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105_秘められた歴史


 俺たちが王都で初めてプリシラの店を訪れた日よりも後のこと。プリシラは書きかけの草稿などが乱雑に積み置かれた書庫の中を漁り、ベスニヨール家に隠された秘密……、その贖罪の手記を見つけたらしい。

 そこにはベスニヨール家が王宮を追われる切っ掛けとなった大事件について、その当時の当主が知る限りの経緯が記されていた。


 当時、王国での栄華を極めていたベスニヨール家は当主一人では統制が効かないほどの大所帯となっていた。

 特に新たな魔法の研究開発に旺盛な野心を見せる分家筋の一派は、彼らだけの独占的な知識の収集に躍起となり、荒事も辞さなかった。


 そんな折、空気中に漂う魔力の密度の低下が観測され始めた。

 行使した魔法の効果が低下したように感じる、という感覚的な気付きから始まって、それからじきに、魔力が徐々に弱まっている地域とは逆に、周辺から魔力を吸い上げるようにして魔力が急速に高まっている地域の存在が明らかとなった。

 それがアークレギスだったのである。


 野心が強く排他的な一派は、その秘密が世間に広く知られる前に、魔力的に特異なその地を自分たちだけで占拠するための暴挙に及んだ。

 しかし、その(よこしま)な企みは水泡に帰す。


 アークレギスの地で何が起きたのか───。

 実際のところは、首謀者を含む襲撃犯全員がことごとく姿を消してしまったために明らかとされていない。

 だが、その地に穿(うが)たれた巨大な爪痕と、その事件を境に世界から魔力が忽然と消失してしまった事実から、彼らの介入が魔力の予期せぬ暴発を招いたものではないかと推測された。


 王都にいたベスニヨール家の当主は、一連の情報を収集、分析した後、それが世間に広く流布される前に真実を隠匿することを国王に進言した。

 当時、民間にも根付き、生活の一部となっていた精霊魔法の力が突如として失われた原因が、王国の人間が引き起こした問題にあると知られた場合に、王国の権威が失墜することを恐れたのだ。


 もちろん、魔法の力が失われたのはミザリスト国内だけの問題に留まらない。

 周辺諸国が魔力消失の原因を知れば、大義名分のもと、自国民の怒りを駆ってこぞって攻め寄せてくることが十分に考えられる情勢であった。

 国家の存亡を懸けたその隠蔽作戦が、本当のところ、どの程度成功を納めたのかは分からない。

 だが、少なくとも一般大衆は魔力の消失を、人知の及ばない自然の摂理であると考えて受け入れた。


 それほどスムーズに皆が魔法技術を捨て、精霊のことを忘れ去った背景には、魔法に変わる技術として、当時隆盛の兆しを見せていた魔力に依らない科学的な技術革新を、国が大いに奨励したことも寄与している。

 それまで一部の才能ある者だけに与えられていた特権的な魔法技術に対し、誰でも学べ、誰でも便利に扱える非魔法技術は、新たな時代の潮流として民衆に歓迎され、王都と王国発展の大きな原動力となった。


 新しい技術を中心とした国造りにいち早く舵を切ったミザリストに対し、周辺諸国は魔法技術に固執し、それを失ったことへの対応が遅れた。

 近年のミザリストが平和を享受できているのは、先進的な科学技術を基盤とした国力の増強と、周辺諸国の混乱と低迷が影響しているのだろうと。……その事件から約百年後の今の世に生きるプリシラはそうやって論じてみせたのだった。


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