


【えびのしっぽが入室しました】


えびのしっぽ[リリー、こんりり~☆.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥.。.:*✿ฺ♥]


 えびのしっぽも入室してきて、リリーが挨拶する。


「えびさん、こんりり! 今、ANの光を歌ってるんだ」


えびのしっぽ[いいねいいねーo(^-^)oワクワク]

NINE[おいえびとかいうの歌の途中で入室してじゃますんな]

えびのしっぽ[そんなこといわれても入るまで歌ってる最中かなんてわからないでしょう]


 うわ、たち悪いのがいるな。

 えびのしっぽの言うように、開くまで歌っている最中かそれとも雑談タイムに突入しているのかはわからない。

 スタリーのサムネイルは一枚絵だからだ。


 リリーが困っているのが、アバターでもわかる。頭を左右に振ってNINEを制止する。


「けんかはだめだよナインさん! 次けんかしたらバイバイだからね!」


 リリーに注意されて、NINEは一応はおとなしくなった。前にもこの人ひとりで勝手に騒いでいたんだよな。


 自称リリーの騎士(ガーディアン)。言い方は悪いけど、やっかいな人だ。

 僕のところにもたまにタチが悪い人が現れるから、心労を察する。

 歌ったり雑談したりが楽しい……っていういいことづくめじゃないのがライブ配信なんだよな。


 配信の最後に、リリーは深々と頭を下げてお知らせをする。


「これからしばらくは学校の行事で忙しくなるので、配信はお休みします。10月頃復帰予定なので、待っていてくれたら嬉しいです」


 これは前に言っていた文化祭の制作があるからだろう。

 がんばれ、とコメントを入れる。

 他のみんなも待ってるよ、がんばってとコメントを入れて配信は終わった。


 配信が終わってから、ゆっちといつものように通話を繋ぐ。

 アバターがしょげてうつむいている。


「ゆっち、大丈夫?」

「あんまり大丈夫じゃないです-。ナインさん、前にも他の方にああいう言い方をしていたので……。えびのしっぽさんに、ごめんなさいってメッセージ送りました」

「ゆっちが悪いわけじゃないからね」


 気を取り直して、ゆっちは正面に向き直る。


「ありがとうクライスさん。文化祭、成功させたいですし。実は今、行き詰まっているんです。クラスメートみんな自分の制作でいっぱいいっぱいだから、相談しづらくて。普段和やかなんですけど、夏休みに入る前は忙しすぎて殺伐してました」


「そっか。ゆっちの文化祭って自分が着るものを作るの? それともモデルを選んで着てもらうの?」


「どちらか好きな方を選べます。男性服を作りたい女子や、女性服を作りたい男子もいますから」


「ゆっちはどっちにするの」


「モデルをお願いしようとしたんですが、あたしの従姉、花菜(かな)ちゃんっていうんですけど、花菜ちゃんにはステージに立つのは嫌だって断られちゃいました。お父さんとお母さんも、モデルになるのは恥ずかしいって。さっきも言ったとおり、クラスメートもみんな忙しいですし」


 前回話したときは、文化祭の準備で好きな人と仲良くなるチャンスがあるかな、って言っていたけれど、蓋を開けたらそんな暇ないみたいだ。

 九頭くんも同じクラスなら、オリジナル服の制作で大忙しだろう。


「ゆっちの作りたいブランドのコンセプトを考えると、ゆっち自身の服を作るのがいいんじゃないかな」

「あたしの服、ですか」


 勝手なこと言わないでって言われるかもしれないけれど、僕なりに思ったことを整理する。

 ウニとか東堂が教えてくれた店とかで買い物をしたときのことを思い出してみる。


「ええと、ほら、服屋の店員って、みんな店の服を着ているでしょう。まずは自分に似合うものを作る。ゆっちのいいとこ見えたら、九頭くんって人と話す機会が増えるかもしれないよ」


「そう、ですね。まずはあたし自身のための服。そうします。なんかいつも相談に乗ってもらってばかりで、すいません」


「気にしないで。僕も話聞いてもらってるし。がんばって。ゆっちはいい子だからうまくいってほしいよ」


 相手がゆっちでなきゃ、初回のオフ会で陰キャうざって言われて終わっていたと思う。

 前より話せるようになったのは、ゆっちがこうして話しをしてくれるのが大きいから。


「ありがとう、クライスさん。自分に似合うものを作るために、まずは服屋めぐりしてきます! デザイン案もいっぱい書き起こしてブラッシュアップしないと。どこかオススメの服屋ありますか。普段行かない店も参考にしたいので」

「え、うーん」


 まず服屋に詳しくない僕。自分の服を探すのすらシンヤや東堂に聞いていたくらいだ。この手の相談相手に向かなくてゴメン。

 女性服の店は知らないけれど、男女問わず着られそうな服を扱う店に一軒だけ思い当たるものがあった。


「鎌倉市に民族衣装と雑貨と扱う店があるんだ。ワンダーウォーカーっていう。そこはどうかな」


 前に一度ヘアサロンで隣同士になったひと、歩さんの店だ。

 男女問わず好きなものを着るのっていいんだなって、歩さんを見て思った。彼の店ならいい刺激を受けるような気がする。


 スマホで検索したみたいで、ゆっちは歓声を上げる。


「わー! ホームページもすごく素敵。あたしこういう店すごく好きです。行ってみます!」

「役に立ったなら良かった」


 ゆっちが元気になってくれたようでなにより。

 通信を終えて、僕も自分の配信準備にとりかかった。

唄詠いさんからリリーいただきました!

二人ともかわいい。ありがとうございます(●´ω`●)


挿絵(By みてみん)

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