第4話 剣山尖った
定型解説で無理矢理話数を稼ぐスタイル
引きこもりにとって自分がどこにいるかなんてものは朝目覚める時右目と左目どちらを先に空けるかどうかと同じくらい重要ではない。
どうせ外に出ないのだから、そこが天国であろうと地獄であろうと異世界であろうと変わりはないのだ。
俺はベッドの上で目を覚ます。勿論両目を同時に開けた。宇宙船が異世界へと墜落して3日経ったが、やはり外に出る気にはなれなかった。昨日は睡眠不足による一時の気の迷いで外へ関心を持ちかけてしまったが、睡眠さえ十分にとっていれば判断を間違えることはないのだ。
転がり落ちるようにベッドから降りると、自室のドアを開けおぼつかない足取りでキッチンを目指した。リノリウムの床を這うようにして歩いてゆく。途中、何度か壁にぶつかりながらも何とか目的地に辿り着いた。
キッチンのウォーターサーバーで水を補給し、ひと段落してからやっと先客がいることに気づいた。
「おはようございますんぬ」
【百万回抜いた猫】ミリオン・キャッツがそこにいた。
「早いな」
「ご主人、『剣山尖った』ってなんなんぬ?」
ああ、面倒だ。面倒すぎる。どうして朝っぱらからそんなマイナーネットスラングを説明しなくてはならないのか。
『剣山尖った』は面白かったの意を持つネットスラングだ。『ふたばちゃんねる』でしか通用しない定型なのでお外で使うのは気をつけて欲しい。
そして正確には面白かったの意を持つ定型というよりは、オリジナリティのある言い回しを考えるのは難しいよねという教訓の側面の方が強い定型である。
というのもこの定型は面白かったという感想を述べる時にはもっぱら使われない定型である。
『面白かった書き込みに対するレスとして「〇〇噴いた」のような定形ばかりではつまらないので代わりになる言葉を考えるスレで、「面白かった」という感想を理解させつつオリジナリティを溢れさせるのは難しい例として出されたのが元。
発想が奇抜で時代を先取りしすぎてる、という意味で使われた。 』ふたば★二次裏@wiki 用語辞典カ行より引用
とのことであるが、俺の記憶では『草生えた』の語源と同じように『www』が剣山が尖っているように見えたことから生まれたような気もしているが『ふたばちゃんねる』は過去ログが残らないので本当のことは分からない。
とにかくこの定型は普段は使われない。むしろ使ったら確実に浮くので使わないようにするのが安牌だ。
ではいつ使うのかというと、ステレオタイプ的なふたばちゃんねる愛好家を装いたい時や、起源が謎の定型スレやマイナー定型スレで名前を上げると通ぶれる。しかし、この定型はマイナー界のメジャー定型なので擦り過ぎられおり、反感を買う可能性も微小に存在するので気をつけてもらいたい。
俺はミリオンに『剣山尖った』について説明してから、二度寝するために自室に戻った。換気扇の音だけが鳴り響く中思索に耽る。
そもそも剣山とは、なんだろうか。剣山とは生花をする時に使う道具なのか。徳島県の(つるぎさん)なのか。
……そんなことはどうでもいいだろう。
引きこもりにとって自分がどこにいるかなんてものは『剣山尖った』の語源と同じくらい重要ではない。
どうせ外に出ないのだから、そこが天国であろうと地獄であろうと異世界であろうと変わりはないのだ。
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