56_共同戦線 1
その後、誰かが一旦落ち着きましょうと言いだし、お茶会がもう一度、仕切り直しで執り行われることになった。
その席上で俺は改めて、行方をくらませてしまい迷惑を掛けたことを詫びたのだが、意外なことにそのことには誰もさほど関心を払っていないようだった。
それよりも、自分は精霊たちの姿を見ていないのだと明かすと、他の者はこぞって、その不思議な体験を王女に話して聞かせたがり、お茶会はその話題で大変な盛り上がりとなった。
皆が熱心に話す精霊の話を、精霊の姿が一般的ではない王都に住む者として、俺はさも信じられない出来事であるように驚いてみせる必要があった。
火と水の精霊の奔放さは困ったものだが、お蔭で王女が敷地内で一時迷子になった件が印象を薄くしたのだと思えば、彼らなりに役に立ってくれたと言えなくもない。
不思議な精霊の話で皆が騒がしくする傍ら、オリアンヌは終始、心ここに在らずといった様子だった。
おそらくユリウスがオリアンヌの部屋から姿を消していることが分かり動揺しているのだろう。
お茶会の席では、背中に大きな火傷を負った男については一度も話題に上らなかった。
王宮襲撃や王女の誘拐に関わっていたかもしれない不審者を匿っていたことは、オリアンヌにとって後ろ暗い事実であるはず。
しかもそれを取り逃がしてしまった、とあればなおさらだ。
それだけに、消えた男のことを大っぴらに探したり、聞いて回ったりもできないのだろうと推測できる。
オリアンヌの物憂げな表情を見ながら、俺は彼女自身が言っていた“情報を握っておくことの重要性”を再認識していた。
いつまでこんな状態が続くのかは分からないが、ジョセフィーヌを演じる上では情報の収集は欠かせない。
長いお茶会がお開きとなり、皆に見送られながら馬車に乗り込む際、俺は思い切ってオリアンヌの右の首筋に目をやってよく観察してみた。
女同士であれば、まだ許されるかと思ったのだ。
俺ではなく、俺の目を通してジョセフィーヌに確認してもらう必要があるので、かなり長い時間そこで目線を止めていると、オリアンヌが俺の視線に気が付いた。
オリアンヌは自分の首筋に手を当て、俺の視線を咎めるように薄く笑う。
俺の方は、女性の肌を凝視していた後ろめたさで、つい視線を泳がせてしまった。
「お互い幼い子供でございましたから。お気に病まれる必要はございませんのよ? ……ふふっ」
先ほどまで沈んでいたはずのオリアンヌが息を吹き返したように、何かを企むような顔つきに変わっていた。
幼い子供? 気に病む?
俺には何のことを話しているのか分からなかったが、その一事についてはジョセフィーヌに対し明らかに優位を感じているようだった。
俺は何か失敗をしたらしいという軽い挫折感を感じながら、軽く辞儀をして馬車へと乗り込んだ。




