表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君の世界の表と裏

作者: 白瀬まる&露

この作品は白瀬まる様と露が1000文字ずつ交代で書いています。多少の文章の違和感にはお目をつむって下さい。

「(死にたい……)」

 私の頭の中をずっと巡っている考え。昔はこうじゃなかった。いつから?大学を出て就職した先がいわゆるブラック企業で、私はそこで心身を壊した。幸いというのか不幸い(ふさいわい)というのか、なんとか死ぬ前に会社を辞める事は出来た。

 けれど一度壊した心身はなかなか治らなかった。部屋に籠りきりの日々を過ごしていたら見かねた両親が田舎の祖母の家での療養を勧めてきた。なにもかもがどうでもよくなっていた私はそれを了承した。

 そんなこんなで私は今祖母の家にいる。特に何をするでもない。料理や掃除は祖母がしてくれる。私は日の当たる半縁側の様な廊下で寝転がっていた。そうしていると、うとうとと眠くなってくる。そうして私はいつもの様に惰眠を貪った。


「ん……」

 私はいつもの様に目を覚ました。けれど、何かおかしい。静かだ。いや、静か過ぎる。いつも聞いていた車の音や近所の人の声がしない。私はそれに恐怖を覚えてとっさに祖母を探した。

「おばあちゃん?おばあちゃーん!」

 台所にもいない。畑にもいない。

 祖母を探していて気付いた事は、祖母以外の人も見かけないという事だ。誰も……誰もいない……。

「そうですよ、だーれも居ません。あなた達以外は」

 突然後ろから声がして振り返ると、書生スタイルというのか、そんな服装をした10代くらいの青年が立っていた。

「誰……?」

 私は警戒しながらそいつに声をかけた。

「僕?僕は『案内人』。この裏世界のね」

「裏世界……?案内人……?」

 こいつが何を言っているのか全くわからない。

「ねぇ、そんな事より僕と遊ぼうよ」

「おばあちゃん達はどこ?」

「いないよ」

「は?」

「あなた達以外の人間はいないの」

「どういう事……?『あなた達』って……」

「おーい!」

 後ろから声がして私はまた振り返った。

 そこにはピアスをバチバチに着けたチャラそうな男が走って来ていた。

「アンタもこいつに連れて来られた奴か?」

「連れて来られた?何を言っているの?」

「あー……そこからか……」

 男はめんどくさそうに言った。私はその態度にムッとした。

「何よ」

「あっ……悪い……つい」


「えっと…、俺たちは夢の裏世界に居るんだ。」


「は?」

私は間抜けな声をだしてしまった。急に裏世界やら夢やら言い始めるんだもの。

「詳しくは僕から説明するよ。」

案内人はそう言った。


「ここは、夢の裏世界。」

案内人がそう言い、私は黙ってしまった。

「誰もが眠ると訪れる夢。そして、ここが裏世界。現実の風景だけど、限られた人しか来れない場所なんだ。」


私は混乱していた。

突然こんな所に連れてこられて案内人とやらが居て、ここは夢で裏世界で…。

訳が分からない。

けど、案内人は話を続けている。


「そして、君たちは僕が連れてきたんだよ。」


「俺たちを現実に返せ!」


男はそう言い、


「だめ、僕と一緒に居るの!」


案内人が駄々をこねる。


「ま、まって…。」


「ん?どうしたの?」


「他にも、君が連れてきた人は居るの?」

私は案内人に聞いた。


「あぁ、居るよ。あそこに。」


案内人が指を指す。

その先には男と女が1人づつ。


女は、髪を染めているバチバチのギャル。

男は、根暗そうな黒髪男子。


「ウチ、はやくばーちゃん達のところに帰りたいんだけど?」


女はそう言い、


「ま、まぁまぁ…、とりあえず話を聞こうよ、」


男が宥める。



私は、他にも居たんだ、と

安堵感を抱いていた。


「ねぇ、皆。」


案内人が皆に声をかける。


「皆、お家に帰りたい?」


「帰りたいに決まってるでしょ」


「そりゃ、帰りたいよな」


「あたりめーだろ。」


皆が案内人の問い掛けに答える。



私は、迷っていた。

帰りたいけど、

帰ったって何もないし。

どうせなら…このまま……


いや、でも…



「わ、私は…」



「案内人さんの気持ちを聞きたい」




「え、?」


案内人が顔を歪める。

「僕の……気持ち……?」

「そう、あなたはどうしたいの?」

「僕……僕はみんなと一緒にいたい……。みんなに帰って欲しくなんて無い……」

「そう。なら私はここに残るわ」

「「えっ」」

 案内人と他の人達は私の意見に驚いた。

「おい!良いのかよ!ここに残るって事は現実に帰れねぇって事だぞ!」

 チャラ男は言った。

「……現実に帰っても何も無いもの……。なら私はここに残るわ。これでWin-Winでしょ」

「……っ!俺らは帰る方法を探すからな」

「どうぞご勝手に」

 チャラ男は他の人達のいる所に歩いて行った。

「ね……ねぇ……本当に良いの……?ここに……ここに残ってくれるの……?」

 案内人はおずおずと聞いてきた。

「言ったでしょ。現実に帰っても何も無いって。ならあなたの提案くらいは飲もうと思ったのよ」

 案内人は体を震わせた。

「や、やったー!そんな事言ってくれる人初めてだよ!ね、君お名前は何て言うの?」

「稲。晴川 稲(はるかわ いね)よ。あなたは?」

「僕は案内人!」

「いやそうじゃ無くて名前……」

「……僕、名前が無いんだ……。だから『案内人』って呼んで……」

 案内人は少ししょぼんとうつむいた。

「……そうね……『案内人』じゃ言いにくいから『ナイ』っていうのはどう?」

「『ナイ』……?」

「そう。気に入らなかったかしら?」

「ううん!ナイ!気に入ったよ!お名前をもらったのも初めて!」

 ナイは幼い子供の様にはしゃいでいた。


「佐崎さん、あのお姉さんは?」

 黒髪の男、神田琉貴(かんだ るき)はチャラ男こと佐崎 雨音(ささき あまね)に尋ねた。

「それがここに残るってよ」

「はあー!?ここに残るとかマジで言ってんの!?」

 ギャルの佐倉 瑠奈(さくら るな)は、信じられない、という様な声をあげた。

「……ま、人間いろいろあるわな」

「?」

「あのねーちゃん『現実に帰っても何も無い』っつてたんだよ。……俺もここに残ろうかねー」

「はあ!?ちょっと!私は絶対帰るんだからね!じーちゃんばーちゃんに心配かけらんない」

「はいはい、やること無いし、それは手伝いますよ」

「……」

 雨音の言葉を琉貴は静かに聞いていた。



「僕ね、なんでここに居るのか

分からないんだ…」


「え、そうなの…?」


私は、そう話すナイの話を聞くことにした。


「僕、気づいたらここに居て、

でも、僕が裏世界の案内人で…現実には行けない、っていうのだけ覚えていたんだ。」


下を向いて話すナイの事を

私は見捨てることは

出来なかった。



「私はナイの味方だよ。

ずっと一緒に居るからね。」


私はナイの事を抱きしめながら

そう言った。

すると、ナイは泣きながら

「ありがとう。」

とだけ言って、私の事を

抱きしめ返した。


それを見ていた他の人達は


「…案内人が泣いてる、?」

「…そんなにかよ、」

「…どうしよう。」


皆、混乱している様子だ。

自分達を連れてきた張本人が、

稲に抱きしめられて、

救われたかのように泣いているからだ。


「「「…」」」


「なぁ、どうする?」


雨音は皆に尋ねた。


「なっ、何がよ。」


「…ここに残るかどうか、」


「……そりゃ、ばーちゃん達に

心配かけたくないから帰りたいに決まってる。…けど、」


「俺も、迷ってる。

現実に戻ったって…何も無い。」


「確かにそうだな。」


「…そうね、」



ナイと、私の前に皆が来た。


皆、真剣な顔をしている。


「…どうしたの?」


私はそう尋ねて、


「俺たちも、残ろうかな、」

「えっ、良いの!?」

 ナイは驚いた声をあげた。

「何で、何で?」

「……アンタが、そんな風に泣くからでしょ。帰るウチらが悪者みたいじゃん」

 ギャルは髪の毛を弄りながら言った。

「でも……ここに残るって事は現実に帰れない、って事だよ……」

 ナイが心配そうに言った。

「それ連れて来た本人が心配する事かー?」

 チャラ男は言う。

「だって寂しかったし……。それにもう最後のチャンスだったんだ」

「最後のチャンス……?」

 黒髪の男は首を捻った。

「ここは人間がいないと存続出来ない。けど、僕が連れて来た人達はみんな帰っちゃう……。もう限界だったんだ……。君達が帰るとここも僕も消えちゃう」

「そんな事聞いたらますます帰れねぇだろ……」

 チャラ男は頭を掻いた。

「でも……」

 ナイはそれでも食い下がる。ナイの中にもきっと葛藤があるのだろう。

「このねーちゃんが言ってたろ。『現実に帰っても何も無い』、って。俺らも似たようなもんなんだよ」

「僕……僕嬉しいよ……!初めてこんなにお友達が出来た!ね、ね、何して遊ぶ?かくれんぼ?鬼ごっこ?」

「ウチらもうそんな事する年じゃないんだけど……」

 ギャルは照れくさそうに頬を掻いた。

「ふっふーん!ここは夢の中!なんだって出来るんだよ!」

 そう言うとナイはパチンと指を鳴らした。するとナイを含めた皆が子供の姿になった。

「うおっ!?なんじゃこりゃ!」

「これで恥ずかしくないでしょ」

 ナイは嬉しそうだ。

「みんな、これからいーぱい遊ぼうね!」


『次のニュースです。○○県××村で男女四人が昏睡状態から目覚めないという事件です』


「瑠奈……!瑠奈……!どうしてこんな……!」


「琉貴……!目を覚ましてくれ……」


「稲……」



「次は何して遊ぶ?」

「色鬼!」

「えー、氷鬼が良いよー」

 雨音の提案に瑠奈は反対した。

「順番にしよ。だって時間はいーぱいあるんだからね!」


 周りからみたら私達の選択は間違っているのでしょう。けれど、私達はこの夢の裏世界で大切な友を見つけました。それで、充分でしょう。

最後までお読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませて頂きました、 現代と言う闇の中を生きるうえで、大概の人が望む世界がこの裏世界なんだなと思います。 どの選択をするのか、一体何が正しいのか、色々と考えさせられる話でした。 その…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ