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35_襲撃の夜 2


「なるほど。こっちが本物のお姫様ってわけか」


 男が振り返り、剣の刃先をこちらへ向ける。


 こんな汚れ仕事を請け負うような連中だ。アカデミアでチャンバラをしていた貴族の子弟に比べれば剣の扱いには慣れているのだろうが、慣れ過ぎ……、いや、油断のし過ぎだ。

 女ごときに遅れを取るわけがないという慢心が見て取れた。

 剣を向ける相手が、見るからに立つのもやっとの、衰弱しきった様子なのだから無理もない。

 目の前の女が、自分を害し得るような脅威だと認識していないのだ。


 だが如何なる状況でも、武器を持った相手に対し、警戒を怠るべきではなかった。


 呆れるほどの短絡さで男が片手で振りかぶった剣を振り下ろす。

 まるで道をふさぐ立ち木の枝を切り払うかのような無造作な挙動。

 男にとってはその一振りで終わるはずの、ただの作業のつもりだったのだろう。


 俺は鞘に納まったままの細剣を真横に倒し、両手で掲げ持つようにして男の初撃を受け止めた。

 振り下ろしに対して真っ直ぐ、腕を突っ張らせるようにして受けたため、女の細腕でも力負けせずに防ぐことができた。


 男は自分の攻撃が受け止められたことに驚きの表情を浮かべたが、今さら認識を改めてももう遅い。

 俺は真横に寝かせた鞘から素早く刀身を抜くと、呼吸を挟まず、男の喉元目掛けて刺突を浴びせ掛けていた。


 剣先が喉に食い込む確かな手応えがあったが、貫くより先に、手から剣の柄がこぼれ落ちそうになる。

 とっさに左手の鞘を手離し、両手で握り直した細剣にありったけの力を込めた。


 男の身体が仰向けに倒れ、勢い余った俺もその上に覆いかぶさるにようにして倒れ込む。

 すぐさま顔を上げて出入口に立つもう一人の男の方を見る。

 その男はポカンと口を開けた間抜けな表情でその場に立ち尽くしていた。


 助かった。続けざまに襲われていたら対応できていたとは思えない。


 俺はもう一度手足に力を込めて立ち上がり、突き刺さった剣を男の喉から抜いた。

 細剣が貫き通した穴からは、ビュービューと不快な音が鳴っていたが、やがて溢れ出る血によってゴボリと詰まったようにそれが塞がれ、音がやんだ。

 僅かにのたうっていた手足も動きを止める。


 そのときには俺はすでにもう一人の男に向かって剣を構えていた。


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