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73 貧民窟 1


 プリシラが俺たち五人を誘い出した場所は、プリシラの店の立地よりもさらに奥まった界隈にあった。

 そこまでいくと、道は狭く、舗装もされず、立ち並ぶ家々は粗末な木造のものが目立つようになった。


 王宮の外壁から望遠鏡で覗いたときには全く目に入らなかった種類の建屋。

 おそらく大きく立派な家々の陰に隠れて見えなかった王都の外縁へと連なる居住区なのだ。

 最初に歩いてきた表通りの街並みとの落差に驚かされる。


 故郷アークレギスの一般住居も確かに立派とは言えない質素な造りだったが、ここに立ち並ぶ家々はそれとは別種の、どこか活気のない廃れたような空気に侵されていた。

 そう感じるのはここにいる人々の身なりや暮らしぶりが影響しているのだろう。

 まだ陽も高いというのに、酒を飲みながら道端に座り込んでいる者の姿が目に留まる。

 通行人も、家の軒先で雑用をこなしている人も、皆一様にどんよりと曇った目をしている。

 貴族と見紛うような出で立ちで闊歩していた表通りの者たちとは、まるで別の国の人間のようだった。


『ここは怠け者ばかりね。王都にこんな場所があっただなんて信じらんない』


 俺たちは予めプリシラに言われたとおり、それぞれ男女二人のペアになり腕を組んで歩いていた。

 俺とセドリック。エミリーとローラン。プリシラはパトリックとだ。


「プリシラ様。このような場所を女性に歩かせるわけには参りません。今すぐ用件を明かしていただくか、今からでも引き返しましょう」


 セドリックが声をひそめつつプリシラに詰め寄る。


「確かにそうです。これでは目立って仕方がありません。この身なりでは明らかに周りに溶け込めていないと思うのですが」


 せめて護身用の細剣を携えておけば心強かったが、流石に平民の女性が剣を帯びていては不自然過ぎるので今日の俺は丸腰だった。

 男三人はしっかり帯剣しているので、真昼間から、あえてこの集団に向かってくる暴漢はいないとは思うが、王女の身の安全を思えば、よほどの理由がない限りそもそも近寄るべき場所ではないだろう。


「大丈夫よ。別にここの住人の振りをする必要はないの。あからさまにそれっぽく見えた方が安全だし、あんたたちの格好は丁度いいわ」


 プリシラが言うには、こういった場所には今の俺たちのように一般の平民を装った人間がよくうろついているという。

 当然この界隈の住人ではなく、彼らは治安維持を任務とする役人だと知られていた。

 彼らが取り締まっているのは、税金逃れの密造酒の売買、無許可の売春、薬物乱用者、家を持たない路上生活者など。

 大勢で一斉に検挙する日とは別に、日常的に巡回しつつ、これからガサ入れをする地区に目星を付ける王都の役人がいるらしい。

 ただ本来は、彼らが女性を伴っているときは夜間であることが多いのだと聞かされた。


 その説明でようやく、自分やエミリーがどういう存在に見立てられて、こうやってセドリックたちの腕を取って歩いているのかを理解し、急に汗が噴き出てきた。

 言われてみれば、プリシラも店を出るときに着替え、髪も綺麗に結い上げていたことを思い出す。

 やり慣れていないのか、妙にけばけばしい化粧だなと思ったのだが、それでか……。


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