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21_ローランとの決闘 2


「……俺の、負けだ」


 俺たちの果し合いを遠巻きに見ていた男女のギャラリーが、ガヤガヤと沸き立つ中、ローランが俺だけに届くような声で(つぶや)いた。

 最初の印象こそ最悪だったが、俺はこのローランという男を多少見直す気持ちになっていた。


「随分潔い、のですね……」

「これだけ派手に負けて見苦しい真似ができるか」


 そう言いながら腹をさするローラン。

 そこでようやく自分の服が大きく裂けていることに気付いたようだ。

 「マジか」と、これは独り言のように小さく(うめ)く。

 破れた衣服の下から覗く肌には、線状に赤く腫れあがった痕が浮かんでいた。


「私も謝らなければなりません」

「あん? いいよ、こんなもん」


「自分が女であることを利用しました」

「…………」


「初めから、私の木剣を打ち落として終わりにするおつもりだったのでしょう?」


 ローランがまじまじと俺の顔を見つめ、目を(しばた)かせた。


「ちっ。お見通しかよ。恰好(わり)ぃなあ」

「いいえ。貴方にとって益のない争いに誘導したのは私です。私は自分の行いが恥ずかしい。ですから、お詫び申し上げます」


「……詫びはいいから聞かせろ。あそこで剣を下したのは狙ってやったことか? 最初に立てて誘ったことも?」

「はい。ですから謝罪をと」


 思ったよりも自分が剣を振れなかったので、なるべく腕の力を使わずに勝つ方法を考え、相手の思惑を利用することにしたのだ。

 もし、ローランの打ち込みを一度でも受けていれば、木剣はこの非力な手の中から簡単に叩き落されていたことだろう。

 どんなコンディションでも相手に立ち向かえるように、という鍛錬の成果を示せたことは自分なりに満足のいくものだった。

 だがその一方で、女性を傷付けたくない、という相手の良心につけ込んでしまったところが俺の負い目だった。


「ったく、何者なんだお前は?」

「えっと……」


 何者かと問われて初めて、自分が今は名乗れぬ身であったことを思い出す。

 まずはお忍びで、という家の言い付けに背いたことだけでも大した失態なのだが、女の身でありながら剣術で貴族の子弟を打ち負かすという目立つことをしてしまったことも不味い。

 それも、つい最近まで病気で()せっていたはずの姫君が、だ。

 事情を知る者が見れば、これほど不自然極まることはない。


 ミスティが言っていた俺を狙う敵というのがどこの誰かも知れないというのに、これは迂闊(うかつ)が過ぎた。

 怒りで我を忘れた、ということもあるが、今にして思えば剣を振りたいという衝動に抗えなかっただけなのかもしれない。

 久しぶりに一戦(まじ)えてすっきりしたことで、一連の行いを客観的に思い返せるようになり、後悔の念がジワジワと込み上げてくる。

 そんな俺の後ろから、エミリーがおずおずと声を掛けてきた。


「あの、お姉さま。お怪我はありませんか?」

「ええ。大丈夫です。手加減をしていただけましたから」

「……ふん」


「わたくし、思わず目をつぶってしまって、よく見られなかったのですが、まさかお姉さまが?」

「これを見りゃ分かるだろーが! イチイチ(しゃく)に障る女だな」


 ローランが自分の破れた服と腹の痕を指差し、エミリーに向かって(すご)む。

 ヒッと身をすくめるエミリーを見て、俺はローランを(にら)みつけた。


「っ……。悪かったよ。本当は伯父上からも女には優しく接しろって叱られてるんだ。けど、どうしてもよう……。とにかく、すまん!」

「い、いいえ。ローラン様。お顔をお上げください。皆が見ております」


 エミリーが言うとおり、俺たちの周りには大きな人垣ができていた。

 俺たちの話の成り行きにそば耳を立てようと、勝負が終わったのを見て近づいてきたのだ。

 「お名前をお聞きしてみましょうよ」「貴女から話し掛けて」などと連れ合い同士で喋っているのが聞こえてくる。

 女性たちに釣られるように、男たちもそこに加わり前後の経緯について聞き出そうとしているようだ。

 皆、口々にローランを打ち負かした見知らぬ女性に対し興味津々といった体だった。


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